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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード③:規格外のギルド長

「…話をしようか、ゼロス」 魔素の輝きを宿す瞳でゼロスを射抜き、畏怖さえ感じさせるほどの威厳をまとっていたエメルダだったが…


次の瞬間、その威厳に満ちた表情がふにゃりと崩れ、………徐々に口元が緩んでいく。


「きゅぅぅぅぅん」


謎の擬音を発したかと思うと、彼女はゼロスの胸元に…飛びこむかと思いきや、その小さな拳を固め、最短距離でゼロスの鳩尾に正拳突きを撃ち込んだのだった。


「ごふっ!?」


ゴスッ、という鈍い音。 まさかの不意打ちを綺麗にもらい、ゼロスはカエルの潰れたような声を上げてくの字に折れ曲がる。


「はっはっはっ、油断大敵先手必勝!!」


エメルダは、満足げに腰に手を当て、高らかに笑い声を上げた。 ゼロスは、衝撃が走った鳩尾を押さえながら、呻くようにツッこむ。


「先手すんな先手を…この野郎…」


「はぁ~、すっきりしたぁ」


悪びれる様子もなく、エメルダは大きく伸びをした。 先程までの人を寄せ付けない威厳はどこへやら。 今の彼女は、ネクサスでポーションを売っていた、ゼロスがよく知るあの飄々としたエメルダに戻っていた。


「勝手にすっきりするなよ…。ていうか、今までのあの偉そうな態度は何だったんだ…」


ゼロスにじろりと睨まれ、エメルダは困ったように額に手をあて、芝居がかった仕草で言った。


「あれは、あたしの世を忍ぶ仮の姿…」


「…え…?あれが世を忍ぶためなんですか?普通、逆なんじゃ?」


真面目なアリシアが、思わずそのよくわからないボケに反応してしまう。 エメルダは、アリシアの素直な反応が面白いのか、心底楽しそうに胸を張って話した。


「いやぁぁ、あたしクラスになると、ああいう社会的立場における見合った姿っちゅうのが必要になるんだよ諸君っ」


高らかにそう言った。 ゼロスはその言葉に、やれやれと息をつく。


「社会的に見合った立場…ねぇ」


彼女が纏う外套に輝く、あの仰々しい紋章が視界に入った状態で、ゼロスはそう皮肉を返すのだった。 レオは、この短時間で目まぐるしく変わる状況に呆れた様子で呟いた。


「…なんかゼロスの周りって、楽しそうな人ばっか集まってるね…」


そう言うのだった。 しかし、そんな和やかとも言える再会の空気に、それまで静かだったルナが水を差した。


「少女…エメルダ…魔術師ギルド…」


彼女は何か重大な事実に気付いたかのように、ぶつぶつとキーワードを呟いていた。 その様子に、エメルダは「あちゃー」と参ったな、という顔をした。


「…まぁ、そこの嬢ちゃんに勘づかれたなら、仕方ない。何を隠そう、あたしの正体は!!」


エメルダがビシッとポーズを決めて正体を明かそうとした、その時。


「お姉ちゃん!?」


ルナが、とんでもないことを言い出した。


「「「へ?」」」


ゼロス、アリシア、レオの三人の口から、思わず間抜けな疑問符が漏れる。 ルナは、そんな三人を気にする様子もなく、真剣な表情でエメルダに駆け寄った。


「お姉ちゃん!エメルダお姉ちゃんでしょ!!忘れちゃったの!?あたしだよ!ルナだよ!!」


その瞳には、感動の再会を果たしたかのように、じわりと涙まで潤んでいた。 ゼロスは「マジか…」と、この展開に素で驚嘆の顔を浮かべている。 アリシアも同様に目を丸くして驚いていたが、一番驚いていたのはレオだった。


