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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード⑤:聖女とギルド長

エメルダの冷厳な声に従い、一行はお付きの魔術師に導かれるまま、王宮の一画にあるルーメン聖騎士団の騎士団長室へと通された。 室内は、質実剛健な軍務の場でありながら、国賓を遇するためか、調度品は一級品が揃えられている。


案内された6人のうち、Sランクパーティであるゼロスたちとシェルは、まるで護衛か部下のように部屋の壁に沿って直立不動で控えている。 対照的に、魔術師ギルド長であるエメルダは、その部屋の真ん中に設置されていた来客用の豪奢なソファーに、なんの遠慮もなく偉そうにドカッと深く腰掛けていた。


そのエメルダの前に座るのは、二人の人物。 一人は、この部屋の主であるルーメン聖騎士団団長、ローラン。歳は30歳前後だろうか、隙なく磨かれた鎧がその屈強な体躯を包み、精悍な顔つきには国の守護者としての強い意志が宿っていた。


そして、そのローランの横には、柔らかな白い法衣をまとった女性が、静かに座っていた。 彼女こそが、ルーメンお抱えの聖女たちの一団《救済の使徒》を束ね、死すら遠ざける奇跡のスキル《リザレクション》を用いることが出来ると言われる、大聖女アウレリアその人だった。 その佇まいは穏やかで、ただそこにいるだけで周囲に清浄な空気を振りまいているかのようだった。


アリシアは、壁際に立ちながら、その大聖女アウレリアの姿を、どこか遠い目で見つめていた。 同じヒーラー。だが、片や落ちこぼれと蔑まれた自分。片や、最高位の奇跡を操り、人々を救う存在。


(私にもし、ヒーラーとしての才覚が普通にあれば、今頃、あの方たちのように《救済の使徒》の一員として、人々を助けていたのでしょうか…)


決してありえない、もう一つの未来を想像して、アリシアはそっと俯き、どこか寂し気にしていた。


ゼロスは、隣に立つアリシアが醸し出すわずかな心の揺らぎに気づいた。彼は何も言わず、ただそっと、彼女の肩に自分の手をポンと置いた。


驚いて顔を上げたアリシアは、ゼロスの真剣な横顔と視線が合った。


(アリシアさんには俺が傍にいるよ)


彼の瞳は、確かにそう言っているようにアリシアには見えた。その不器用な優しさに、アリシアの心に温かいものがじわりと広がった。


張り詰めた空気が支配する、ルーメン聖騎士団長室。 その重い静寂を破ったのは、ソファーにふんぞり返る魔術師ギルド長、エメルダだった。


「それで、侵攻を抑えることは出来ているのか?」


その声は冷徹で、感情が一切乗っていない。 目前に迫るAランクダンジョンのスタンピードの侵攻を、お前たちルーメンの戦力だけで抑えられるのか? 彼女はそう、単刀直入に問い質した。


問われた騎士団長ローランは、その精悍な顔を悔しげに歪め、強く拳を握りしめながら首を振った。


「いや…残念ながら、我ら騎士団の総力を挙げても、Aランクダンジョンの暴走は止められない…」


彼は絞り出すように、悔しげにそう語った。


神聖法皇国ルーメンには、冒険者ギルドが設置されていない。 神聖を謳う国であるだけに、素性も知れず、時に粗野な振る舞いも目立つ冒険者を、国策として受け入れていないのだ。


ダンジョンの間引きやモンスター討伐は、すべて騎士団と聖女たちの混成パーティで執り行われる。 しかし、近頃の大陸全土で発生しているダンジョンの異常事態(活性化)により、彼らの対応は完全に後手に回っていた。


それまで黙って話を聞いていた大聖女アウレリアが、ここで静かに口を開いた。


「…どうか、エメルダ様のお力をお貸しください…このままスタンピードが起きれば、ルーメンの無実な民が、大勢犠牲になります…」


その声は、聞く者の心を揺さぶる不思議な力に満ちていた。 慈愛に満ち、憂いを帯びたその響きは、まさに聖女そのものと感じられる。


おそらく、普通の人間が、あるいは信仰心の篤い者が彼女のこの言葉を聞けば、理性を失い、「この方のために死ぬまで尽くそう」とさえ思えるほどに…


しかし、エメルダがいるこの空間では、その強力無比な常時発動型の魔術防壁により、アウレリアの言葉はただの「美しい言葉」にしか聞こえなかった。


(…この『私』がいる空間で、そんな雑な精神支配チャームスキルが効くと思ってるのか…安く見られたもんだな…)


エメルダは内心で冷たく毒づいていた。 彼女の『ギルド長としての仮面』は、単なる演技を超え、ほぼ自身の人格を冷徹な指導者のそれに入れ替える域にまで進化しており、その内面性も、素の状態とは完全に一線を画す。


当然、その内心を悟らせる素振りなど微塵も見せず…


「いいだろう。スタンピードが起きた際には、ギルド間の盟約に則り、力を貸そう」


エメルダは、アウレリアの「嘆願」をあっさりと受け入れた。 その返答に、アウレリアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


(…フフ、魔術師ギルド長とはいえ、私の精神支配チャームからは逃れられなかったようね…)


