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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第二部 アシュベル篇
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015 石像

 クライブが広間の中心に足を踏み入れると、周囲の石像の目に光がともり、ゆっくりと動き出す。

 敵の数は二〇体ほどだ。

 本来は罠として配置されているものだが、襲いかかってくることは前もって判っている。

 俺たちは慎重に、広間の中心で円を描くように隊列した。


「クライブ、動き出したら引きつけてくれ」

「判りました。

 ですが、挑発タウントには有効範囲がありますので、引きつけるまで攻撃を我慢してください」

 数体の魔石像ガーゴイルは既に動き出している。

 だが様子を見るように、襲いかかっては来ない。


 ――と、最も大きいハンターガーゴイルが、動き出した。

 一度大きく背中の羽根を羽ばたかせると、次の瞬間、一気にグレイスへ襲いかかる!


 その瞬間、周りの空間に“気合いの波”が伝搬でんぱんした。

 ハンターガーゴイルだけでなく、ほぼ二〇匹すべてがクライブを攻撃対象ターゲットに変更して襲いかかってくる。

 クライブは上手くターゲットを取ったようだ。

 俺はハンターガーゴイルに目印の光源ライトけ、クライブの周りに二つ三つと魔壁マジックウォールを重ねていった。


 クライブは目印のついたハンターガーゴイルの攻撃を盾で受け止め、剣で反撃する。だが攻撃は当たらなかった。

 二匹目、三匹目の攻撃は魔壁マジックウォールで防がれ、四匹目はグレイスの風刃ウィンドカッターで撃破された。

 五匹目の攻撃がクライブに届きそうになった瞬間、一瞬緑色の魔力が広間全体を包み込み、全てのガーゴイルの動きが二段階ほど遅くなる。

 シルヴィアが掛けた遅延スロウ状態異常デバフが作用したようだ。

 俺はシルヴィアに協調性など期待していなかったのだが、意外と周りを補佐サポートする闘い方も得意なのかもしれない。


 クライブは五匹目以降のガーゴイルから集中攻撃を受けたが、シルヴィアの状態異常魔法デバフによって、攻撃を受けるペースは想定していたよりも圧倒的に遅い。

 俺は一匹のガーゴイルを魔弾マジックボールで撃ち落としながら、クライブに回復ヒールを掛けた。

 回復は余裕で間に合っている。


 とはいえ二〇体ものガーゴイルの攻撃をクライブ一人が受けているのだ。遅延スロウの効果があるとはいえ、もの凄い勢いで鎧を叩く金属音が木霊こだまする。

 グレイスとシルヴィアが引き続き風刃ウィンドカッター岩弾ロックボールでガーゴイルを撃ち落とすが、ガーゴイルは石像だけに結構堅い。なかなか数が減らないだけに、持久戦になってしまいそうだ。

