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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
Fragmentary Episode III 『ショートストーリーズ』

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FE3 悪戯少女と純朴少年 (第二部~第三部 間話)

※第二部~第三部の間のショートストーリーです。

 ただし、第二部よりも少し前のお話です。



 退屈な日々に終止符を打ちたいと思っていた。


 正直、ギルドが営む魔法書店の店番には飽き飽きしている。

 何しろ丸一日店にいても、お客が来ない日すらあるのだ。

 元々自分は物事を待ち受けるタイプではない。

 目の前に見えるものがあれば、そこに向けて一目散に駆け出したい性分だった。


 だから自分は冒険者ギルドに来た。

 魔法ギルド員の自分が別のギルドに出入りするのは、厳密に言えばマナー違反かもしれない。

 でも、一度思い立ったらじっとしていられないのだ。


 一応フードを深く被り、顔は判らないようにしていた。

 それでもチラチラ自分を見る人はいる。

 仕方がない。自分の見た目はどうしても人目を惹く。


「あれは――?」


 自分はこの港町に来て、それほど長く暮らしている訳でもなかった。

 だから必要以上に見知った人はいない。


 その自分の目の前に、確かに見覚えのある顔があった。

 いや、それは正確な表現ではない。

 正しくは自分の記憶の中にある人物を、彷彿とさせる顔があったのだ。


 一瞬声を掛けようかと考えた時、その人物を取り囲むように数人の冒険者がいるのに気づいた。

 普段の自分なら遠慮などしないだろう。

 でも、その取り巻きの雰囲気を伺い見て、敢えて声を掛けずに彼らを見守ることにした。


「――クライブ、パーティを抜けたいって言うのか?」


 取り巻きの一人が(なじ)るように言った。

 自分が声を掛けようとした人物は、詰め寄られている方の男性だ。

 大柄で短髪――。

 一見怖そうにも見えるが顔には愛嬌があり、その(じつ)心優しい。

 ――もちろん、自分の記憶通りであれば、だが。


「自分勝手な言い分で申し訳ないけど、そうさせて貰いたいんだ」


 クライブは大きな身体を小さく丸めるように、恐縮して言った。

 明らかに何かの理由がありそうな口ぶりだ。

 自分の記憶の中のクライブも、理由なく勝手な行動をとるような人物ではない。


「――判ったよ。でもクライブ、俺はお前がした失敗を絶対に忘れないからな」


 そう声を掛けられたクライブは、大きな身体をピクリと反応させてから口を開く。


「ああ、本当に済まない――」


 実にアッサリしているものだと思った。

 そこから先はあまり会話を交わすこともなく、クライブと取り巻きたちは別れて行く。


 いたたまれないのか、クライブはそそくさと冒険者ギルドを出て行った。


「――ようやく出て行ったか」


「自分の居場所がないって空気は、もうちょっと早めに気づいて欲しかったわね」


 虫唾(むしず)が走るというのは、こういうことだろうと思った。

 ギルドの中でなければ、残った取り巻きたちを魔法で丸焼きにしてしまうところだ。

 それをグッと我慢して、ギルドを離れることにした。



 翌日、再び冒険者ギルドに顔を出した。

 ある種の確信があったからだ。


 想像した通り、パーティ募集の掲示板の前には見知った大きな影がある。

 様子を伺うと、クライブは脇目も振らずに貼り紙を見て回っているようだった。


 冒険者を辞めようというのではない。

 あの取り巻きと合わなかっただけなのだ。


 ――と、あまりに熱中しすぎてクライブが他の冒険者とぶつかった。

 彼は大きな身体を丸めて、大慌てでぶつかった相手に平謝りしている。


 それを見て思わず、フフフ――と小さな笑みが零れた。



 刺激的な迷宮探索には、共に闘う仲間が必要だった。

 魔法使い(ソーサラー)にはその身を護ってくれる仲間が必要だった。

 退屈じゃないこれからの生活には――やっぱり、仲間が必要だった。



 思い立った瞬間、フードを取って声を張り上げる。


「ちょっと、そこのあんた!」


「えっ? オレ――?」


 意外そうな表情で振り返ったクライブは、ほんの一瞬だけ考える素振りを見せて、言葉を絞り出した。


「ま、まさか――シ、シルヴィア!?」


 まるで悪戯っ子の少女に見つかった、純朴な少年のようだ。

 その言葉を聞いて、ニヤリと表情が緩む。


「あら、あたしのこと覚えてたのね。

 ――あんた、ここにいるってことは、冒険に出たいんでしょ?

 いいわ、クライブ。あたしがあんたを冒険に連れて行ってあげる」


「えっ!? ちょっ、ちょっと、シルヴィア!?」


 強引かもしれない。

 でも子供の頃もそうだった。クライブが変わっていないように、自分もあの頃と変わっていないのだ。


「四の五の言わないの。

 あたしについておいで。きっと、楽しい冒険になるから!」


 呆気にとられる彼の表情を見ながら――。



 あたしは自信満々に、幼なじみ・・・・のクライブに、そう言った。




(悪戯少女と純朴少年~シルヴィア 了)


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