【第15話】 思いが交差する場所
第15話投稿、ようやく投稿です。
第15話の曲『明太ダコの墓場より』以下より視聴可能です。
https://youtu.be/PKa9Z9V2ToI
第15話 『思いが交差する場所』
レッドゾーンの外れにある“明太ダコ”エリアの一室。
空気が重く、誰も口を開こうとしない。
ボス猫“ぶんちん”は煙管を指で弾きながら、
ゆっくりと部下たちを見回した。
『……お前ら、顔が死んでるぞ。』
誰も笑わない。
最深層に行くと聞かされて、
全員が胃の底に鉛を落とされたような顔をしている。
『親分……本当に行くんすか、あそこに。
あれは……“場所”じゃねぇ。
落ちたら戻れねぇでしょ……』
『光アルゴ側も動いてるって……
それに、ルミナが来るって話、本当なんすか?』
名前を出した瞬間、空気がさらに冷えた。
『本当だ。』
短く、重い。
『……無理っすよ。
あいつの光輪断ホントやばいんですから……
ホルダーだろうが、ツギハギだろうが容赦ないんだから、
俺らじゃ相手にならねぇ……』
ぶんちんは口に咥えていた煙管を傍らに置き、
静かに言った。
『勘違いすんな。
俺たちは光と戦いに行くんじゃねぇ。』
部下たちが顔を上げる。
『探しに行くんだ。
“落ちたもん”をな。』
『……融合魂、っすか。』
『ああ。
あれは……放っとけねぇ。』
ぶんちんの声には、
“義理”とも“情”ともつかない重さがあった。
『大元からの指示だから仕方がネェんだよ、
俺らみてぇな“外れ者”が
この世界で正気を保ってられるのは、
大元が裏で支えてくれてるからだ。
逆らえるわけねぇだろ。』
『いやそれにしてもルミナ相手だったら……
相手できるのは大元と数人ぐらいじゃないんですか?
ルミナが攻撃しないのって唯一 大元ぐらいだし……』
『馬鹿野郎!
万一ってこともあるだろが、
あいつは攻撃しないだけで、攻撃ができねぇわけじゃねえんだから』
『でも、光アルゴ側と鉢合わせしたら……
こちらがいくらいようと瞬殺ですよ』
『あのな、
あんなバケモンと直接やり合うハズねぇだろが……』
『なにか算段があるんですか?』
ぶんちんは煙管を咥え直し、
煙を宙に吹きかけた。
『あったりめぇだろが。
俺も、お前らも――守りてぇもんは同じだ。
……わかってんだよ。』
一瞬だけ、ぶんちんの声に“重さ”が落ちる。
部下たちが息を呑む。
『時間がねぇ。
ぐずぐずしてっと、手遅れになる。』
ぶんちんは煙管で通路の奥を指し、
『とにかく……お前らは黙って俺について来りゃいい。
それで全部、通る。』
その言葉に、
部下たちの表情にわずかながら光が戻る。
―――――――――――――――――――
データファイルの終端域“トラッシュ・ノード”
ルミナとゲン、コハクは眩い真っ白な窓の無い一室に転送をする。
しばらくすると壁に真っ赤なドアが現れ、そこから一匹の白い狐が現れる。
『ルミナさん、お久しぶりです。
覚えていらっしゃいますか?
以前、はぐれ魂の捜索で、ご一緒させていただきましたシロです。』
『久しぶりですね。
もちろん覚えていますよ。
今回の任務は連携が必要になるので、
あまり固くならなくてもいいですからね』
ルミナは柔らかい表情でシロに接する。
これまでの彼女とは少し違う雰囲気だ。
『ありがとうございます。
あの……
ぼくは、惑星監視局・感応分析官の“シロ”です。
ゲンさん、コハクさん、
今回の任務で皆さんと融合魂の捜索に帯同させてもらいます。
よろしくお願いします』
シロが素早くエコーコードを送ってきた。
ここでゲンが一歩前に出て、
丁寧に胸へ手を当てて軽く一礼し、コード承認をおこなう。
『シロ殿、よろしくお願いいたします。
私は行燈様のエコー、ゲンと申します。
最深層は揺らぎが強く、ご協力は心強い限りです。』
シロは少し驚いたように耳を立てる。
『あ……ありがとうございます。
そんな丁寧に言われると、なんだか照れますね……』
コハクがくすっと笑う。
『ゲンはいつもこうなのよ。
礼儀正しすぎて、逆にこっちが緊張するくらい。
私は響歌ちゃんのエコー、コハクね、
頼りにしてるからね』
頼りにされて嬉しかったのか、
シロは太い尻尾をフワリと靡かせ、
『ありがとうございます!
