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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第二部 アシュベル篇
13/117

012 迷宮 ★

挿絵(By みてみん)

※世界観把握のためのもので、細かな距離感などは反映できていません。




 俺とグレイスは昼食を済ませた後、ひとまず迷宮ダンジョンの下見をすることにした。

 迷宮ダンジョンへの本格的なチャレンジは明日からにするのだが、二カ所ある迷宮ダンジョンのどちらにもぐるべきかを決めるための基礎情報なしでは心許こころもとない。

 なので、今日の内に知ることが出来る情報を集めておきたいと考えていた。


 グレイスに聞いたところ、迷宮ダンジョンというのは元々神々の神殿であったところが迷宮化したものが多いらしい。

 誰が作ったのかは知らないが、元が神々の神殿だけに作りが立派な上に複雑で、相当な大規模だ。

 ただ、大規模なだけに年月が経つと管理が行き届かず、最終的に迷宮化してしまうということが多くあるらしい。

 神々の神殿なので、場所としては比較的大きな街の近くにあるのが特徴だが、神殿が迷宮化してしまうと、そこに魔物モンスターが巣くうようになってしまい、放置すれば魔物モンスターが街の方へ上がってきてしまうこともある。

 なので迷宮ダンジョンのある街では冒険者ギルドを作り、冒険者に報酬インセンティブを与えることで、迷宮ダンジョンの浄化を行って貰っているという関係だ。


 ちなみにここで重要なのは、魔物モンスターは蛮族や獣人とは違うということだ。


 迷宮ダンジョンの外にいる、例えば俺がルーメンの森で闘ったコボルドなどは、蛮族にあたる。

 蛮族や獣人は、実際に生き物であって、倒せば“死ぬ”。

 実際、俺が倒したコボルドは、森に死体をさらしていた。


 それに対して、魔物モンスターは基本的に迷宮ダンジョンで生まれ、迷宮ダンジョンの中で行動している。

 魔物モンスターは、憑代よりしろと呼ばれる何らかの物体があって、その物体に迷宮ダンジョン内の瘴気しょうきや魔力が集まることで生まれる。

 だから、倒すと消滅し、憑代よりしろだけが残る。


 冒険者はその憑代よりしろをギルドに持ち替えることで、魔物モンスターの討伐証明にする。すると、ギルドから決められた報酬を受け取れるのだ。

 憑代よりしろとなる物体は魔物モンスターの種類ごとに異なっていて、例えばゴブリンは銅貨、ポイズンスネークは銀の釘を落とすらしい。

 当然強い魔物モンスターは、珍しい憑代よりしろを落とすし、ギルドに引き取って貰う以外、どうしようもないものも存在する。オークなどはぶたの骨を落とすらしい。

 なお、魔物モンスターを倒した後に、憑代よりしろ迷宮ダンジョンに放置していくのはマナー違反になっている。ちゃんとポーチに入れて、回収しなければならない。

 何でも憑代よりしろを放置すると、またそこから魔物モンスターが生まれてしまうからだそうだ。元の世界でいう、釣りの放流リリース禁止みたいなものだな――。


 グレイスと俺は、冒険者ギルドで得た前情報を元に、北の迷宮ダンジョンを目指していた。

 聞いたところ、こちらの方が難易度が低く、街から近いということだった。


 果たして、北の迷宮ダンジョンは街から歩いて十五分ほどで着いてしまう場所にあった。

 海辺なのだが、崖があり、その崖の下の方に大穴がポッカリと空いている。


 穴のそばにはギルドの職員と思われる人間が立っていた。

 俺たちはその職員に、冒険者ギルドの登録証を見せる。

「――西コース、北コースはそれぞれ二つのパーティが潜っていて、東コースは誰もいない。

 南コースは、今は閉鎖中だ」

 ギルド職員が端的に説明する。

 何だか“コース”と言われると、観光名所みたいでガッカリだが――。

 グレイスは俺を一瞥いちべつした後、職員に告げる。

「では、東コースを」

「――わかった。東は敵の数はそれほどでもないが、トラップがあるみたいだから、気をつけてくれ。

 それと、これを一枚ずつ持っていくんだ。

 次に入る時にも渡すから、遠慮せずに使うといい」

 そういって職員は、俺とグレイスに何かの魔法陣の書かれた紙を渡す。

 俺が紙を見つめて鑑定しようとすると、グレイスが横から補足して言った。

