FE3 西への旅路 (第一部~第二部 間話)
※第一部~第二部の間のショートストーリーです。
殺さなければならないと思った。
理由は、わたしの直感がそう告げていたから――。
自信を持って放った初撃を躱され、不思議な魔法で追撃を防がれた。
だが、単に手強いから、目の前の人物を「殺さなければならない」と思った訳ではない。
その人物の受け答え、物腰、そして頭のキレ――。
それらすべてがわたし自身の心に、強く警告を発していたのだ。
なぜなら目の前の人物にこれまでわたしが出会った人間とは明らかに違う、危ういまでの存在感を感じたから。
なぜなら目の前の人物は何か得体のしれない力のようなもので、わたしの運命に関与しそうに思えたから――。
なのに、わたしは自身の警戒心と同じぐらい強く、その人物に惹き寄せられてしまった。
それはよくある男女の感傷的な想いとは違う。
強いて言えばこの人が、これから何をしでかすのかを近くで見てみたいという、好奇心のようなものだったのだ。
わたしは故郷であるフェリムの集落を出て以来、様々な場所で出会ったあらゆる人に対して、強い警戒心を抱いている。
なのに、最も危険で警戒しなければならないと感じた人物に、わたしは強く強く吸い寄せられてしまっていた。
その彼とわたしは、僅かな共通点を切っ掛けに、共に闘い、共に傷つき、共に追い詰められ――そして、共に危機を脱した。
これまで男性を近づけようとしなかった自分が、なぜあれほど簡単に身を委ねてしまったのか――それは、今思い返しても明確な理由を探し出すことが出来ない。
――闘うためには、ああするしかなかったのだ。
そう心の中で結論付けながらも、思い返せば今でも触れられた肌が熱を持つように感じられてしまう。
どうしても湧き上がって来る恥ずかしさのようなものが、思わず頬を赤く染めてしまうのだ。
わたしは少し赤らんでしまった顔を隠すように、気持ち顔を俯ける。
すると目敏いことにそれに気づいた彼が、わたしに声を掛けた。
「――ん? 何だ、グレイス。
どうかしたのか?」
わたしを気遣ってくれる言葉に対して、出来るだけ自然に振る舞う。
ふと見れば隣を歩く彼の視線が、少し下がっているのが判った。
何となくその視線が、わたしの胸元をチラチラ見ているようにも思う。
ところが驚いたことにわたしは、その視線にあまり不快感を抱くことがなかった。
ただ、これが何度も続くようなら、ちょっと後で冷たい視線を投げ掛けることにしよう。
肌に触れられたとはいえ、彼に軽い女だと――思われたくなかったのだ。
「いいえ、何でもありません。
もうすぐ港町アシュベルが見えてくるはずです。
先を急ぎましょう――ケイ」
そうわたしが言葉を返して彼の名を呼ぶと、和やかな微笑みの表情が戻って来る。
これからきっと、長い旅になる――。
わたしはどこか懐かしさに似た匂いを感じる彼の横顔を見ながら、そんな希望にも似た“予感”を抱き続けるのだった。
(西への旅路~グレイス 了)






