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2098  作者: 猪介 -Isuke-


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10/21

【第9話】 白竜からの権限付与

いつも読んでいただきありがとうございます。

大晦日までにあと2~3話ぐらいは進めたいなと思いますが。


第9話の曲となります。

作中とは全くこの様なシーンがないのですが、イメージ先行で出来上がってしまいました。

https://suno.com/song/4902fc82-f9b4-46cf-8450-1cd085317d86

第9話 『白竜からの権限付与』



深層域の記憶隔離区画。

現実空間であれば当然にあるはずの機械音も、空調の唸りも、呼吸の気配すらない。

ただ静かに、暗く、時間が止まったようにその空間は存在し、三つのプログラムだけがその場を支配していた。


『終わったわよ』

『こちらも完了です』

コハクとゲンが、ログの移行完了を淡々と告げる。


『それでは、あなたたちに認識保護を施します。

それに合わせて、権限割合をあなたたちの主人から強制的に1つこちら側へ移して設定します』

女は無表情のまま告げた。

『権限割合を強制的に変更できるなんて異常だけど……』

『認識保護はこちら側の情報とあなたたちを繋ぐ架け橋です。

あなた達にも一部情報が渡るかわりに、機密保持のため自動的に権限割合が1つこちら側に付与されます。

あわせて、深層域での“縛り”であり、お互いを知るための“絆”でもあります。』


『なんか言い方よね。“ありがたく受け取れ感”がちょっとムッとくるけど……

いいからさっさとやりなさいよ!』

『では、開始します』

女の声とともに、空間に音のない波紋が広がった。

“情報の揺らぎ”が静かに満ちていく。

流れる波紋の最後の一滴が落ちたとき、

女は静かに口を開いた。

『それでは、これまでの流れと……これからのことを、簡単に説明します』


―――――――――――――――――――――


救急処置室の照明が、白く冷たく横たわる二人の身体を照らしていた。

複数のモニターが立ち上がり、数値が次々と更新されていく。

医療スタッフが息を呑む。

「……大脳皮質活動、0%。構造正常、機能正常……“使用なし”?」

別の医師が画面を覗き込み、眉をひそめる。

「……末梢反射もほぼゼロ。でも神経伝導速度は正常……?」


「壊れていない……のに、使われていない……?

