【第一話】 120bpm -恋のはじまり-
●下記よりこの作品の歌が視聴ですます。
「120bpm -恋のはじまり-」
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●ついでにこの作品に出てくるエコーの機能説明とその歌です。以下より視聴できます。
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2098年12月15日(金)、一学期の最終日。
冬の朝は澄んだ空気に包まれ、街路樹の枝には昨夜の霜が白く残っている。
吐く息は白く、周りからは登校中の生徒たちの話し声が楽しげに響いてくる。
行燈は眩しい日差しの中を一人歩き、コートの襟を立てながら相棒のゲンと高校へと向かっていた。
高度に発展したAIの時代の到来にあわせるように、さまざまな商品がこの時代の人々に恩恵をもたらした。個人においてその代表格は「エコー」である。3D投射機及び空間認識、記録機能を搭載したAI搭載の超静穏型ドローンである。
約20年前に一般販売がおこなわれ爆発的に普及した商品。
その商品の特徴は、リアルなホログラムである。30cm位とホログラムの大きさには限度はあるが、持ち主の好みに応じたキャラクター設定ができ、とにかくかわいいのである。
さり気なく肩に寝そべるカワウソやカバンにすがりつくように両手でぶら下がってブラブラしているクマなど、表現の仕方が多用で、「このエコーかわいいね」といった会話が日常的に交わされ、SNSの投稿でも大人気だ。
機能面としては、記憶補助・健康管理・心理的補助・第三者とのコミュニケーション機能等、高機能であり、エコーはまさに子供の頃から個々人につく秘書、執事であり、無くてはならない存在だった。
行燈は校門へと歩みを進めていく――。
「行燈おはよう」
「おはよう、響歌」「おはよう、コハク」
『ああ、おはよう』
コハクは響歌のエコーである。茶系メインで顔からお腹にかけて白地の猫。
とてもキュートなのだが、なぜか行燈にはトゲがある。
「あはは、コハクは今日もなんかつれないね。君は響歌のパートナーなんだから、もっとこうやわらかくできないのかな?」
『私は響歌ちゃんのために、ここにいるんだから、あなたみたいな人近寄って来るのはちょっと嫌なのよ』
行燈のエコーであるゲンが、ちらりとコハクの方に目をやる。
たぶんエコー同士で何か通信したのだろうが、コハクはゲンのほうをチラリと見て、そっぽを向いてしまった。
「コハク、行燈にはもっとやさしくしてあげてっていつも言っているでしょ」
響歌が笑顔でコハクに話をするが、コハクは既に響歌の肩の上にて寝ているフリをしていた。
こんなコハクではあるが、いつも響歌との会話がうまくいくよう、気を使ってくれているのかなとちょっと面白い。
なぜなら、響歌との出会いを作ってくれたのは当のコハクなのである。
― ― ― ― ―
2年前の高校1年の11月、行燈が午前中の神経伝達速度・反応力向上訓練が終了し、友達と食堂にむかう途中の中庭で偶然響歌とすれ違った。
行燈は入学当初より響歌にひかれており、通りすがりではあったが、いつも通り胸が高鳴っていた。
それを2人のエコーは見逃さなかった。
実は響歌も行燈に思いを寄せていたのである。
エコーは主人である人物と子供ならリストバンドで、大人であればICチップを通してつながっており、その血流や心拍数の流れを常に把握している。
恋愛に関する身体の高まりも全国的にデータ共有がおこなわれており、エコーはその状況を理解することができるのである。これまでもお互いのエコーは高鳴る心拍数等の流れを理解していた。
響歌のエコーであるコハクは、いよいよ鼓動の高まりが最高潮に達したことを察知した。
先陣を切ったのは響歌のコハクだった・・・すれ違いざまのエコー同士の通信である
『あらためてなんだけど、あたしのご主人の響歌ちゃん、あんたのご主人である行燈くんに興味があるみたいなのよね』
「通信してくれてありがとう。前回もお伝えした通り、行燈様も、響歌さまに興味があります。」
『響歌ちゃん、すれ違いざまの心拍数は120bpmで、これまでの状況を考えても、恋愛指数はほぼ到達点MAXまで来てるわね。そっちはどうなの?』
