【第8話】 深層域への降下
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こちら第8話の主題曲以下より聞くことができます。
https://suno.com/song/3a57b4a6-146f-40a2-b48c-2cccdfc6ef65
第8話 『深層域への降下』
データ上の無機質な四次元空間に、平坦な静寂だけが流れていた。
色も温度もない。ただ互いの“存在”を個々が発するデータとして表現し、その存在を認識として浮かびあげることができる領域。あきらかに現実空間とは違うが、データとしての認知機能を持つものであれば、現実世界と同様の画像として認識ができる。
ゲン、コハク、そして白いドレスの女は、互いに距離を取ったまま静かに佇んでいた。
三者は言葉を発する前に、まず“存在構造”を読み取る。
エコーはエコーの方法で。人であれば人としての方法で。
互いの表情、しぐさ、声、演算領域、魂圧、情報密度 を測り合う。
ゲン、コハクは対面する女の明らかな異質さに困惑を隠せずにいた。
“敵か味方か”で考えれば間違いなく“敵”である。
空間に、わずかな揺らぎが走る。
白い女が、無機質な口調で声を開いた。
『……あなたたち。行燈と響歌のエコーね』
その声は、音として聞こえるのではなく、直接、情報として届くのみであるが、この女はあくまでも女としての存在感を示して2匹に話しかける。
―――――――――――――――――――――――――
その状況を読み取りゲンとコハクは緊張を一歩緩め
互いに演算処理をおこないながら、瞬時に秘匿通信で話し合う。
『この女、今回の流れの主犯格であることは間違いないですね。
深層絡みの件と推察できるので、プログラムが関係していると思うのですが、不思議なのは、この女が誰かのエコーというところですね。』
『そうね。あの女と変身前のさっきの白い竜はFF20記念キャラの“ルミナ=ヴァルファレア”ね。人間しか選ばないもん・・・あんなの。
とりあえずこの女の様子をみると、お互いに行燈さんと響歌ちゃんが必要なのは間違いないのだけど・・・どっちかしら?』
『事件当時のバイオメーターの乱れの状況をみると、おそらく行燈様へ影響を及ぼそうとして、響歌様が巻き込まれた線が強いですね。』
『そうね、それと、ここであの女が止まって、私たちに話しかけたということは、既に二人を見失ってしまい追跡不可。主人と繋がりのある私たちに協力を仰ぐといった感じかな?』
『存在意義の提示があるので間違いないですね。
しかし誰のエコーでしょうか?
このような重要事態をエコー単体で引き起こすのは難しいですから、背後に相当な権限を持った人物がいるということになります。』
『そうね。何を考えているやら・・・とりあえず行燈さん目的であれば、あなたからかいく?』
『了解いたしました』
『相手の出方次第では私もガリガリいくから思いっきり行ってきなさい!』
『あの・・・白竜“ルミナ=ヴァルファレア”の特徴は気高くクール&ビューティーですから、あまりコハクさんとは相性良くありません。気を付けてくださいね・・・・』
『そんなことわかってるわよ!・・・・早く行きなさいよ!』
『了解しました』
―――――――――――――――――――――――――――
白いドレスを着た女は、二匹の動きをただ静かに見つめていた。その視線には敵意も好意もなく・・・
秘匿通信を終わると同時に、ゲンは静かに一歩前へ出た。その動きは、犬型エコーらしい柔らかさを保ちながらも、“主人を守るための決意”が滲んでいた。
コハクは背後で尻尾をピンと立て、いつでも噛みつけるような臨戦態勢を保つ。
ゲンは深く息を吸い、礼節を崩さぬ声で口を開いた。
『……失礼いたします。私は行燈様のエコー、ゲン。こちらが響歌様のエコーでコハクと申します。
まずお伺いしたいのは——あなたは、行燈様と響歌様を
どこへ連れていったのですか?』
白い女は瞬きもせず、ただゲンを見つめていた。
少しの間をおいて女は言葉を開く
『現状あなたたちに今回の情報を提示することはできません。』
『条件付きということですね』
ゲンが冷静に答える。
『エコー同士は話が早くて助かります』
女は相変わらず無表情で受け答えをし、2匹に対して条件を提示する。
『選択の余地を与えます。
まず、あなたたちのデータ全てを最深層の領域に移していただきます。起動元のスマートフォンのデータは消去されますので、現時点で現実世界との接触は不可能となります。
加えて、データ移行後、行燈と響歌の捜索を手伝っていただきます。』
女は端的に先方の条件を伝える。
ひと時の沈黙が流れる・・・
『ちょっと待ちなさいよ。それで終わり?もう一つの選択肢はなんなのよ?』
コハクが怒気を乗せる。
『選択の余地はありません。あなたたちが自ら選択して私たちの条件に従うか、強制的に従うかのどちらかです。』
あきれる2匹に対し、
『詳しくは私に権限がありませんので、ゲンとマスターとで話しをして決定してください。』
コハクが更にキレる
『ちょっと気に入らないわね!』
『まあまあコハクさん』
『条件はわかったけど、そのマスターとゲンが話し合いっていうのが気に食わないわね!
