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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第二部 アシュベル篇
21/117

020 大鬼

 魔法で施錠せじょうされた扉の向こうは、大きな空間になっていた。

 その大きな空間の奥に小部屋があるらしく、その小部屋からは明かりが漏れてきている。


 どうせ鍵を開けたことで、奥の小部屋にいる敵には気づかれていると考えて、俺は周囲を光源ライトで盛大に照らし出した。

 そして、奥の小部屋を凝視する。

 壁越しにはなるが、そこに確かにクルトがいるのが確認出来る。

 迷宮ダンジョン外での目撃がなかったことで、まだ迷宮ダンジョン内にいるとは思っていたのだが、まさにビンゴだ。


 だが、問題は――。


「クルトの他に、もう一人いる」

 俺の言った台詞セリフに、グレイスが反応して質問する。

「――魔人ですか?」

「さすがにこの距離では判らない。

 だが、複数いるのは間違いない」

 敵に仲間がいるという予想外の状況に、四人の緊張感がグッと高まる。

「――魔力の残滓ざんしは感じません」

 グレイスが周りを確認して言った。

「大丈夫、捕縛バインドはないわ。

 捕縛バインドは下準備が必要な魔法だから、戦闘中に使ってくることもない」

 シルヴィアが全員を安心させるように言う。

「クライブ、魔人は魔物モンスターじゃない。だから魔物モンスターにしか効かない挑発タウントは意味がない。

 とにかくシルヴィアを護ることに専念してくれ」

「わかりました」

 クライブからその言葉が返ってきた時、奥の小部屋からゆっくりと二つの影が歩き出てきた。


 クルトは表情に不気味な笑みを浮かべていた。

 相変わらずのイケメン妖精エルフだが、俺の視線はその隣に立つ“大きな影”に吸い寄せられた。

「オーガ――?」

 シルヴィアがその姿を見て口走る。

 クルトの隣に立つ影は、オーガのように見えるが、それに比べると随分人間っぽい体型スタイルに見える。

 とはいえやはり大柄で、肩と腕は筋肉で盛り上がり、片手には凶悪な大きさの斧を持っていた。


 俺は即座にそいつを凝視し、状態ステータスを確認する。


**********

【名前】

 ジノ

【年齢】

 不明

【クラス】

 オーガキング:魔人

【レベル】

 46

【ステータス】

 H P:????/????

 S P:????/????

 筋 力:???

 耐久力:???

 精神力:???

 魔法力:???

 敏捷性:???

 器用さ:???

 回避力:???

 運 勢:???

 攻撃力:???

 防御力:???

【属性】

 闇

【スキル】

 不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、ハーランド語

【称号】

 不明、不明、不明、不明、不明、アラベラの使徒

【装備】

 黒銀の大斧ラッセ (攻撃力+424)

 不明

【状態】

 不明

**********


 俺は三人に伝える。

「――大鬼の王オーガキング、こいつも魔人だ」

 それを聞いたクライブが、シルヴィアの前に被さる形になり、グレイスは俺の前に立つ。

 丁度四角ボックス型の隊列になった。


 クルトにも今の俺の発言が聞こえたようだ。

 俺に興味を持ったのか、問いかけてくる。

「私の隠れ身バニシングを破った時から、ただ者ではないと思っていたが――。

 捕縛バインドを受けたあの状況で生き残り、私たちを魔人と知りつつ立ちはだかる。

 ――お前は何者なのだ?」

 俺はそれには答えなかった。

 答えたところで、何も生み出さないと考えたからだ。


 一向に答えを返さない俺を見て、クルトがフッと笑みを浮かべる。

「まあいい。

 死ねば、お前の存在など、明日には忘れているだろう」

 そう言って、クルトは隣の大鬼の王オーガキングを見る。

「ジノ、ここはお前の縄張りだ。

 任せた方が良いか?」

 ジノと呼ばれた大鬼の王オーガキングは、野太い声で答えた。

「それで構わんが――。

 お前は高みの見物か。良いご身分だ」

補佐サポートはする。

 私はここまで眷属けんぞくどもの餌付えづけをしてやったのだ。

その分は働いてくれ」

「――良かろう」

 ジノはそう言うと、手に持った斧を肩にかつぎ、前に進み出る。

 一方クルトは闘いに参加しないのか、距離を取って下がった。


 俺はグレイスに目配せする。

 グレイスはその意図を汲み、ジノが動き出す前に攻撃を仕掛けた。

「クライブ、黒妖精ダークエルフを警戒しろ!」

 俺はそういうと、グレイスと共にジノの前に進み出る。

 グレイスはシークレットステップでジノの左に迂回しながら、剣で攻撃を仕掛けた。

 左に回り込んだのは、ジノが右手で斧を持っていたからだ。相対的に届きづらい方向へ移動したことになる。

 ジノはそれに構わず、黒銀の大斧ラッセを振りかぶって、グレイスに攻撃してくる!

