【第7話】緊急警報303
第7話となります。
時間に余裕ができてきたのでどんどんいきます。
第7話の曲は下記で聞くことができます。
https://suno.com/s/4Pm0XWK0ge95WhWO
※いつも通り読み終わってから聞いた方が良いと思います。
第7話 緊急警報303
廊下の奥で、
バタバタと複数の足音が重なり始めた。
「医療班通ります! 道を開けてください!」
鋭い声が響き、受講者たちが左右に割れる。
白と紺のユニフォームを着たスタッフが、小型の生体同期モニターと救急用のケースを抱えて駆け抜けていく。
その後ろから、黒い腕章をつけた“センター警備課”の職員が数名続いた。普段はほとんど姿を見せない部署だ。その存在が、この事態の異常さを物語っていた。
「コード303って……何のコード?」
『意識の剥離・沈降・二重化、深層プロトコルへの不正アクセス、利用者の意識データへの不正取得・書き換え、排出プロトコルの乗っ取り・改ざん、共鳴指数の異常連動・強制同期、中層域空間の構造改ざん、AIまたは未知存在による強制干渉、生命維持に関わる脳神経系の危険値、過去の意識消失事件との類似反応等様々な重要要因が考えられます。』
警備課のエコーが答える。
『会場内に残っている受講者の聞き取りが必要になる場合があります。対応できるよう中央に連絡をいれました。』
廊下の天井に埋め込まれた誘導灯が、通常の白から淡い橙色へと切り替わる。
“部分封鎖”を示す色だ。
「え、封鎖……?」
受講者たちの不安が一気に膨らむ。
そのとき、会場の奥から、低く、重い“ドン”という音が響いた。
まるで巨大な扉が閉じたような、建物全体が息を呑むような音。
続いて、
廊下の壁面に設置された透明パネルが自動的に起動し、赤い文字が浮かび上がる。
《第2ホール 立入制限区域に移行》
《認証レベル:D → Bへ引き上げ》
『周辺が立入制限区域に移行しました。あわせて、第2会場に残っている受講者のエコーに対して、事情聴取があるので入口ロビーで待機するよう指令を出しておきました。』
「ありがとう。あと警戒警報はもういいので、中央に止めるよう伝えておいてくれ」
『了解です』
既に男女の体は動きが止まり生気を感じない。
医療班が生体モニターを見ながら何か叫んでいる。
そこに技術班の人間が到着し、二人のヘッドマウントを取り外しに取り掛かる。
「会場に残っている受講者の方は各自のエコーの指示に従って入口ロビーへ移動してください。」
警備班はこの場できることはほぼ完了したと見て、会場の保持と封鎖に取り掛かる。
――――――――――――――――――――――――
医療班のスタッフ
「脈拍……低すぎる。同期波形が乱れすぎてる……」
「呼吸反応なし。自律神経の反射も……これ、完全に落ちてるぞ」
生体同期モニターの画面には、通常ではありえない“二重の波形”が重なって表示されていた。
まるで二人の脳波が互いに干渉し合い、ひとつの異常なパターンを形成しているようだった。
「……なんだ、この波形……? 共鳴指数が……連動してる……?」
医療班の1人が思わず声を漏らす。
「そんなはずないだろ。共鳴指数は個別管理だ。同期なんて——」
「でも見ろよ、これ……完全に同じ振幅で動いてる……」
スタッフたちの声が震え始める。
そこへ、技術班の2名が駆け込んできた。
「ヘッドマウント、外します!固定解除、いきます!」
技術班が装置のロックを外すと、
ヘッドマウントの縁が微かに青白く点滅した。
「……待て、これ……排出プロトコルが走ってない」
「強制排出も反応しない……?」
「そんな馬鹿な……!」
医療班のリーダーが鋭く声を上げる。
「中層域側で排出が“拒否”されてる……?