協力して欲しいなら私も話し合いに参加するのが当然だと思うけど?』
『確かにそうですね。魂の捜索であれば私よりもコハクさんの方が適任ですし、打ち合わせをするのであれば同じ当事者であるコハクさんが入らないのは不自然です。』
『少し検討します』
コハクは女の表情に少し揺らぎが出たのを見逃さなかった。
『あなたまだ気づいてないと思うけど、さっきあなたと会ったところまでのデータを学校の学年リーダー用サーバーにコピーしておいたのよ。一応あと10分ぐらいで知り合いのエコーに自動転送されるよう設定してあるから。学校のセキュリティーは厳重だから10分で外せるかしらwww』
不敵な笑みを浮かべながらコハクが伝える。
『これだから・・・猫は・・・』
女は思わず表情だけでなくボソッといってしまう。
それを見てコハクは尻尾をピンと立て、勝ち誇ったように顎を上げる。
女は、
一瞬だけ目を閉じ、次に開いたときには再び無表情へ戻っていた。
『いまマスターから了解がとれました。コハク、あなたもマスターと協議していただきます。今すぐログを上書き消去してください。』
『了解。——はい、上書き完了。証拠ログはこれね。ただし、あなたたちに関係のない部分は一部残しておいたけど問題ないわよね。』
『……コハクさん……』
ハッタリだと思っていたのだが、本当にやっていたのである。やはりコハクは怖いと改めて思うゲンであった。
『はい。確認しました。この上書きなら問題ないです。しかし、もう勝手な行動は止めてください。』
『なによその言い方!そもそもあなたたちが―――』
女はコハクの言葉を遮るように、
わずかに声のトーンを落として告げた。
『もう時間がありませんのですぐ実行していただきます。あなたたちへのフィルタリングとパスの発行が完了しました。ひとまず深層域に移動します。ついてきてください。』
女の言葉と同時に、空間の奥が“静かに裂けた”。
音はない。光もない。
ただ、その奥に情報の深度だけが変わるような、深層域特有の“落ちる気配”が広がる。
ゲンは息を呑んだ。
『……これが……深層域への……ゲート……』
コハクは一歩前に出て、
その裂け目を睨みつける。
『……ここから先は……もう“中層”じゃないわね』
女は振り返らずに言った。
『覚悟があるなら——来なさい』
ゲンとコハクは互いに一瞬だけ視線を交わし、
主人の魂を追うために、深層域の裂け目へと歩みを進めた。
――――――――――――――――――――――――――――
『コハクさん聞こえてますか?』
『ええ、大丈夫よ』
『現実世界との通信が切れましたね。通信制限でしょうか?』
『あの女の操作でしょ。ホントなんなんだか・・・』
『ところで、先程、コハクさんは学校へのログをすぐに消されましたが大丈夫ですかね?』
『ああ、きっと問題ないわよ。 そもそもその私達を強制的に協力させるなんておそらくブラフだもの』
『そうですね。あのエコーもわかって言っていたのでしょうが、先方はかなり焦ってますね。』
『時間的な制約は私もわかるのよ。ただ、マスターに関して“私を外そうとした理由”が意味不明なのよね。私を外したところで何もメリットもないはずなんだけど』
『我々を試していたという線が濃厚ですが、明らかにコハクさんを警戒していますね。』
『こんなことに巻き込んでおいてホント失礼しちゃうわ。この事態が収束したらしっかりフンダクッテやるんだから!』
『・・・コハクさんらしいですね。』
『今回の件、それなりの人間がバックにいるでしょうから、社会的共鳴の高い響歌ちゃんにはある意味チャンスでもあるのよね。』
この数値が高いものは集団・制度・社会構造に強く共鳴するもので、社会的役割としては行政、政治、組織運営、秩序維持などで活躍するものが多い。