 俺は即座に魔壁マジックウォールを二重に展開したが、ジノの一撃はそれをどちらも粉砕ふんさいした。

 グレイスは攻撃を途中でやめ、勢いの落ちたジノの攻撃をバックステップで避ける。

 その瞬間、ジノの右の脇腹に岩弾ロックボールが突き刺さった。

 シルヴィアがタイミングを見て放ったものだ。

 あまり大きなダメージにはなっていないが、ジノは五月蠅うるさげにシルヴィアの方を見る。

わし眷属けんぞくどもほど、魔法に対してやわではないぞ」

 ジノはそういいつつ、シルヴィアのいる方向へ迫ってくる。

「クライブ、まともに受けるな」

 俺はクライブにアドバイスを送る。

 先ほどの攻撃の威力を考えると、クライブはきっと受け止めきれない。


 ジノはシルヴィアの前に立つクライブに向けて、真上からの攻撃を仕掛けてくる。

 クライブはそれを慎重に避けたが、第二撃が続けておそいかかってきた。

 ジノの斧とクライブの白の長剣ホワイトロングソードが接触し、火花を散らしながら耳障みみざわりな音を発する。

 クライブが攻撃を受け流した瞬間、グレイスがジノの左脚に向けて突進チャージを仕掛けた。

 俺はグレイスの剣に魔弾マジックボール付与エンチャントを仕込んだが、ジノは不安定な体勢のまま、右脚でグレイスに回しりを放った。

 きょを衝かれたグレイスは、体勢を崩し、回し蹴りをまともに受けてしまう。

 グレイスの鎧に付与エンチャントされた魔壁マジックウォールが発動したが、簡単に粉砕されてしまったようだ。

 グレイスは蹴り飛ばされ、俺の足下近くまで転がってくる。

 俺は即座に大回復エルダーヒールでグレイスをやした。

「――グレイス、立てるか?」

 グレイスはうなずくと、立ち上がって俺から距離を取る。


 俺はシルヴィアに視線を送った。

 シルヴィアはそれを見て、ジノへ土銃ドレイクガンを繰り出す。

「その程度の魔法など、効かんのが判らんのか!」

 ジノは地面から繰り出された土銃ドレイクガンを、斧を使って叩き壊した。

 その動作の直後、シルヴィアから炎弾フレイムボールが飛んでくる。

 ジノはそれも黒銀の大斧ラッセを使って霧散させた。

 俺はその動作に合わせて、複数の風刃ウィンドカッターを足下に放った。

 さすがにそれは全て避けることが出来ず、いくつかがヒットしてジノの脚に切り傷を作る。

 ――傷は浅い。


 そこまでの様子を見ていたクルトが、ジノに声を掛けた。

「ジノ、こいつらのかなめは、魔法を使うあの男だ。

 あれを何とかせねば、お前とて手こずるぞ」

 それを聞いたジノは、俺をジロリとにらみ付ける。


 俺も大概たいがい非友好的な視線を送られても、気に留めることはないのだが、さすがに凶悪な魔人の視線にすくめられると、いい気分がしない。

「そんなに見つめるな。れちまいそうだ」

 ――精一杯、強がってみた。

 ジノは俺に向き直ると、ジリジリと間合いを詰めてくる。

 俺の前にグレイスが割り込もうとしたが、俺は手を開いてそれを止めた。


 こいつジノの武器は、一撃必殺に近い膂力りょりょくと、多少の傷など関係ないぐらいの耐久力にある。それをまず何とかしないといけない――。


 俺がジノに向けて火弾ファイアボールを飛ばすと、ジノは面倒くさそうに左腕で払った。火弾ファイアボールはそれだけで消滅してしまう。

 直後、ジノは俺に向けて鋭く踏み込んできた。

 斧を両手に持ち替え、今までよりも遠い間合いから攻撃してくる!