「これは帰還リターンの魔法陣です。

 迷宮ダンジョンの中から、ここまで戻ってくることが出来ます」

 こんな紙一枚で戻ってこれるのか――。便利すぎる。

 そういえばロドニーが光属性魔法には、空間移動するものがある、と言っていたのを思い出した。

 それとは別なのかもしれないが、極めると相当便利なのかもしれない。


 俺とグレイスは職員に礼を言うと、穴を下りて、東側の道に入っていった。


 俺は迷宮ダンジョン内で、グレイスが抜剣ばっけんするのに合わせて、砂の短剣ソードオブサンズを抜き放つ。ついでに左手に鉄の籠手ガントレットも装着した。

「――この迷宮ダンジョン魔物モンスターは、恐らく強くありません」

 グレイスが説明する。

「閉鎖されている南コースは、恐らく魔物モンスターが強いのだと思います。

 ただ、弱いとはいえ、油断しないに越したことはありません」

「わかった。

 基本はロドニーの時と同じで、俺は補助に回る」

「お願いします。

 あと、ここは様々な魔法を試すことが出来ると思いますから、出来るようであればチャレンジしてください」

 グレイスがそう言って、ニッコリ微笑んだ。



 迷宮ダンジョンの一階層目、二階層目はアッサリと踏破とうは出来た。

 何しろまばらにゴブリンしか出てこない。

 魔法を試すも何も、グレイスが一刀で斬り倒してしまうため、俺の出番がない。

 手元には数枚の銅貨が残るのみだ。


 仕方ないので俺は、鉄の籠手ガントレットを外して、先ほど買ってきた魔法書を読みながら歩き回ることにした。

 さすがにこの状況だと、グレイスも油断するなとは言ってこない。


 俺が読みふけっていたのは『付与魔法エンチャント 概論』という魔法書だ。

 属性魔法も興味があったが、今はぶっ放す相手がいない。

 それに比べると付与エンチャントなら、敵がいなくても試すことが出来ると考えたのだ。


 『付与魔法エンチャント 概論』の本は、入門として、防護プロテクションの魔法を紹介している。自分の周りに身を守る魔法のフィールドを展開する魔法らしい。

 魔法での防御といえば、俺は魔壁マジックウォールが使える。防護プロテクションは体中を魔壁マジックウォールで守る感じか?と思ってイメージして展開したのだが、デカい魔壁マジックウォールが出来ただけで、維持出来ずに消えてしまった。

 どうも発動と維持のバランスに工夫がいるようだ。

 それから二度、三度試行錯誤を繰り返していると、何となく防護プロテクトらしきものが、自分に付与エンチャント出来てしまった。

 無色の薄い防護膜が、自分の周りにあるのが判る。

 改めて俺の数値パラメータを確認したところ、防御力が+10%されていて、その横に数字のカウンターが着いていた。

 カウンターの数字は1199、1198、1197――と、一秒ごとに1ずつ減少している。

 ――ということは、二〇分保つということなのか。


 魔法書を見ながらそれを思案していると、グレイスが俺を呆然ぼうぜんと見ているのに気づいた。

「――どうした?」

 停止したグレイスを見ながら、俺は声を掛ける。

「どうしたもこうしたも――。

 まさかケイ、付与エンチャントがいきなり使えるようになったのですか?」

「まだ防護プロテクションだけだが」

 そういうと、グレイスは溜息ためいきをついた。

「――ケイはそれがどれだけ凄いことか、判ってないのですね。

 付与エンチャントは使いこなすのが難しいので、付与術士エンチャンター魔法使いソーサラーの中でも一〇〇人に一人程度しかいないんです。

 それが魔法書の立ち読みで使えるようになったら、さすがに驚きます」

 ありゃ、そうなのか。

 付与エンチャントが使えるようになったこと自体は、狡いことチートはしていないはずだが――。



 その後、三階層目、四階層目に至っても、俺の出番はやってこなかった。

 出てくる敵は、ゴブリンから、オーク、ホブゴブリンまで変化したが、グレイスに一撃でやられているのは変化がない。

 仕方なく俺は立ち読みを続け、四階層目を踏破とうはするころには、筋力増マイト走力強化スピード精神力強化コンセントレーションを使えるようになり、グレイスはすっかりあきれてしまった。

 ちなみに途中、あまりにも立ち読みに夢中になっていたため、直前に「注意するように」と言われた罠を踏み抜きそうになり、グレイスににらまれる一面もあった。ちょっと怖い。