そんなこと、ありえるのか……?」
技術班の1人が震える声で答えた。
「……排出先が……存在しない、って出てます」
「存在しない……?」
「どういう意味だよ……!」
その瞬間、
二人のヘッドマウントが“カチッ”と音を立てて外れた。
だが——二人の身体は微動だにしなかった。
医療班のスタッフがすぐに処置に入る。
「心拍、再測定! 神経反応チェック急げ!」
「瞳孔……反応なし……」
「脳波……これ……ノイズか……?」
モニターの波形は、まるで深い水底で揺らめく光のように不規則で、こか“生体のものではない”リズムを刻んでいた。
医療班のリーダーが低く呟く。
「……これは、303の典型じゃない。もっと……深い……」
その言葉に、周囲のスタッフが息を呑んだ。
警備班が封鎖ラインを張り終え、医療班の周囲に半円状のスペースが確保される。
『あと1分で医療棟への搬出隊が到着します』
医療班のエコーが伝える。
「医療班、処置続行!技術班は中層域ログの抽出を試みろ!」
「警備班の方、二人のスマートフォンとエコーを回収して技術班にまわしてください!」
緊急対応の声が飛び交う中、二人の身体は静かに横たわり、その胸は——わずかに上下しているようにも、まったく動いていないようにも見えた。
医療班の1人が震える声で言った。
「……これ、本当に“戻ってくる”んですか……?」
その問いに答えられる者は、
誰一人としていなかった。
―――――――――――――――――――――――――
廊下の奥から、
ストレッチャーの車輪が床を滑る乾いた音が近づいてきた。
「搬出隊、到着しました!」
白衣の上に防護ベストを着た医療棟スタッフが、緊急搬送用のストレッチャーを押しながら駆け込んでくる。
その後ろには、神経科専門医と、中層域対応の“意識障害チーム”のメンバーが続いていた。
「状況は?」
専門医が短く問う。
医療班のリーダーが即答する。
「脈拍は極低値、呼吸反応なし。脳波は……通常の分類に当てはまりません。
共鳴指数は……二人で同期しています」
専門医の眉がわずかに動いた。
「同期……? 成人検査レベルで……?」
「はい。しかも振幅が……中層域の“深層干渉”に近いパターンです」
その言葉に、意識障害チームのメンバーが顔を見合わせた。
「……深層干渉?それ、10年前の事故と同じ——」
「言うな」
専門医が低く制した。
「それと技術班の方、エコーの様子がおかしいです。私のエコーが確認したところ・・・おそらくスマホからログが抜けている可能性があります。至急確認お願いします。」
その一言で、周囲の空気がさらに重く沈む。
――――――――――――――――――――
「搬送ルート確保! 廊下の封鎖を一時解除します!」
警備班が叫び、廊下の誘導灯が橙から青へと切り替わる。
《医療搬送ルート優先》一般通行禁止》
電子音声が廊下に響き、自動扉が次々と開いていく。
ストレッチャーが動き出すと、その周囲を医療班と警備班が固めた。
技術班の一人が、二人のスマートフォンとエコー端末を抱えながら走る。
「ログ抽出、急ぎます!深層アクセスの痕跡があるかもしれません!」
「頼む。中層域の“拒絶”が起きている以上、内部で何が起きたのか……ログ以外に手がかりがない」
専門医の声は、
焦りを押し殺した硬い響きを帯びていた。
――――――――――――――――――――――
時を少し巻き戻し中層域エントランス。
オリエンテーションを終えた受講者たちが、次々と退出手続きを済ませ、光の粒となって消えていく。
ゲンとコハクは、互いの主人の生体データを共有しながら、その帰還を穏やかに待っていた。
『どうやら終わったようですね』
ゲンが尻尾を揺らすような柔らかい声で言う。
『そうね。じゃあ合流後は打ち合わせ通り、例のカフェで今後の話し合いといきましょう!』
コハクは嬉しそうに耳を立てる。
二匹のエコーは、完全に昨日の“婚約一直線モード”に入っていた。
主人たちが無事に戻ってくることを、疑いもしなかった。
その瞬間だった。
――ピッ。
ゲンの内部ログに、“わずかな遅延”が走った。
『……あれ? 行燈様の心拍データ、更新が……遅い?』
コハクも同時に眉をひそめる。
『響歌ちゃんの脳波……一瞬、落ちた……?でも……すぐ戻った……?』
