表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/66

追加エピソード⑱:明かされた才覚

ルーメンの街を見下ろす、ギルドが用意した最高級の客室。


エメルダは重厚な革張りの椅子に深く腰かけ、古びた魔術書を読んでいた。その顔には、無事スタンピードを制圧した安堵の表情と、それとは全く別の感情が混在していた。


「やれやれ…また出会えなかったか…」


小さく呟くその声には、隠しようのない失望が滲んでいた。ユニークモンスター。またしても遭遇できなかったことへの、純粋な戦士としての落胆だった。


傍らに控えていたお付きの魔術師が、心底呆れたように諫めた。


「エメルダ様…如何にエメルダ様と言えど、遭遇するユニークモンスターの種類によっては、命を落しかねます。御身は既に貴女一つだけのモノではありません…貴女が死ぬような事があれば、世界の存続に関わります」


エメルダは魔術書から目を離さずに、ふっと笑った。


「言ってくれるじゃないか…だがな…それでも私は、私より強い『ナニか』と命をかけて全力でぶつかってみたいのさ…」


それが戦闘ジョブの本懐だとでも言いたげな、獰猛な笑みだった。


その時だった。コンコン、と客室の扉がノックされた。


「通せ」


エメルダがお付きの魔術師に声をかけた。魔術師が扉を開けた先には――


「よぉ、エメルダ。ルーメンの連中との話は終わったかい?」


ゼロスとアリシアがそこにいた。


お付きの魔術師は、またこめかみを押さえて頭を抱えていた。ゼロスがギルドの最高権力者であるエメルダを敬称無しで呼ぶことを是正するのは、既に諦めている顔だった。


そんなお付きの魔術師の顔を見て、エメルダは愉快そうに笑った。


「ああ、終わっている。報酬の白金貨200枚も受領済みだ」


ドンッ、と重そうな革袋を机の上に置いた。革と金属がぶつかる、ずっしりとした音が響いた。


アリシアはその革袋を見て、思わず息を呑んだ。


「200枚………一生働かなくてもいい金額ですね…」


エメルダはアリシアの庶民的な反応にキョトンとした後、愉快そうに笑った。


「あはは…アリシアは、その才覚の割には随分と慎ましやかな考えをしているな」


その「才覚」という言葉に、アリシアは不思議な顔をした。


「…才覚ですか?ゼロスさんはともかく、私に才覚なんて…」


ゼロスは、アリシアから「才覚がある」と言われて、わざとらしく驚いてみせた。


「…いやぁ、照れちゃうなぁ、わかる人には俺の才能がわかっちゃうもんなのねぇ」


キャッ、と照れた素振りをして、両手で顔を覆う仕草をした。


エメルダはそれを見て、心の底からうんざりした顔をした。


「やめろ、ゼロス…気色悪い…あと、残念だが、お前は才覚という面では、正直凡才以下だ」


アリシアは驚いて声を上げた。


「…ゼロスさんがですか!?」


ゼロスは「知ってた」とでも言うように、苦笑いを浮かべた。


「へっ…だろうよ」


エメルダは真面目な顔で説明を始めた。


「ゼロス…お前の能力、筋力強化(微)の特徴は、通常の筋力強化と比べて、上り幅が狭い」


アリシアは困惑した表情を浮かべた。


「…あれで…ですか…」


今までゼロスが巨大なモンスターを粉砕してきた光景を思い出した。あの人外に近いと思われる膂力で、上り幅が狭いというのだろうか。


エメルダは続けた。


「だが、通常の筋力強化のギアは限界が3だ。ゼロス、お前、今どこまでギアをあげられる?」


ゼロスは少し考えるように天井を見上げた。


「あー…いちいち数えてないし、感覚に近いからなぁ……少なくとも10段階以上はあるが」


アリシアの目が見開かれた。


「10段階以上!?凄い才覚じゃないですか!やっぱりゼロスさんは!」


エメルダは首を横に振った。


「才覚なんかじゃないよ、ゼロスは。ただ常に限界を超えた力を引き出して、肉体が筋力強化(微)の限界反動で壊れないために、必死で抵抗してきた結果が今に至るだけだ」


アリシアは息を呑んだ。


「…あ…」


彼女は思い出した。ゼロスがいつも限界までギアをあげると、両腕から血を吹き出し、筋繊維をボロボロにしながら戦ってきた、あの痛々しい背中を。


エメルダは少しだけ優しい声で言った。


「…ま、努力と根性の才覚なら、お前の右に出る者はそう居ないだろうさ」


ゼロスはわざとらしく、深々とお辞儀をした。


「お褒めに預かり光栄でございまーす」


エメルダは呆れた顔でゼロスを一瞥すると、話題を変えた。


「次に、アリシアだ。キミは完全に才覚の塊だ。適性ジョブがヒーラーだったことを除けば」


アリシアは首を傾げた。


「…どういう意味でしょうか…」


エメルダは真剣な眼差しでアリシアを見つめた。


