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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード⑬:魔術を詠う竜

下層と中層を繋ぐ安置区画。


そこは先ほど通過した上層の休憩区画と同様に、戦いの喧騒から切り離された静謐な空間だった。しかし、今回もまた、救助対象者の姿は影も形もない。


ゼロスは、壁際や岩陰まで丹念に確認した後、諦めたように息をついた。


「ここにもいねぇか…」


シェルが、辺りを見渡しながら冷静に状況を分析した。その表情には、徐々に深刻さが滲み始めていた。


「中層でも居なかったとなると…」


ゼロスは、その言葉の先を引き取るように、奥に続く暗い階段を見据えた。


「下層か…」


ダリウスが、その言葉に険しい表情で頷いた。彼の声には、明らかな不安の色が混じっていた。


「ここまで遭遇したモンスターは普通のダンジョンとは数量が違いすぎる…本来なら撤退するはずだが…」


確かに、通常のAランクダンジョンであっても、これほどの頻度でモンスターに遭遇することは稀だった。まして、上層からストーンエイプやアイアンティンガーといった、本来は中層以降にしか出現しないはずの強敵が徘徊していた。異常事態であることは明白だった。


ゼロスは、その状況を踏まえながらも、いくつかの可能性を口にした。


「帰還のスクロールを無くしたか、それともたまたまモンスターの遭遇数が少なかったか…」


シェルは、腕を組みながら、淡々と結論を述べた。


「どのみち、このまま進むしかねぇな」


ゼロスも頷いた。ここで引き返せば、救助対象者は確実に見殺しになる。それだけは避けなければならない。


「そうだな…その前に一旦休憩入れるか決めよう。俺たちが倒れたら元も子もねぇ」


ゼロスのその言葉に、アリシアが穏やかに微笑んで答えた。


「私は大丈夫ですよ」


彼女の声には、疲労の色など微塵もなかった。先ほどの大規模な魔術行使にも関わらず、まだ余裕があるようだった。


レオも、自身の錬金術で作った魔素を補充する薬品の入った小瓶を確認しながら答えた。


「僕も」


ルナに至っては、むしろ不満そうに頬を膨らせていた。


「あたしも、むしろ暴れたくてうずうずしてるわ」


先ほど、アリシアに完全に出番を奪われた彼女にとって、この状況はフラストレーションが溜まる一方だった。その瞳には、早く敵と戦いたいという闘争心が宿っていた。


ゼロスは、そんな三人の様子を確認すると、今度は混成部隊の方へ視線を向けた。


「ダリウスさん達は大丈夫かい?」


ダリウスは、その気遣いに少し申し訳なさそうな顔をしながらも、正直に答えた。


「我々の事は気にしないでくれ…後方にいさせてもらってるから、特に戦闘してないおかげで、みななんともないよ」


その言葉には、複雑な感情が滲んでいた。確かに無傷ではあるが、それは『始まりの雫』があまりにも圧倒的すぎて、自分たちの出番がほとんどなかったからに他ならない。騎士としての誇りと、戦力差という現実の間で、彼らの心は揺れていた。


ゼロスは、そんな彼らの葛藤には気づかず、あるいは気づいていても気にする様子もなく、力強く頷いた。


「じゃぁ、下層に入りますか」


そう言って、ゼロスは先頭に立ち、下層へと続く階段へと足を踏み出した。その背中には、迷いも躊躇もなかった。


アリシア、レオ、ルナ、シェルがそれに続き、最後に混成部隊の四人が隊列を組んで後に続いた。


階段は、中層へと続く道よりもさらに急で、狭く、そして深かった。壁から滴る水滴の音だけが、静かに響いていた。


やがて、その音すらも遠のき、代わりに重苦しい沈黙だけが、九人を包み込んでいった。


下へ、下へ。


光は徐々に薄れ、空気は冷たく、そしてどこか、禍々しい気配を帯び始めていた。


女騎士ルアが、無意識に剣の柄を強く握りしめた。セリーナは、祈りを捧げるように胸の前で手を組んでいた。


やがて、階段を降り切った先に、新たな世界が広がっていた。


それは、もはやダンジョンというよりも、地獄の入口のような、異様な光景だった。


下層ダンジョンの扉を開けた瞬間、ゼロスたちの視界に飛び込んできたのは、これまでとは全く異なる異様な光景だった。


そこには、広大な紅水晶の洞窟が広がっていた。


壁という壁、天井という天井、その全てが、血のように赤黒い水晶で埋め尽くされていた。それらは魔素を帯びて爛々と光り、まるで無数の眼がこちらを見つめているかのような、不気味な輝きを放っていた。


