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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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第34話:連携

ゼロスは、掌で爛々と赤黒く輝く魔核を見つめていた。ダンジョンが生物のように脈打ち、その魔素を濃密にしているかのような、不気味な感覚があった。

「…このダンジョンが、制覇済みじゃないことは、もうわかった。それだけでも、十分な成果だ」


「なら…」

レオが、帰還を促すように口を開く。

「だが、明らかな異常事態が起きてるのも、これでわかった。俺は、この先も調査を続けたい。…どうする?もし、戻って先に宿で休んでるっていうなら、俺は止めないが」

ゼロスは、三人の仲間たちに問いかけた。


「えー…どーしよっかなぁ…」

「私は、」

ルナとアリシアが、ほぼ同時に口を開く。しかし、それよりも早く、レオが答えた。その声には、一切の迷いがなかった。

「もちろん、付いて行くよ、ゼロス」


「お、お早い決断で…」

ゼロスは、あまりに即答だったレオの決断に、少し戸惑っていた。

「ゼロス…友人が、たった一人で死地に向かうと言っているんだ。ここで付いて行かなかったら、男じゃないだろう」

レオは、当然だろう?と言わんばかりの、真っ直ぐな瞳でゼロスを見つめた。


「…」

「…」

「…」

そのあまりにも熱い言葉に、ゼロス、アリシア、ルナの三人は、ただ黙ってレオの顔を見つめ返した。


「ど、どうしたの?三人とも」

「…いや、なんか、ものすごくカッコいい事を仰ってるなぁ、と…」

「…ええ、少し、嫉妬してしまいましたわ」

「熱血漢だとは思ってたけど、ここまで熱い男だったとはねぇ…と」


三人に口々に言われ、レオは戸惑ったように肩を落とした。

「…普段の僕は、君たちには、一体どう見えてるんだ…」

ゼロス(ひょろっとした優男…)

アリシア(物腰の柔らかい温厚な方…)

ルナ(あたしの世話係…)


三人は、何も言わなかった。

「…よし、わかった。とりあえず、中層まで行ってみよう」

レオは、何かを振り払うように言った。

「そ、そうだな…」


「は、はい」

「よーし、張り切っていこーう!」


四人は、ダンジョンの中層を目指して、再び歩みを進めた。

上層の奥深くは、既に殻蟲たちの巣と化していた。途中で何匹もの群れに襲われたが、もはや彼らの敵ではなかった。

ゼロスが前線で敵の群れを切り崩し、アリシアがマジック・シールドで流れ弾を防ぎ、レオが分厚い大楯でルナへの直撃を阻む。そして、その後方から、ルナが遠慮なく雷の魔術を叩き込み、敵を焼き払っていく。


