FE3 眠る乙女と不純な登山家(第四部 間話)
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俺の目の前には、一糸纏わぬ姿の美女が横たわっている。
その女性が優しく抱き締められる距離にいるのであれば、俺には何の不満もない。
だが、生憎その女性に手を伸ばすには――随分と距離があり過ぎた。
◇ ◇ ◇
レーネと初めて遇った日の夜、俺の姿は彼女の寝室にあった。
ただ、とても残念なことに、彼女と同じベッドに寝ているという訳ではない。
俺はベッドの側にあるソファを、寝床として与えられていた。
ちなみに、そのソファで横になると、ベッドで横たわるレーネの姿が視界に入る。
「ぬ――ぬおおぉぉぅぅ、のおおおぉぅ――」
「気味の悪い耳障りな声を上げるでない!
いい加減、早く寝ぬか!!」
――って、そんなことを言われても、この状況で簡単に寝られる訳がない!
何しろ俺の目の前には、素っ裸のレーネが横になっているのだ。
確かに魅惑の肢体は、シーツに包まれていてシルエットしか見えてはいない。
ところが彼女が動く度に、チラチラと見えてはいけないものがコンニチハしている――!!
「ぐぬぬ――」
俺はそれでも何とか、悶々とした気分を抱えながら、ソファでじっとしていた。
すると暫く時間が経過した後に、レーネの方から寝息のようなものが聞こえてくる。
直後、彼女が小さく寝返りを打って、二つの危険な物体がその形を自在に変えた。
間違いない――誰が何と言おうと、これは絶対誘われている!!
俺が意を決して立ち上がると、目標はまるで山のように、けしからん盛り上がり方をしているのが判った。
そして、それを目にした俺の脳裏には、思わず過去に耳にした話が浮かぶ。
昔、「何故山に登るのか」と問われた、著名な登山家はこう答えたらしい。
――そこには登るべき「山があるから」だと。
だとしたら、今の俺の行動にも十分理由がある。
――何故、山に手を伸ばすのか?
それは、そこに揉むべき山が二つあるからだと!!
俺は目標の二山を見定めると、ゆっくりとシーツの下から手を差し入れる。
夜には夜のお作法があるのだ。
シーツの上から鷲掴みに行くような、野暮なことはしない。
「――ん? 何だ?」
それは、柔らかい感触を期待していた俺の手に、何か固いようなものが当たった直後のことだった。
「!? んぎゃああああぁぁぁぁっ――!!」
俺は突然の衝撃に絶叫を上げて、ベッドの脇にバッタリと倒れ込む。
あらかじめ俺が忍び込むのを警戒していたのか、ベッドに雷撃の魔法が仕掛けられていたのだ!
その恐るべきダメージを受けて、俺の全身がピクピクと痙攣する。
あ、危ねぇ――。冗談抜きに、今のはホントに死に掛けた。
そう思った俺の頭上から、何とも冷たい言葉が降り注ぐ。
「――お主、死にたくなければ、不純な思考は捨てることじゃ」
こうして撃墜された不純な登山家は、残念ながら彼女の言葉に同意せざるを得なかったのだ――。
◇ ◇ ◇
俺の目の前には、一糸纏わぬ姿の美女が横たわっている。
その女性が優しく抱き締められる距離にいるのであれば、俺には何の不満もない。
だが、生憎その女性に手を伸ばすには――随分と危険があり過ぎた。無念。
そうして俺はその日以来、苦難に満ちた眠れぬ夜を過ごすことになった――。






