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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード⑰:かけがえないパートナー

スタンピードが終結した翌朝。ルーメンの街には、昨日の激戦が嘘のような静かな日常が戻りつつあった。


コンコン、と軽いノックの音が宿屋の扉を叩いた。


「開いてるぜ~」


ゼロスの気だるげな声が返ってきた。扉が開くと、そこには朝の柔らかな光を背に、整えられた旅装のアリシアが立っていた。


「ゼロスさん、帰還のご準備はできてますか?」


「ああ、出来てるぜ」


ゼロスはニカっと笑い、背嚢と戦斧を肩に担いだ。部屋を出ていくアリシアと共に、廊下を歩き始めた。


朝日が窓から差し込み、磨かれた廊下の石畳を温かく照らしていた。


ゼロスはふと、感慨深げに呟いた。


「なんかあっという間の数日間だったな」


アリシアはクスっと微笑んで答えた。


「そうですね。本当に…色々なことがありました」


ゼロスは廊下を少し進み、レオの部屋の前で立ち止まった。コンコンとノックをしたが、返事はなかった。


「あれ?居ないのか」


アリシアが説明した。


「レオさんなら、ルナさんに朝から連れられて街に連れ出されてましたよ」


ゼロスは苦笑いを浮かべた。


「まぁ、あいつら兄妹みたいに仲がいいからなぁ…」


「そうですね、ゆっくりさせてあげましょう」


「ま、いざとなったら通信石でアリシアさんが呼び出せば戻ってくるでしょう」


アリシアが少し驚いて振り返った。


「あら、私がですか?ゼロスさんから連絡して差し上げないのですか?」


ゼロスは少し照れくさそうに頭を掻いた。


「いや、俺、魔素使う道具全般使えないからさ…」


アリシアは、その堂々とした不器用さに、可笑しそうに笑った。


「ふふっ…そうでしたね…。承知いたしました」


二人は再び歩き始めた。目的地は、ギルド長であり今回の依頼主であるエメルダの部屋だった。


廊下を進んでいくと、少し先に見覚えのある姿があった。


優雅な立ち姿。整えられた金髪。昨日までの戦闘服ではなく、騎士団の制服をまとったセリーナだった。


「ごきげんよう、アリシア」


その声に、アリシアの足が一瞬止まった。反射的に、その表情が強張った。


「…あら、ごきげんよう…ゼロスさんに御用でしょうか?」


ゼロスも怪訝そうな顔をした。


「え?俺?」


セリーナは首を横に振った。


「いえ…今日は貴女に用があるのよ…アリシア」


アリシアの表情が一瞬だけ硬くなった。


「…私に…ですか…?」


ゼロスは二人の間に流れる緊張した空気を読んで、二人に距離を与えようとした。


「ふむ…友情の再会ってやつか…じゃぁ、俺は先にエメルダのところに…」


その瞬間、アリシアの手がゼロスの袖をそっと掴んだ。


その手は、微かに震えていた。


ゼロスは少し驚いて振り返った。


「ん?アリシアさん?」


アリシアは何も言わず、ただゼロスの袖を握りしめていた。その瞳には、過去のトラウマが呼び起こされたかのような、明らかな不安の色が浮かんでいた。


ゼロスは全てを察した。


「わかったよ」


彼は優しく微笑むと、アリシアの隣に戻り、壁に寄り掛かった。どこへも行かない、ここに居る、という意思表示だった。


アリシアの肩から、ほんの少しだけ力が抜けた。


セリーナが口を開いた。


「アリシア…貴女、ルーメンに戻ってくる気はないの…?」


アリシアは困惑した表情を浮かべた。


「…一体何を…?」


セリーナは真剣な眼差しでアリシアを見つめた。


「今の貴女なら、ルーメンに戻ってきても第一線で活躍できる…貴女をバカにしてた連中を見返すチャンスだとは思わない…?」


アリシアは言葉に詰まった。


「…私は…」


彼女は、壁に寄り掛かっていたゼロスを見た。


ゼロスは穏やかな表情で、静かに答えた。


「…俺はアリシアさんの気持ちを優先するよ」


セリーナは感心したように微笑んだ。


「…さすがはゼロスさん…お心が広いですわ…なら、アリシア。貴方の復帰申請は私がしておくから、安心…」


その言葉を遮るように、アリシアが口を開いた。彼女はセリーナではなく、ゼロスだけを見つめて問いかけた。


「…ゼロスさんは、私の事はまだ必要でしょうか?」


ゼロスは即座に答えた。迷いも、躊躇もなかった。


「まだ、とか言うなよ。必要だよ、アリシアさんは」


アリシアの瞳が、パッと輝いた。不安の影が消え、確かな光が宿った。


彼女はセリーナを真っ直ぐに見つめ直した。その背筋は、先ほどまでの怯えが嘘のように、凛と伸びていた。


「お聞きになりましたか?そういう事ですので、どうぞお引き取りを…」


セリーナは少し驚いた表情を浮かべた。


「ど、どうして?今の貴女なら《救済の使徒》でもすぐに上位層に…」


アリシアは微笑んだ。


それは、迷いのない、確信に満ちた笑みだった。


「…いえ、私はゼロスさんの隣がいいんです」


セリーナは一瞬言葉を失った。やがて、穏やかに微笑むと、静かに頷いた。


「…そう…引き留めて悪かったわね…あと…」


彼女の表情が、ばつの悪そうなものに変わった。


「…2年前…貴女を見下していた…本当にごめんなさい…」


アリシアは優しく首を横に振った。


「………いいんですよ。あの時はそれが事実でした…それに…」


アリシアはゼロスの腕に、そっと自分の腕を絡ませ、幸せそうに微笑んだ。


「そのお陰で、かけがえのないパートナーを得ることが出来ましたから」


ゼロスは突然のことに少し照れくさそうに呟いた。


「…アリシア…」


セリーナは心から嬉しそうに笑った。


「…そう…なら、良かったわ。ゼロスさん、アリシアの事、大切にしてあげてね」


その言葉に、アリシアの顔が一気に赤く染まった。


「…セリーナ!」


セリーナは悪戯っぽく笑った。


「ふふ…やっと名前で呼んでくれたわね…じゃぁ、頼んだわよ、ゼロスさん」


ゼロスは壁から背を離し、真面目な顔で頷いた。


「…あぁ、そうだな。そうさせてもらうよ」


彼は歩き出した。


「じゃぁ、行こうぜアリシアさん」


アリシアは慌てて腕を絡ませたまま、後を追った。


「えっ!?あ、はい!」


二人はエメルダの部屋へと向かって歩き始めた。


その間、ゼロスは横を歩くアリシアの幸せそうな顔を横目に見ながら、ふと考えていた。


(…さっきの「大切にする」ってのは、パーティーメンバーとして。って意味であってたんだよな…?)


アリシアはそんなゼロスの内心など気づかぬまま、ただ幸せそうに微笑んでいた。


ゼロス達が見えなくなった後、セリーナは一人、廊下に残されていた。


彼女は小さく呟いた。


「…いいなぁ、私もあんなパートナー欲しいなぁ…」


そのパートナーという言葉には、仕事上の相棒としてだけでなく、恋人としての余韻も確かに含まれていた。


朝日が窓から差し込み、セリーナの金髪を優しく照らしていた。

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