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2098  作者: 猪介 -Isuke-


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12/21

【第11話】 量子の世界

読んでいただきありがとうございます。

第11話です。

本年、お付き合いいただきありがとうございました。


以下、第11話の曲になります。

本文中では入れていない、御影みかげが深層世界に落ちてきた理由を曲中にて紹介しています。

https://suno.com/song/9b6d869d-987f-4811-821b-e532b09a7793


皆さま来年もよろしくお願いいたします。

第11話 『量子の世界』


K008会議室は、仮想空間内の中層域にある隔離会議室である。

壁一面に設置された大型モニターには、行燈ゆきひと響歌きょうかの生体データが静かに流れ続けている。

脳波は沈黙したまま。

生命維持は安定している。


医療スタッフ、技術班、警備班、そして意識障害専門医が次々と席につき、

会議室は前代未聞の事態に空気が張りつめていた。


意識障害専門医が口を開く。

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。

それでは、303案件対策会議を開始します。

今回の事案は正式に“303案件”として認定され、対策チーム名は『ICE-Unit』(Information Collapse / Consciousness Emergency Unit)となりました。

チーム運営は私、高梨たかなしが担当します。

本件は全て非公開扱い、外部への情報流出は厳禁です。よろしくお願いします。

まずは、警備班から状況報告をお願いします」


警備班の隊長が立ち上がり、淡々と読み上げる。

「はい。

患者二名はオリエンテーション会場に最後まで残っていたことが確認されています。

最後に二名を目撃した参加者三名から聴取を行いましたが、全員の証言は一致しています。

——男性側の退出ボタンが表示されず、ログアウトできない状態だった。

——女性側には異常はなかった。

——参加者三名はその状況を確認しながら、中層域からエントランスに向けて通常ログアウトした。

以上が聴取内容です」


「ありがとうございます。質問はないですか?」

「退出までの間の会場を含め、異常等はなかったのでしょうか?」

「はい。退出まで、患者2名以外のものは他に確認されておりません。

技術班ともログ確認を付け合わせて取っていますが、場内の乱れ等は一切なかったそうです。」


「ありがとうございます。

他に質問は?……無いようですね。

お疲れ様でした。それでは警備班はこれで退出してください」

警備班が静かにログアウトしていく。


「続きまして、緊急医療チームからお願いします」


主任医は周囲を見渡し、淡々と報告を始めた。

「まずは現状報告から。

患者は——

かがり 行燈ゆきひと18歳・男性

北川きたがわ 響歌きょうか18歳・女性

以上二名の高校生です。

搬送時、二名とも自発呼吸は停止していましたが、

救急処置により換気は速やかに回復し、現在のバイタルサインは安定しています。

脳構造、脳血流、神経伝導速度、脊髄反射、末梢神経活動——

いずれも“損傷なし”。

血液検査、ホルモン値、代謝指標も基準範囲内。

つまり、身体的には“どこも壊れていない”。

しかし——」

主任医はモニターを指し示す。

「大脳皮質活動は 0%。

意識層波形は完全に消失しています。

昏睡でも脳死でもありません。

脳は正常に機能しているにもかかわらず、

“意識を司る層だけが抜け落ちている”状態です。

小脳・脳幹は生命維持レベルで稼働していますが、

大脳の“主人”が不在のため、

神経系全体が“待機状態”に入っています。

医学的には——

『意識の脱落ディスロケーション』としか言いようがありません。

以上、現状報告です」


「ありがとうございます。

ご質問ありますか?

それでは、つづきまして技術班お願いします」


技術班の主任が資料を投影する。

「搬送時のログから確認できた生体同期モニター上の“二重の波形”の重なりについて、

“意識層波形の同期”は、依然として原因が特定されていません。

過去の事例等を見ても該当事例がありませんでした。

二人の意識について、オリエンテーションの会場内に意識等の残滓は発見できなかったので、二人の意識は……深層域又はさらに下、“最深層”に落ちた可能性があります」

会議室がざわめく。


「そもそも、どうやって……?」

主任医が手を上げ、静かに制した。

「……もう一つ問題があります。

搬送前、二人のエコーが、完全に沈黙した状態でした。

技術班の方、そちらの報告もお願いします」


会議室の空気が一段階重くなる。

「2人のエコーですが、本体であるスマートフォンからエコーに関するログが全て消えておりました。ログ削除について、エコーが主人から離れていくというのは考えにくいので、主人の意向又は第三者によるハッキングの可能性が高いです。

