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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第二部 アシュベル篇
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014 戦術

 付与エンチャントと自己紹介を終えた俺たちは、グレイス、クライブ、シルヴィア、俺の順番に隊列を組んで、迷宮ダンジョンを進むことにした。


 自己紹介を聞いて判ったことだが、シルヴィアとクライブは幼なじみなんだそうだ。

 元々クライブは別のパーティで活動し、シルヴィアはずっとソロで活動していたようだが、クライブが都合で別のパーティを抜けることになり、たまたま昨日、シルヴィアがクライブを冒険者ギルドで見かけて、パーティを組むことになったらしい。

 なので、シルヴィアとクライブも一緒に戦うのは、初めてだということだ。


 結果として、シルヴィアとクライブの連携も大して期待出来ないことになる。

 戦闘で統制がとれなくなったら、結局俺はグレイスを頼るしかないのかもしれない。


 ちなみにグレイスを先頭にしたのは、彼女の持つ偵察5の能力ちからを頼ったからだ。

 俺は既に、グレイスに頼りきりなのかもしれないな――。



 そうして一〇分も進んだころ、グレイスがとある部屋の前で立ち止まった。

 そして、後方の俺を振り返る。

「――います」

「複数か?」

「複数です。恐らく五、六はいます」

 いきなり自分たちより数の多い敵だ。

 問題はこちらがちゃんと連携して闘えるかどうかだが――。

「まだ潜ってから浅いわ。

 大した敵じゃないんじゃない?」

 シルヴィアは慎重になりすぎと言いたげな表情で、グレイスに言う。

「――かもしれません」

「よし、取りあえず闘うしかないのは同じだ。

 グレイスとクライブは順番を変わって突入してくれ。俺が援護する。

 シルヴィアは前に出すぎるなよ」

 何となく突っ走りそうなシルヴィアを牽制けんせいしながら指示を出した。


 最も装甲の厚いクライブが先頭になり、部屋に突入する。

 俺たち四人が部屋に入りきったところで、敵もこちらの存在に気づいたようだ。

「なぁに? ゴブリンじゃないの」

 シルヴィアは拍子抜けしたように言った。

 俺はすぐに敵を観察する。確かにゴブリンだが――。

「気をつけろ、ゴブリン二匹、ホブゴブリン二匹、あとゴブリンメイジにゴブリンリーダーがいる」

 シルヴィアは俺の発言を聞いて、振り返る。

「――いい目してるのね」

「茶化すんじゃない。

 ほら、くるぞ」

 ゴブリンたちは、突然現れたこちらに少しの間戸惑っていたようだが、ゴブリンリーダーの指示の声を聞いて、隊列を組んだ。

 そして、ホブゴブリンとゴブリンが、襲いかかってくる。


 だが、危惧きぐしていた通り、敵の実力をあなどったシルヴィアが突出して、先制攻撃を仕掛けた。

「一瞬で消してあげるわ!」

 シルヴィアの放った炎弾フレイムボールが、ゴブリンを襲う。

 彼女の魔法は広域化スキルの影響もあるのか、二匹のゴブリンを丸ごと覆い、一撃で消し炭にした。

 するとそれに反応して、残ったゴブリンたちの狙う敵ターゲットが一気にシルヴィアへと向かう。

「チッ――」

 俺は舌打ちすると、ターゲットを取ったシルヴィアを護るためにサポートに入ろうとした。このままでは装甲の薄いシルヴィアへ集中攻撃されてしまう。


 その時、クライブの気合いの声と共に、部屋中に“気合いの波”が充満した。

 残ったゴブリンたちの狙う敵ターゲットが、今度は一斉にクライブに向かう。

「――挑発タウントです」

 グレイスが俺に告げた。ターゲットを呼び戻すアビリティのようだ。


 クライブは最も攻撃力の高いゴブリンリーダーの攻撃だけ盾で受け、ホブゴブリンの攻撃は、そのまま鎧で受け止めた。

 周囲にカンカンと金属音が鳴り響き、クライブは三匹のゴブリンから集中攻撃を受ける形になっている。

 残りのゴブリンメイジは後方から魔法を使うようなポーズをし始めた。

 どうやら、魔法が即時発動する様子はなく、呪文の詠唱を必要としているようだ。

「グレイス、メイジを」

「了解」

 グレイスは端的な言葉で俺の意図を理解する。


 シルヴィアはさすがにクライブと敵が近すぎるため、まとめて火で焼こうとはせず、様子を見ていた。

 その間に、グレイスはシークレットステップでゴブリンメイジの後方に近づき、アビリティ不意打ちバックスタブ一刀でメイジを切り捨てる。

 だが、すんでの所でゴブリンメイジの魔法の発動の方が、早かったようだ。

 クライブに向けて、火弾ファイアーボールが飛んでいった。

 俺はそれを魔壁マジックウォールで受け、クライブを護った。


「――クライブ、いつまで遊んでんのよ!」

 シルヴィアは三匹のゴブリンを相手にするクライブを見て悪態をつくと、土属性魔法でゴブリンリーダーを攻撃した。一部の地面を隆起りゅうきさせて敵を攻撃する、土銃ドレイクガンの魔法だ。

