表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/66

第18話:相棒の証明

下層へと続く階段手前の、わずかな安全区画で二人は一休みしていた。ひんやりと乾いた空気が、火照った身体に心地よい。ゼロスは背嚢から革袋を取り出すと、中層で手に入れた魔核を石の床に広げ、一つ一つ指で弾きながら数え始めた。


「えーと…二十五個、だな」


アリシアは彼の隣でその数を数えながら、首を傾げた。

「あれ…?七個、少ない気がします…私の確認不足だったでしょうか…」


「ノンノン」

ゼロスは人差し指を立てて左右に振った。

「採集可能なのが二十五匹だったって話よ」


その言葉に、アリシアは自分の魔法で何匹かのコボルトが跡形もなく消し飛んだ光景を思い出した。彼女は青ざめた顔で、恐る恐る尋ねる。

「…もしかして…」


その問いに、ゼロスは親指を立てて、太陽のように明るい笑顔で元気に答えた。

「イエッス!!アリシアさんのオーバーキルですっ!」


最初の攻撃があまりに上手く出来たものだから、つい気分が高揚してしまい、どこまでやれるか試してしまった結果でもある。アリシアは顔を真っ赤にして、しゅんと俯いた。

「大変申し訳ございません…」


「いいっていいって。報酬条件の十個は達成してるんだし、問題ない、問題ない」

ゼロスはからりと笑い飛ばす。

「そ…そう言っていただけると、助かります」


ゼロスは回収した魔核を革袋に収め、代わりに初級魔素ポーションを取り出してアリシアに渡した。

「とりあえず、アリシアさんはこれを飲んでおいてね」


「あ、ありがとうございます…」

アリシアはそれを受け取ると、一口飲んで、顔をしかめた。

「うっ…!」


彼女はとっさに口元を押さえている。

「どうした!?」

ゼロス(まさか、さっきの戦闘でどこか怪我を…?)

