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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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エピローグ:新たなる旅立ち

戦いから三日後、ゼロスたちは帝都の王宮にいた。

豪華絢爛な謁見の間は、黄金の装飾と宝石で彩られ、天井には歴代皇帝の功績を描いた巨大な絵画が飾られている。その中央に据えられた玉座には、威厳に満ちた皇帝陛下が座していた。


「面を上げよ、グリムピークの英雄たち」


皇帝の静かで、しかしよく通る声が、広い謁見の間に響く。ゼロス、アリシア、ルナ、レオの四人は、緊張しながらも毅然とした態度で皇帝を見上げていた。

玉座の前には、手錠をかけられたダデウス男爵の姿があった。かつての傲慢な態度は見る影もなく、ただ憔悴しきった顔で床を見つめている。


「ダデウス・フォン・グリムハート」

皇帝の声が、氷のように冷たく響いた。

「汝の罪状を申し渡す。領民を危険に晒し、大規模スタンピードを引き起こした重大な職務怠慢。魔核取引における組織的な不正行為。そして帝国への虚偽報告による国家への背信行為」


謁見の間に、しんと静寂が落ちる。ダデウスは青ざめた顔で、全身を小刻みに震わせていた。


「これらの罪により、汝の爵位を永久に剥奪し、全財産を没収する。また、汝は帝国辺境の開拓地にて、終身労働に従事せよ」


「へ、陛下…!お慈悲を…!お慈悲を…!」

ダデウスは必死に懇願したが、皇帝は冷たく首を振った。


「多くの無辜の民の命を危険に晒した罪は重い。これが、帝国の正義である」

衛兵が、力なく崩れ落ちたダデウスを両脇から抱え、連行していく。その背中は、栄光ある過去と現在の惨めな姿の対比を、如実に物語っていた。


「そして、ゼロス、アリシア、ルナ、レオ」

皇帝が四人を見回す。その瞳には、深い感謝と敬意が込められていた。

「汝らの勇敢なる行為により、グリムピークの民、そして帝国全体が救われた。ユニークモンスターを討伐し、大災害を未然に防いだその功績は、帝国史に永遠に刻まれるであろう」


