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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード⑲:ネクサスへの帰還

色とりどりの看板が軒を連ね、行き交う人々の穏やかな笑い声が響く歓楽街。朝の活気とは違った、午後の少しけだるい賑わいが街を包んでいた。


レオとルナは、のんびりとした足取りで石畳の道を歩いていた。


ルナが不意に、残念そうに呟いた。


「アリシアさんも、ゼロスのやつ誘って街に遊びにくればいいのにねぇ」


レオは突然の話題に、少し驚いて振り返った。


「な、何を突然…」


ルナは悪戯っぽくニヤリと笑った。


「アリシアさんの瞳を見れば、一目でわかるじゃん?アリシアさんがゼロスの事を好きなのなんて…」


レオは苦笑いを浮かべた。その指摘は、彼にとっても周知の事実だった。


「まぁ、そりゃそうだけど…」


ルナは驚いて目を見開いた。


「おっ!?レオも気付いていたか!!やっぱゼロスが鈍いだけなんだよなぁ…」


レオは肩をすくめた。


「あはは…まぁね」


ルナは腕を組んで、ふむ、と考え込むような表情を浮かべた。


「パーティ内恋愛とかギスギスするからホントは嫌なんだけど、まぁ、アリシアさんとゼロスならお似合いかなぁ………」


彼女はふと、レオの方を穴が開くほど見つめた。


「そいや、レオって好きな人っているの?」


レオは一瞬動きを止めた。その心臓が小さく跳ねた。


「………え…あはは…どうなんだろうねぇ」


視線を泳がせ、曖昧に笑って誤魔化した。


ルナはそれを都合よく勘違いして、慌てて声を上げた。


「ま、まさかレオはアリシアさんの事を!?」


レオは即座に、強く否定した。


「ないない…それだけはない…」


ルナは不思議そうに首を傾げた。


「はー?アリシアさん綺麗だと思うんだけどなぁ…」


レオは少し照れくさそうに答えた。


「綺麗な人だとは思うけどね…ただ好みの問題があるから…」


ルナは残念そうに頬を膨らませた。


「ちぇ…まぁ、いいや。今度レオの好きな人教えてね?あたしも幼馴染として気になるからさっ!!」


レオは諦めたように笑った。


「はいはい…」


ルナは満足したのか、楽しそうに前を向いて歩き始めた。その背中を見つめながら、レオは心の中で静かに呟いた。


(…はぁ…ルナは人の事を鈍いとかいうけど、キミも大概鈍いんだけどなぁ)


