宣言
「…………落ち着いたかしら?」
「………はい、もう大丈夫です」
あの後俺は、一分ぐらい布団の上で身悶えていた。
その間、この人はずっと微笑んで俺のことを見ていた。
絶対どSだこの人。たしかに二次創作ではどSキャラだったけど。
リアルでもそうだったなんて!
「さて、傷の様子を見に来たんだけど、その様子なら心配なさそうね」
永琳さんは、何事もなかったように話し始めた……………くそう。
「ええ、まあおかげさまで。痛みももうほとんどありません」
「そう良かったわ…………そういえばまだ自己紹介してなかったわね。私は八意永琳。好きに呼んで頂戴」
「わかりました、永琳さん。俺は木城 九条です。皆は九条って呼んでます」
「そう、九条ね。よろしく頼むわ」
俺は永琳さんのことを知ってはいるが、挨拶は一種の形式みたいなもんだから断る理由もないだろう。
と、俺と永琳さんが話しているとうどんげが戻ってきた。
「あ、師匠。ここにいたんですね」
「あら、うどんげ。彼の服でも持ってきたのから?」
「はい、そうです。九条の服はぼろぼろで着れる物ではなかったので」
そう言うとうどんげは新しいほうの服を俺に渡してくれた。
ううむ。ここのお屋敷が古き良き日本家屋だからか、渡された服も和服だった。
和服はばあちゃん家にいたとき良く着てたし、俺も和服が好きなのでちょっとうれしい。
………だとしても、うどんげのブレザーって完璧現代技術の生地なんだけど。
それに、永琳さんのも明らかに俺が今着ている服とは違った素材でできてるし。
まあ、うん。気にしたら駄目な気がするから考えないでおこう。
「…………ところで、九条。あなたはこの先どうするつもりなの?」
「どうするって、何がです?」
「ここは幻想卿よ。ただの人間には生きずらいと思うし、ここに来たばかりの今のあなたなら、元の世界に帰ることもできるわよ?」
永琳さんの問いかけに俺は思わず黙ってしまった。
…………俺はどうしたいんだ?
「……………………俺は」
「…………」
うどんげは黙って俺の答えを待っている。
………………………………
……………………………………俺は、逃げてきたんだ。
俺が、俺のせいで…………………皆を巻き込んでしまった。
学校のクラスメイト。悪友たち。顔を覚えていない両親。優しかったばあちゃん。
そして、大切な妹。蛍。
俺は俺の大切な人たちの顔を思い出していた。
「……………俺にはもう元の世界に居場所なんてありませんから」
うどんげはなんて声をかけていいのかわからず、ただその場に立っていることしかできなかった。
「………………人にはね。それぞれ大なり小なり言いたくない過去があるのよ」
「え?」
永琳さんは俺の肩に手を置いて語りかけてきた。
「体の傷は治っても心の傷はそう簡単に治るものではないわ」
「もしあなたがどんな過去を持っていたとしても、すべてを受け入れてくれる……ここはそういう場所だから」
永琳さんはまるで俺のすべてを分かっているような暖かい笑みを浮かべていた。
ああ、そうか。幻想郷は、こんな俺でも受け入れてくれるんだ。
「……………なら師匠。彼をここにおいてあげてはどうでしょう?」
「え?いいの?」
俺はうどんげの思ってもいない申し出に思わず驚いてしまった。
「そうね………それがいいかもしれないわね。だいぶよくなったけど、まだ傷は完全に直ってはいないのよ?さすがに病人に出て行けなんて言えないわ。それに今から住むところを見つけるとなると、かなり大変よ?」
「それは、ありがたいんですけど…………」
正直この体で寝床を探すのは大変だったし、願ってもいない話だった。
「それに、いまさら一人増えたって姫様は文句は言わないでしょう」
永琳さんが姫様って言うんだから………輝夜のことかな?
まあ、今でも十分あっちこっちにウサギたちがいるし、そんなに変わらないのか?
そこまで言ってくれるのであれば、好意に甘えることにしよう。
じゃあ、ここでしばらくお世話になるしことだし………
「じゃあ、改めてこれからよろしくうどんげ。永琳さん!」
「よろしく、九条」
「よろしく頼むわ。九条」
俺が差し出した手にうどんげ、永琳さんの順で手を握り返してきた。
これから俺はここで暮らしていくのか。
現代っ子にはここでの暮らしは大変そうだけど、まあどうにかなるでしょ!!
…………………………………いやでも、よく考えろよ俺。
俺はこれから美女、美少女が集まるこの家で暮らすんだよな?
そうなれば当然あんなイベントやこんなイベントがあるわけで
…………あ、やべ。笑いが止まらない。
「ふふふ。ふっふっふっふ」
「こ、今度はどうしたの?」
「あら?ついに壊れてしまったのかしら?」
俺のおかしな様子にうどんげは困惑気味な表情を浮かべる。
その横で永琳さんが大変失礼なことを言っている気がするが無視だ。
今の俺はそんなことかまっていられないほど、テンションが高揚しているのだ。
ふっふっふ。これは永遠亭の皆が俺にメロメロになってしまうハーレムルートか!
皆俺にメロメロになってエロエロになっちゃうのか!!
いや待てよ?ここは幻想郷だぜ?ここにはウサ耳少女のほかに、巫女、妖怪、鬼、神様がいて、しかも、全員美女美少女ときている!!
これはもう男ならテンション上がるのは仕方ないでしょ!!
「っふ…………決めたぜ」
「今度はなによ………」
もうすでにかなり疲れているうどんげだが、俺はそんなのにおかまいなく大きな声で宣言した!!
「俺はここ幻想郷で!!俺のハーレムをつくるんだ!!」
そのあと、また弾幕がとんできたのは言うまでもない。
病人なんだから安静にっていったじゃないかーーー!!
余談だが、うどんげと永琳さんはこのときにすでに、だめだこいつって思っていたらしい…………俺のどこがだめなんだ!?