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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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追加エピソード①:ルーメン到着と、からかいの再会

潮風が頬を撫で、カモメの鳴き声が遠くに聞こえる。 ゼロス達が軍事帝国ヴァレリウスの喧騒を後にして、神聖法皇国ルーメンへと向かう船に乗り込んでから、早くもおよそ10日が過ぎようとしていた。 長い船旅だった。絶えず揺れる船室、デッキから見える代わり映えのない水平線。ようやく終わりが見えてきた。


活気あふれるルーメンの船舶所に、船がゆっくりと接岸する。 分厚い板が渡され、待ちわびたように乗客たちが降りていく中、ゼロスもようやく舷門をくぐり、固い石畳の地面に降り立った。 数日ぶりに感じる、揺れない大地の感触。彼は両膝に手を当て、深く息を吸い込んだ。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!揺れないって最高っ!!」


次の瞬間、ゼロスは天を仰ぎ、両手を大きく広げて歓喜の声を張り上げた。 船酔いに苦しめられていた彼にとって、この揺れない大地は何よりのご馳走だったのだろう。その喜びようは、まるで子供のようだった。


その大げさな姿を、少し離れた場所からアリシア、レオ、ルナの三人が、それぞれの表情で見守っていた。


アリシアは、そんなゼロスの無邪気な姿を見て、くすりと微笑んだ。 普段の頼もしさからは想像もつかない一面に、親近感を覚えたのかもしれない。


「ゼロスさんにも意外な弱点があったんですね…」


これまで共に幾多の死線を潜り抜けてきたアリシアにとって、ゼロスは常に冷静で屈強な戦士、頼れるリーダーという印象が強かったのだろう。 その呟きを聞きつけ、ゼロスは振り返り、照れ隠しのように、しかし正直に答えた。


「なに言ってんだよ、アリシアさん」


「俺なんか弱点だらけだろ」


彼は、それが紛れもない事実であるかのように、あっけらかんと言った。


その言葉を聞いたレオは、やれやれといった表情で苦笑いを浮かべた。


「それこそ『なに言ってんだ』だよ、ゼロス」


同じく戦闘ジョブを持たないレオにとって、ゼロスの存在は特別だった。


ただ膂力があるだけの『荷物持ち』。そう自嘲するゼロスが、これまで成し遂げてきた数々の功績は、筆舌に尽くしがたいものだった。 ユニークモンスターの討伐、スタンピードの鎮圧。どれも常識外れな偉業だ。


同じ非戦闘ジョブの仲間として、彼の活躍は誇らしく、胸を張りたくなる内容だったからだ。


しかし、そんな感傷を吹き飛ばすように、ルナが悪戯っぽい声を上げた。


「ホントだよ、ゼロス、かっちょ悪ーい」


彼女は意地悪く笑いながら、ゼロスを指差して囃し立てる。


もちろん、内心ではそんなこと微塵も思っていない。ただ、普段は頼りになるリーダーの、珍しく情けない姿をからかえる絶好の機会だと、彼女の口は止まらなかったのだ。


「なんだとぉー、ルナぁぁぁぁ」


ゼロスは子供のようにむきになり、両手をわきわきと動かしながらルナを捕まえようとする。


「きゃっ、やだ!捕まってイケない事されちゃうぅぅぅぅ」


ルナはわざとらしい悲鳴を上げ、楽しそうに港の人混みの中を逃げ回る。


「そういうのはもっと成長してから言いやがれ、このちんちくりんがぁぁぁぁあああ」


ゼロスの怒鳴り声と、ルナの甲高い笑い声が響き渡る。そのじゃれ合う様は、まるで本当の兄妹のようだった。


そんな賑やかなやり取りの最中、不意に穏やかな声が彼らにかけられた。 ふと見ると、港の人波の中から歩み出た一人の男が、穏やかな笑みを浮かべてゼロスたちを出迎えていた。