空気は、上層や中層とは比べ物にならないほど重く、まるで見えない霧のように魔素が充満していた。呼吸をするたびに、喉の奥に苦い味が広がった。


ゼロスは、その異様な光景を見渡しながら、低く呟いた。


「…さすがに中層とは違うか」


アリシアも、周囲の魔素の流れに意識を集中させながら、緊張した面持ちで頷いた。


「そうですね…空気が重いです…」


ルナは、その不気味な赤い光に照らされた洞窟を見て、思わず身震いした。


「うへぇ…気味悪い…」


レオが、冷静に状況を分析した。その声には、確かな危機感が滲んでいた。


「ここまで来ると、やっぱりスタンピードが近いってことがわかるね…」


シェルは、静かに頷いた。


「…そうだな」


彼は辺りを見渡した。壁に埋め込まれた紅水晶が、ドクン、ドクンと脈動するように明滅し、その度に魔素の波が空間を揺らしていた。


まるで、この空間そのものが生きているかのようだった。魔素が、その暴走を今か今かと待ち望むような、そんな錯覚に見舞われた。


ゼロスは、その肌に感じる不吉な予感を振り払うように、力強く声を上げた。


「とりあえず、遭難してる連中を見つけようぜ」


シェルも、その言葉に頷いた。


「あぁ、先に進もう」


九人は、緊張の面持ちで、紅水晶が照らす不気味な道を進み始めた。足音が、奇妙に反響した。まるで、この洞窟全体が巨大な空洞であるかのようだった。


だいぶ進んだ先で、一行は開けた場所に出た。


それは、円形に広がった巨大な空間だった。天井は遥か上方にあり、その高さは目測では計れないほどだった。


しかし、その天井は、煙のような赤黒い魔素の雲に覆われて、その先は見えなかった。雲はゆっくりと渦を巻き、時折、稲妻のような赤い光が走っていた。


ゼロスは、その広大な空間を見渡しながら、苛立ちを隠せない様子で呟いた。


「見つからねぇな…」


アリシアも、不安そうに周囲を確認した。


「ここまで、ほぼ一本道でしたから、見つけられなかったということはないのですが…」


シェルは、その開けた空間を、斥候の本能で最大級に警戒するように見回した。その表情が、険しくなった。


「…おい、ゼロス。とりあえず、ここを抜けちまおう。見晴らしが良すぎる」


広い空間は、遮蔽物がなく、逃げ場がない。そして、上空からの奇襲に対してあまりにも無防備だった。シェルは、本能的にその最大の危険を察知していた。


「急ぐぞ」


そう言い、シェルはゼロスたちを急かした。


一行は、足早に広場を横切ろうとした。だが、その中央付近まで差し掛かった時だった。


突如、頭上の赤黒い天井の雲が、まるで生き物のように不自然に歪んだ。


次の瞬間、赤黒い「何か」が、轟音と共に、猛烈な勢いで降下してきた。


空気を切り裂く風切り音が、耳をつんざいた。


ゼロスは、その凄まじい殺気を本能で感じ取り、即座に叫んだ。


「…っ!!全員伏せろっ!!」


その叫びと、ほぼ同時。彼は地面を爆発させたかのように蹴り、降下してくる巨大な物体目掛けて、対空迎撃するように、渾身の力で戦斧を振り抜いた。『筋力強化(微)』のスキルが、一瞬で最大出力まで引き上げられた。