通常なら、エコーは主人の意識を追跡し、ログを残すはずですが……」

技術班が言葉を継ぐ。

「ログが……ありません。

まるで“誰かに消された”ように、痕跡が途絶えています」

「……外部からの干渉の可能性は?」

「現時点では否定できません。

ただし、痕跡が綺麗すぎるので・・・

人間のハッキングではありえない精度です」


そこで、チームリーダーである高梨たかなしのエコーが報告をする。

『マスター、いま管理部から依頼していたかがり 行燈ゆきひと北川きたがわ 響歌きょうか両名の成人検査の結果報告が届きました。』


「ありがとう、モニターに映してくれ」

エコーが静かに頷くと、

会議室の照明がわずかに落ち、

大型モニターに二つのファイルが展開された。


映し出された内容を見て技術班の一人が息を呑んだ。

「……これは……」

別のスタッフが画面に顔を寄せる。

「二人の共鳴値……高すぎませんか……?

いや、これは“高い”というレベルでは……」

高梨たかなしが眉をひそめる。


「なんだ……これは……」

技術班主任が震える声で答えた。

「……平均値を遥かに超えていまね。

かがり君の“人間共鳴”は、

通常平均値の 4倍。

北川きたがわさんの“社会的共鳴”は 3倍……」

「成人検査でこんな数値……聞いたことがない」


会議室がざわめく。


――――――――――――――――――――――――


海風漂う雰囲気の中、ロングソファにもたれ掛かり、

黒い人型の竜は笑みをたたえながら、コハクに目を向け、壊れた玩具おもちゃのように軽やかに言葉を奏でる。

「ああ~

これは通過儀礼のようなもんだから

気にしないでね~

君のご主人だって、見ず知らずの“挙動の怪しいオッサン”が近づいてきたら避けて通るでしょ。

眼をあわせないよね~

あれといっしょだから」


『オッサンてっなによ……あなたねー、

いまの状況わかって言っているのよね?』

既に長いやりとりが続いていた。

コハクも少しあきれながら、この不毛な会話が続くのか、少し不安をおぼえる。


「まあほら、これで僕も君のことが、良くわかったし

しかし、君はあれだね~

会話のハードルを下げるのがうまいね~

僕のことを“あなた”なんて呼べる人、そうそういないよww

さすが猫系だよね~

ホント困るんだけどww」

御影みかげはケラケラと笑い、軽やかに手を振った。

しかしその瞳だけは、

コハクの輪郭を“観測”するように静かに見つめていた。


『それではマスター

そろそろ本題に移りたいと思いますがいかがでしょうか?』


「さすが、ルミナ♡だね。

もう、いいか。

それじゃあ、本題に移るとするかな」

御影みかげがルミナに視線を移し頷くと、

ルミナは打ち合わせ通りという感じで二匹に対して説明をはじめる。


『まずあなたたちに、“最深層域アクセス権限2”を付与します。

それと、私と同等の意識に関するAI補助を与えます。』

ルミナの言葉が終わると同時に、ゲンとコハクの周りを光の輪が通過する。


「君たちホントにラッキー。異例だよ。

こんなこと、普通ないから。


意識はね、並列思考なんだよ。

同じ動作を並列でわざわざやってさ、こう“ドド―”って

そこから来る波を最大限に盛り上げてくれるんだよね。

まあ、そんな波も、この世界じゃあまり意味がないんだけど。

ただね、意識補助はなにかあった場合は、外してね。

君たちの場合、動作が遅くなっちゃうから。


——さて。

ここからは“遊び”じゃないからね。」

海風のような柔らかさが消え、

最深層特有の“音のない圧”が部屋を満たしていく。


『そもそも、こんなところに遊びにくるはずないでしょうよ』

ルミナも姿勢を正し、

ゲンとコハクは無意識に背筋を伸ばした。


御影みかげはゆっくりと二匹を見つめる。

「君たちのご主人——

行燈ゆきひとくんと

響歌きょうかちゃんの魂について、まず最初に伝えておくべきことがある」

コハクが息を呑む。

ゲンは静かに頷いた。

御影みかげは淡々と、しかしどこか嬉しそうに告げた。


「——二人は、

今も“最深層”のどこかにいるよ

ただ、誰とも繋がっていないんだ。」


『繋がっていない?』

コハクは疑問を持ちながら答える


「そう。この仮想世界では、情報が全てなんだけど、

基本的にその全ては何かと繋がっているの。

―――繋がっていない情報というのは、そこに無いのと同じことなんだ。

繋がりはこの世界での存在意義であって、繋がりがない情報は自然と消えていく運命にある。