四人は、深く頭を下げた。


「帝国を代表して、心より感謝を申し上げる。そして、汝らには帝国最高位の勲章である『金鷲勲章』を授与する」

侍従が、ビロードの盆に乗せられた四つの勲章を、彼らの前に差し出した。それは帝国の象徴である双頭の鷲を模した精巧な作りで、見る者を圧倒する威厳があった。


「これは…あまりにもったいなきことです」

アリシアが恐縮すると、皇帝は温かく微笑んだ。


「恐縮するには及ばぬ。汝らは、それに値する働きをした。その勲章は、汝らが帝国の英雄であることの証である」


謁見を終えた四人は、帝国騎士団の本部を訪れていた。


「本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました」

ギデオン騎士団長が、心からの感謝を込めて深く頭を下げる。その隣には、マリウスとヘレナの姿もあった。


「いえいえ、俺たちはただ、やるべきことをやっただけですから」

ゼロスが照れくさそうに頭を掻きながら答える。


「謙遜なさらないでください」

マリウスが、真剣な表情で続けた。

「あの状況で、ユニークモンスターに立ち向かう勇気を持てる者は、そう多くはありません。我々騎士団も、あなた方から多くを学ばせていただきました」


「ええ、本当に」

ヘレナも、柔らかい表情で頷く。

「特に、仲間を信じて共に戦うその姿勢は、我々も見習うべきものでした」


「あの…」

ルナが、少し恥ずかしそうに口を開く。

「最初は騎士団の人たちって、なんか固くて近寄りがたいって思ってたけど…今は違うわ。みんな、本当に良い人たちなのね」

その素直な言葉に、騎士たちの顔がほころぶ。


「我々も、君たちと出会えてよかった」

レオが静かに微笑む。

「この経験は、きっと僕たちを成長させてくれました」


「では、これにて失礼致します」

アリシアが丁寧に頭を下げると、ギデオンが立ち上がった。

「またいつでも、帝国にお越しください。我々は、いつでも貴殿らを歓迎する」


その夜、四人は宿屋の一室に集まっていた。テーブルの上には、帝国から贈られた金鷲勲章が並べられ、ろうそくの光を受けて美しく輝いている。


「まさか、本当に皇帝陛下から勲章をもらえるなんて、思わなかったわ」

ルナが、感慨深げに勲章を指でなぞる。


「夢みたいだよね」

レオも、静かに頷いた。


「でも、これで一区切りですね」

アリシアが言うと、ゼロスは苦笑いを浮かべた。

「一区切りって言うには、まだ早いかもな」


その時、テーブルに置かれた魔法の通信石が、淡い光を放ち始めた。


『お疲れ様!』

聞こえてきたのは、戦士ギルド長イレインの快活な声だった。


「イレインさん、お久しぶりです」

アリシアが嬉しそうに応える。


『本当にお疲れ様!まさか、本当にユニークを倒すなんてね!』


「俺たちも、正直やばかったよ。死ぬかと思った」

ゼロスが額の汗を拭う仕草をする。


『でも、おかげでゼロスたちの名前は帝国中に知れ渡ったわよ。『始まりの雫』の名前は、もう世界中の冒険者ギルドで話題になってる』


「そんなに?」

ルナが目を丸くする。


『そうよ!「無才と呼ばれた荷物持ちと、落ちこぼれヒーラーがユニークを倒した」って話は、まさに伝説級のニュースだよ!』

その言葉に、四人は改めて自分たちがやり遂げたことの大きさを実感した。


「それで…」

ゼロスが、どこか覚悟を決めた顔で尋ねる。

「次の依頼の話だろ?」


『あー、それなんだけど…』

イレインの声に、申し訳なさそうな響きが混じった。

『実は、もう複数の国から正式な依頼が来てるのよ。どれも緊急度が高くて…』


「人遣い荒ぁーい!」

ゼロスが盛大にため息をつく。


『でも、一番緊急なのはルーメル王国からの要請ね。また大規模スタンピードの前兆があって、現地の魔術師ギルドが調査してるんだけど、状況が悪化してるって報告があったの』


