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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第二部 アシュベル篇
22/117

021 雷斧

 俺はグレイスの様子を確認しつつ、ゆっくりとジノの方へ進み出る。

 前の魔人ロドニーの時は、この後グレイスが魔力切れで倒れ込んだ。


 だが今回、グレイスは立ったまま、静かにたたずんでいる。

少なくとも前回のように魔力切れで倒れてしまう雰囲気はない。


 ふとグレイスと目が合う。

 若干脱力した雰囲気が色っぽく、欲望を満たしたやることをやった後のように思えて、少しだけ気恥ずかしい。


「――大丈夫、動けます」

 俺はグレイスの発言を聞いた後、自分が手にした武器を改めて見た。


 正直な話として、炎帝の剣フランチェスカ氷帝の剣ヴァイオラが出てくると予想していたのだが、右手に握っているのは初見しょけんの、銀色に輝く“斧”だ。

 美しく凝った装飾のされた金属製の斧なのだが、実はアルミで出来ているんじゃないかと疑うほど軽い。

 俺は右手に持った斧を凝視して、情報を引き出していく。


**********

【装備名】

 雷斧『ジーベルト』

【種別】

 魔人斧(ユニーク)

【ステータス】

 H P:上限+300

 S P:5秒ごとに15低下

 筋 力:+100

 敏捷性:+50

 回 避:+50

 攻撃力:+1444

【属性】

 風

【スキル】

 風属性魔法+3、風属性耐性+5、土属性耐性+1、雷撃ボルト武器破壊アームブレイク軽量化ライトウェイト

【装備条件】

 契約者および契約者が認めた人物のみ

希少価値レアリティ

 S

**********


 ――ジノ自体の属性は闇属性ではあるが、大鬼オーガの属性が土であることを考えると、その反属性である風属性の武器を手にしているのは意味がありそうだ。

 敵との相性を予見よけんして出てきた可能性もあるし、あらかじめグレイスが呪文の中で呼び出す武器を決めていた可能性もある。

 どちらにせよ、強力で、相変わらず“燃費の悪い”武器であることは間違いない。

 左手の氷帝の剣ヴァイオラと合わせると、四〇秒で170ものSPが飛んでいく計算だ。

 冗談抜きに時間がない。


「まさか――ユルバンの失われた武器だというのか」

 クルトは俺が持つ武器を見て、しぼり出すように言った。

 それまでの余裕の腕組みを解き、知らず知らずの内に足を踏み出している。

「何――?」

 ジノの方は、俺が持つ武器の詳細を知らないようだった。

「――まあ、何だっていいじゃないか。

 やり合うことに変わりはない」

 俺の額に汗が流れる。

 時間に限りがあることを悟られたくはないのだが、ついつい急かす台詞セリフが出てしまう。

「――ジノ、普通の武器じゃない。油断するな」

「――ああ」

 ジノはクルトの警告を受けて、さすがに警戒しているようだ。

すぐに近づいて来ようとはしない。


 一瞬にらみ合うような状態があった後、均衡きんこうを破ったのは俺でもジノでもなく、クライブだった。

 クライブはジノに白の長剣ホワイトロングソードで突きを放つ。

身体でなく、顔を狙っている。

 ジノはそれを黒銀の大斧ラッセで撥ね上げた。

 その瞬間に、シルヴィアが足下に向けて、炎弾フレイムボールを立て続けに放つ。

 ジノはそれを後ろに下がりながら避けた。

 直後、ジノは背中側から斬りつけられ、斬りつけられた剣に仕込まれた魔弾マジックボール炸裂さくれつして追加のダメージを受ける。

 いつの間にかグレイスが背後に回り、不意打ちバックスタブを仕掛けたのだ。

 ジノは魔人の武器を持つ俺に気を取られすぎて、周囲の確認がおろそかになっていた。


「この程度で――!」

 ジノはグレイスに狙いを定め、振り返りざまに攻撃しようとする。

 そのタイミングを見計らい、俺は特に仕掛けなく、右手の雷帝の斧ジーベルトを振るった。

 体勢が不十分なジノは、咄嗟にその攻撃を黒銀の大斧ラッセで“受け止めた”。


 これこそが、俺の思う壺だった。

 俺の攻撃は元々ジノを狙ったものではない。

 最初からジノの持つ黒銀の大斧ラッセを“狙っていた”のだ。


 雷帝の斧ジーベルト黒銀の大斧ラッセが激突した瞬間、接触点から大きな火花のような光が散り、雷帝の斧ジーベルトから発せられた雷撃ボルトが、黒銀の大斧ラッセを通してジノの身体を襲った。