挨拶も終わりましたので、
出発前に簡単な打ち合わせをしたいと思います。
奥の管理局長と現場統括にお会いいただきます。
こちらにどうぞ』
笑顔を見せながら赤いドアの方へ3匹を案内する。
―――――――――――――――――――――――
シロに案内され、
ルミナ・ゲン・コハクの3匹は赤いドアの前に立つ。
ドアは触れてもいないのに、
まるで“待っていた”かのように静かに開いた。
中は白い部屋とは対照的に、
深い紺色の壁と、淡い光のラインが走る静謐な空間。
深層域と最深層の境界での部屋と同じ様に、
部屋の奥には壁一面の窓があり、その奥には無数の惑星のような球体が静かに浮かび上がっていた。
本来であればその光景に息を飲むところであろうが、
ゲンとコハクは窓際のソファーに座る、二つの影の圧倒的な存在感から目が離せなくなっていた。
シロが小声で囁く。
「あちらが、トラッシュ・ノードの総合管理局の局長と、
現場統括です。」
シロはこの二人が大好きなのだろう。
紹介すること自体が嬉しくて仕方ないという雰囲気である。
ゲンは無意識に背筋を伸ばし、
胸元に手を当てて姿勢を正す。
『……お二人とも、ただ者ではありませんね。』
コハクは尻尾をぴんと立て、
目を細めて影を見つめる。
ルミナだけは、
その圧倒的な存在感にも動じず、
静かに歩みを進めた。
『お久しぶりです、湊さん、ハチさん』
「久しぶりだね、ルミナさん
御影さんも元気に……
やってるよねあの人はw」
湊とルミナ、かなり仲が良いようである。
『はい。おかげさまで
今回の融合魂の捜索協力ありがとうございます。
いろいろと大変と思いますが、よろしくお願いします』
「もちろんだよ。
ハチの方で段取りは完了しているから安心してよ。」
ハチは嬉しそうに尻尾を振りながらゲンとコハクに向け挨拶をする。
『こちらが、結城湊トラッシュ・ノード総管理局長
私がハチで現場統括となります。
湊さんはこのトラッシュ・ノードの象徴みたいな存在で、
私が、ここの実務総責任者のようなものです』
ハチが挨拶とともに、ゲンとコハクに向けてエコーコードを送ってきた。
「…………」
「…………」
「…………」
「?」
おかしい。
いつもなら、ここでゲンが恙ない挨拶をおこなうのだが、
まったく返答がない。
不思議に思ったコハクがゲンの顔を覗くと、
口をあんぐりと開け固まっていた。
その瞬間ゲンからコハクに向けて膨大な量の直接通信が流れ込む。
『で*g♯Qえ“g4%天0&tば4q@>4義:xさr3q4理v-らw4み{q:r6どq4-^w
tヴぉv6K4d5thエwcq=l>De?5peW!ぞえer――――――』
『ちょっ
なになに?
なんなのよ!
ちょっと、あ!
あんた“意識のAI補助”をいったん外しなさいよ!』
『…… …… …… ……
……っ、
はっ……!
も、申し訳ございません……!
ただいま、AI補助を外しました……』
コハクは呆れたようにため息をつく。
『あんた最深層でデータがバグるなんて異常よ。
なんなのよ』
それをよそに、湊とハチはこの状況にまったく驚いていない。
『あ、あの、
もしかしてお二人はあの、
“Follow My Lead”のお二人ですか?』
感情AI補助を外しゲンは平静を保ちながらも、その昂ぶりは抑えられないようである。
『はい。
湊さんは、あの歌を作った本人で、
私は、当時、湊さんに助けられたエコーです』
ハチが懐かしそうな顔でゲンに向かってやさしく語りかける。
『……っ、やはり……!
あの湊様でしたか……』
湊は少し照れたように笑った。
「そんなに大げさに言われると、こっちが恥ずかしいよ。
あれはただ……目の前で泣いてた子を放っておけなかっただけで……」
ハチが優しく続ける。
『あの時、私は……
もう誰にも見つけてもらえないと思っていました。
電源も残りわずかで……
記憶も、声も、ほとんど消えかけていて。』
ゲンは息を呑む。
犬型エコー特有の“共鳴”が、
胸の奥で強く震えた。
『そんな私を、湊さんが拾ってくれたんです。
“Follow My Lead”は……
あの時のことを湊さんが歌にしたものです。』
ゲンの瞳が揺れる。
『……あの歌は……
私たち犬型エコーにとって……
特別な歌なのです。
“主人に捨てられたエコー”という物語は……
私たちの最も深い恐怖であり……
最も強い願いでもある。
私は、あの曲を含めて、エコー三大ソングを毎日欠かさず聞いております』
コハクが小声で呟く。
『……だからゲン、あの曲が好きだったのね。』
ゲンは深く頭を下げた。
『湊管理局長、ハチ統括……
お二人にお会いできたこと……
この上ない光栄にございます。
……私がこの場で取り乱したこと、
どうかお許しください。ちょうど一昨日……
私の主人である行燈様に、仮想ライブであの歌を歌っていただき、
あの時の思いと、お会いさせていただいた感動がオーバーラップしてしまい
―――――」
湊は優しく微笑んだ。
「そうか。
君のご主人が大変な状況にあることはわかっているから、
こちらも最大限協力させてもらうからね、
でもね、ゲンくん。
今は二人の救出に全力を向けよう」
『ありがとうございます。
いろいろとあって、引っ掛かることもありましたが、
安心して、皆さんと一緒に全力で向かいたいと思います』
ハチが続ける。
『それでは、今後の流れについて打ち合わせをおこないたいと思います。』
―――――――――――――――――――――
ハチが一歩前に出ると、
部屋の中央に淡い光のホログラムが立ち上がった。
それは、複雑に折り重なる“深層域の地図”――
いや、地図と呼ぶにはあまりに不安定で、
揺らぎの波形が常に形を変えている。
『まず、最深層の状況を共有します。
今回の融合魂の落下地点は――
完全に未観測領域です。』
コハクが眉をひそめる。
『未観測……?