「相変わらず愉快な男だなぁ、ゼロス」


そう口にしたのは、特に目立つ装飾の武具も身に着けていない、どこか地味な印象を受ける男だった。 しかし、その佇まいには、確かな実力者の気配が漂っている。


ゼロスは、じゃれ合いをぴたりと止め、その男の顔をまじまじと見つめた。見覚えはある。だが、名前がすぐに出てこない。


「あんた…確か、ネクサスにいた…Aランクパーティ『残響』のリーダーの………」


記憶を探るように、ゼロスは首を傾げた。


「シェルだ。久しいなゼロス」


シェルと名乗った男は、人懐っこい笑顔でそう言った。


その様子を、ゼロスの背後から覗き見ていたルナが、こっそりと忍び寄り、小声で尋ねた。


「…どちら様?」


その囁き声に、ゼロスは思い出したように説明する。


「あぁ、ネクサスの冒険者ギルドで活動してる、ランクAパーティー『残響』のリーダーだ。腕は確かだよ」


ゼロスはそう説明したが、ルナの興味は別の方向に向いていた。 彼女は何か面白いことを思いついたように、目を輝かせ、楽しそうに聞いた。


「…それでゼロスとどんな関係が………まさかっ!?」


ルナのその意味深な言葉と、からかうような視線。


それを聞いた瞬間、アリシアの顔からサッと血の気が引いた。まさか、そんな…。


「ゼロスさん…まさかっ!?」


レオもまた、あらぬ誤解をしたのか、顔を引きつらせながら、そっとゼロスから距離を取るように後ずさった。


「ゼロス…僕はノーマルだから…その…」


ルナの一言で、話はあらぬ方向へと飛んでいく。 ゼロスは慌てて弁解しようとした。


「おいおい、お前ら何を勘違いしてんのか知らねぇが、俺とシェルはただの顔見知りで…」


しかし、その言葉を遮るように、シェルはにこやかに笑ってゼロスの肩をポンと叩いた。


「そう堅い事言うなよ、ゼロス。一夜を過ごした仲じゃないか?」


シェルは、ルナのふざけた発言に悪乗りするように、悪戯っぽくウィンクしてみせた。


その瞬間、ゼロスを除くアリシア、レオ、ルナの三人に衝撃が走った。


「「「!!??」」」


三人は信じられないものを見るような目で、ゼロスとシェルを交互に見つめる。 そして次の瞬間、アリシアは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んでしまった。


そのあまりの反応に、ゼロスは本気で慌てて否定した。


「ぬぉぉぉ!!変な事を言い出すなシェル!!お前とは、あの時、酒場で一晩飲み明かしただけだろうが!!」


シェルは、アリシアたちの反応を見て、堪えきれなくなったようにケラケラと一笑いした。


「悪い悪い、お前のとこのパーティーは楽しそうで、つい、からかいたくなっちまった」


シェルは涙を拭いながら、軽やかに言った。 ゼロスはやれやれと息をつき、本題を切り出す。


「でぇ、なんでお前がここルーメンにいるんだ?」


ネクサスとここ神聖法皇国ルーメンは、大陸を隔てて遠く離れた国だ。通常、馬車を使えば一ヶ月以上、最新の魔術式海上高速船を使ったとしても十日はかかる距離である。



「あぁ、ちょっとした依頼でな。『あるお方』に前衛として一時雇用されたんだ」


そう、シェルは意味ありげに答えた。 そして、彼は港から見える壮麗な建物を指差した。神聖法皇国ルーメンの王宮だ。


「まぁ、ここでの立ち話もなんだ。王宮の司令部でお前を待ってる方がいる」


シェルは、にやりと笑って続けた。 「『あるお方』がお前をお待ちだぜ、ゼロス」


そう言われて、ゼロスはきょとんとした顔で自分自身を指差した。


「え?俺?」


訳が分からないまま、ゼロス達一行はシェルに導かれ、荘厳な王宮へと続く道を歩み始めたのだった。


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