【第18話】 目覚め
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題名「鏡の中の亡霊」
https://youtu.be/Aocea5E2HIw
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第18話 『目覚め』
白でも、黒でも、
光でもなく、闇でもなく、
広くも、狭くも、
永遠でも、瞬間でもなく、
抽象的という概念が最上位に入り交じり、
混沌としているようで、何も無い、
虚無のたたずみに、
―――観測を待ち望む、未定義相の虚空を照らす“宿さぬ鏡”がそこにあった。
“鏡”はただそこにありながら、
空という茫洋とした概念を映し出していた。
―――――――――――――――――――
無窮無象の位相の折に、
一粒の光が差し込まれた。
――――光は、水滴のように波紋を広げ、朧気な輪郭を作りはじめる。
その内部では無数の位相が絡み合い、まだ名を持たぬ像の萌芽として、連鎖しながら激しく震えてかたちを成していった。
“魂”としての確定である。
そこに意識はなかった。
ただ、全体性の海からひと雫が抜け落ちるように、
個としての体裁を帯びはじめた存在。
“魂”は、まだ重さを知らぬまま、
その場に淡く漂っていた。
―――――――――――――――――――
どれほどの時が流れたのかも分からぬまま、“魂”はただ、ゆらゆらと漂い続けていた。
時間という概念すら持たないその存在は、感じることも、測ることもできなかった。
しかし、その内部に宿った位相の揺らぎは絶え間なく、
やがて、その振動は大きな波となり、
“魂”に“存在”としての気づきをもたらした。
“魂”はただ茫然と虚無の空を眺める。
流れる景色もなく、追うべき対象もなく、
ただ、悠久のありのままの空の世界を茫然と眺めていた。
ある時、“魂”の内部に微かなざわめきが生まれ、
その先に“何か”があることを感じ取った。
“魂”にとっては自分以外の存在がそこにあるという事実は、
明確な違和感だった。
その存在は、揺れもせず、揺らぎもせず、
ただ“そこにある”という事実だけを静かに放っていた。
“魂”はその違和感とともに等距離を保ちながら長い時を過ごす。
――――長い長い時間を過ごしながら
“魂は、この何もない空間にともにある“何か”の存在を気にし始める。
それは、“意識”という名の微光が、
初めて内部に灯った瞬間だった。
―――――――――――――――――――――
“何か”に対する怖れと興味が、わずかに興味へと傾いた刹那、
“魂”は、ゆらゆらと揺れながら、
その“何か”へと静かに引き寄せられていった。
しかし、“魂”は近づくにつれて怖れが徐々に膨れ上がり、
それとともに、もとの位置へと戻ってしまう。
そんな、流れを繰り返しながら、魂は“何か”と対峙することになる。
その“何か”は、平たく、色を持たず、
ただ空間を透かす無音の平面として、
僅かな光を屈折させながら、そこに存在していた。
何度も、何度も“何か”の前に引き寄せられる。
その流れの中で、ついに“何か”の縁に届いた瞬間それは起こった。
これまで一切の動きを見せなかった“何か”の縁にゆらゆらと蠢くものを感じ取ったのである。
“魂”は極限の恐怖に襲われ、
恐怖は“何か”のもとから“魂”を引き離した。
しばらくの時が経った。
不気味な動きを見せた“何か”はあれから一切の変化を見せず、
何事もなかったように、ただそこにあった。
“魂”はもうあそこには行くまいと決意する。
しかし、時が経つにつれ恐怖は再び興味へと傾き始め、
同じ往復を何度も繰り返し、
ついに“魂”は“何か”の前で、
平坦な気持ちのままそれを観察できるようになった。
――――――――――――――――――――
“魂が“何か”の前に行くと、“何かは”かすかに動きをみせる。
恐怖は完全に興味に移り変わり、
“魂”による“何か”の観察がはじまる。
その揺らぎは“何か”全体ではなく、
対峙する“魂”と同じ位置で揺らめいている。
“魂”が動くとそれと同じように位置を変える。
やがて、それが自分自身であることを“魂”は悟った。
己を客観視した“魂”
ふと意識を反らすと、
“何か”と同じような平面が、他にいくつも存在することに気づく。
“魂は、その全てに自身の姿を映しはじめ、
写し出される姿は、どの姿も同じ姿であることを認識する。
そして、最後の一つに姿を映したとき