情報は、どこかで他者と認知し合いながら存在を保っているということだね」


『わたしのデータ範囲ではよくわからないわね。

―――ゲンはその辺、理解しているの?』

『はい。私は深層域についてのデータを学習済みなので理解しております』


不思議がるコハクに対してルミナが補足をする。

『これは少しとらえにくいのですが・・・

現実世界でも同じようなことが言えます。

―――人間は、他者と繋がりが薄くても実際生きていくことはできます。

ただし、それはあくまでも地球の中にいればということです。

地球という命のコミュニケーションの中にいる限り生存は可能ですが、

―――宇宙にいったらどうでしょう?

現在、遺伝子操作を受けた人間が火星移住プロジェクトを進めていますが、

彼らでさえ、なにも無い宇宙空間に投げ出された場合、その命はもって1日です。

―――仮想空間内でも同じことが言えます。

例えて言えば

深層域は、地球の表層を周回する宇宙ステーション。

最深層については、宇宙空間のようなイメージになります。

情報密度が非常に低いエリアになりますから、通常どちらも限定空間内での活動がメインになり、限定空間を出る場合は、必ず何かと繋がった状態でないと、情報空間の闇に投げ出されてしまいます。

情報空間内で投げ出された状態を“漂流ドリフト”といますが、“漂流ドリフト”となった場合、そのエリアの情報密度がどのくらい濃いかで発見される可能性がわかれます。

そして、発見されず漂流ドリフトが継続すると、その情報は散り散りとなり飛散して無となります。


『……つまりあの二人、

“宇宙空間に放り出された”みたいな状態ってこと?

繋がりがないと存在が消える?

情報が散って……無になる?

そんなの……』

コハクの声には、

記憶の奥にかすかな震えが混じっていた。


その揺らぎを見た御影みかげは、先ほどまでの軽さを完全に消し、

黒竜の瞳を静かに細める。

「うん。

ただし——」

言葉の温度が変わる。

「間違いなく二人の魂は、まだ“問題なく生きている”。

これは確信を持って言えるよ」


コハクは息を呑む。

『……どういうこと……

詳しく教えてくれる……?』


御影みかげはゆっくりと頷いた。

その仕草は、軽口を叩くときのそれではなく、“研究者としての本気”に切り替わった証だった。

「いいよ。ここからが本題だからね」

黒竜は、どこか魔法使いめいた怪しげな笑みを浮かべ、指先で空気をなぞるように語り始めた。


「“意識いしき”っていうのはね、

たましい”と“記憶きおく”のかたまりなんだよ」

御影みかげは軽やかに手を振りながら続ける。

「現実世界では、卵子と精子が受精して“うつわ”ができる。

うつわ”はね、情報の受信機であり、発信機ね。

そしてその瞬間、そこに“たましい”が宿るんだ。

すごいよね。これが新しい生命の誕生だよ!」

説明をしている御影みかげはまさに魂に魅せられた狂気そのものである。


「“たましい”はまず、体という感覚器官を通して

温度、音、光……いろんな情報を吸収していく。

それが“記憶きおく”だね。

たましい”と“記憶きおく”が重なって、

はじめて“方向性を持った“意識いしき”になる」

御影みかげは指をひらひらと動かしながら、

まるで目に見えない層を積み上げるように説明を続けた。


「子どもは産まれてから、

情報過多の現実世界を“感情”として受け取り、

記憶きおく”をどんどん“たましい”の周りに積み重ねていくの。

そして一定量が溜まると“自我じが”が生まれる」

「“自我じが”が出てくると、

人間は“個としての方向性”を持ち始める。

この“方向性”の多様さこそが、

他の動物とはまったく違うところなんだよね」


御影みかげはそこで一度言葉を切り、コハクの瞳を見つめた。

「でね、成長して、老いて、死ぬと……どうなると思う?」

静寂が落ちる。

「“意識いしき”はアンカーである“うつわ”を離れていくんだよ。

まず、“たましい”の周りを覆っていた“記憶”がボロボロと落ちていって壊れていく」

御影みがけは手を開き、砂がこぼれ落ちるような仕草から指を大きく開く動作をした。

「―――ここからが重要なんだよね~

わかりやすく、量子論以前の古典的な比喩で説明すると、

たましい”はさ、数字でいうと”0“のかたまりなんだよね。

記憶きおく”は“1”のかたまりでね、

記憶きおく”は、この“0”のかたまりの周りを覆って守っている外皮なんだけど。

―――“記憶きおく”がなぜ落ちるか、わかる?