「うぐあああああ!!」

 ジノは地面を揺るがすような咆哮を放った。雷撃は数秒に渡ってジノを痛めつけた後、黒銀の大斧ラッセの一部を吹き飛ばして止まる。


 ジノは雷撃ボルトの余波で、ふらつきながら数歩後退した。

 俺はかさず追撃を掛けようと前に出る。


 ――だが、俺はその時、視界の片隅を横切った影に“息を飲んだ”。


 その影はスローモーションのように、一直線にクライブに向かっていく。

「クライブ!!」

 反射的に叫び声を上げる。


 これまで警戒していなかった訳ではない。

 だが、このタイミングで、しかも俺以外を狙うとは思ってはいなかった。


 クライブは何とか反応し、自分に襲いかかってきた影に向けて盾を構えた。

 しかし、次の瞬間、俺が目にしたのは、クライブの鋼鉄の盾プレートシールドが真っ二つに切り裂かれるさまだった。

「なっ――」

 足下に落ちた鋼鉄の盾プレートシールドを見て、クライブが呆然となる。


 彼の目前には、ニヤリと笑う黒妖精の男クルトがいた。

「よく反応した。

 だが、この報復の短剣アヴェンジャーに斬れないものはない。

 次はその命があると思うな」


 俺は迷った。

 ジノは追い込まれている。“魔人の剣”で追い立てれば、勝てる可能性は高いと思われた。

 一方で、クルトはどうか。

 俺がジノの相手をしている間に、クライブは、シルヴィアは、グレイスは、無事でいられるのか――?


 その迷いを断ち切ったのはシルヴィアだった。

「ケイ、あんたは大鬼の王オーガキングをお願い。

 あんたにしか、アイツを倒す決定打は打てない!」

 シルヴィアの声に支えられて、俺は即座に迷いを捨てる。


 “魔人の剣”を手にしているとはいえ、今の俺にクルトを倒せるかどうかは判らない。

 ――だが、ジノは違う。

 そもそも俺は勝算を持って、“魔人の剣”を手にしたのだ。

 このまま二人の魔人を相手にするより、数が減る可能性に賭けた方がいいのは明白だった。


 俺は改めて大鬼の王ジノに向き直り、左手の氷帝の剣ヴァイオラに魔力を込めた。

「そう簡単に行くと思うのか」

 ジノは不気味な笑みを浮かべながら、俺に向かって言う。

 俺は敢えてジノのプライドを傷つけるように悪態をついた。

大鬼オーガキングは、闘いよりもおしゃべりが得意か。

 俺には無言で闘う大鬼オーガの方がいさぎよく感じるな」

 ジノはそれを聞いて、血走った目を俺に向けて来る。


 俺はジノに向けて、数発の魔弾マジックボールを放った。

 氷帝の剣ヴァイオラによって増幅されたそれは、氷雨アイスレインとなってジノに降り注ぐ。

 ジノはそれを特に気にすることなく、氷雨アイスレインに全身をさらしたまま前進して来た。


 ジノの意図は体当たりだ、と気づいた俺は、もう一度氷帝の剣ヴァイオラを振るって、自分の目前に、氷壁アイスウォールを築いた。

 普通の氷壁アイスウォールではない、通常の数倍の厚みがあり、ジノの全身をおおう程の大きさのものだ。

 ジノは勢い込んで氷壁アイスウォールに肩から激突した。氷壁アイスウォールに大きなヒビが生まれ、直後に粉々に砕け散る。


 その瞬間、俺は一瞬クルトの方に視線を移した。

 クルトと真正面から対峙たいじしているはグレイスだ。

 そして、その後ろにクライブとシルヴィアがいる。


 三人とも無事なのだから、何とか上手く闘っているに違いない。

 そして、俺には善戦を祈るぐらいしか出来ることはない。


 だが、三人がこちらに背を向け、クルト“以外”には完全に無防備な姿をさらしている状況を見て、俺は嫌な予感を覚えた。


 俺は氷壁アイスウォールが砕け散ったところに飛び込み、ジノに対して雷帝の斧ジーベルトを振るう。

 ジノは、わざわざそれを黒銀の大斧ラッセで受け止めようとはせず、左腕で受けた。

 当然のごとく、ジノの左腕は切断され、吹き飛んでしまう。


 その状況の中で、ジノはニヤリと不気味に笑っている。

 まるで、俺が“罠にかかった”かのように――。



 直後、ジノは黒銀の大斧ラッセをある方向へ“放り投げた”。

 黒銀の大斧ラッセがなければ、ジノはまともな攻撃手段を持たない。

 それを考えると、自らの武器を投げつけるのは、あり得ない行動だった。


 そして、俺たち全員が、ジノとだけ闘っていたのであれば、こういう展開はなかったに違いない。

 だがジノは、最後の最後でそれまでの行動とは違い、自分を攻撃している相手を攻撃対象ターゲットにせず、全く自分を“警戒していない相手”を、武器を投げることで攻撃したのだ。


 投げつけられた黒銀の大斧ラッセは、無防備な背中を晒していた“シルヴィア”に向かっていた。

 俺は端的な叫び声を上げた。半分は悲鳴混じりだったかもしれない。

「シルヴィ――ッ!!!」

 その声は広間に木霊こだますほど、大きく響く。


 ジノから攻撃を受けると思っていなかったシルヴィアには、その一撃を効果的クリティカルに防ぐすべは存在していない。

 振り返ろうとしたシルヴィアは、迫り来る攻撃に驚愕きょうがくの表情を作った。


 だが、直後に彼女が上げた声は、悲鳴でも苦痛のうめきでもなく、全く別のものだった。


「――ク、クライブ――」

 一瞬、時が止まったように、全員が無言になる。


 黒銀の大斧ラッセの一撃を、シルヴィアの側にいたクライブが止めていた。


 盾を持たないクライブが、防いでいたのだ。

 ――“その身をもって”。




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