「ルーメル王国…」

レオが地図を思い浮かべる。

「帝国から西へ、海を越えた大陸の向こう側の国ですね」


『そう。移動だけでも一週間はかかるわ。でも、向こうからの要請は切実で…』


「報酬の方は?」

ゼロスが、現実的な質問を投げかける。


『前回の倍よ。それだけ、深刻な状況だということだ』

四人は顔を見合わせた。またも命懸けの戦いになることは間違いない。

重い沈黙が流れる中、静かに立ち上がったのは、アリシアだった。


「私は、どこまでもついていきますよ、ゼロスさん」

その言葉には、迷いも躊躇もなかった。彼女の瞳には、強い決意の光が宿っている。


「アリシアさん…」

ゼロスが彼女を見つめる。


「あたしたちも!」

ルナが元気よく立ち上がる。


「僕らも一緒です」

レオも、穏やかだが確固とした意志を示した。

ゼロスは、三人の顔をゆっくりと見回し、大きく息を吸った。


「…仲間がそう言うなら…仕方ねぇな。行きますかっ!」


『やったー!』

通信石の向こうで、イレインの歓声が響いた。


『それじゃあ、明日の朝一番の船でルーメルに向かってもらえる?現地の魔術師ギルドの責任者が、港で待ってるから』


「了解。準備は万全だ」


『ありがとう!本当に、頼りにしてるわよ』

通信が途切れると、四人は改めて顔を見合わせた。


「また、新しい冒険の始まりですね」

アリシアが微笑む。


「今度は、どんな敵が待ってるのかな」

ルナが、わくわくした表情を見せる。


「何が来ても、僕たちなら大丈夫だよ」

レオが、自信を込めて言った。


「そうだな。みんながいれば、何とかなるさ」

ゼロスも、仲間たちの顔を見て、力強く頷いた。


翌朝、四人は帝都の港にいた。巨大な客船が停泊し、多くの人々が新たな旅立ちの準備をしている。

船は定刻通りに出港した。帝都の街並みが徐々に小さくなっていき、やがて水平線の彼方に消えていく。


甲板に立った四人は、新しい冒険への期待と不安を胸に、前方に広がる大海原を見つめていた。

どんな困難が待ち受けていようと、今の彼らには、仲間への揺るぎない信頼があった。


その頃、ルーメル王国の辺境地帯に設けられた魔術師ギルドの調査拠点では、一人の女性が報告書を読み上げていた。


「グリムピークにて、ユニークモンスターが討伐された、と…」

エメルダは手にした羊皮紙を見つめ、部下の報告に耳を傾けていた。


「討伐したのは、『始まりの雫』というパーティだそうです。リーダーはゼロスという荷物持ちで、銀髪のヒーラー、魔術師の少女、錬金術師の青年と組んでいるとか」

その名前に、エメルダの手が止まった。


「…ゼロス?…まさか、あのゼロス?」

彼女はゆっくりと振り返り、興味深そうに、そしてどこか嬉しそうに微笑んだ。

「無才と言われた二人が、まさか本当にユニークを倒すなんてね…。これは…」


彼女は立ち上がり、窓の外を見つめた。遠くの山々では、異様な魔素の渦が立ち上っている。


「私も、本気を出して頑張りますかね」

エメルダの瞳に、久しぶりに真剣な光が宿った。

「さて、今度はどんな化け物が出てくるのかしら」

彼女の口元に、戦闘への期待を込めた不敵な笑みが浮かんだ。


それは、誰にも期待されなかった者たちの物語。


無才と蔑まれた、ひとりの荷物持ち。

落ちこぼれと見放された、ひとりの治癒師。

そして、二人を支え続けた天才魔術師の少女と、誠実な錬金術師の青年。


『始まりの雫』。


やがてその名は、大陸全土に響き渡る伝説となる。

王侯貴族や選ばれた天才だけが歴史を創るのではないと、世界に知らしめた物語。

与えられた才能がなくとも、仲間を信じ、己を信じ抜く心があれば、運命さえも切り拓けると、人々の胸に希望の火を灯した物語。


彼らが駆け抜けた道は、後の世に続く無数の冒険者たちの、かけがえのない道標となった。


そして、幾年もの月日が流れた、ある冬の夜。

暖炉の火がぱちぱくると爆ぜる穏やかな部屋で、小さな少年が父親にせがんでいた。


「お父さん、『始まりの雫』の話を聞かせて」

「また、その話か?もう何度も聞いただろう」

「うん!だって、僕も冒険者になったら、ゼロスさんたちみたいになりたいんだ」


父親は、息子の瞳に宿る純粋な憧れの光を見て、優しく微笑んだ。そして、遠い日を懐かしむように、静かに息を吸う。

彼は、全ての始まりとなった、あの日の言葉を紡ぎ始めた。

彼らがなぜ立ち上がり、なぜ戦い抜いたのか。その原点を、語り聞かせるために。


「…そうか。それじゃあ、今日はルーメル王国での戦いの話をしてやろう。全ての伝説は、たった一人の少女の、勇気ある一言から始まったんだ…」


『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』


それは、世界という広大な水面に落ちた、始まりの雫。


やがてその波紋は、才能だけが全てだと信じていた世界の常識を覆す、大きなうねりへと変わっていく。


これは、誰からも必要とされなかった者たちが、誰よりも互いを必要とし、やがて世界を救うに至る、始まりの物語。


~Fin~

最期までお読みいただき、ありがとうございました。追放ざまぁ物語としては、ここまで閉幕となります。46話以降は、『追加エピソード』となり、キャラ達のその後を描いた内容(神聖法皇国ルーメン編)となります。

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