――――“魂は違和感を覚えた。
―――――――――――――――――――――――――
“魂”は最後の“鏡”に自己の姿を投影した。
縁から入り込む自らの像の、
そのさらに奥には、別の鏡が映り込んでいた。
目の前の鏡は、振り返ることなく“魂”の後ろ姿を映し出す。
映し出された鏡は、またその奥の鏡を映し、
鏡と鏡は互いの像を無限に反射し合い、
“魂の後ろ姿とともに、
鏡面の向こうには、果てのない連なりが伸びていた。
――――――しばらくすると、奥に控える無限の鏡は、徐々に色を帯び始めた。
その光景は恐怖ではなく、“魂”にどこか懐かしさを呼び起こす。
連なりはゆっくりと解け、
鏡面の奥で渦を巻くように、色と形が空間へと滲み出していく。
その風景と揺らぎに漂いながら、“魂”はふと上空を見上げた。
虚空だった空間に、初めて上下が生まれ、
あたりには光と闇が満ち始める。
世界は、静かに収束点へと向かっていった。
突然、“魂”の内に滞在していた記憶の断片と、
記憶の粒が共鳴し合い、無限とも思われる光の粒が一斉に流れ込んだ。
心地よい光に包まれながら、
その光はやがて一つの核へと収束し、
閃光となって周囲一帯を覆い尽くした。
――――――――――――――――――――
光が周囲となじみ、朧気ながら輪郭への意識が浸透し始める。
これまで、気配として見ていた景色は急速に形を帯び、境界を持ちはじめた。
“魂”としての原初の記憶は、
新たに流れ込んだ膨大な記憶の奔流に押し流され、
隅へと追いやられ、徐々に霞んでいった。
頭の中で記憶が溢れかえる。
これまで背負ったことのない重さを、一瞬で抱え込んでしまったような混雑感。
さまざまな像が現れては消え、整理がつくまで、しばらく茫然と立ち尽くしていた。
やがて、一通りの情報が身体の内側へと沈静し、
自然と周囲の風景が目に入ってくるようになった。
天井と壁の境界に視線を向けたとき、
ふと、頭の奥に一文字が浮かび上がった。
―――『響』
それが、新たに誕生した融合魂の名であった。
その瞬間、すぐ背後に微かな気配が生まれた。
懐かしく、胸の奥を温めるような、どこか愛おしい気配。
響は、まだ慣れない身体をゆっくりとひねり、後方へ視線を向けた。
――――そこには、黒い犬と茶色い猫が、
静かに、まるでずっとそこにいたかのように座っていた。
―――――――――――――――――
全ての期待と影への不安が、周囲の記憶と混じり合い、
薄っすらと陰る霧が、一つの方向へ向けて走り出していた。
ドラゴを含む作戦の最終確認は、綿密におこなわれた。
影の存在感は徐々に増していき、
その場にいた誰もが、
これが少なからぬ危険を孕むものであることを理解していた。
『ゲンさん、コハクさん、
その後の流れは全てわたしたちがフォローしますので、
安心して二人の融合魂の解放に集中してください』
ルミナは周りにいる錚々(そうそう)たるメンバーを見ながら、
2匹に融合魂に付与する記憶の種のバックグラウンド情報を与える。
『これは?』
ゲンが尋ねる。
『融合魂は、2つの魂が一つになった新たな人格です。
これから発現する人格に対しても、
あらたな情報が必要となりますので、
マスターと玉造さんとの間で、記憶の粒の中に基本情報がセットしてあります。
もちろん、あなたたちの記憶も付与してあります。
二つの魂の分離が完了するまでは、こちらの情報をもとに、お二人に接するようにしてください。』
『なかなかいいじゃない!』
コハクその情報に接しながら笑顔を見せた。
『それでは、皆さんいきますよ
ゲンさんコハクさん、
いま渡した基本情報と一緒に、意識のAI補助の過剰設定がセットしてあります。
お二人との思い出を存分に引き出してください』
ルミナの言葉に、ゲンとコハクを中心にして、周りを守護する面々は、刻一刻と濃さを増していく影の気配に、集中していった。
『……了解しました』
ゲンは短く返事をし、静かに目を閉じた。
コハクもまた、渡された情報を胸の奥で転がすように確かめる。
二匹は、それぞれの主人との出会いから、成長、
そして共に過ごした日々をゆっくりと呼び起こしていった。
辛い記憶がなかったわけではない。
だが、それらを遥かに上回るほどの絆が、心の内側を温かく満たしていく。
その奥底で――
懐かしい気配が、静かに、しかし確かに膨れ上がっていった。
最初に“記録の滞り”を感じたのは、やはりゲンだった。
コハクもそれに続き、
二匹の内部で臨界点が同時に跳ね上がる。