少し離れたところで、ルナが振り返った。


「レオ?ぼーっとしちゃって、どうしたの?置いてっちゃうよ」


レオは慌ててその想いを笑顔の裏に隠し、歩き出した。


「あ、うん。今行くよ」


午後の日差しが、二人の影を長く石畳に伸ばしていた。


歓楽街の賑わいの中、幼馴染の二人は、互いの想いに気付かぬまま、ただ並んで歩いていった。


その頃、エメルダの客室では。


エメルダは偉そうに椅子に座ったまま、腕を組んでいた。


「さて…ルーメンの仕事も終わったし、ネクサスに帰るとするか…」


アリシアは嬉しそうに頷いた。


「そうですね!なんだか長い間ネクサスから出ていた気がしますので、帰るのが楽しみですね」


その言葉に、ゼロスは途端に顔を曇らせた。


「うぁ…また船旅か…」


あの地獄のような船酔いの記憶が蘇り、顔色が悪くなった。


エメルダは少し考え込むような表情を浮かべた。


「船旅か、まぁ、それも悪くないか…」


その時、傍らに控えていたお付きの魔術師が、血相を変えて、しかし遠慮がちに口を開いた。


「エメルダ様…!差し出がましいですが、のんびりと船旅を楽しむ時間はございません…!」


ゼロスが疑問の表情を浮かべた。


「あん?エメルダは転移門使ってきたのか?」


エメルダは当然だという顔で答えた。


「当たり前だろう。我がギルドの所有物だ」


ゼロスは深いため息をついた。


「ま、そりゃそうか…俺たちは支払うだけの魔核なんざ持ってないから、のんびり船で…はぁ…また酔っちまうなぁ」


エメルダが鋭い視線を向けた。


「ゼロス。お前魔核持ってるだろう」


ゼロスは少し戸惑った表情を浮かべた。


「持ってるが…」


彼は救出任務時に集めていた魔核を思い出した。


「いくつある?」


「…ざっと20個くらいか」


エメルダは有無を言わさぬ態度で手を差し出した。


「寄越せ」


ゼロスは驚いて声を上げた。


「はぁ!?」


「それだけあれば、十分だ。それでお前ら4人分まとめて起動させてやる」


アリシアが不思議そうに尋ねた。


「…因みに、エメルダさん達も起動の為の魔核をお持ちで?」


お付きの魔術師が言葉に詰まった。


「…それは…」


エメルダは涼しい顔で答えた。


「我々はそんなもの使わん」


ゼロスが疑いの目を向けた。


「はぁ!?まさかぼったくろうってんじゃ」


エメルダは呆れたように首を横に振った。


「勘違いするな、対価は必要だ。起動に必要な魔素がな。我々は魔術師だ。自身の魔素を対価に払う」


アリシアは驚いて声を上げた。


「…通常はCランクの魔核500個くらい使うんですよね…そんな膨大な魔素をみなさんもたれているんですか…?」


エメルダは当然だという顔で答えた。


「まぁ、私特製の魔素ポーションを5本も飲んでもらえば、自分達が転移するだけの魔素は充填できる」


ゼロスは感心したように呟いた。


「あれって、そういう仕組みだったのか…」


アリシアは同情の表情を浮かべた。


「…あれを5本も…」


彼女は、お付きの魔術師に深く同情する視線を送った。


お付きの魔術師は沈黙を守りながら、目を伏せた。その表情には、言葉にできない苦悩と諦観が滲んでいた。


ゼロスが何気なく呟いた。


「エメルダの魔素ポーションは苦いらしいからなぁ……その点、レオのは…」


アリシアも同意するように頷いた。


「…甘くてさっぱりしてて飲みやすいんですよね、なんでしょうアレは…」


その瞬間、お付きの魔術師が、顔を上げた。その目に、微かな希望の光が宿った。


「!?」


エメルダはお付きの魔術師の反応に悪態をつきながら答えた。


「…私は、ある程度作れるだけで本職ではない。魔素の吸収効率は同じでも、純度が違うんだろうよ。蜂蜜でも入れてるんだろうが、私のにそんなものを入れたところで、余計に飲みにくくなるだけだ」