 不意打ちに近い形になった土銃ドレイクガンの魔法は、しっかりゴブリンリーダーにヒットして、かなりのHPを奪った。

 ゴブリンリーダーがひるんで後退したところを、シークレットステップで近づいたグレイスが、これも一刀両断する。

 ゴブリンリーダーもアッサリと消滅してしまった。


 俺は残った二匹のホブゴブリンの片方を、魔弾マジックボール・中の三連発で消滅させる。

 そして、クライブが最後に残ったホブゴブリンの止めを刺した。


 ――連携出来た気はまったくしないが、何とか全ての敵を殲滅せんめつ出来たようだ。

 俺は落ちた憑代よりしろを集め、ポーチに収めていった。


「なかなか、息は合ってたんじゃないの?」

 シルヴィアが、ニコニコしながら言う。

 何というか――脳天気だ。

「クライブ、大丈夫か?」

 俺はシルヴィアの発言には応えず、タコ殴りにあったクライブを心配して言った。

「大丈夫です。痛いものは、盾で避けましたので」

 俺がクライブの状態ステータスを確認したところ、確かにHPは三〇〇ぐらいしか減っていない。

 クライブのHPは、体力強化ブレスオブボディで四五〇〇を超えているから、余裕の域にあるのだろう。さすがに重装剣士タンカーだけあって、堅い。

 俺はクライブに回復ヒールを掛けると、シルヴィアに言った。

「シルヴィア、クライブより先にターゲットを取るな。

 他はいいが、それだけ約束してくれ」

 シルヴィアはそれを聞くと、少々ふくれっ面になりながらも「わかったわ」と言葉を返した。

 グレイスの危惧した通りだ。先が心配だが、何とか整えていくしかない。

 グレイスを見ると、彼女もやれやれという表情をしていた。



 その後二階層に至るまで、強敵にも遭わずに進むことが出来た。

 シルヴィアも約束した通り、クライブよりも先に先制攻撃することはなくなり、戦線は安定している。

 そういう意味ではシルヴィアも、調子はいいが、根は真面目な娘なのかもしれない。


 俺たちは二階層目の一つ目の部屋で、休憩を取ることにした。

 クライブは身近な石の装飾の上に腰掛け、ポーチから水筒を取り出して水を飲んでいた。

「――ケイ、こちらに」

 グレイスに呼ばれ、彼女の側に腰掛けると、グレイスはポーチから紅茶セットを取り出して、お茶をれてくれる。

 迷宮ダンジョンでのんびり紅茶とか、違和感が半端ない。

「何? 随分優雅ゆうがじゃないの」

 シルヴィアがそれを見て、吹き出すように笑う。

 グレイスは気にせず無視している。

「あたしにも頂戴」

 シルヴィアはそう言って近づいてくると、俺が使っていたカップを取って、紅茶を飲んだ。

 その行動に、グレイスの冷たい視線がシルヴィアに飛ぶ。

「あら、結構イケるじゃない。

 ――グレイスあなた、いいところの侍女か何かだったの?」

 二人の視線が一瞬交差したが、グレイスがその質問に答える様子はなかった。

「それは味が判るシルヴィアも、いいところの出という意味か?」

 俺がグレイスをかばうように質問する。

「そうね。否定はしないわ。

 ――今は家とは関係ないけどね」

 シルヴィアはそう言うと、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。