彼が心配そうに近づくと、アリシアは涙目で答えた。

「…コレ…苦くて…」


その予想外な返答に、ゼロスは盛大に肩を落とした。

「我慢して飲んじゃいなさい…」


「しょ…承知いたし…うぅ…」


「…」

ゼロスはやれやれと息をつくと、背嚢の中をまた探り始め、何かの小瓶をアリシアに渡した。

「…これは?」


「蜂蜜です」


「いえ…子供じゃないんですから…」

アリシアは少しむっとした表情で言い返す。

「じゃぁ、要らない?」

ゼロスが小瓶を引っ込めようとすると、アリシアは慌ててそれを受け取った。

「…いただいておきます…」

そう言い、アリシアは蜂蜜と一緒に魔素ポーションをこくりと飲み干すのだった。


下層。石畳の間に二人は足を踏み入れた。

そこは薄暗く、壁には燐光を発する苔が、まるで蝋燭のように等間隔に配置されている。静寂の中、二人の足音だけが響いていた。


ゼロスは戦斧を肩に担ぎ直し、低い声で指示を出した。

「とりあえず、現れたら俺がまず前衛でヘイトを取るから、アリシアさんは後方から援護を頼むね」


「承知致しました。お任せくださいっ!」

アリシアは自信満々に自身の胸を叩いて、力強くアピールする。

「んまぁ、頼もしくなっちゃって、まぁ…」

ゼロスは嬉しそうに、そして少し寂しそうに呟いた。


少し進むと、通路の先から一体のミノタウロスが姿を現した。

「あれが…大きい…」

三メートルの巨体を持つ、牛の頭を持った化け物。その手には、人を容易く叩き潰せそうな木製の粗末な棍棒が握られていた。


ゼロスは即座に戦闘態勢に入った。

「んじゃぁ、行くぜ!」

彼は革袋に残っていた石を、ミノタウロスの頭目掛けて投げつけた。予期せぬ衝撃に、ミノタウロスが一瞬怯む。

その隙を見逃さず、ゼロスは筋力強化(微)で強化した脚力で一気に間合いを詰めた。

「オラァァァ!!」

戦斧の一閃が、ミノタウロスの胴体を横薙ぎに吹き飛ばす。


その様子に、アリシアは安心して後方で詠唱を開始した。

奥から続けざまに二体目が現れると、ゼロスは同様に間合いを詰め、今度は強烈な前蹴りでその膝を逆方向に破壊する。

ミノタウロスが悲鳴をあげて崩れ落ちたところを、返す刃で頭を切り落とした。ゼロスは切り落とした頭の角を掴むと、さらに後方に控えていた三体目のミノタウロスに向かって、槍のように勢いよく投げつけた。

投げつけられた頭部が胴体に突き刺さり、三体目が怯んだ瞬間に、ゼロスは既にその懐に飛び込み、巨大な体を袈裟斬りにしていた。


わずか数秒で三体を屠ったゼロス。しかし、更に二体が、既に彼の左右から迫っていた。挟撃。

その時、ゼロスの背後で呪文を紡いでいたアリシアの詠唱が、クライマックスに達した。

「――貫きなさい、『魔力のマジックミサイル』ッ!」

アリシアの両手から放たれた幾筋もの青白い光が、二体のミノタウロスに殺到する。着弾。そして、炸裂。轟音と共に、魔力の奔流がミノタウロスの巨体を跡形もなく吹き飛ばした。


静寂が戻った戦場。返り血を浴びたゼロスと、少し離れたところで安堵の息をつくアリシアだけが、その場に残っていた。

ゼロスは生き残った三体のミノタウロスから魔核を回収した。

「ふむ…」


「…すいません…」

アリシアが申し訳なさそうに声をかける。魔核を回収できたのは三体のみ。彼女が吹き飛ばした二体は、文字通り塵と化していた。


「いえいえ!お気になさらず!大丈夫です!」

ゼロスはアリシアの口調を真似て、おどけて見せる。

「…ふふっ…その口調、私の真似ですか?」


「よくおわかりで。まぁ、下手に加減して相手を倒せない時の方が不味いからね。なぜなら…」


「命あっての物種だから、ですか?」

アリシアが彼の言葉を継ぐ。

「よくおわかりでっ!!」


「ふふん!私はゼロスさんのことを、誰よりもわってるつもりですからっ!」

アリシアは自信満々に胸を張った。

「…やだっ!なんか重い事言い始めたわ!この子っ!」


「殴りますよ?」


「す、すいません…とりあえず、もうちょい奥、行ってみようか…」


「承知致しましたっ!」

アリシアは楽しそうに笑い、彼の後を追った。


二人はそのまま、暫く奥へと慎重に足を進めた。しかし、あれから一体のモンスターとも遭遇しない。

「…なかなか遭遇しねぇなぁ」


「…オーガの時は、むしろあちらからどんどん来ましたよね」


「なんか…嫌な予感がしてならない…」


「そうですね…」

二人の間に緊張が走る。やがて、通路が開け、一角の広い部屋に出た。

その、部屋に足を踏み入れた瞬間だった。背後で轟音と共に分厚い石の壁が下ろされ、退路が完全に断たれた。


「罠かっ!」


「ゼロスさん!前方に!!」

アリシアの悲鳴に似た声に、ゼロスは前を向く。そこには、十体を超えるミノタウロスが、赤い目をぎらつかせながらこちらに向かって突進してきていた。


「くっそっ!」

(この状況っ!アリシアの詠唱が間に合わない!アリシアを無傷で帰すことが出来るかっ!?)