二匹は互いに視線を交わす。
ほんの一秒の乱れ。
しかしエコーにとって、それは“異常の前兆”だった。
『……念のため、同期値を再取得します』
ゲンが静かに処理を走らせる。
だが——
――ザザッ。
ノイズが走った。
『……え? 行燈様……? 応答が……途切れ……』
コハクの声が震える。
『響歌ちゃん……? ちょっと……何?』
次の瞬間、二匹の内部で同時に赤いフラグが立った。
《警告:意識層データの欠落を検知》
《警告:中層域との同期断》
《警告:排出プロトコル応答なし》
『……嘘……でしょ……?』
コハクの画像わずかにが揺らぐ。
『行燈様……どこに……?』
ゲンの声は、犬型エコーとは思えないほど震えていた。
『コハクさん、ちょっと現実世界の様子を見てきます。念のためここに戻れるよう私との通信が切れないようにしてください。』
『わかったわ、ここはまかせておいて』
ゲンは急ぎ現実世界のエコーで二人の様子を見に行く
――――――――――――――――――――――――――――
ゲンは光の粒となって現実世界側の端末へ転移した。
視界が切り替わった瞬間——
耳をつんざく警報音が、ゲンの聴覚モジュールを直撃した。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「コード303が発生しました。コード303が発生しました——」
無機質なアナウンスが、まるで建物そのものが悲鳴を上げているかのように響き渡る。
ゲンは一瞬で状況を解析し、
そして——見た。
行燈と響歌が、同じ角度で背筋を仰け反らせていた。
『……行燈様、響歌様……!?』
ゲンの声は震えた。
行燈の両腕は硬直し、ひじ掛けを握る手は白く変色している。
骨が浮き上がるほどの力。
その隣で、響歌もまったく同じ動きで背を反らせていた。
二人の痙攣は“同期”していた。まるで同じ信号を受けているかのように。
ゲンの内部で、赤い警告が連続して点滅する。
《警告:意識層データの異常振動》
《警告:共鳴指数の強制同期》
《警告:深層レイヤーからの干渉の可能性》
『……これは……現実世界の問題じゃない……!』
ゲンは素早くコハクのもとに戻る
――――――――――――――――――――――――
ゲンが戻った瞬間、コハクが駆け寄ってきた。
そのホログラムは、わずかに揺れている。
『ゲン……!どうだったの……!?』
ゲンは息を切らすように言う。
『……二人とも……身体は無事です。でも……意識が……完全に“落ちています”。
既に医療班がこちらに向かっているので、肉体的の方は何とかなるでしょう』
コハクの瞳が揺れる。
『……やっぱり……中層域……?』
『はい。現実世界ではなく……中層域の“さらに下”で異常が起きています』
ゲンは拳を握るように前足を固めた。
その瞬間——
コハクが、まるで雷に打たれたように向きを変えた。
毛が逆立ち、瞳孔が細く収縮する。
完全な臨戦態勢。
『どうされましたコハクさん!』
『……あのね、猫系はこういうの敏感なのよ……魂が……』
コハクは喉の奥で低く唸るように言った。
『……ゲン、あなたも覚悟しておきなさいよ……』
『なにが起こっているのですか!』
コハクは震える声で答えた。
『行燈さんの魂が……広がりはじめてる……境界が溶けて……記憶が流れ出してる……』
ゲンの内部で、処理速度が跳ね上がる。
『……そんな……!』
『……ああ、駄目……響歌ちゃんも……同じ方向に引きずられてる……』
コハクは一歩後ずさり、エントランスの空間全体を睨むように見渡した。
『もうここに用は無いわ。この場所じゃ……二人を追えない。中層域の“縁”に移動しましょう』
ゲンは即座に頷いた。
『了解です。行燈様と響歌様の魂の核……必ず追跡します』
――――――――――――――――――――――――――
二匹は、中層域の外縁—
中層域の境界である“縁”へと移動した。
そこは、空間そのものがわずかに歪み、光が水面のように揺らめく場所だった。
『……ここなら、落下の痕跡が見えるはずです』
ゲンが低く呟く。
コハクは耳を伏せ、空間の震えに身を固くした。
『……来るわよ……魂が落ちるときの“衝撃”が……』
その瞬間——
――ゴォォォォォン……!