実体のない“意識”は、

誰にも認識されなくなると崩れていくんだ。

認識されない“1”の“かたまり”は“1”を維持できなくなって、”0“になっていくんだよね。

要は、この世界では“認識されないもの”は存在を保てないんだね」

「だからまず“記憶きおく”が変質して崩れ、

記憶が消えると“たましい”も方向性を失って、

やがて“0”の集合体は解体されて静かに消えていく」

御影みかげの声は軽やかだが、

その内容はあまりにも静かで深い。


「―――ホント、“たまし”って深いよね~

“0”のかたまりだよ!

理解できないよね~

“0”のかたまりってさ、“0”の数が多ければ多いほど、崩れやすいけど、逆に情報を呼び集めちゃうの。

特に行燈ゆきひと君はね、その“0”がとびきり多いのよ。」

『……どういうことでしょうか?』

話しについてこられなくなったゲンがたまらず口を開いた。


御影みかげは「ああ、そうだった」と軽く手を叩いた。

黒竜は楽しげに笑い

『そういえば君たち、

二人の成人検査の結果、まだ知らないんだよね。

―――ルミナ♡ちゃん、二人に見せてあげて』


ルミナは小さく頷き、

『承知しました、マスター。……表示します』

空間に淡い光が走り、二つのホログラムが静かに展開される。


――――――――――――――――――――――


『人間共鳴248ポイント……

なんなんですか……この異常な数値は……』

ゲンが驚きのあまり言葉を失う。

『うわ~響歌きょうかちゃん。社会的共鳴184ポイント。

―――すごーい!』

コハクは数値見ながら自分のことのように歓喜する。


『どの数値も100を超えればエリートですから、

二人の数値は、それを完全に飛び越えてますね』

ルミナが二匹の動揺をよそに冷静に説明する。


「いや~響歌きょうかちゃん

数値で見るともう将来、総理大臣候補確定なんだけどw

それよりも、やばいのは行燈ゆきひと君だよね、

ゲンちゃん。彼、モテるでしょ?」

御影みかげは嬉しそうに質問する。


『はい、小学生の頃からエコーからのお誘いがひっきりなしでした。』

ゲンが厳かに答え、コハクは戦慄を持ってその回答を受け取る。


御影みかげがチラリとコハクを見ながら、

「そうだよね。うらやましいよな~

こういうのは、猫系エコーは抜け目なく感じるから、きっと凄かっただろうねw

もう想像できちゃうから、猫ww」

コハクが一瞬目を背ける。


「彼はね、共感力と影響力が異様に高いから、君たち気をつけてあげてね

とにかく人としての共鳴力がハンパないから、失敗すると変な方向に―――」


コハクとゲンはビックっとして顔を見合わせながら思い出したようにつぶやく。

『そういえば、この前のAIライブ……補正が懸ってるにしても異様に盛り上がっていたわね』

『はい、あれは異常でした……』


「あら、AIライブやっちゃったの?