「アリシア…キミ、詠唱を重ねるごとに位階が徐々に上がっていることに気付いているかい?」


アリシアは驚いた表情を浮かべた。


「そ、そうなんですか…?てっきり、私の想いがスキルに反映されてるのだと…」


エメルダは少し苦笑いした。


「まぁ、それだったら美しい話だがね…キミの特性は………あー…ゼロス、耳を塞いでいたほうがいいぞ?」


ゼロスは怪訝そうな顔をした。


「あん?なんでだよ」


「努力と根性のお前が聞いたら、卒倒しそうな内容だからだ」


ゼロスは首を横に振った。


「…俺に気を遣わなくていいって。で、アリシアさんの特性って?」


エメルダは深呼吸をして、静かに告げた。


「ユニークスキル『チャージング』」


室内の空気が、一瞬凍りついた。ゼロスの目が見開かれた。


「…ユ…ユニークだぁ!?」


アリシアは信じられないという表情で呟いた。


「う、嘘…」


エメルダは真剣な顔で説明を続けた。


「本当に数十万人に一人持ってるか持ってないかの特性なんだがね…持っていたとしても、そいつが術師である事も限らない…ヒーラーというのが残念だが…初級スキルのヒーリングで重傷者を救えるだけの理由がわかっただろ?」


ゼロスは低い顔で頷いた。


「…確かにな」


彼はヒュドラの牙で死にかけたことを思い出した。あの絶望的な状況からの生還は、これのお陰だったのだ。


アリシアは不安そうにゼロスを見た。


「…ゼ、ゼロスさん…わ、私に対する見方はか、変わりませんよね?」


アリシアは動揺していた。自分が「特別」であるという事実に、ゼロスと同じ「無才能者」ではなかったことに。


ゼロスは彼女の不安を察し、苦笑いして答えた。


「あはは…大丈夫だって」


エメルダは深刻な顔で続けた。


「…ここで止まれば、ただの『天才』で済んだんだがね…アリシアには、もう1個のユニークスキルがあるみたいなんだ…」


アリシアは言葉を失った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


ゼロスも驚きを隠せない様子だった。


「…2個持ちとは恐れ入ったぜ…文献でも2個持ちのやつなんて読んだことないぜ…」


エメルダは静かに頷いた。


「………本来なら2個持っていても、ここまで噛み合う事なんて、今までなかったからな…」


彼女は深呼吸して、二つ目の才能を告げた。


「もう一つは、『チェインキャスト』だ。連続詠唱時に自動発動するもので、スキルや術の威力を雪だるま式に跳ね上げていく…ゼロス、お前はヒュドラで死にかけた事があったが、アリシアの『ヒーリング』で命を救われているな?本来、即死に近かった重症をだ。あれは『死を遠ざける』最高位スキルのレベルが必要なんだ…言ってる意味はわかるな?」


アリシアは震える声で尋ねた。


「…リ…リザレクション相当とでも…言いたいのですか?」


ゼロスは黙り込んだ。事態の重さを理解していた。


「………」


エメルダは静かに頷いた。


「…そういう事だ…才覚あるヒーラーが何年にも渡り修行して、ようやく獲得できる、あの大奇跡だ…アリシア、キミの才覚は、本来であれば、ここの大聖女アウレリアを遥かに超える才覚なんだよ…」


アリシアは混乱した表情を浮かべた。


「そ…そんな…私…私はゼロスさんと一緒の…」


一緒の「無才能者」だと言いたかった。同じ立場で、隣に立ちたかった。その言葉が、もう言えなかった。


才能の格差という、残酷な現実。


すぐそばにいるゼロスの顔が怖くて、アリシアは見ることが出来なかった。


沈黙が室内を支配した。


エメルダが静かに尋ねた。


「…言わない方がよかったかね?」


アリシアは黙り込んだ。


「………」


ゼロスが口を開いた。その声は、いつもと変わらない、穏やかな声だった。


「アリシアさん…」


アリシアは俯きながら、か細い声で答えた。


「は…はい…ゼロスさん…」


ゼロスは優しく、しかし力強く言った。


「…キミが望むなら、これからも俺にキミを護る役目を続けさせてくれるかい?」


エメルダは「ヒュゥ」と口笛を鳴らし、面白そうに呟いた。


「言うじゃないか、色男」


アリシアは、弾かれたように顔を上げた。その瞳には、涙が溜まっていた。


しかし、それは悲しみの涙ではなかった。


心底安心しきった顔で、彼女は答えた。


「…はいっ!今後ともよろしくお願いします!」


アリシアはゼロスの手を両手で強く握った。その手は、もう震えていなかった。


窓から差し込む光が、才能の有無など関係なく、固く結ばれた二人の絆を優しく照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