「そ、そんな…ルナに生き別れのお姉さんがいたなんて初耳なんだけど…」


しかし、そのレオの当然の問いを無視するように、エメルダがルナの迫真の演技に応えた。


「…ルッ…ルナ!?!?ルナなの!?あたしの生き別れの妹のっ!?」


エメルダもまた、何年ぶりかの感動の再会を果たしたような顔で、ルナの両肩を掴む。


「そうだよ!あたしだよ!エメルダお姉ちゃんっ!!」


「ルナッ!!」


そう言って、二人は熱く抱き合った。 指令室に響き渡る、二人の感動(?)の声。 レオはその様子を目の当たりにして、まだ信じられないといった様子で呟く。


「ほ…ほんとにルナに姉が…?」


そう言うのだが… 暫しの感動的な抱擁のあと、二人はぱっと離れた。


「んなわけないじゃん、あたしに妹はいないよ」


と、エメルダがあっけらかんとした顔で言い放った。 ルナもレオたちを見て、ニッと笑い、してやったりとした顔をして、


「ビビっと来たの!この人ならノッてくれるって!!」


と、にこやかに言った。 アリシアは、すっかり騙された自分に、驚きを返してくれと言いたげな、疲れた表情で、


「…確かにどこか、お二人は似た雰囲気は感じます…」


と、言うのだった。 エメルダは、ルナのことがよほど気に入ったのか、満面の笑みでゼロスに向き直った。


「ゼロスッ!あたし、この子気に入ったわ、弟子にしていい!?」


レオは、その突飛な申し出に、


「会っていきなり、弟子!?」


と驚くが、ゼロスはすでにこのノリについていくのを諦めたのか、


「おーおー、好きにしろ」


と、呆れた様子で手をひらひらと振った。 エメルダは満足げな顔をして、ルナに向き直る。


「では、ルナくん!今日からキミは私の2番弟子とするっ!!」


ビシっとルナに向かって指を差し、高らかに宣言すると、ルナはその場に恭しく跪き、


「ははーっ!恐縮でありますっ!!」


と、完璧なノリで答えたのだった。 エメルダは「うんうん」と満足げに頷くのだったが、


「『魔術師ギルド長エメルダ様っ』」


と、ルナが跪いたまま続けた言葉に、エメルダの笑顔が凍り付いたのだった…


ルナが跪いたまま放った「魔術師ギルド長」という言葉。 その言葉を聞いたゼロスは、凍り付いたエメルダと得意げなルナを見比べ、ようやく全ての点と点が繋がったように目を見開いた。


「偉い偉いとは思っていたが、まさかのギルド長!?」


と、素っ頓狂な声をあげた。ポーション売りの受付嬢が、大陸全体の魔術師ギルドの頂点に立つ存在。あまりにも現実離れしている。 対して、最大の秘密(?)を暴露されたエメルダは、


「うわぁぁぁぁああああ、あたしが自分でバラしたかったぁぁああああ!!」


と、先ほどの威厳など欠片もなく、頭を抱えてその場でジタバタと悔しがった。 ルナはそんな師匠(仮)の姿を見て、すっくと立ち上がり、ニヤリと意地悪く笑う。


「ゼロス、どんかーん。超有名人だよ、この人。『生きる伝説』、『歩く魔導書庫』、『破滅を招く者』とか、二つ名がいっぱいあるんだから」


決定的なネタバレをされたエメルダは、ついに床に突っ伏してしまった。


「ぐあぁぁぁあああ、あたしの見せ場!あたしが『ジャジャーン!』って言いたかったぁぁあああああ」


司令室に、トップとは思えぬ情けない嘆きの声が響き渡る。 ゼロスは、そんなエメルダの姿に呆れ果てながらも、根本的な疑問を口にした。


「っていうか、なんでそんな偉いギルド長様が、ネクサスの片隅でポーション売ってんの?」


と問いかけた。 その言葉に、先程までの嘆きはどこへやら、エメルダはすっと立ち上がった。 まるで何事もなかったかのように服の埃を払うと、


「え?趣味」


と、心底当然のように、きっぱりと答えた。 ゼロスは、その答えに今度こそ頭を抱えた。


「趣味かよぉぉおおお!!どんだけ暇なんだよ!ずっと騙されてたわぁぁぁああああ」


司令室に、今度はゼロスの絶叫が響き渡る。 エメルダは、そんなゼロスの反応を見て、愉快でたまらないといった様子で高笑いした。


「がっはっはっはっ!!あたしが『元Sランク冒険者』だってことは知ってても、ギルド長だって正体には全く気づかず、ふっつーーーーーーにただの受付嬢として話しかけてくる奴なんて、ゼロスくらいしか冒険者ギルドにはおらんかったからなっ!!」


彼女は続けた。 「それが大変新鮮でございました!いやー、面白かった!」


と、今まで正体を話さなかった理由を、あっけらかんと暴露したのだった。 アリシアとレオは、規格外の二人のやり取りを、もはや遠い目で見守るしかなかった。


ひとしきり騒動が落ち着いたところで、アリシアが本題を切り出した。 彼女は、目の前の少女が本当に大陸最強の魔術師ギルド長なのだと、ようやく頭で理解し始めたところだった。


「あの…エメルダさ…様、どうしてここルーメンにいらっしゃるのですか?」


と、アリシアは恐る恐る尋ねた。ネクサスを根城にしている魔術師ギルドの長が、遠く離れた他国の王宮の司令部にいる。その理由が純粋に気になったのだ。 そんなアリシアの他人行儀な様子を見て、エメルダは頬を膨らませた。


「酷いっ!あたしの素のエメルダとしての「一番弟子」であるアリシアが、そんな他人行儀に『様』付けなんてっ!?」


と、彼女は再びその場にしゃがみ込み、駄々を捏ね始めたのだった。 (最早、ギルド長の威厳はどこへ行ったんだろう…) アリシアは内心で深いため息をつきながら、気を取り直して言葉を修正した。


「…あの、エメルダさんが、どうしてこちらへ?」


そう言い直して、アリシアはもう一度尋ねた。 すると、エメルダは駄々をこねるのをピタリと止め、すっと立ち上がると、先ほどの飄々とした態度とは打って変わって、真剣な表情に戻った。


「うん、ちょっとね。この近くにあるAランクダンジョンで、スタンピードの前兆が観測されたから、それを収めにきたんだよ」


ゼロス達が、つい先日、死に物狂いで収束させたBランクダンジョンのスタンピード。 それよりも遥かに格上であり、並のSランクパーティですら壊滅しかねない、Aランクダンジョンのスタンピード。 その収束が目的だと、彼女はまるで近所の買い物にでも行くかのように、あっさりとそう言うのだった。

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