焦燥から、ゼロスは筋力強化(微)の出力を一気に三段階引き上げた。反動で、彼の腕の筋肉が裂け、身体から血が噴き出す。

「俺の後ろに隠れてろ、アリシアッ!」

オーガジェネラルと相対した時に言ったセリフを、彼は再び叫んだ。あの時と同じ、悲痛な彼女の声が返ってくることを覚悟した。しかし、返ってきた言葉は、全く違うものだった。


「大丈夫です。落ち着いてください」

その声は、絶望的な状況にはそぐわないほど、穏やかで、そして力強かった。

「…なに言ってやがるっ!?」

彼女の想定外のセリフに、ゼロスは一瞬動揺する。ミノタウロス達は、もう眼前に迫っていた。


「…っ!!」

アリシアに危害が及ばぬように、相打ちになってでも全員を屠る覚悟を一瞬で固めたゼロス。その彼の横で、アリシアは静かに詠唱を紡いでいた。

『我の前に、堅牢なる守りを』


アリシアがそう唱えた瞬間、二人の目の前に堅牢なガラスのような防壁が出現した。

ミノタウロス達の棍棒が一斉に叩きつけられ、凄まじい轟音が鳴り響くが、壁は一切どうじる様子もなかった。


「…アリシア…大丈夫って、そういう…」

アリシアは詠唱を続けながら、ゼロスに向かって『だから言ったでしょう?』とでも言うように、悪戯っぽく微笑んだ。


「…アリシア…お前、ホント良い女だよっ!」

ゼロスはそう叫ぶと、スキルの出力を一気にフルスロットルまで引き上げた。腕からは滝のように血が噴き出しているが、その痛みはもはや無視している。彼は体制を低く構え、戦斧を大きく横薙ぎにするため、限界まで腕を後ろに引いた。

「今だ!アリシア!」


その声に応え、アリシアが壁を解いた瞬間、ゼロスは溜めに溜めた戦斧の強烈な横薙ぎを放った。それは防壁に阻まれ、密集していたミノタウロス達の胴を、まとめて薙ぎ払った。

後方で待機していたミノタウロス達も、一瞬何が起きたのか理解できずに固まっている。その隙を、ゼロスは見逃さなかった。

「うらぁぁっ!!」

裂帛の気合と共に、動揺していた残りのミノタウロス達を斬り飛ばす。


全滅を確認したゼロスは、その場で戦斧を地面に突き立て、ぜえぜえと肩で息をしていた。

「…っ!いだだだ…」


「今、治療致します」

アリシアはすぐに駆け寄り、ゼロスにヒーリングを掛けていく。おびただしい出血は収まり、裂けた肌もみるみるうちに塞がっていった。


ゼロスは信じられないといった表情で、彼女に尋ねた。

「…いつ、マジックシールドのスペルなんか習得してたんだ…」


「…昨日見た時に…なんとなく、出来そうだな、と思いまして」


「なんとなくっ!?」


「あ、いえ!中層での戦闘で感覚は掴めていたので、絶対に発動できる!とは思っていましたよ」


「…だからか…だから、マジックシールドの詠唱内容を聞いてきたのか…」


「はいっ。全節知らないと発動できないのは、魔術も同じだと思っておりましたから」


「アリシアさん…」


「お、怒ってらっしゃいますか?」

心配そうに尋ねる彼女に、ゼロスは呆れたように、そして感心したように息を吐いた。

「いや…魔術師としては、間違いなく天才の部類に入るよ…見ただけで出来るとか…」


「えぇ!?でも、私、ヒーラーなんですが…」


「なんだろうねぇ…なんか特殊な特性でもあるんかねぇ…」


「ジョブ鑑定を受けていますが、そんなことは…」


「うーーん…まぁ、ここで考えても意味ないか。よっし、魔核回収して帰ろうか?」


「あ、はい!今回はお早いお帰りなんですね!」


「あんま暴れすぎて、まーたボスが出現されても厄介だろぉ?昇格条件もクリア出来てるはずだし」


「お金でしたもんね…承知致しました。帰還致しましょう」


「よっし!帰ったら何食おうかなぁ…!」


アリシアは微笑みながら、尋ねた。

「また、同伴してもよろしいですか?」


「もちろん!」

ゼロスは満面の笑みで答えた。

そうして、魔核を回収した後、二人はギルドに向けて帰還した。


(第18話/了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