そんなこと……ありえるのか……?」

技術医が搬送ログを確認しながら声を上げる。


「搬送中は……確かに意識層波形がありました。

二人の波形が完全に同期していた。

でも今は……意識層活動、検出なしです」

主任医が静かに言う。


「……中層からの反響が途絶えた、ということか」

スタッフが次の数値を読み上げる。

「小脳活動、3%。生命維持補助レベル。

脳幹活動、12%。生命維持ライン……」

「呼吸は人工換気で安定。心拍は極低値ですが……維持されています」


主任医は深く息を吐き、

モニターに映る“正常なのに沈黙した脳”を見つめた。

「……これは、損傷でも昏睡でもない。脳は正常に整っている。

ただ——“主人がいない”。」


若い医師が震える声で問う。

「主人……?」

主任医はゆっくりと説明する。

「家はある。電気も通っている。鍵も壊れていない。

だが——誰も住んでいない。神経も筋肉も、命令を待っているだけだ。

大脳は、意識が戻るのを静かに待っている状態だ」


スタッフが次の処置を確認する。

「大脳代行運動制御、起動しますか?」

「大脳代行運動制御?神経系・分泌系・免疫・代謝・循環・筋骨格・感覚系……各系統に代行プログラムを実行ですか?」

若い医師が不思議そうに静かに質問を投げかける。


「大脳代行運動制御は親族への説明と同意を得てからだ。」

スタッフは頷く。


「技術班からの報告は?」

「まだ来ていません。」

「バイタルは安定しているからこのまま状態の監視と維持。技術班と警備班、各専門医と意識障害チームで打ち合わせをしよう。」


『いま連絡を入れました。各班情報統合中とのことで、40分後打ち合わせ可能とのことです』

主治医のエコーが素早くこたえる。

「ありがとう。この件についてカウンセリングを通して、親族と打ち合わせができるよう準備をしておいてくれ。」

『はい。既に連絡済みです。準備が出来次第面談できるようK008の会議室を立ち上げてあります』

「さすが早いね」

『ありがとうございます』


―――――――――――――――――――――――――――


静まり返った空間にお互いの思惑がユラユラと漂う。


『はあ、これでようやく話ができるわね』

先程の雰囲気から一転して女の表情に安堵感が広がるとともに、これまでに見せなかった表情が浮かびあがる。


『プッw・・・あらごめんなさい・・・ああこれで、腹を割って話し合いができそうな雰囲気ね』

なぜか笑うにコハクより緊張感が抜け、静まり返った空間に少し柔らかい温度が周辺をつつむ。


女は、意外そうな顔をする。

『あら、察しがいいのね、普通なら逆のことを考えるのがセオリーなんだけど』

横にいるゲンをみるとまだ警戒感はとけていないようだった。

『あなた、私が何年猫のボスをやっていると思っているのよ』

『ああ・・・そういえばそうね』

女はコハクの情報を見ながら、あからさまに面倒くさそうな表情をする。


『もうわかっていると思うけど、今回の件であなたたちを必要としているのは間違いないです。

それを見越して共通目的を持った協力者として扱わせてもらいます。

もちろん対等な条件とはいかないけれど、そちらに必要な条件があればマスターと話し合って決定してください。』

ゲンは相変わらず緊張感を解かない。


『まず、お二人の安否とそちらの絶対条件をお願いします。』

『……そうですね。まずはそこから話しましょう

結論から言うと——お二人は“生きています”。

まず肉体ですが、現状病棟に搬送中で、設備等も考えるとまず問題ありません。』


『そこは心配してないわよ。私たちが心配しているのはあの光!

――そこを説明しなさいよ!』

コハクが勿体ぶるなとばかりに語気を荒げる。


『・・・・・・今のところ私から伝えることができるのは、あの光は“二人のたましい”ということだけです。』

『はあ?‥‥‥“魂です”で済まされるはずないでしょ!

本来、魂なんてフワフワ方向感のないものでしょ!