甲高い金属音と、凄まじい衝撃が響き渡った。


硬質な何かを斬った確かな手応えが、ゼロスの両腕に伝わった。


しかし、その物体は、ゼロスの一撃を受けてもなお、その突進の勢いを殺しきれず、ゼロスとシェルの頭上を通過して、後方にいたアリシアたち目掛けて突進した。


レオが、その絶望的な速度に、咄嗟に反応した。


「防げっ!」


彼は、アリシアとルナの前に飛び出すと同時に、左手の銀のガントレットを瞬時に大楯へと変化させ、その物体から繰り出された、薙ぎ払うような鋭い鉤爪の一閃を、正面から受け止めた。


再び甲高い金属音が響き、激しい火花が散った。あまりの衝撃に、レオの足が石畳を深く削りながら、数メートルも後退した。


その、ほんの一瞬の隙。シェルは、それを見逃さなかった。


「っ!!」


彼は、懐から取り出した必殺のスローイングダガーを、一切の躊躇なく、高速回転させながら投げつけた。


銀色の刃が、赤い洞窟の中で、死の光を放って飛んだ。


ダガーは、寸分の狂いもなく、その物体の弱点である、赤く爛々と光る巨大な瞳に、深々と突き刺さった。


苦悶の絶叫が、洞窟全体を激しく震わせた。


それは、獣のものでも、人のものでもない、まさしく、竜の咆哮だった。


その凄まじい悲鳴と共に、ようやく、九人はその襲撃者の正体を視認した。


全長五メートルはあろうかという、巨大な竜。


全身は、この洞窟と同じ、血のように赤黒い鱗に覆われ、口からは憎悪の炎が漏れ、その四肢には鋭い牙と鉤爪が備わっていた。


背には、本来飛翔するはずの翼が生えていたが――その片方は、ゼロスの先ほどの渾身の一閃によって、根元から綺麗に切断され、おびただしい量の血を滝のように滴らせていた。


ゼロスは、その、あまりにも場違いな敵の姿を見て、息を呑んだ。


「…こいつはっ!」


シェルもまた、信じられないという顔で、そのモンスターの名を叫んだ。


「クリムゾンドレイクかっ!!」


それは、先程のゼロスの一撃で片翼を捥がれ、シェルの投擲で片目を潰され、しかし、それ故に、凄まじいまでに激昂している一体の竜だった。


その残された赤い瞳には、九人を八つ裂きにせんとする、激しい怒りと純粋な殺意だけが宿っていた。


クリムゾンドレイクは、残った片翼を力強く羽ばたかせ、後方へと飛び退いた。しかし、片翼では飛行を維持することはできない。ドスンという重い音と共に地面に降り立つと、低く身を構え、四肢で地を這うようにしてゼロスたちとの距離を取った。その隻眼は、九人を睨みつけ、次の攻撃の機会を窺っていた。


その様子を見たルナが、待ってましたとばかりに前に踏み出した。


「ドレイクかっ、それなら!」


彼女は即座に詠唱を開始した。竜種には氷属性が有効だ。これまで出番がなかった彼女にとって、ようやく訪れた活躍の機会だった。


『我が眼前に、狙い違わぬ氷の凶星を』


ルナの第一節が響いた瞬間、クリムゾンドレイクもまた、口を開いた。


しかし、そこから発せられたのは、人の言葉ではなかった。聞き慣れない、古代の響きを持つ異質な言語が、洞窟に反響した。


『ለአስማት ኃይሌ፣ የሚነድ ነበልባል』


ルナは、その音を聞いた瞬間、目を見開いた。


(こいつ、まさかっ!)


動揺を押し殺し、彼女は詠唱を続けた。止まれば、それは死を意味する。


『その軌跡、流星となりて敵を穿て』


ルナの瞳が魔素で鋭く輝き、その周囲に凍てつく氷の結晶が舞い落ち始めた。青白い光を放つ無数の氷片が、彼女を中心に宙を漂った。気温が急激に下がり、吐く息が白く煙った。


対するクリムゾンドレイクも、詠唱を続けていた。


『ያ ኃይል፣ ተጨምቆ፣ ፍላጻ ይሆናል፣ ይበርራል።』


ドレイクの隻眼が、ルナと同じように魔素で煌めいた。そして、その巨体の周囲に、禍々しい赤黒い魔法陣が次々と展開されていった。一つ、二つ、三つ――その数は瞬く間に十個に達した。


