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東方天流晶  作者: クリネン
永遠と月の館
11/14

日常

………俺は今かつてないほど集中している。



目の前には輝夜とてゐ。二人ともまるで戦争でもしているかのような真剣な表情だ。


いや、これは戦争なのだ。一瞬の油断が命取りになる。

お互いがお互いの動きに敏感に反応して、うかつに動くこともできない。

この膠着状態はたかが数分の話である。

だがそれはまるで、何日もの時間が流れたようなそんな濃密さを含んでいる。



一瞬輝夜の視線がてゐのほうを向いた。

てゐもその視線を受けて意識がこちらを向いていない。

俺はその一瞬の隙を見逃さなかった。


(今だ!)


俺は即座に飛び出し、二人が動く前に目標物めがけて手を伸ばし………




「とったぁーーーーーーー!!」

 

「「ああっ!」」


俺は掴み取ったのだ。勝利と勝者の特権を!


ついにやったのだ。俺はかつてないほどの胸の高揚を感じている。

高く掲げるその右手にはにあるもの。それは!!







おはぎである。


「いやーよかったよかった。何とか最後の一個は死守した~」


てゐと輝夜の二人は悔しそうな顔を覗かせている。


このおはぎは人里で老舗人気菓子店の一番人気であり、いつも開店三十分で売り切れるものである。

しかし、なんでも主人の母親が病床に伏してしまい永琳さんが診察に行ったのだ。

その時ぜひにと貰ったそうなので、皆で食べることにしたんだけど。



「うー九条ー大人気ないわよ。ここは女子に譲るべきなんじゃないかしら?」

 

「そうだ、そうだーー!だからお兄さんはモテないんだーーー!」

 

「だまらっしゃい!普段だったら譲ってやるところだが、お前ら俺の分まで食っちまったじゃないか!」 


そうなのだ。こいつら俺の皿に置かれたおはぎを横から掻っ攫っていったのだ。


幸いにももらった袋には6個入っていたので余裕があったので、俺は諦めてそれを取ろうとした。

だが二人は残りの分も食べようと、俺の邪魔してきた。

そして今の膠着状態に陥るというわけだ。



「だって、あなたの顔に誰か食べてもいいよ?って書いてあったんですもの」

 

「書いてへんわ!むしろ甘いもの大好きだわ!スイーツ系男子だわ!」

 

「スイーツ(笑)系男子がなに言ってるのよ」

 

「なんだその(笑)!意味分かってんのか!?」

 

「しょうがないね。だって……お兄さんはお兄さんだもん」

 

「うわーい。てゐちゃん容赦ねー」

 

「そうね。閻魔に裁かれたら間違いなく地獄行きでしょうね」 

 

「リアルに怖いからやめてもらえません!」


 

幻想卿にはリアル閻魔様の四季・映姫様がいるんだからな。………洒落にならねー


「全くあなた達。少しはゆっくり食べることはできないのかしら?特に九条」

 

「俺が悪いんですか!?永琳さん!」

 

「あなたはいるだけで周りに迷惑かけてしまうもの」

 

「俺の存在はそんな迷惑をかけているんですか!?」

 

「自覚なかったの?」

 

「九条君のヒットポイントはもうゼロよ!」


「なにわけのわからないことを言っているのよ」

 

永琳さんとそんな楽しげ(?)を話している間に、どうやら皆食べ終わったようだった。

永琳さん、輝夜、てゐの三人はそれぞれ用事があるらしく、思い思いの場所に行く。


あ、輝夜がべーって舌だして馬鹿にしてきやがった。俺もお返しに舌を出す。



「あなた……ほんと馴染んでるわよね。ここに」

 

「ここは居心地がいいからね。自然体でいられるからかな?」

 

「そう。それは良かったわ」

 

「空気もおいしいし、料理もおいしい。言うことなしだよ。ところでうどんげ」

 

「ん?なにかしら?」

 

「結婚式の日取りはいつにしようか?」

 

「な、な、なに言ってるのよ!!この馬鹿!!」


「個人的にうどんげにはすごくウエディングドレスが似合うと思うんだ」

 

「だから!からかうのはやめなさいっていつもいってるでしょ!」

 

「本気なんだよ?」

 

「なおたち悪いわよ!輝夜にも師匠にもてゐにも同じこと言ってるじゃない!」

 

「本気なんだよ」

 

「何事にも本気出せばいいって問題でもないのよ!あとそのドヤ顔やめなさい!」


「えーー。じゃあ結婚はいいから、付き合おうよー」

 

「残念でした。私は食べていいものと悪いものの区別ぐらい付くのよ」

 

「失敬な!毒はあってもとってもおいしいんだよ!」

 

「……食べられないことは否定しないのね」

 

「自分のことは自分が一番よく分かっているからね!」

 

「なんでそんなに自信満々なのかしら……」 

 

「なんとなく!」


うどんげはとってもおつかれの様子だった。

いつものことなので気にしませんがね。


でもまあ、なんだかんだいって皆とは仲良くできていると思う。

最初はどうなるか不安だったけど、今は割と落ち着いて過ごせている。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうというが俺がここに来てからはや三週間。なんか、本当にあっという間だったなー。