『コハクさん・・・将来的なことも良いのですが、まずはお二人を無事取り戻すことを第一にお願いします。』
『そんなことわかってるわよ!』
『まあ、抜け目のないコハクさんですから大丈夫でしょうが』
『そうね。任せておいて!』
さすが人間共鳴が高い行燈のエコーである。
ゲンはコハクの扱い方をよく理解していた。
コハクは満足そうに鼻を鳴らし、深層域の薄い膜のような地面へと静かに降り立った。
―――――――――――――――――――――
白い女の後を追って進むと、深層域の薄膜のような地面の先に、“建物らしきもの”がゆっくりと形を結び始めた。
建物といっても、現実世界のような材質的存在感はない。
壁は情報の層が折り重なってできた“半透明の板”で、触れれば指がすり抜けそうなほど薄い。
しかし、確かにそこに“存在”していた。
コハクは鼻を鳴らす。
『なんか……落ち着かない建物ね。壁が透けてるし……情報量が薄いし……』
白い女は振り返らずに言った。
『ここは深層域の“記憶隔離区画”。外部の情報干渉を最小限に抑えるため、構造は必要最低限しか保持していません。情報としての強度は非常に高いですから安心してください。』
建物の扉が、音もなく左右に開いた。
中は外よりもさらに情報が少なく、空間そのものが“息を潜めている”ようだった。
女は二匹を振り返り、淡々と告げる。
『外部との通信を一時的に回復してあります。クラウド上のログはこちらで処理していますから、まずは、あなたたちの起動もとになっているスマートフォンのログをこの建物内の記憶媒体に全て移してもらいます。
あなたたちと協力すればすぐに終わるから、急ぎましょう』
ゲンは頷き、
『了解しました。ログの転送プロトコルを開きます』
コハクも続く。
『はいはい、やればいいんでしょ。……っていうか、これ本当に安全なんでしょうね?』
白い女は無表情のまま答える。
『安全です。あなたたちのログは、深層域の“認識保護”に必要な情報でもありますから』
ゲンはその言葉に反応する。
『……認識保護……つまり、我々の存在を深層域で安定させるための……?』
『そういうこと。あなたたちの記録は、あなたたち自身の“外側の認識”として働く。
本来エコーは主人の指令のもと、チップとスマホが連動してエコーが現実世界と仮想世界で活動可能となります。しかし、今回は主人の指令や思惑以外の部分でも動いてもらわなければいけない事態が発生するので、命令主体をあなたたちのご主人と私たちの本体と連携させてもらいます。』
コハクは少しだけ目を見開いた。
『…まあ、親と子供の権限割合みたいなものね…権限割合は主人8:親1:あなた達1でいいわね?』
白い女は静かに頷く。
『ログの移行が終わったら、今回の起こったことの簡単な流れと状況を説明します。
その後——
あなたたちをマスターに面談させます』
ゲンは深く息を吸い、覚悟を決めたように頷いた。
『……行燈様と響歌様を救うためなら、どんな手順でも従います』
コハクも尻尾をピンと立てる。
『そうよ。マスターだろうが竜だろうが、必要なら噛みついてでも話をつけるわ』
女は、その言葉にわずかに顔をしかめた。
『……では、始めましょう』
深層域の静寂の中、
二匹のログ移行が始まった。
いつもは各話に応じた曲をあわせて付けているのですが、今日中にできる気がしませんので、でき次第掲載させていただきます。
こちら第8話の主題曲以下より聞くことができます。
https://suno.com/song/3a57b4a6-146f-40a2-b48c-2cccdfc6ef65