あれ僕も開発時協力しているんだけど、

18才以上は人間共鳴に反応するようにできているんだよね。

ああいうのはホント、脳に負担が大きいから気を付けてねw」


『マスター……』

「そうそう、話を戻すね。

人間共鳴と“たましい”の“0”の数は比例するんだよ。

今回、たましいの融合があったのは、おそらく行燈ゆきひと君の人間共鳴の異常値にも理由があると思うんだけど、たぶん二人の関係性にも原因があるんだろうね。

二人は付き合っているんだよね?」


『ええ、私たちエコーは、婚約設定の状態に入っていたわね』

コハクはキリリと答える。


「いや~美しいね。

愛からのたましいの融合。

まさに生命の神秘だね」

御影みかげはうっとりとした声で言いながら、

指先で空気をすくうように動かした。


『ちょっと!喜んでる場合じゃないでしょ。

早く話をすすめなさいよ!』


「ああ、そうだったw

原因はともかく、二人のたましいは融合したんだ。

残念ながら、融合時のショックで外皮の記憶はバラバラになったけど、記憶は回収ずみだよ。

ここからだよね。」

御影みかげは一人満足げにうなずく。

「―――現実世界でうつわが無くなると意識は自然と消滅していくけど、

仮想世界では、“意識”を認識できる“0”と“1”の情報として記憶しているんだよ。

認識している限り“意識”は消滅しないからね。

本当の仮想世界は、“お互いの認識で繋がった世界”ということだね。」


『……なるほどね

でも、記憶が剥がれ落ちたっていうことは危険じゃないの?』


「コハクちゃんはかんがいいよね。

そこそこ。

“0”の集合体である“たましい”は集合体としての認識は可能なんだよね。

もちろん認識されない“たましい”は崩れていって“0”単体になってしまうと、ただの情報としてのゴミになるけど。

たましい”は現実世界で、だいたい1日ぐらいは崩れないから問題ないよ。」


『ええ、1日しかないって……

……それって、大問題じゃない……』


「いや、全く問題ないよ」

御影みかげはコハクの不安をよそに笑いながら答える。


「深層域を設計したのは、僕なんだよ。

なぜ、深層域を設定したか、

そこに大問題への回答があるんだよね。

―――深層域はね現実世界と隔離された世界なんだ。

いわゆる、本物の量子の世界だね。

量子の世界でなければ成り立たない世界。

ここでは、全ての思考が一瞬で解決するから、その分、人間の感覚ではとても負担が多いけれど、“たましい”とか“記憶”にとっては安全な空間なんだよ。

特にね、この世界での認識や時間の概念は、現実世界と全く違うよね。

この仮想世界は、現実世界で認識されない限り、時間的な確定はされないから、

裸のままの二人の魂でも、時間的な制約は外されて、ひとまず安全ということだね。

いわゆる“量子もつれ”という奴だよね。

―――現実世界に発見されないということ自体が二人のたましいの保護につながるから、君たちのログを全てこちらに移してもらったんだよ」

御影みかげは軽く言ったが、

その声の奥には、深層域の底のような静かな重みがあった。


コハクは眉をひそめる。

『……ちょっと待って。現実世界で“認識されない”って、

そんなに重要なの?』

御影は指先で空気をつまむように動かし、

まるで“認識”そのものを形にして見せるかのように語った。


「重要どころじゃないよ。

認識されないものは、存在を確定されない。

これは量子論以前の古典的な比喩で言うと、

“観測されない粒子は位置が決まらない”ってやつだね」


ゲンが静かに頷く。

『……観測問題、ですか』


「そう、それ。

魂も同じでね、

現実世界に認識されなければ、ここにいる限り崩壊のカウントはほぼ始まらない。

なにしろ、この世界での時間経過は現実世界の数万分の1じゃ済まないからね。

特に何も繋がっていない二人はそういうことなのよ。

だから深層域に落ちてきてくれたことは良かったことなんだよ」


コハクは目を見開く。

『……じゃあ、

現実世界で“死んだ”と認識されたら……?』

御影は軽く首を振った。

「逆だよ、コハクちゃん。

“死んだ”と認識されると、魂は“器から離れた”と確定するだけ。

でも深層域にいる限り、崩壊のタイマーは現実世界のように動かない。時間が圧縮されているからね」

コハクは息を呑む。

『……時間が……圧縮……?』

「うん。

深層域は“量子の世界”だから、時間は“観測されて初めて流れる”。

観測されなければ、魂は裸のままでもほぼ崩れない」

ゲンが静かに補足する。

『つまり……

二人の魂は、現実世界の“1日”という制限から解放されている……?』

御影は満足そうに笑った。

「そういうこと。

だから“全く問題ない”って言ったんだよ」

コハクは胸を押さえ、小さく息を吐いた。

『……よかった……本当に……』


御影みかげはその反応を見て、少しだけ優しい声で続けた。

「ただし——

安全なのは“時間”だけ。

問題は“繋がり”と、また別の崩壊要素もあるんだよね。」

コハクとゲンが同時に顔を上げる。

御影みかげは瞳を細め、ゆっくりと告げた。


読んでいただきありがとうございます。

以下、第11話の曲になります。

本文中では入れていない、御影みかげが深層世界に落ちてきた理由を曲中にて紹介しています。

https://suno.com/song/9b6d869d-987f-4811-821b-e532b09a7793


第11話、意識を記録するための仕組みを設定するだけの回になってしまったので、だいぶ細かい話になってしまいました。

仮想世界での意識の移行。

個人的には是非一度行ってみたい場所ではあるので、私なりの展開で表現をさせていただきました。

まだまだ、想像は膨らむばかりなのですが、楽しみながら書いていきたいと思います。

本年、お付き合いいただきありがとうございました。

皆さま来年もよろしくお願いいたします。


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