その連携は、まだ荒削りながらも、今までの二人旅とは比較にならないほどの安定感と殲滅力を誇っていた。


討伐数が五十匹を超えた頃、ようやく一行は中層へと続く、巨大な石の扉――つまり、安全区画が見えてきた。

「ふぅ…少し、休んでいこうぜ」


「ぜぇ…さんせー…。もう、喉がガラガラだよ…」

ルナは、詠唱のしすぎで枯れた声を上げた。

「お疲れ様です、お二人とも」


「大丈夫かい?二人とも」

「あたしはもう、喉も魔素も、限界なんだぁぁぁぁああ」


「まぁ、とにかく少し休もうぜ」

四人は、中層入口前の安全区画で腰を下ろした。ゼロスは担いでいた背嚢から、携帯食料と水を各自に渡していく。


「あと、ルナにはこれだ」

彼は、背嚢から青々と輝く中級魔素ポーションを取り出した。

「…それ、普通に売ってるやつ?」


「普通に売ってるやつ以外に、何かあるのか…」

「やだやだぁ。それ、すっごく苦いぃぃぃ」

ルナは、子供のように顔をしかめて駄々をこねる。

「…ここにもいたか、苦いのが駄目な子が…」

ゼロスは、やれやれと息をつき、背嚢から蜂蜜の小瓶を探し始めた。


「…ゼロスさん」

アリシアが、半眼でじっと彼を見ている。

「…私も、その『子』に、入っておりますでしょうか?」


「………」

「はい、ルナ」

その気まずい沈黙を破るように、レオが自分の背嚢から、別の青々とした魔素ポーションを取り出し、ルナに手渡した。

「おっ、気が利くじゃないか、レオくん」

ルナはそれを受け取ると、躊躇なく一気に飲み干していく。


「…そんなに、一気に飲んで大丈夫なのですか…?」

「…一応、蜂蜜いるなら言えよ?」

ルナは、全て飲み干すと、満足げに叫んだ。

「ぷっはぁぁぁ!!生き返るぅぅぅぅ!!!レオ!もう一本!!」


「…それ以上飲んでも、魔素は身体に吸収できないでしょ。駄目です」

「…あんなに、苦々しい液体を、お替り…?」

アリシアが、信じられないものを見るような目でルナを見ている。

「もしかして…今のポーション…」


「ふふんっ!そう!これは、レオがあたしの為だけに自作した、特製の魔素ポーションよ!!」

ゼロスは、驚いてレオを見つめた。

「レオ…お前、まるで錬金術師みたいだな…」


レオは、呆れたように答える。

「錬金術師だけど…」


ルナは、さらに得意げに胸を張った。

「ふふん、すごかろう、すごかろう…」


「すっかり、タンク役だと思い込んでたから、一瞬、忘れてたわ…」

「そうですね…」

「…銀の塊を操作するだけの、ただのタンクなんて、いないと思うけど…」

レオは、少しだけ拗ねたように言った。


その後、四人はそれぞれ携帯食料と水を口に入れ、短い休息を取るのだった。


「…さて、体力も回復したことだし、中層に行ってみるか…」

ゼロスが立ち上がると、アリシアが不安そうな顔を上げた。

「一体、何がいるんでしょうか…」


「…さぁな。少なくとも、さっきの殻蟲以上のランクのやつが出てくるんだろうな」

「後方の防御は、僕に任せて」

レオが、大楯を構え直しながら言った。

「さぁーて、魔素も回復したし、中層もガンガンいくわよぉぉぉぉ」

ルナは、すっかりいつもの調子を取り戻していた。


四人は、それぞれの思いを胸に、中層へと続く重い石の扉を開けた。


上層の整然とした石畳から一転、中層の床はひび割れ、壁からは巨大な植物の根が突き出し、天井の至る所から絶えず水が滴り落ちていた。通路の半分は、澄んだ水路と化している。

「…水路か…。珍しい立地に出たもんだな」


「ここだと、私の電撃系の魔術は使えないねぇ…」

ルナは、つまらなそうに唇を尖らせた。

「ああ。敵味方もろとも感電する危険性があるしなぁ…」


ゼロスは、そんなルナの不安を吹き飛ばすように、わざと胸を張って言った。

「ま、なんかあったら、俺がお前を護ってやっからよ。心配すんな」


「ゼロスさん…」

「ゼロス…」

アリシアとレオが、半眼でじっとりと彼を見る。

「…なんか、変な勘違いしてないか、お二人さん…?なんかあったら、お前ら三人を担いで、俺が逃げてやるから心配すんなって、言ってんの」

ゼロスはカラカラと笑い、一人で先を進んでいく。


その背中に、レオが声をかけた。

「なんだか、少し急いでいるように見えるけど…」


「…そうか?」

「あぁ…」

「…たぶん、『アイギス』の連中も、そろそろ何か仕掛けてくると思うんだよな。だから、挟撃されるのだけは避けたい…」


「…上層のモンスターの群れを、彼らが突破してくるでしょうか…」

殻蟲――ゼロスたちは連携であっさりと倒していたが、本来、あの蟲は生半可な打撃や斬撃は通らない。また、属性への耐性も強く、内側から焼き尽くすというルナの手法は、実に的確だったのだ。


「ま、ギルドの砦でだらけてた連中には無理だろうがな。『アイギス』上層の連中なら、来れるんじゃないか?そんだけ、『スキル』っつうのは、特別製なんだしな」

「…そうだな…。僕とゼロスは一般ジョブだから、その高みには行けないんだよな…」

レオが、少しだけ暗い顔をする。


「…ま、俺たちには、俺たちの出来ることをやろうぜ」

「…うん、そうだね」

レオが頷き返した、その時だった。前方の水路の奥から、大型の棍棒を持った人影が一体、現れる。


ルナは即座に簡易詠唱を始めた。

『心臓を貫け、白銀の貫き』

三発の鋭い氷のアイス・ボルトが、前方の人影を正確に貫いた。だが、人影はものともせず、こちらへ向かって駆けてくる。


「うげっ!?効いてない!?」

棍棒を振り上げ突進してくる、その緑色の肌を持つ巨体は、トロールだった。身体に突き刺さった氷の矢の傷は、みるみるうちに再生していく。


レオは、即座に仲間たちの前に立った。

「銀よ」

そう一言呟くと、左腕のガントレットが、瞬時に大楯へと錬成される。直後、トロールが振り下ろした粗製棍棒が、大楯に激突した。凄まじい衝撃波に、周囲の水面が大きく波打つ。


ゼロスは、レオの背後で、戦斧を振りかぶるための溜めを完了していた。

「レオ、下がりな!」

しかし、レオはゼロスの指示を無視した。

「…貫け」

レオがそう命じると、大楯の中心から、白銀の巨大な槍が瞬時に伸び、トロールの胴体を深々と貫いた。だが、それでもトロールは絶命しない。絶叫し、目の前のレオを道連れにするために、再び棍棒を振り上げる。