「ありがとうございます、エメルダ様…。ルーメンの民も、きっと貴方様の慈悲に感謝することでしょう」


と、大聖女に相応しい完璧な笑顔で、アウレリアは深々と礼を言うが…


「ただし、一発、白金貨100枚だ」


エメルダは、何の感情も込めず、平然とそう言ってのけた。


「…え?」


完璧な笑顔を浮かべていたアウレリアの表情が、一瞬、固まった。 彼女は意表を突かれたという顔で、エメルダを見つめ返した。


「聞こえなかったか? 一発につき白金貨100枚で、広範囲殲滅魔術『エクスプロージョン』を撃ってやると言っているんだ」


壁際で聞いていたゼロスは、そのエメルダの言葉に内心で舌を巻いた。


(すげー金額吹っ掛けるな…白金貨100枚って、小国なら国家予算が傾くぞ…)


騎士団長ローランが、慌てて身を乗り出した。


「エメルダ様…いくらなんでも、それは法外では? 一発が白金貨100枚だと、スタンピードが収まるまでに、我々はおいくらネクサスのギルドにお支払いすればいいんですか!?」


それは、騎士団長として最もな疑問だった。


だが、エメルダはソファーに座ったまま、そのローランの抗議を鼻で笑うように、冷たく言ってのけた。


「『私』の魔術を、そこら辺のSランク魔術師と同レベルで見るな。一発だ。一発で十分だ」


「「!?」」


その言葉に、ローランとアウレリアは今度こそ完全に固まった。


ルーメン聖騎士団と《救済の使徒》が束になっても抑えることが出来ない、国の存亡を揺るがすAランクダンジョンの暴走を、目の前にいる少女にしか見えない『ナニカ』は、たった一撃で終わらせると言っているのだ。 それは、もはや人間の領域を超えた、神話レベルの力だった。


エメルダは、呆然とする二人にもう用はないとばかりに、ゆっくりとソファーから立ち上がると、


「交渉は終わりだ。金が用意できたら言うがいい。私は司令室にて待っている」


悠然と踵を返し、その場を去っていく。 シェルとゼロス達も、黙ってその後に続いた。


騎士団長室に残されたのは、 あまりにも圧倒的な実力の差を提示され、言葉を失ったローランとアウ"レリア。二人は、エメルダが座っていたソファーを見つめたまま、その場で固まっていた。


騎士団長室を後にし、一行は再び王宮の静かな廊下を歩いて司令室へと戻る途中だった。 先導するエメルダの背中は、再び冷徹なギルド長の仮面を被っている。その後ろを歩きながら、ゼロスは我慢できないといった様子で口を開いた。


「なぁ、エメルダ。あんな大口叩いてたけど、本当に大丈夫なのか? 一発でスタンピードを終わらせるなんて」


そのあまりにも気安い口ぶりに、一行を案内しているお付きの魔術師は眉をひそめたが、もはやこのゼロスがエメルダに友人のように話しかけるのを、諦めたような顔で見つめていた。


エメルダは、ギルド長モードのまま、振り向きもせずに冷ややかに答えた。


「ゼロス、お前、私が誰だと思っている?」


ゼロスは、そのお高くとまった態度が面白かったのか、わざとらしくおどけてみせた。


「はいっ!可愛くて偉大な、世界一のエメルダ様っ!」


次の瞬間、エメルダから突き刺すような殺気が放たれた。


「殺すぞ貴様」


「すいませんでした…」


ゼロスは、その恫喝に即座にうなだれていた。


そんな二人の不敬な(?)やり取りを、お付きの魔術師がわなわなと拳を震わせながら見ていたが、主の偉大さを説明せねばなるまいと思い直し、咳払いをして口を開いた。


「…ゼロス殿。エメルダ様は、魔術師ギルド長として、諸外国で発生するスタンピードの制圧を主な任務の一つとされております。…ですので、Aランクダンジョンのスタンピード制圧など、エメルダ様にとっては、よくある任務の一つなのです…」


その言葉を聞いたルナは、目をきらきらと輝かせた。


「わぁぁ…!師匠って、やっぱり物凄く凄いんですねっ!!」


と、素直な感嘆の声をあげる。


エメルダは、その声に反応し、少しだけ顔を(ギルド長モードのまま)振り向かせて言った。


「…フン。お前なら、死ぬ気で頑張れば私の半分程度には成れるだろう」


弟子として認められたものの、その評価の厳しさに、ルナは不満そうに頬を膨らませる。


「…えー、師匠冷たいぃぃぃ。半分だけなんてケチぃー」


と嘆くが…


その言葉の真の意味を理解したお付きの魔術師は、驚愕に目を見開き、 同伴していたシェルが、そのとんでもない評価をルナにフォローした。


「ルナちゃん…エメルダ様の実力の『半分』までいけるってことは、今大陸にいるSランクの魔術師の中でも、ほぼ頂点にいけるってことだからね…。とんでもない太鼓判だよ、それ」


ルナは、そのとんでもない物差しを知り、


「…なんとまぁ…」


と、言葉を失うのだった。


それを聞いたゼロスは、改めて隣を歩く小さなギルド長の底知れなさに呆れたように言った。


「エメルダの実力の半分で頂点って、お前、どんだけの実力者なんだよ…」


エメルダは、前を向いたまま、フッと自嘲するように笑った。


「さぁな。競う相手が、この世界の人間にはもういないから知らん」


と、その声には、頂点に立つ者だけが知る、一瞬の寂しさが滲んでいた。


アリシアは、その言葉を聞き、先ほどの彼女の言葉を思い出していた。


(だから、あの時…自分とやり合えるかもしれない、ユニークモンスターと対峙したいと、あんなに残念そうに仰っていたんですね…)


と、強すぎるがゆえの彼女の孤独な願望を、アリシアは静かに理解していた。

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