 その時、俺は即座にジノの“顔”の前に魔壁マジックウォールを展開した。

 ジノは恐らく俺の身体の近くに、身を守るための魔壁マジックウォールが展開されることは想定していただろう。

 だが、まさか自分の顔の前に、障害物となる“見えない壁”があるとは思わなかったようだ。

 ジノは突進の勢いで、顔面から魔壁マジックウォールに力一杯突っ込んだ。

 魔壁マジックウォールは粉々になったが、その衝撃しょうげき平衡へいこう感覚を失ったのか、ジノの攻撃は随分ずいぶん俺から外れた方向に落ちた。


 ジノの一撃必殺の攻撃は、“腕の力”と“身体の勢い”によって生まれている。

 であれば、放たれた後の攻撃を受け止めるよりも、身体の勢いを“邪魔して”止め、一撃必殺にならないようにした方がいい。


「――貴様――」

 どうやら今の顔面激突はプライドにさわったようだ。俺を追う目が若干血走っている。


「あんた、あたしたちのこと忘れてない?」

 シルヴィアが挑発的な台詞セリフと共に、岩弾ロックボールを放った。

 ジノはそれを斧で弾き落とす。

 そして、シルヴィアに向かおうとしたジノの前に、クライブが立ちはだかった。


 ジノは、直前まで俺を追っていたのに、直後に攻撃を受けたシルヴィアを追いかけ始めている。


 その時、ふとグレイスと目が合った。


「――クライブ、シルヴィア、持ちこたえろ!」

 俺はそう叫ぶと、ジノにピストル大の魔弾マジックボールを放った。

牽制けんせいにもならない、単に気を逸らす程度のものだ。

 だが、“気を逸らせればいい”。


 ジノは、俺の魔弾マジックボールなど意に返さず、身体に当たるままにして、クライブを攻撃しようとした。

 俺はクライブに攻撃を仕掛けようとしたジノの腕と脚の前に、それぞれ魔壁マジックウォールを展開する。

 ジノは二つの障害物マジックウォールにぶつかりながらも体勢を整えようとしたが、クライブに盾の一撃シールドバッシュを喰らって倒れ込むような体勢になった。


「これでも喰らいなさい!!」

 シルヴィアが叫ぶと、ジノの頭上に真っ黒な空間が出来る。

 次の瞬間、ジノに向けて、無数のつぶての雨が降り注いだ。

 上級土属性魔法、礫雨ロックレインだ。


 ジノはその場から逃れようとしたが、俺は逃れる先の足下に魔壁マジックウォールを仕掛けた。

 障害物があるのに気づいたジノは、避けるのを諦め、つぶてを斧でさえぎって防ごうとした。


 だが、大柄な身体は斧では隠しきれない。

 いくつものつぶてが突き刺さり、ジノの体中から青黒い血液が噴き出してくる。

 ダメージになっているようだ。


「ほう――。上級魔法を使いこなすのか」

 離れた場所で闘いを見ていたクルトが感心する。

 ――観戦者ギャラリーありの闘いは、どうも気味が良くない。


 ジノは礫雨ロックレインが止んだのを確認して、シルヴィアを狙おうと、そちらに近づいていく。


 さっきから闘って判ったことがある。

 ジノは決してターゲットを固定しない。しかも、直前に攻撃を受けた敵を狙う可能性が圧倒的に強い。

 短気な性格が作用しているのか、そういう習性なのかは判らない。


 だが、これは俺たちにとって好都合だ。

 ジノが潜在的な危険を察知するタイプであれば、俺とシルヴィアが、“グレイス”を護っていることに気づかれてしまうだろう。


 俺はシルヴィアの方を向いたジノに、風刃ウィンドカッターを放った。

 ジノはそれを黒銀の大斧ラッセで防ぐと、今度は俺の方へ向かってくる。

 そこへ、クライブが剣を振りかぶって攻撃する。

 ジノは斧でそれを払い、クライブを左手で殴りつけようとした。

 俺がそれを魔壁マジックウォールで防いだ瞬間、シルヴィアの炎弾フレイムボールがジノの右足に着弾した。

 ジノは再びシルヴィアの方を向く。


 その時、外野クルトから余計な声が飛んだ。

「ジノ、気をつけろ、何かあるぞ」

「何――!?」

 ジノはクルトの声を聞き、闘いの場から、少し距離を取って動かないグレイスの方へ向き直った。


 ――だが、もう遅い。


 俺は魔法を放った後にグレイスの側に近寄っていた。

 グレイスは詠唱を終え、今は静かに剣を手にしたまま、目を閉じている。


 グレイスの背後に回った俺は、剣をしまうと左手をグレイスの胸元に差し込んだ。

「――ちょっ! あんた、何してんのよ!!」

 俺のこの行動はさすがに予想していなかったのだろう。

 戦闘中にあり得ない光景シーンを見たシルヴィアが、怒りの声をあげる。


 だが、俺はグレイスの肌に直接触れなければならない。

 そうしなければ、意味がない。


 俺は後ろから抱き込むように、左手をグレイスの鎧と服の下に潜り込ませ、直接ボリュームのある右胸を鷲掴わしづかみにした。

 さらに右手は引き締まった右尻に滑り込ませ、こちらも鷲掴みにする。

「――あっ――!」

 それに反応して、グレイスが悩ましげに小さく声を漏らした。


 その瞬間、周囲に強い光が立ちこめる。

「何だ――!?」

「何なの――!」

 クルトとジノだけでなく、クライブとシルヴィアも目の前で起こっていることに驚き、動きを止める。


 俺は右手と左手の光の中から、ゆっくりと“得物えもの”を引き出していく。


 そして――。


 光が消えた後の俺の右手には、銀色に輝く斧が、左手には紫色の剣が握られていた。




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