「広域でぶっ飛ばしてもいい?」

 シルヴィアがしびれを切らして提案してくる。

「ダメだ」

 俺は端的に答えて、クライブへ回復ヒールを掛ける。

 ガーゴイルは土属性なのか、グレイスの風属性魔法は良く効いているが、シルヴィアの岩弾ロックボールたま抵抗レジストされてしまっているようだ。


 実は俺は広域魔法でクライブを巻き込んでしまうこと自体はさほど恐れてはいなかった。

 どちらかというと、広域魔法でガーゴイルを倒しきれなかった場合、攻撃対象ターゲットが一気にシルヴィアに向いてしまうことを恐れていた。

 特に彼女が得意とする火と土の属性魔法は、ガーゴイルには効きづらい。二〇匹近くもいたら、きっと倒しきれないだろう。


 仕方なくシルヴィアは火属性魔法に切り替え、攻撃を開始したようだ。

 俺はクライブのHPを注視しつつ、数匹を魔弾マジックボールで倒している。

 程なく、残りのガーゴイルは一〇匹ほどになった。


 だが、その段階において、ガーゴイルのターゲットが不安定になり始めた。


 二匹のガーゴイルが、最もダメージを与えていたであろうグレイスに向かった。

 グレイスはさすがに油断なく構えていたので、片方の攻撃を避け、もう片方の攻撃を剣で受け流している。


 その直後、シルヴィアが火属性魔法を当てる。それに釣られて三匹のガーゴイルがシルヴィアに向かった。

 直後にクライブが挑発タウントを発動したが、そのうちの一匹しかクライブにターゲットが戻らない。

「ちょっ――!」

 シルヴィアは焦って襲ってきた二匹のガーゴイルの片方に、火弾ファイアボールを二連発する。

 火弾を浴びたガーゴイルは、シルヴィアを攻撃する前に崩れ落ちたが、もう一匹はそのままだ。

 俺は仕方なく、シルヴィアとガーゴイルの間に割り込み、左腕の鉄の籠手ガントレットでガーゴイルの攻撃を受けた。ズシリと重い攻撃が左腕を駆け巡る。

 即座に俺はロドニー戦と同じように、ガーゴイルにゼロ距離で魔弾マジックボール・特大をお見舞いした。

 砂の短剣ソードオブサンズで魔力強化された一撃だ。

 それをまともに受けたガーゴイルは、一瞬で砕け散る。


 グレイスを見ると、まだ二匹と渡り合っていた。

 敵との距離が近すぎ、魔法が使えないようだ。

 俺はクライブに大回復エルダーヒールを使って一気に回復させると、グレイスの長剣に魔力を集める。

 グレイスの長剣が継続した魔力を帯びるよう、意識を集中させた。


 グレイスはそれに気づいて一気に攻勢に転じた。

 それまで石を殴るような音がしていたグレイスの攻撃が、しっかりと“斬れる”ようになる。

 グレイスは二匹のガーゴイルの片方の腕を切り落とし、もう一方の脚を切り落とした。

 ガーゴイルたちはバランスを崩して床に墜落する。

 そこへ間髪かんぱつ容れず、俺とグレイスが一匹ずつ、魔法で止めを刺した。


「――助かったわ」

 シルヴィアが俺に声を掛ける。茶化した表情はない。

「まだ終わっていない。クライブを援護するぞ」

「ええ」

 クライブはまだハンターガーゴイルを含む、五匹ぐらいの敵を相手にしている。


 今回の闘いは、クライブがある程度ターゲットを引きつけてくれたから成り立った感じだ。

 俺はクライブを回復しながら、改めて重装剣士タンカーの重要性を認識していた。




 大勢は決した感じだったが、それから俺たちがガーゴイルを駆逐するのに、結局二〇分以上を要してしまった。

 何故かというと、ハンターガーゴイルが“異常に”堅かったからだ。


 シルヴィアが言うには、どうやらハンターガーゴイルはレイドと呼ばれる強敵らしい。

 クライブへの攻撃対象ターゲットが安定していたのと、付与エンチャントの効果もあって、命の危険におちいるということはなかったのだが、相当に多いHPが俺たちを草臥くたびれさせた。

 それも、俺がハンターガーゴイルのHPを見ることが出来たので、進捗しんちょくを知ることが出来ただけ良かったが――そうでなければ、途中で諦めて帰還リターンしていたかもしれない。


 一方で、崩れ落ちる程の疲労を回復させてくれたのは、この闘いの報酬おたからだった。


 ガーゴイルは憑代よりしろとして小金貨を落としていた。

 それだけでも結構なものだったが、ハンターガーゴイルが落とした憑代よりしろと、部屋に存在した金貨がシルヴィアを喜ばせる。

「自分が使えない装備なのが残念だけど、魔法の掛かった武器で間違いなさそうね」

 ハンターガーゴイルが落とドロップしたのは、弓だ。

 俺はそれを凝視して、鑑定してみた。


**********

【装備名】

 ハンターボウ

【種別】

 魔法弓

【ステータス】

 攻撃力:+289

【属性】

 土

【スキル】

 土属性耐性+2、狙い撃ち、精神集中+1、対動物系特効

【装備条件】

 筋力400以上

希少価値レアリティ

 B

**********


「――ハンターボウ、魔法弓だ」

「ハンターボウ――三〇万セルジュ以上は堅いわね」

 そんなにするのか!

 シルヴィアの発言に素直に驚いてしまった。

 俺の教会手伝いの日々は一体――。

「同レベルの剣だったら、五〇万セルジュ以上したでしょうね」

 グレイスも反応して言う。

 問題はこのハンターボウが一個しかないことだが――。

「こればっかりはコインで決めるというのもな。

 ――誰も装備出来ないみたいだし、売った代金を等分割ということでどうだ?」

 俺がシルヴィアとクライブに提案すると、二人も同意してうなずいた。



 俺たち四人は、ここで一旦帰還リターンすることになった。

 疲労度が高いし、お宝も精算したい。

 さらに、魔法の鍵の掛かった扉について、ギルドに報告もする必要があった。


 結局、精算を済ませたら、一人当たり一五万セルジュ以上もの収入があった。

 俺の全財産が、一日で一五倍だ。


 シルヴィアも、完全にホクホク顔だった。

「今日は迷宮ダンジョンに入れないって話でどうなるかと思ったけど、最終的には随分ついてたわ」

 そういって、俺に視線を送ってくる。

 俺はうなずきつつも、それを半ば流して、クライブに話しかけた。

「クライブ。今日の主役は君だろう。ターゲットを押さえてくれたのが決め手だった」

 クライブはその発言を聞いて、破顔はがんする。

「いいえ――。

 オレは結局最後までターゲットを維持出来ませんでしたから。

 ケイさんの付与エンチャントやグレイスさんに助けられた部分が多いです」

 クライブは素直に照れている。

 身体はでかいが真面目で好感が持てるな。


「左腕は大丈夫ですか?」

 グレイスが心配して、俺に問いかけた。鉄の籠手ガントレットをしていたとはいえ、直接ガーゴイルの攻撃を受け止めた。骨が折れたりすると、治すまでにまたしばらくの時間を必要としてしまう。

 左腕に違和感はなかった。だが、鉄の籠手ガントレットには大きな傷が残っている。

付与エンチャントして受け止めれば良かったんだ。

 どうも即座に左腕が出るくせがあるみたいでね――」

 だが、鉄の籠手ガントレットがあって良かった。なければ俺の左腕はとても無事では済まなかっただろう。


「ケイ、素直に礼を言うわ。

 ――まもってくれてありがとう」

 シルヴィアが会話に割り込んで、礼を言う。

 調子の良い娘ではあるが、こういう時は意外と素直だ。

 何しろ普通にしていれば、相当な美女であることは間違いないしな。

「気にするな。これから逆にシルヴィアに護ってもらうこともあるだろうし。

 ――もちろん、明日以降もパーティを組むのなら、だが」

 それを聞いて、シルヴィアの表情がパッと明るくなる。

「あたしたち、クビって訳じゃないのね」

 俺はそれを聞いて、グレイスに目を向ける。

 グレイスは優しげに微笑んでいた。

「ああ、もちろん。

 ――シルヴィアが俺たちに満足出来れば、だが」

 俺の発言を聞いて、シルヴィアは慌てて大声で言った。

「満足したわ!

 ――だから、明日からもよろしく!」

 それを聞いて、俺とグレイスは笑った。




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