魔法陣からは、灼熱の気配が溢れ出した。空気が揺らぎ、紅水晶の壁に映る影が揺れた。


ゼロスが、その光景を見て驚愕の声を上げた。


「おい…あの竜、魔術を使うのか!?」


シェルも、信じられないという顔で呟いた。


「竜種の中でも、知能の高い個体は魔術を使うって聞いたことはあるが…まさか、本当に…」


二つの詠唱が、同時に完成へと向かっていく。氷と炎。相反する二つの力が、この空間で激突しようとしていた。


ルナが、最後の節を叫んだ。


『心臓を貫け、白銀の貫き!』


彼女の周囲に漂っていた氷の結晶が、一斉に光を放った。その全てから魔法陣が展開され、無数の氷の矢が生成された。それらは一瞬の静止の後、凄まじい速度でクリムゾンドレイクへと殺到した。


ほぼ同時に、ドレイクの詠唱も完了した。


『የእሳት አሳዳጅ (ቸስተር)፣ ተኩስ』


十個の魔法陣が一斉に膨張し、そこから火の誘導弾が放たれた。灼熱の炎が、蛇のようにうねりながらルナを目掛けて飛来した。


氷と炎。


二つの魔術が、空中で激突した。


轟音と共に、凄まじい爆発が起きた。蒸気が一気に膨れ上がり、衝撃波が四方へと広がった。氷の矢は炎に溶かされ、炎は氷に冷やされ、全てが相殺されていった。


爆発の余波が収まった時、そこには濃い水蒸気だけが残っていた。


ルナが、爆発の余韻が残る空間で、怒りを露わにして叫んだ。


「うがぁぁぁああああっ!!モンスターのくせにフレイム・ボルト使ってんじゃねぇぞぉぉぉおおお!!」


その叫びには、魔術師としてのプライドを傷つけられた悔しさが滲んでいた。


アリシアが、信じられないという表情で呟いた。


「まさか…上位モンスターは魔術を使えるなんて…」


シェルは、短剣を構え直しながら、淡々と事実を述べた。


「…そのまさかさ…あんまお目にかかれる個体じゃないがね…」


レオが、冷静に状況を分析した。その声には、確かな危機感が滲んでいた。


詠唱省略(サイレント・キャスト)まで使えたら、脅威ですね…」


シェルは、その可能性を否定するように首を振った。


「その辺の芸当できるモンスターは今んところ未発見だな…」


その会話の中、ゼロスだけが一言も発していなかった。


「・・・」


彼は戦斧を担ぎ直すと、無言でクリムゾンドレイクに向かって歩み始めた。その足取りは静かだが、確固たる決意に満ちていた。


シェルが、その様子に気づいて声をかけた。


「おい、ゼロス、どうする気だ?」


ゼロスは後ろを振り返らず、低く、しかし力強く答えた。


「…決まってんでしょぉ、こういう時は…」


次の瞬間――


「囮になるんだよっ!!」


叫びと共に、筋力強化(微)の出力を再び引き上げたゼロスは、地面を爆発させるように蹴り、ドレイクに向かって疾走した。その速度は、先ほどまでとは比べ物にならないほど速かった。