「行燈様も心拍数は118npmでちょうど到達点です。血流等の恋愛指数もほぼ近い数値ですね。明日以降様子をみて、MAXの心拍数118bpm地点を超えたら、コハクさんに通信しようと思ってました。」
『前回のあなたとの通信からちょうど2週間、そろそろ潮時かな?』
「おっしゃる通りですね。それでは、お互いのスケジュールの調整をおこないたいと思いますが、いかがでしょうか?」
『もちろん。ちなみに12月1日の土曜日はどう?』
「1学期期末の効果測定試験が5日まであるので、次の週の12月8日の土曜が良いかもしれません。クリスマスの飾りつけ等も出てきますから、雰囲気も良いと思います。12月8日はいかがでしょうか?」
『そうね。では、響歌ちゃんはその日スケジュール入ってないから12月8日(土)で決定しましょう。』
「かしこまりました。響歌様はなにか興味のある分野や好みの場所等はございますか?」
『・・・』
「取り急ぎ、私がプランをピックアップしたところ、ベイエリアのショッピングモールでクリスマスツリーとその他の企画が大規模におこなわれる予定です。天候も良く食事やその他の雰囲気等を含めそちらが良いと考えています。」
『了解。ではそのプランでいきましょう。確認だけど、行燈君は間違いなくセッティングできるんでしょうね?響歌ちゃんは今週だけでも他のエコーからデートの打診が8件もあったんだから、断ることなんかないわよね?あなた、万が一失敗するようなことがあったら「エコー間主人親密度評価」でBADつけるわよ』
「コハクさん、おまかせください。かならず達成できるよう下準備は完了しております。」
『わかったわ。それでは当日うまく流れが作れるよう、お互いのエコーコードを交換し合いましょう。公開可能な情報は後程あなたのポストに送っておきます。』
「かしこまりました。コハクさんにエコーコード解放します。こちらも情報をポストしておきます。追加で打ち合わせや必要事項がでましたら、連絡を取り合いましょう。それでは。」
この間約2秒。
エコー間の通信はこんなものである。
エコー通信についてハッキングを意識して、一次通信と二次通信にわかれており、1次通信は半径5m以内であればお互いオープンに通信可能となる。2次通信はエコー間でコードのやり取りをおこなわないと通信ができない設定となっており、コードのやり取りがおこなわれると遠隔通信が可能となる。
今回の通信は、もちろん行燈と響歌の二人が伺い知るところではなく、本人たちの全く知らないところでデートの約束が成立していた。
―――――――――――
昼食がおわり、それぞれ次の講習をおこなう教室に向かう。
ー ― ― ― ―
『響歌~、ちょっと話があるんだけどいいかな?』
「うん、まだ授業まで時間あるから大丈夫だけどなに?」
『あのね、響歌が知っているかどうかわからないんだけど。さっきカガリユキヒト君という人のエコーから通信があって、12月8日(土)、ベイエリアのショッピングモールに二人でいかないかお誘いの通信があったの。カガリ君、響歌に好意があるみたいなんだよね。あまり興味ないかな?断っておく?』
― ― ― ― ―
そして、行燈・・・
『行燈様、少しお話があるのですが、よろしいでしょう?』
「うん、なに?」
『実は以前ご友人の秋友様とお話されていた、キタガワキョウカ様とすれ違った際、先方のエコーと話をしまして、私の一存でデートの打診をさせていただきました』
「ええ・・・、いや北川さんは確かに気になるんだけど・・・あんまり話したこともないんだけど・・・で、何か反応というか回答はあったの・・・」
『はい、是非ご一緒したいとの回答でした』
― ― ― ― ―
行燈と響歌はそれぞれ別の場所で、突然の出来事に頭が真っ白となり立ち尽くし、互いのエコーを茫然と見つめながら、
「是非セッティングお願します」と回答を互いのエコーに送ったのである。
そして・・・
ゲンとコハクは各々の主人から、最高の親密度アップを得たのであった。
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