 俺たちはわずかな休憩を終えると、二階層目の探索を始めた。

 隊列はグレイスを先頭にしたままだ。


 だが、二部屋目に差し掛かったところで、グレイスは再び足を止め、その場で扉の周りを調べ始める。

「――魔物モンスターか?」

 グレイスの行動を見て俺が問いかけると、グレイスは首を横に振った。

「いいえ。

 扉に鍵が掛かっているようです。

 罠はないようですが、鍵穴がありません。魔法で施錠せじょうされているかもしれません」

「ちょっと見せて」

 シルヴィアがグレイスと入れ替わり、扉の様子を見る。

「――レベル3で施錠されてるわ。

 中に結構なモノが隠れてる可能性が高い」

「――他にも道はありますが、どうしますか?」

 グレイスが俺に尋ねる。一旦戻ってギルド職員に伝えるという選択肢もある。

 ただそうすると、中にお宝があった場合、他のパーティに取られてしまう可能性が高いが――。

「このレベルなら解錠出来るわ。もちろん進むでしょ?」

 シルヴィアが俺を見て言う。

「――付与エンチャントをかけ直して、扉を開けよう」

 俺はそういうと、全員の付与エンチャントをかけ直し始めた。



 シルヴィアが解錠メイスの魔法で扉を開ける。

 さすがにシルヴィアも警戒しているのか、扉を開けてすぐにクライブの後ろに下がった。

 扉の中の部屋は暗い。光が全く入ってきていないようだ。


「明かりを点ける」

 俺は各人の武器に光源ライトともした。

 部屋の中が明るく照らされる。

 部屋の内部は一つの広い空間になっていて、すみの方に、いくつかの箱が置かれ、武器が立てかけられているのがわかった。

 だが、その周りには、魔物モンスターおぼしき形の石像がいくつも建っている。

「正直、罠にしか見えないが――」

魔石像ガーゴイルだと思います。

 魔法と、魔力を付与エンチャントした装備がよく効きますが、頭上から攻撃してくるので、注意が必要です」

 グレイスが警告を口にする。

「部屋の中央に立つか、お宝に手を付けるかすれば動き出しそうね」

 シルヴィアも罠だと考えているようだ。


 俺は二〇体ぐらいの石像を凝視して、魔物モンスターの状態を探っていく。

 石になっていても、状態ステータスが見えている。罠になっていない状態だ。


 調べると、どれもレベル一〇台の敵のようだが、中に一匹だけ様子が違うのがまぎれていた。

「――中に一匹だけ、ハンターガーゴイルってやつがいる」

「オレが引きつけます」

 クライブが提案する。

「頼む。一匹だけ身体が大きいから、判るはずだ」

「ケイ、あたしたちはどうする?」

 さすがに二〇体の敵には慎重になるのか、殊勝にもシルヴィアが指示を求めてきた。

「グレイスとシルヴィアは魔法でガーゴイルを撃ち落としてくれ。

 クライブを巻き込まないよう、範囲を広げずに、一匹ずつ落とすんだ」

「了解」

「俺はクライブを支える。

 ――じゃあ進むぞ」


 俺たち四人は、ゆっくりと広間の中心へと進み出た。




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