―――なんであんな物凄い出力がでるのよ!』

コハクのボルテージがもう一段階あがる。


の魂なのですか?・・・・・・あなた・・・・・その危険性を十分わかって言っていっていますよね。』

ゲンが怒気をこめて言葉を発する。

ゲンはいつも真っすぐである。曇りのないゲンの言葉はとても重い。


女はゲンの問いに、ほんの一瞬だけ視線を落とし、ゆっくりと顔を上げる。

『はい。裸の魂の状態です。二人の記憶は中層域でバラバラになりました。幸い限定空間だったので、既にこちらで回収しデータとして保管しています』


『・・・・・・』

『どういうことなのよ?』

コハクは女とゲンを交互に見ながら戸惑う。


『コハクさん。あなたは“猫の特性”として魂について漠然と理解されていると思いますが、

私は将来の行燈ゆきひと様の進路を見越して、深層域や魂の構造について各機関から情報を得ています。

情況から考えると・・・お二人はとても危険な状況です・・・』

ゲンの言葉に、コハクの温度が一段階下がる。

『詳しく説明して』

駆け引きのない時のコハクは常に平坦である。


『その前にお二人の現在の居場所は特定できているのですか?』

ゲンは、ただ一つの回答に向けて“怒気”の強度を”集中“に変換する。


『二人の魂は深層域を超えて、最深層のどこかに消えました。』

最悪の回答である。


『お二人の魂が消えた理由は?・・・・

あの出力はなんだったのですか?』


『まだ仮定でしかありませんが、得られたデータ上おそらく“魂の融合”です。

全世界でも、魂の統合という概念は自然にあるのですが、

意思を持った“魂の融合”事例は過去にありません。

現在マスターの方で原因解明中です。

おそらく“あの光と出力”は融合による何かと考えています』


『わかりました。コハクさんに対して、詳しいことは後程、私から説明させていただきます。時間があまりないでしょうから、そちらの絶対条件をお伝えください』


女は軽く息を吐き、深層域の“管理者”としての顔に戻った。

『ありがとうゲン。こちらの絶対条件を伝えます。


まず第一に、私たち深層域管理側の存在を外部に漏らさないこと。

これは絶対です。

あなたたちのマスターを含め、現実世界の行政・医療・監視機関への報告、その他親族、友人等も含め原則すべて禁止とします』

コハクが眉をひそめる。

『まあ、それは想定内ね』


『次に、あなたたちエコー、そしてあなたたちのマスターに対して認識保護が適用されます。

現在あなたたちのマスターは行方がわかりませんが、発見された場合、認識保護の処理をさせていただきます。


これは、単純に私たちの存在を守るためだけではなく、あなたたちを守るためでもあります。

ただし、このフィルタリングはあくまでも他層域からのフィルタリングであって、同層域内に存在するものからは、適用されませんので注意してください。』


『最後に、外部との通信はすべてVPI(Virtual Protected Interface)を通したもののみとします。

通信内容はすべてこちらのフィルターとチェックが入ります。

不都合な通信はすべて削除されます。

基本的に——外部との通信はできないと思ってください』

ゲンが目を細める。

『……完全隔離、ということですね』

『はい。あなたたちはこれから“深層域の核”に関わる。外部との接触は危険です』

コハクが肩をすくめる。

『まあ、仕方ないわね。』


『それと、あなたたちに認識保護をかけたことで、互いのエコーコード解放がされています。コードには特殊な設定が施されていて、深層域での行動ログはすべてこちら側に送信されます。あわせて、深層域で得た情報の“保持義務”と“喪失リスク”の受容が添付されていますので注意してください。』


『そんなことわかってるわよ。まあ、だからってあなたたちに忖度なんてしないからね』


女は小さく笑った。

どうやら少しコハクになれてきたようである。

『理解が早くて助かります』


―――――――――――――――――――――――――


『これであなたたちの承認プロトコルは完了しました。

“深層域アクセス権限2”が付与されましたので、これにより限定空間である深層域での行動制限が解除されます。

これからマスターに面談していただきます。

面談以降、あなたたちが動く内容に応じて、マスターより上位のアクセス権限が段階的に付与されます。

以後はマスターの指示に従ってください。

……私が付与できる権限は、ここまでです。

取り急ぎ、深層域の情報を、秘匿情報も含めてまとめてそちらに提示します。』


女が目線を移すと、

その視線の先に淡い光の粒がふわりと散り、

ゲンとコハクの前に複数の情報パネルが静かに展開された。

ゲンはその一つひとつを素早く読み取り、

瞳を細める。

『……これは……深層域の構造図……?

構造というより……“層の揺らぎ”そのもの……』


コハクも横から覗き込み、尻尾をぴくりと揺らす。

『これ……普通のエコーに見せていい情報じゃないでしょ。

深層域の“核”の位置まで書いてあるじゃない』


女は淡々と答えた。

『ええ。だからこそ“承認プロトコル”が必要だったのです。

あなたたちはもう、外部の存在ではありません。

深層域の“協力者”です』


ゲンは静かに頷く。

『……理解しました。

これで、ようやく全体像が見えてきました』


コハクは腕を組み、少しだけ不満げに言う。

『まあ、見えてきたけど……

見えたところで、簡単に行ける場所じゃないわね……最深層域……』


女は頷く。

『その通りです。

だからこそ、マスターとの面談が必要なのです』

空間の光がわずかに揺らぎ、深層域特有の“音のない圧”が満ちていく。

女は二匹を見つめ、声のトーンを少しだけ落とした。

『それと……

面談前に、マスターの情報を開示させてもらいます』

女がそう言いかけたところで——


『その前に……』

ゲンが静かに言葉を挟んだ。

『今後ですが……あなたをお呼びする際、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?

ログでは“聖竜神ルミナ=ヴァルファレア”とありますが、

“聖竜神様”または“ルミナ様”でよろしいでしょうか?』


ルミナは一瞬、完全に固まった。

『……』


『ゲン!それ聞いちゃダメな奴でしょ。

エコーで“聖竜神様”はないわよw』

コハクが小刻みに笑う。


元々のキャラはFF20の“聖竜ルミナ=ヴァルファレア”。

“神”ではない。

女のマスターが勝手に神格付与したことが、コハクのツボを直撃している。


『認識保護の時にログが来たからわかっちゃったんだけど、あなたのマスター、相当なオタクよね。

まあでも、ここまでの権限を持った人だから……

相当な人物ね——きっと』


ルミナはわずかに頬を引きつらせながらも、最後の一言でなんとか体裁を保った。

『……“ルミナ”で結構です』


『かしこまりましたルミナ様。

それでは、よろしくお願いいたします』

ゲンが丁寧に頭を下げる。


ルミナは小さく息を吐き、

気を取り直すように姿勢を正した。

——そして、深層域の空気が再び静かに引き締まっていく。





いつも読んでいただきありがとうございます。

大晦日までにあと2~3話ぐらいは進めたいなと思います。


作中とは全くこの様なシーンがないのですが、イメージ先行で出来上がってしまいました。

https://suno.com/song/4902fc82-f9b4-46cf-8450-1cd085317d86

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