そうしようとした、瞬間だった。トロールの身体の内側から、無数の銀色の針が突き出し、その巨体を針のむしろにした。トロールは、声もなく絶命し、水路に崩れ落ちた。


ゼロスは、目の前で起きた光景に愕然としていた。タンク役だと思い込んでいたレオが、あまりにも強力な攻撃手段を持っていたからだ。

「…お前…攻撃能力はないって、言ってなかったか?」


「ん?ないよ」

「いや、今の攻撃は、一体なんなんだ…」


「ゼロスみたいに、スキルを攻撃に転換できるような能力はないよ、って意味さ。僕のは、銀を自分が思った形に、変えているだけだからね」

ゼロスは、嘆息してルナを見た。

「…お前、知ってたのか?」


「…『アイギス』の時、レオが盾を網状にしたのを見せてたから、もしかしたら気付いてるかなぁ~、と」

ゼロスは、頭を抱えた。

「あれだけで気付けるかぁぁぁぁぁぁ」

と、彼は叫んだ。


「…あはは…レオは、昔から本当に器用だったからねぇ」

「でも、ゼロスさん…」

アリシアが、何かを言いかける。

「…そうだな、アリシアさん…。今後の作戦の幅が広がるようになったのは、いい事だよな。まったく」


「…いえ、そうではなくて、今のゼロスさんの叫び声で、前方から、またさっきのモンスターが…」

アリシアが指差す先、通路の奥から、二体の大型の人影がこちらへ迫ってくる。

「うがぁぁぁあああ」


「はいはい、叫ばない。さっさとやるよ、ゼロス」

「あたしも、ドカーンってなるやつ、撃っちゃう?」


「…こんな狭い水路でドカーンってやったら、俺たちも生き埋めになるから、結構です…」

「なんと、弱気な!?」


「弱気じゃねぇ!…はぁ、やるぞレオ。お前は左だ」

「了解」


ゼロスは筋力強化(微)で脚力を強化し、疾走する。レオも、遅れずにその後を続いた。


トロールが振り下ろす棍棒を、ゼロスは紙一重で躱し、そのまま袈裟斬りでトロールを真っ二つに割る。

もう一体のトロールの棍棒を、レオは大楯で受け止め、そのまま大楯の表面から無数の針を突き出し、ショック死させた。


「…やばい、あたしの見せ場が…」

「ルナさんの出番は、もっと緊迫した、ここぞという時、ということですかね」


「それはそれで、責任重大だからヤダァァァァアアア」

ゼロスは、そのやり取りを少し離れたところで聞いていた。

「なんなら、魔核の回収でもするか?」


「ふっざけんな、このバカゼロス!!」

「お淑やかじゃねぇなぁ」

ゼロスは笑いながら、手際よく魔核を抜き取っていった。手に取った魔核を見て、彼の表情が曇る。

ゼロス(これもだ…。普通じゃない量の魔素が、この中に宿ってるのが、俺でもわかる…。このダンジョンの下層は、相当やべぇことになるかもしれねぇな)

彼は、魔素で赤黒く爛々と光る魔核を、ただじっと見つめていた。


一方、その頃。ダンジョン上層では


帝国ギルド『アイギス』のリーダーであるレックスが、部下を数人引き連れて、上層に足を踏み入れていた。

「…なんだ、この殻蟲の死骸の山は」

上層に入り、少し進んだ場所に、十匹を超える殻蟲の死骸が無残に散乱していた。

「リーダー…。モンスターの魔核は、全て抜き取られています」


「…こいつらを全滅させた挙句に、魔核も全て回収した、だと…?」

レックス(そんな芸当が、あの監査団とやらにいるはずがない。…とすれば、何か別の目的を探っているのか…?)

「とりあえず、進…」

彼がそう言いかけた、途端だった。

ジャリ、ジャリ、と無数の音が、周囲の闇の中から聞こえてきた。


「こ、こいつら…仲間の血の匂いに釣られて…!!」

「全員、戦闘態世!!!」

レックスは背負っていた巨大なハンマーを手に取り、構えた。


殻蟲の一匹が、一人の部下に襲い掛かった。

「これを喰らえ!!」

部下は、殻蟲の噛みつきを避け、その剣でスキル『斬鉄』を撃ち放った。しかし、硬い甲殻にスキルが弾かれ、体勢を崩した瞬間に、殻蟲の強烈な尻尾攻撃をもろに喰らってしまう。

無残にも吹き飛ばされ、その場で蹲って呻く部下。


レックスは、部下が仕留め損ねた殻蟲に疾走し、ハンマーでスキル『剛砕』を放ち、その頭蓋を粉砕した。

部下は、呻きながら礼を言う。

「あ、ありがとうございます…」


「…お前は、戦線を離脱しろ」

「しょ、承知致しました…」

なんとか立ち上がり、入り口への道を急ぐ部下の背中を見つめ、レックスは思考を巡らせていた。

(今回、連れてきた部下は、冒険者でいうところ、最低でもBランクに匹敵する実力者のはず…。そいつのスキルですら、貫けないほどの防御力…。あの監査団というのは、元Sランクの冒険者の集まりか…?)


「よし、お前ら。気合を入れ直せ。ここからは、気を緩めた者から死んでいくと心得ろ」

「「「「承知致しました!!」」」」


「…よし、行くぞ」

レックスたちは、ゼロスたちが切り抜けた、死臭漂う道を着実に歩んでいく。

その先に、何が待っているとも知らずに…。


(第34話/了)

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