 五階層目まで至ると、さすがに時間を考え、帰還リターンを使って地上に戻ることにした。


 結局、俺の初迷宮ダンジョンは、立ち読みだけで何もしてない。

「すみません、新人なのであなどられていたのかもしれません。

 随分優しい迷宮ダンジョンに案内されてしまったようです」

 グレイスが謝る。

 申し訳なさそうなグレイスを見て、俺は微笑みながら言った。

「いや、俺なりに楽しかったよ。

 敵は全部グレイスに押しつけてしまったが――。

 これだけ冒険者ギルドがにぎわっていたんだから、もう一つの迷宮ダンジョンの方が本命だろう。

 明日頑張ればいい」

 それを聞いて、グレイスがニコリと笑った。



 俺は宿に戻ると、自分の部屋で付与術エンチャントを試し続けていた。

 今日はグレイスがどの敵も一撃で倒していたが、集めた憑代よりしろを冒険者ギルドで精算したところ、それでも一二〇〇セルジュほどの収入があった。

 明日のダンジョンが本命だとすると、さらに収入は期待出来るかもしれないが、さすがに今日のような楽な進み方は出来ないに違いない。

 だが、付与エンチャントで二人の能力を高めることが出来れば、かなりプラスになるはずだ。


 そう考えた俺は、その夜、寝落ちするまで試行錯誤を続けるのだった。




 翌朝、目覚めた俺は、試行錯誤が自分自身の状態ステータスにどういう変化を与えたのか、確認してみた。


**********

【名前】

 安良川あらかわ けい

【年齢】

 21

【クラス】

 付与術士エンチャンター

【レベル】

 31(13)

【ステータス】

 H P:2688/2688

 S P:2413/2413

 筋 力:696(21)

 耐久力:521(14)

 精神力:1310(95)

 魔法力:977(43)(+12)

 敏捷性:450(74)

 器用さ:482(28)

 回避力:379(16)

 運 勢:22(02)

 攻撃力:744(+48)

 防御力:559(+38)

【属性】

 なし

【スキル】

 ステータス★(全対象)、鑑定★、無属性魔法2、回復魔法2、付与魔法3、生活魔法、精神統一4、魔力制御7、剣術1、体術3、棒術3、突術2、交渉術2、精神耐性7、睡眠耐性4、苦痛耐性3、病気耐性2、自動体力回復5、自動状態回復2、自動魔力回復4、収集3、編み物1、家事2、フロレンス語学

【称号】

 クランシーの使徒、異邦人、探求者、蛮族狩り、教会手伝い、魔法使いソーサラー、狩人、治癒術士、付与術士エンチャンター、社畜

【装備】

 ソードオブサンズ(攻撃力+48、魔法力+12)

 プレートローブ(防御力+38)

【状態】

 クランシーの制約LV98▼

**********


 ロドニーを倒したことで、レベルはかなり上がっている。

 多分、グレイスもそうだろう。


 しかし見事に一日で付与術士エンチャンターになってしまった。

 使えるようになったのは、筋力増マイト防護プロテクション走力強化スピード精神力強化コンセントレーション体力強化ブレスオブボディ魔力強化ブレスオブマジックだ。

 ちなみになぜこの六種類かというと、『付与魔術エンチャント 概論』にこの六つしか載ってなかったから、という情けない理由なのだが――。

 今日またグレイスがあきれるんだろうな。



 俺はグレイスと合流すると、昼食になるものを買い込んで、さっさともう一つの迷宮ダンジョンに向かうことにした。

 もう一つの迷宮ダンジョンは南西の森の中にある。


 歩いて行くと、明らかに昨日とは違う、冒険者らしき一団と何度もすれ違う。

 どの集団も四~六人で、それなりの装備をそろえているやつらばかりだ。


 ただ、俺も最初は気にしていなかったんだが、たまにすれ違う集団が、俺とグレイスをジロジロ見ていく。――中には笑っているやつまでいる。

 例のごとくグレイスが視線をさらっているのかとも思ったのだが、どうやら様子が違うようだ。

「グレイス、何故だと思う?」

「――わかりません。

 わたしたちにおかしなところはないと思うのですが」

 グレイスも判らないらしい。


 だが、その理由は街を出て一時間近く歩き、南西の迷宮ダンジョンに到達する直前で判ることになった。

 とあるすれ違ったパーティの冒険者が、俺とグレイスに声を掛けたからだ。

「お前ら迷宮ダンジョン前で待ち合わせか?」

「いや、そういう訳ではないが」

 俺がそう答えると、気の毒に、という顔をしながらその冒険者は言った。

「知らんのか? ここの迷宮ダンジョンは、今パーティ規制がかれていて、四人以上のパーティでないと、入れないぜ」

 それを聞いて、俺とグレイスは顔を見合わせてしまった。


 俺は冒険者に礼を言うと、さすがに項垂うなだれた。

「さすがに人数規制があるのは、予想していませんでした。

 どうしましょうか――?」

 グレイスがまた済まなそうに聞いてくる。

「どうするも、取りあえず残りの二人を見つけるしか――」

 俺がそう言いかけた時、迷宮ダンジョンの入り口から、女性のわめき声が聞こえてくる。

 どうやらギルドの職員に詰め寄っているらしい。


 俺とグレイスは迷宮ダンジョンの入り口近くまで近づいてみた。

 そこには詰め寄られるギルド職員と、詰め寄る黒ローブの女、それを仲裁しようとしている大柄の男性冒険者がいた。


 あれは――。

 間違いない、赤毛の女シルヴィアだ。




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