予想だにしなかったゼロスの突進に、クリムゾンドレイクは一瞬躊躇した。その一瞬の隙が、致命的だった。ゼロスは瞬く間に距離を詰め、ドレイクの懐へと飛び込んだ。


人間と竜との、凄まじい打ち合いが始まった。


ゼロスが胴体に向かって横薙ぎで振り回す戦斧。それを、ドレイクは巨大な鉤爪を振り払って弾き返した。甲高い金属音が響き渡り、火花が散った。


「…っらぁ!!!」


だが、ゼロスは弾き返された戦斧の勢いを、常人離れした剛腕で無理やり捻じ伏せ、再び胴体目掛けて振り下ろした。


ドレイクは再び鉤爪でそれを防ぎ、弾いた。


その一瞬の攻防が、何度も、何度も繰り返された。戦斧と鉤爪がぶつかり合う度に、重い衝撃音が洞窟に響き渡った。


シェルは、その光景を呆然と見つめながら呟いた。


「…囮って概念履き違えてねぇか…あいつ…」


むしろ、ゼロスの猛攻によって、ドレイクが徐々に後退を強いられていた。その異常な光景に、シェルは困惑を隠せなかった。


だが、その時だった。


『ለአስማት ኃይሌ፣ የሚነድ ነበልባል』


クリムゾンドレイクは、ゼロスの猛攻を鉤爪で防ぎながら、同時に詠唱を高速で紡ぎ始めた。


ゼロスは、その異質な言語が耳に届いた瞬間、表情を険しくした。


「こいつっ!!」


詠唱を止めさせるべく、彼は全力で戦斧を振り払った。その一撃は、これまで以上の重さと速さを持っていた。


しかし、ドレイクの鉤爪がそれを防いだ。戦斧は胴体に届かなかった。だが――その鉤爪に、深いひび割れが入った。一本、また一本と、確実にドレイクの武器を破壊していく。そして、その衝撃で、ドレイクの巨体が後方へと押しやられた。


それでも、ドレイクの高速詠唱は止まらなかった。


『ያ ኃይል፣ ተጨምቆ፣ ፍላጻ ይሆናል፣ ይበርራል።』


第二節が完成した。ドレイクの周囲に、再び禍々しい魔法陣が展開され始めた。


ルナは、それを察知して青ざめた顔で叫んだ。


「来るよっ!!レオ!!アリシアさん」


レオが即座に反応した。


「銀よ!」


彼は左手のガントレットを瞬時に変化させ、仲間たちを覆う円形の盾を張り巡らせた。


アリシアもまた、詠唱を開始した。


『我の前に、堅牢なる守りを』


彼女の前方に、淡い光の障壁が展開された。


その瞬間――


『የእሳት አሳዳጅ (ቸስተር)፣ ተኩስ』


ドレイクの詠唱が完了した。展開された魔法陣から、灼熱の火の誘導弾が、まっすぐにアリシアの盾目掛けて射出された。


轟音と衝撃が、洞窟全体を揺がした。爆風が吹き荒れ、紅水晶の破片が宙を舞った。


ゼロスは、その光景を見て激昂した。


「てめぇぇぇっ!!」


彼は、筋力強化(微)の出力を、さらに限界まで引き上げた。スキルの許容範囲を超えた負荷が、彼の身体を襲った。


腕から鮮血が弾け飛び、筋肉が引き裂かれるような激痛が走った。だが、ゼロスはその痛みを完全に無視した。


そして、スキルで得た強大な力を全て解放し、戦斧を振り払った。


その一撃は、もはや人間の域を超えていた。


ドレイクの前足が――根元から、吹き飛んだ。


凄まじい絶叫が、洞窟を震わせた。ドレイクが苦悶に身をよじらせた。


後方では、アリシアの魔術の盾が爆発の衝撃で砕け散っていた。だが、その下にレオが張っていた銀の盾がまだ健在だった。二重の防御。それが、パーティを守り抜いていた。


「無事か!?」


レオが、仲間たちを確認した。全員、無傷だった。


衝撃で舞い上がった煙が、視界を覆った。その濃い煙の中を、一つの影が疾走した。


シェルだった。


彼は、苦悶するドレイクに向かって一直線に駆け、その勢いのまま、ドレイクの顔面目掛けて飛び乗った。


「っ!!」


短い気合いと共に、シェルは握りしめた短剣を、ドレイクの残った隻眼に――深々と突き立てた。


耳をつんざくような、甲高い悲鳴が響き渡った。完全に視力を失ったドレイクが、暴れ狂った。


シェルは、その頭部から飛び降りると、煙の向こうのゼロスに向かって叫んだ。


「ゼロスッ!!!」


ゼロスは、その声に力強く応えた。


「恩に着るぜ!!シェル!!」


そう言って、彼は最後の力を振り絞り、戦斧を高く振り上げた。


そして――


振り下ろした。


戦斧が、クリムゾンドレイクの首を、一閃の元に斬り飛ばした。


巨大な頭部が、重い音を立てて地面に転がり落ちた。その瞬間、ドレイクの巨体が、糸が切れたかのように力なく崩れ落ちた。

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