ゼロスは感心したように呟いた。


「…レオはすげぇなぁ…本業につけば、食うに困らなさそうだけどな」


エメルдаは遠い目をした。


「…あいつにはあいつなりの目的でもあるんだろうさ」


彼女はレオと二人で呑んだ日の事を、ふと思い出していた。


エメルダは話題を変えた。


「…まぁ、いい。レオを呼べ。余剰の魔素ポーションを買い取ろう。上級1本金貨50枚でどうだ?」


アリシアは驚いて声を上げた。


「ご…50!?」


ゼロスは肩をすくめた。


「まぁ、そこはレオが決めることだろ。アリシアさん、頼むよ」


ゼロスは通信石をアリシアに渡そうとした。


アリシアは驚いた表情のまま呟いた。


「魔素ポーションってそんなにするんですね…」


ゼロスは当然だという顔で答えた。


「そうだぜー、上級なんかは比較的作りやすいって言われる回復ポーションでも1本金貨30枚はするからなぁ」


アリシアは目を丸くした。


「そ、そうなんですね…」


彼女は通信石を受け取ると、魔素を込めた。


通信石を通じて、ルナに話しかけるアリシア。


しばらくして、通信石からルナの声が返ってきた。その声は、街の散策を中断させられたことへの不満を含みつつも、渋々戻るといった具合の返答だった。


窓の外では、午後の日差しが傾き始めていた。


レオとルナが客室に到着すると、レオは呼び出された理由を聞き、少し戸惑った表情で尋ねた。


「僕の魔素ポーションを買い取りたい、ですか?」


エメルダは真剣な眼差しで頷いた。


「そうだ。何本持ってる?」


レオは自身のポーション鞄を開いた。中には、美しい透明度を持つ様々な色のポーションが、まるで宝石のように整然と並んでいた。


「えーと…上級・中級・初級20本ずつ持ってますけど」


エメルダは椅子から立ち上がり、ポーション鞄を間近に見た。ギルド長の鋭い鑑定眼が、その液体に向けられた。その瞳が、驚きに見開かれた。


「…純度がどれも素晴らしいな」


レオは照れくさそうに頭を掻いた。


「…あはは…ルナがこうでもしないと飲めないんで…」


ルナが当然だという顔で胸を張った。


「当然でしょ!流通品の魔素ポーションなんか、苦いはドロドロしてるわで飲みづらいったらありゃしないんだし!」


エメルダはルナの言葉を聞き、真剣な表情で尋ねた。


「…これをルナは常用してるのか?」


ルナは不思議そうに答えた。


「魔素尽きた時はそりゃぁ…って師匠なんですか?その顔は?」


エメルダはぞっとした表情を浮かべていた。


「蒸留工程に通常品とは桁違いの手間がかかってる一品だ…普通なら流通品の倍の金額はするぞ」


ルナは驚いてレオを振り返った。


「…そうなの?レオ?」


レオは首を傾げた。


「…さぁ?売ったことないから、わかんないかな…あ、でも路銀が足りなかった時は売ると結構な金額で買い取ってもらえてたかな…?」


エメルダは呆れた顔で尋ねた。


「レオ…上級ポーション20本をいくらで売ってくれる?」


レオは少し考えて答えた。


「え…そうですね…エメルダ様には、うちのルナがお世話になるので、素材代だけで…」


エメルダは深いため息をついた。


「…ゼロスの周りにはお人好しが集まるのか…やれやれ…」


エメルダは白金貨が入った革袋に手を伸ばすと、中から10枚の白金貨を取り出した。


「安いだろうが、受け取っておけ」


ルナは目を見開いた。


「は、は、はは、白金貨ですと!?」


レオも驚きを隠せない。


「こ、こんなのいいんですか!?」


エメルダは強引にレオの手に白金貨を握らせた。


「…いいから受け取っておけ…普通なら白金貨20枚は支払うべき一品だ…そもそも市場にこんなものが出回ることがないから、もっとするかもしれんが…足りない額は私直々にルナに魔術の魔素コントロールを伝授することで許せ」