俺は幻想郷であった出来事を思い出す。



鈴仙をからかって、弾幕を受けたり。

永琳さんの実験台になったり。

てゐにこき使われたり。

輝夜のわがままに付き合ったり。



………あれ?おかしいな。こんなはずじゃなかったのに。


とまーこれが俺の幻想郷での生活。

あっちにいるときは考えたことのなかった生活。大変で困ることも多いけど、それ以上に毎日が楽しい。


この空気を作り出しているのが幻想郷という場所なのだろう。

いつの間にか、俺はこの場所をすごく好きになっていたらしい。



「?どうしたの九条。そんな真面目な顔して。熱でもあるの?」

 

「やだなーうどんげ。俺はどんなときもすごく真面目じゃないですかー」

 

「どうだか。それじゃあ、私は晩御飯の支度するからもう行くわね」 


そう言ってうどんげは居間から出て行った。

一人になってしまった俺はしかたないので、ウサミーのところに遊びに行くのだった。







そして夜。


いつも通りのメンバーでご飯を食べている……のだが、今日はちょっといつもと違った。

今日はいつものうどんげの手料理(美少女の作る料理は五十七倍はおいしくなると思う)を食べているんだけど、そのほかにも見慣れない瓶が机の上に載っている。

まだ空けてはないないので、匂いなどは分からないがおそらく………


「輝夜。その瓶は何だ?」

 

「ああこれ?ふふーん」


輝夜は待っていましたといわんばかりに、永琳さんに比べると残念な胸を張る。

あ。そんなに睨まないでくださいよ輝夜さん。オレナニモオモッテマセンヨー


「………これはね?とっても貴重なお酒なのよ。世に出れば数十万は硬いわね」

 

「え?数十万?」


え!マジで!数十万あればうまい棒が何本買えるんだ!?

それに俺のほしかったゲームソフト(どんなゲームかは聞かないで)が全部買えるじゃん!

なんか考え方がすごく極端な気もするが、それにしても数十万かー夢が広がるなー


「それにしてもなんでそんなお酒を輝夜が持ってるんだ?」

 

「これは当時の帝のお酒だもの」

 

「え??」


「昔はいろんな男に求婚されてほんと困ったわ。その一人に当時の帝がいたの」

 

「いやそれは知ってるが……」


なんせ日本で一番有名な物語だ。日本人ならほとんどが知っているだろう。

てことはこのお酒は千年近く前のものになるのか。………賞味期限大丈夫?


「………なんかへんなことを考えているようだけど、私の能力でしっかり保存しているから大丈夫よ」

 

「永遠と須臾を操る程度の能力だっけ?便利だなー」

 

「まあ、そのときの帝にいろんなもの貰ってね。これもその一つなのよ」

 

「はー。すごいなそりゃー」

 

「ふふーん。もっとほめなさい、九条」

 

「はいはい、すごいすごい。……でも、なんでそんなもの持ってきたんだ?」

 

「今日の昼になにか暇つぶしになるものはないかとふすまの中を探していたら、偶然これを見つけたのよ」  

 

「おい待て。完全にその酒のこと忘れてただろ」

 

「せっかくだから皆で飲もうと思ってね」

 

「おい、俺のツッコミ無視すんなよ」

 

「いいじゃな、細かいことわ。こんなおいしいお酒がのめるんだから」

 

「俺は高校生です。高校生は飲んじゃいけないんです」

 

「鈴仙、器持ってきて。4人分ね」

 

「人の話を聞いてくれませんか!?」


うどんげは器をとりに台所むかっていった。

そしてしばらくすると、四人分の器を持って戻ってくる。

そして輝夜はその器を無理やり俺に持たせ、なみなみとお酒をついでいく。


「いや、だから!俺はまだ高校生なんだってば」

 

「あら?あなたぐらいの年の男たちは皆飲んでたわよ」

 

「それ、平安の話だろ!俺はバリバリの平成っ子なんだよ!」

 

「うるさいわねー。お酒は紳士のたしなみよ。その一杯ぐらい飲みなさい」

 

そういうと輝夜は、自分の分の器にお酒を注ぎ、飲むはじめてしまった。

うー。たぶんこれは、この一杯を飲まないと許してもらえない感じだ。


うどんげは立場的に止めてくれないし、てゐと永琳さんはそもそも輝夜を止める気がないだろうし。



しかたない。こうなったらこのお酒を飲んで見せる!

この程度飲めなくてなにが男だ!やってやらーー!


俺はそう決心し、立ち上がる。

場の視線が全て俺に集まる。俺がいきなり立ち上がったことに、何が始まるのかと興味と心配の視線が半々だった。







「男は度胸だ!……いきます!」


俺はそう叫んで、一気に器をあおる。

そのとき俺は、ある一つのこと考えていた。



…………あれ?お酒ってこうやって飲むものだったっけ?。



「…………キュー」

 

「く、九条ーーー!」


うどんげが倒れゆく俺の体を支えてくれる。

その顔はとても心配そうな表情を浮かべていた。


一方で輝夜とてゐは爆笑して、床を転げまわっている。笑いすぎだぞ、おい。

永琳さんは呆れた表情で救急箱を取りにいっている。



…………何してるんだろうな。俺。

そんなことを考えながら、俺は意識を手放すのだった。





次の日。俺はものすごい二日酔いに襲われた。

慣れていないお酒と、一気飲みをしたせいだと永琳さんに診断された。

初めてのお酒はとても散々なものになりました。



うどんげの説教と合わせて、最悪な一日だったな。……ああ、気持ち悪い。

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