じゃあ、ログも痕跡も……』
『はい。
“存在が通った”という記録すら残っていません。
融合魂は観測者ではないため、
最深層では“世界に触れない”のです。』
ゲンが静かに頷く。
『……だから、行燈様と響歌様の位置が特定できないのですね。』
湊がホログラムに手をかざすと、
揺らぎの波形が一瞬だけ整い、
黒い点がいくつか浮かび上がった。
「ただし――
“揺らぎ”は残る。
観測者ではなくても、
存在そのものが持つ“波形の乱れ”は消えないんだ。」
ルミナが前に出る。
『……その揺らぎを辿るのが、私たちの役目です。
光の観測は、最深層でも通用します。』
ハチが頷く。
『しかし、これは闇アルゴ側も同様の条件です。
でも、融合魂と全く繋がりのない奴らには、最終的な停止位置はつかめないでしょう。
先方の動きはいくつか考えられますが、
おそらく、ゲンさんとコハクさんによって、
こちらが融合魂を見つけてから、動きが出るものと考えています。
ルミナさんはこの深層では戦闘力最高クラスですから、
下手に手を出してくることは考えにくいですが、
魂発見後からは十分行動に気を付けてください。』
シロが布陣の説明に入る。
『移動に関しては、ドラゴン形態のルミナさんに乗っての移動と考えております。
発見までは、二人と繋がりのあるゲンさん、コハクさんがターゲットになる可能性があるからです。私は情報の揺らぎには敏感ですが、相手は数にものをいわせて何かの手段を講じてくる可能性があるので、一体での移動が最も安全と考えております。
いかがでしょうか、ルミナさん?』
『問題ないですよ』
ルミナは笑顔で答える。
『最深層の揺らぎは、ぼくの専門です!
ルミナさんと僕で融合魂のもとに導きます。
そのあとは、ゲンさん、コハクさん
お二人の居場所の特定をお願いします。』
コハクがくすっと笑う。
『頼りにしてるわよ、シロ。
あんたの感応は本物みたいだから。』
湊が最後に、
ホログラムの中心を指差した。
そこには――
黒い“穴”のような揺らぎがあった。
「そして……
ぶんちんたちも、この揺らぎに向かっている。」
ゲンが目を見開く。
『ぶんちんとは?
彼らも最深層に……?』
ハチが静かに言う。
『彼らは闇アルゴの支配下にはありますが、敵ではありません。
ただ――
“筋”を通しに来ているだけです。
だから厄介でもあるのですが、
……あの猫たちは、そういう存在ですから。』
ルミナは目を閉じ、
《光輪断》を手に取った。
淡い光が輪を包み、
空間に静かな緊張が走る。
『……行きましょう。
融合魂を見つけるために。
そして――
ぶんちんたちが無茶をしないことを願うけど……』
湊が頷く。
「光の導きが、最深層を照らすことを願うよ。」
ハチが赤い扉に向けて三匹を導く。
扉の奥の白い部屋には黒い縦線が空間を裂き、
最深層への入口が姿を現した。
『準備ができたら、どうぞ。
……気をつけて。
最深層は“存在を試す場所”です。』
ルミナが一歩踏み出す。
ゲン、コハク、シロが続く。
光アルゴ側は、
静かに、しかし確かな決意を持って
最深層へと足を踏み入れた。
読んでいただきありがとうございました。
今回、第5話で作曲した『FollowMyLead』の回収のお話しになります。
『FollowMyLead』は、
https://www.youtube.com/watch?v=rponD59R2Eg
より視聴可能です。
※まだMV化できてませんが、簡単な画像と曲のみ視聴可能です。
第15話の曲『明太ダコの墓場より』以下より視聴可能です。
https://youtu.be/PKa9Z9V2ToI