レオは感謝の言葉を探していた。


「い、いえ…僕のポーションにこんな値段をつけてもらって、なんと言えばいいか…」


アリシアは感心したように呟いた。


「レオさん…凄いですね…これならお店開いたら一気にお金持ちに…」


ゼロスは苦笑いを浮かべた。


「…いや、たぶんSランク専属錬金術師で普通に豪華な暮らしできるぜ…」


ルナは呆れた顔で呟いた。


「つまり、レオは今実質タダ働きと…」


ゼロス、アリシア、ルナの三人はレオをじっと見つめた。その眼には、憐憫と申し訳なさが含まれていた。


レオは慌てて手を振った。


「や、やめてくれ…僕は別に好きで作ってるんだから、そんな目で見ないでくれ…」


エメルダは満足そうに頷いた。


「…さて、話は纏まったな。シェルと連れてきた魔術師を集めろ。帰還の時間だ」


お付きの魔術師は恭しく頭を下げた。その声には、心なしか安堵の色が混じっていた。


「承知致しました」


そう返事して、お付きの魔術師は早々に部屋を出ていった。


ルーメンの転移門前には、ゼロス達とエメルダ一行が集まっていた。


巨大な石造りのアーチが、古代の魔法陣を刻みながら、静かに佇んでいる。


シェルが腕を組んで呟いた。


「しっかし、スタンピード殲滅とはいえ、あっという間だったな」


ゼロスは苦笑いを浮かべた。


「エメルダがいなかったら、俺たちだけじゃきつかったなぁ」


エメルダは得意げに胸を張った。


「当然だろう。私がいなければ、一般人にも死傷者が出たであろうな」


アリシアが心配そうに尋ねた。


「ルーメンの街は…大丈夫でしょうか」


ルナが明るく答えた。


「大丈夫でしょ!なんたってスタンピードを乗り越えたんだし!」


レオも頷いた。


「それに、ローラン騎士団長もアウレリア様も、騎士団の復興に全力を尽くすでしょうから」


エメルダのお付きの魔術師が、ゼロスから受け取った魔核を転移門の魔法陣に配置し始めた。魔核が、淡い光を放ち始める。


シェルがゼロスに声をかけた。


「なぁ、ゼロス。また組む機会があったら、声かけてくれよ」


ゼロスはニヤリと笑った。


「おう、その時は頼むぜ」


ルナがアリシアに囁いた。


「アリシアさん、セリーナさんとは和解できて良かったですね」


アリシアは穏やかに微笑んだ。


「ええ…あの時は驚きましたけど…でも、私の選択は変わりませんから」


ルナはニヤニヤしながら呟いた。


「そりゃそうでしょうねぇ~」


アリシアは顔を赤らめた。


「ル、ルナさん!?」


エメルダが転移門を見つめながら呟いた。


「やれやれ…ユニークモンスターには会えなかったが、楽しめたから良しとするか」


エメルダは振り返り、お付きの魔術師たちに声をかけた。


「さて、では充填作業だ。レオから買い取った魔素ポーションを配れ」


お付きの魔術師は恭しく頭を下げると、鞄からレオ製の魔素ポーションを取り出し始めた。透明度の高い、美しい琥珀色の液体が小瓶に入っている。


エメルダと三人の魔術師たちは、それぞれ手にポーションを持った。


お付きの魔術師が、覚悟を決めたような表情で呟いた。いつもの「苦行」の時間だ。


「…では、いただきます」


一斉に、魔素ポーションを口に含んだ。


その瞬間――


お付きの魔術師の目が見開かれた。


「!?」


他の二人の魔術師も、信じられないという表情で硬直していた。


お付きの魔術師が震える声で呟いた。


「こ…これは…!あ、甘い…!?しかも泥のようなどろりとした感覚がなく、スッと身体に染み込んでいく…!」


別の魔術師も感動の声を上げた。


「信じられない…こんなに飲みやすい魔素ポーションがあるなんて…!まるで高級な蜂蜜水のようだ!」


三人目の魔術師は、静かに涙を流していた。


「うぅ…今までエメルダ様の魔素ポーションも効果は素晴らしいが…やはりあの味が……!これがポーションだなんて…!」


エメルダは自分のポーションを一気に飲み干した。


「…ふむ。確かに飲みやすいな。蜂蜜の甘さと、ほのかな柑橘の香り…レオ、お前は本当に才能があるな」


レオは照れくさそうに頭を掻いた。


「あはは…ルナが飲めるように工夫しただけですよ」


エメルダは次々と魔素ポーションを飲み干していく。一本、二本、三本…


お付きの魔術師たちも、信じられないほどの速さでポーションを飲んでいった。


通常なら苦行のような魔素補給が、まるで極上のジュースを飲むかのようにスムーズだった。


五本目を飲み終えたエメルダは、満足そうに息を吐いた。


「…ふぅ。これなら何本でも飲めるな」


お付きの魔術師たちも、全員が五本ずつ飲み終えていた。その表情には、満足感と深い感動が浮かんでいた。


エメルダは転移門に向かって両手をかざした。


「では、充填を開始する」


彼女の身体から、膨大な魔素が溢れ出した。青白い光が彼女を包み込み、転移門へと流れ込んでいく。お付きの魔M術師たちも同様に、転移門に魔素を注ぎ込み始めた。


転移門の魔法陣が、徐々に輝きを増していく。刻まれた古代文字が一つ一つ光を放ち、アーチ全体が眩い蒼い光に包まれていった。


ゼロスが感心したように呟いた。


「すげぇな…あんなに魔素を出してるのに、全然疲れた様子がねぇ」


アリシアも驚いていた。


「レオさんの魔素ポーション…本当に凄いんですね…」


ルナは誇らしげに胸を張った。


「当然でしょ!レオが作ったんだから!」


レオは恥ずかしそうに俯いた。


数分後、転移門の充填が完了した。


巨大なアーチが完全に光に包まれ、その中心に渦巻く光の門が開かれた。


お付きの魔術師が報告した。


「エメルダ様、準備が整いました」


エメルダは頷いた。


「よし、では帰るとするか」


転移門の魔法陣が眩く輝き始めた。空間が歪み、青白い光が渦を巻いた。


ゼロスが深呼吸した。


「よし…ネクサスに帰るぜ」


アリシアが隣で微笑んだ。


「はい、ゼロスさん」


レオとルナも並んで立った。


「じゃ、行きますか」


「うん!」


エメルデが先頭に立った。


「では、行くぞ」


一行は、光の渦へと足を踏み入れた。


視界が真っ白に染まり、一瞬の浮遊感の後――


彼らの姿は、ルーメンから消えた。


こうして、ゼロス達のルーメンでのスタンピード殲滅は幕を閉じ、舞台は再び自由都市ネクサスに移るのだった…

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