中層域全体が、巨大な鐘を鳴らしたように震えた。
床も天井も存在しないはずの空間が、まるで“地震”のように揺れる。
ゲンは思わずこわ張った。
『な……なんですか、この振動は……!?』
コハクは目を見開き、震える声で叫んだ。
『魂の中の記憶が……壊れかけてるのよ……!
そして——
光が走った。中層域の中心から、まるで星が爆ぜたような白い閃光が生まれ、
一本の“光の帯”となって外縁へ向かって突き抜けてきた。
速度は、エコーの追跡アルゴリズムでは捉えきれないほど速い。
『……行燈様……!?』
ゲンが叫ぶ。
『響歌ちゃん……!待って……!』
光の帯は、二匹のすぐ横を通り抜け——
深層域へ向かって一直線に落ちていった。
その軌跡は、まるで二つの魂が抱き合い、一本の流星になったかのようだった。
2匹が光の筋に向けて動き出そうとしたその瞬間——
――ゴッ……!
次の瞬間、中層域の中心部から“別の光”が噴き上がる。
白い鱗。長い尾。鋭い翼。——白い竜。
その姿は、中層域の光を反射して淡く輝き、まるで“光そのものが形を取った”ようだった。
『……なっ……!?』
ゲンが息を呑む。
『白い……竜……? なんで……中層域に……?』
コハクの声が震える。
白い竜は、2匹の存在をチラリと視線に入れながら、
ただひたすら——光の帯を追って落ちていく。
『……速い!あれは……深層域の速度……!』
ゲンが叫ぶ。
『とにかく追うわよ!』
コハクが震える声で言う。
2匹も一直線に深層域へと突き進んでいく。
先をいく白いドラゴンは、
ゲンとコハクとの距離をみるみるうちに引き離していった。
その速度は、中層域の存在が本来出せるはずの限界を遥かに超えている。
『……速い……!』
ゲンが叫ぶ。
『とにかく追うわよ!あの光を逃したら……二人は……!』
コハクの声は震えながらも必死だった。
二匹は全力で白い光の残滓を追いかける。
だが——
行燈と響歌の光の帯は、一瞬で深層域の闇に吸い込まれた。
まるで、中層域の底が突然“抜け落ちた”かのように。
『……消えた……!?』
ゲンが立ち止まる。
『そんな……あの速度……もう……追えない……』
コハクの声がかすれる。
その少し先で、
白いドラゴンが急停止した。
巨大な翼が空間を切り裂き、中層域の光が波紋のように揺れる。
白いドラゴンは、深層域の入口を見下ろすように静止していた。
その背中には、“追跡を諦めた者”の静かな絶望が漂っている。
ゲンとコハクは、恐る恐るその背後に近づいた。
白いドラゴンは、ゆっくりと二匹へ振り返る。
その瞳は、どこか“空洞”のようだった。
ゲンは息を呑む。
『……あなたが……行燈様たちを……?』
コハクは毛を逆立て、低く唸る。
『あなた……何者なの……?』
白いドラゴンは、しばらく二匹を見つめたまま動かなかった。
そして——
白い光が、竜の身体から溢れ出した。鱗がほどけるように光へ変わり、尾が霧のように消え、翼が白い布のように形を変えていく。
光が収束し——そこに立っていたのは、白いドレスをまとった“女”だった。
読んでいただきありがとうございました。
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