――――最後、二人への熱い思いの共鳴の発露は同じであった。
場所は中層域。
成人検査後のオリエンテーションを終えた受講者たちが、
次々と退出手続きを済ませ、
光の粒となって消えていく光景が、
二匹の記憶に鮮やかによみがえる。
互いの内部ログに発生したわずかな遅延。
そこから連鎖する心拍データの異常。
続く、意識層データの欠落。
そして、コード303の無機質なアナウンスが静かに響いた。
――――失いたくない
奪われてしまった、そのただ一心の強い思いは、
二匹から離れていく、行燈と響歌の激しく光る筋となった残像と重なり、
光に変化し“共鳴”となって周囲を激しく照らした。
――――――――――――――――――――――
コハクは共鳴を終え、AI補助の過剰設定を解きながら静かに目をあける。
そこは、無機質な深層域の記憶隔離区画を思わせる、うす暗い部屋の一室だった。
静寂が満ち、外部からの気配すら感じられない。
もちろん、ルミナやシロ、ドラゴたちの姿もどこにもなかった。
コハクは隣にいるゲンへ視線を移す。
ゲンはただ一点、部屋の中心部を見つめていた。
『ちゃんと始まっているのね』
『はい。無事に魂は、存在の収束を終えて形を整えつつあります』
コハクも中心へ目を向ける。
球体に収束した魂が激しく絡まり、人の姿へと刻々と変化していく最中だった。
『あなた、いつからそうやって見ているの?』
『体感で言えば一時間ほどでしょうか。
ようやく人の姿を取り戻されつつあるのが嬉しくて……
ずっと、意識のAI補助を極小に抑えて見入っていました』
『あんたは、せっかちよねww』
『ありがとうございます。
コハクさんからのその言葉、
誉め言葉として捉えさせていただきます』
コハクはゲンの嬉しそうな表情を見て、
いつもの日常に戻っていくような安心感を感じていた。
『私はシロさんの姿を見て感じたんです。
依り代のないエコーがどれほど寂しいものか‥‥‥
ルミナさん、テンさん、ハチさん、
これまでに会ってきたエコーは皆さんご主人がいました。
ですが、
――――シロさんを含め、トラッシュ・ノードのエコーたちには主人がいなかった。
これが、どれくらい重要なことか、
今回のことで痛感しました。
当たり前に戻れることが、嬉しくて、お二人の魂をずっと見つめていたんです』
二匹は魂が人の姿を取り戻す光景を凝視しながら、
その最後の余韻を喜びとともに迎えた。
行燈と響歌の魂は、
急速にその実体性を深化させていく。
2匹はそこに立つ後ろ姿の人物に、
“自我”が芽生えるのを、今か今かと待ちわびていた。
身長は、以前の行燈とほぼ同じだろうか。
中性的でありながら、どこか男性寄りの輪郭。
肩まで伸びたブルーの髪は、光を受けて微かに揺らぎ、
半袖からのぞく腕の肌は、透明感を帯びて淡く光を返す。
その姿はまるで、
最深層における心理と美学がそのまま形を得たかのようだった。
――――光を帯びたブルーの髪が、意識の揺らぎに応えるようにわずかに動く。
続いて、頭の仰角がゆっくりと上がり、
その視線は、天井と壁の境界へと向けられた。
二匹は飛びつきたい衝動を必死に抑えながら、
魂が身体へと馴染んでいく余韻を、ただ静かに見つめていた。
これから訪れる再会の瞬間を、味わうように。
空間には、清涼とした時が静かに流れていた。
やがて、その身体がゆっくりとこちらへ向き直る。
光を宿した琥珀色の瞳が、柔らかな微笑みとともに二匹をとらえた。
これまで隔てていた暗く湿った時間は、嘘のように霧散する。
二匹と響のあいだに、眩い光が満ちていった。
――――『響様、おかえりなさい』
『響、おかえりなさい』
二匹は響の肩にそれぞれ飛び乗り、頬に体を寄せる。
響二匹を両手で迎えながらそれぞれに目線を寄せ、
再会の喜びを分かち合った。
『ゲン、コハク、
――――ただいま』
ただ、一言
その言葉がこの空間を彩り、
喜びを満たしていった。
読んでいただきありがとうございます。
ついに二人の融合魂が復活できました。
個人的に感無量です。
物語はここから更に続いていきますので、楽しみにお待ちください。
こちらの曲は以下よりご視聴いただけます。結構好きな曲です。
題名「鏡の中の亡霊」
https://youtu.be/Aocea5E2HIw
※17話の曲がまだ未完ですが、先行してこちらの曲が進んでおります。
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