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『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』  作者: ブヒ太郎


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第11話:祝勝会

装備屋をあとにした二人は、その足でゼロス行きつけの酒場へと足を運んでいた。布に巻かれた巨大な戦斧を背負うゼロスの隣で、アリシアは少し弾んだ足取りで歩く。夕暮れ時の街並みには、一日の仕事を終えた人々の活気が満ちており、家々の窓からは温かい光がこぼれ始めていた。酒場が近づくにつれ、肉の焼ける香ばしい匂いと陽気な笑い声が漏れ聞こえてきて、自然と期待に胸が膨らむ。


酒場は夕暮れ時だというのに、既に多くの客で賑わっていた。木製のテーブルには屈強な冒険者や恰幅の良い商人たちが思い思いに席を占め、琥珀色のエールを傾けながら談笑している。暖炉でぱちぱちと爆ぜる火が店内を温かく照らし、壁に掛けられた歴戦の武器や盾が、その光を鈍く反射していた。


活気のある店内に入ると、すぐに顔なじみの女性給仕が快活な笑顔で駆け寄ってきた。

「いらっしゃい、何名様ですか?」


ゼロスは軽く手を上げて応えた。

「二人だ、祝勝会なんだ。いい席空いてない?」


「おっ、ゼロスじゃないか!それなら、2階へどうぞ~」

給仕はぱっと顔を輝かせると、手招きして二人を案内した。


彼女に導かれ、軋む階段を上る。一階の喧騒を見下ろせる2階の席は、まさに特等席だった。そこは半個室のような造りになっており、下の活気を心地よいBGMとして楽しみながらも、落ち着いて会話ができる空間が確保されている。窓からは茜色に染まる街の夕景が見え、オレンジ色の光が二人のテーブルを優しく照らしていた。


席に着くと、ゼロスはメニューを手に取りながらアリシアに尋ねた。

「さ、何食べようかアリシアさん」


そう言いつつ、彼は布に包まれた戦斧を足元の床に置く。ドスン、という床板が軋むほどの重厚な音に、アリシアは改めてその武器の途方もない重量を実感した。


「な、何がいいんでしょう?祝勝会とか初めて参加致しますので…」

彼女は少し戸惑ったように答えた。その初々しい言葉に、ゼロスの脳裏にふと、かつての仲間たち――3バカと飲んでいた時代が蘇った。あの頃は、いつも彼らが好きなものを注文し、自分は遠慮がちに安いものを頼んでいた。しかし今は違う。目の前には、心から成功を祝い合える、本当の仲間がいる。


彼の表情に一瞬よぎった物思いの影を、アリシアは見逃なかった。

「す、すいません。前のパーティのこと思い出させてしまい…」


慌てて謝罪する彼女に、ゼロスはすぐに穏やかな笑顔を向け、かぶりを振った。

「いやいや、そんなことないよ。大丈夫。あのバカどもが何呑んでたか思い出してただけだから。こういう時は、あの思い出も役に立つ」


そう言って悪戯っぽく笑うと、ゼロスは給仕を呼んだ。その声には、過去を受け入れ、今この瞬間を楽しもうとする前向きな響きがあった。

「すいません、エールとお勧めの料理適当にもってきてくださーい」


「はーーい、ちょっと待っててね~」

階下から、明るい返事が聞こえてきた。


料理を待つ間、ゼロスはテーブルに肘をつき、楽しそうに切り出した。

「今日は金額なんか気にせず、飲んで食べようぜ」


アリシアはつられて微笑み、「そうですね、そうさせていただきます」と素直に頷いた。

「いよっし!俺も久々にここ来たから楽しみだよ」


その時、アリシアは思い出したように人差し指を立てる。その仕草はどこか愛嬌があった。

「あ、でもさっきみたいに金貨いっぱい使っちゃダメですよ?」


「そ、そんなに食えないって」

ゼロスは苦笑いを浮かべた。


軽口を叩き合っていると、すぐに給仕が湯気の立つ大皿を抱えてやってきた。

「お待せ~、とりあえず、いつものでいいよね?」


こんがりと黄金色に揚がった鳥肉と芋からは、食欲を猛烈にそそる香ばしい匂いが立ち上っている。

「ありがとう~、わかってらっしゃる」


卓へ並べられる料理を見て、ゼロスは満足げにエールの満たされた木製ジョッキを手に取った。

「んじゃぁ、今日の勝利を祝って」


アリシアもそれに倣い、少し緊張した面持ちで自分のジョッキを持つ。

「祝って」


「「かんぱーい」」

カチン、と心地よい音を立ててジョッキが合わされ、二人だけの祝勝会が始まった。


~2時間後~


テーブルの上には空になった皿がいくつか並び、琥珀色のエールが満たされたジョッキも何度かおかわりされていた。窓の外はすっかり夜の闇に染まり、室内のランプの灯りが二人の顔を暖かく照らしている。アルコールと心地よい疲労感で、アリシアもゼロスもだいぶ饒舌になっていた。


すっかりリラックスした様子のアリシアが、頬杖をつきながら、ずっと気になっていたことを尋ねる。

「…そういえば、なぜゼロスさんは冒険者に…?」


「ん-…よくある理由だよ、ガキの頃に絵本で見た勇者に憧れたのさ」

彼は少し照れくさそうに、しかしその瞳は少年のように輝かせながら言った。


「ふふっ…男の子なんですね」

その言葉に、ゼロスは残っていたエールをごくりと飲み干す。

「…ふぅ…まぁね…カッコいいだろ?」


「…そうですね。とても」

アリシアはこくりと頷くと、さらに一歩踏み込んだ質問を続けた。その声には、純粋な好奇心が滲んでいる。

「でもご自身の…ジョブ適正はおいくつに知られたんですか?」


その問いに、ゼロスの表情と動きがピタリと止まる。そして、芝居がかった仕草で胸に手を当てた。

「…あらやだ、それ聞いちゃう?」


「…あ、すいません、失礼で…」

アリ-シアが慌てて謝ると、ゼロスはニヤリと笑い、人差し指を立てて声を潜めた。

「それはもう俺が12の頃っ!」


アリシア(言っちゃうんだっ!)


先ほどまでのふざけた調子とは一転し、ゼロスの目には遠い過去を懐かしむ色が浮かぶ。

「いや~、あの時は絶望したなぁ…なんか一つの戦闘向けのジョブにでも適性あればなぁって、毎日神様に祈ったよ」


「…でも、諦めなかったんですよね?」

彼女の真剣な眼差しに、ゼロスは再びエールをあおると、その瞳に強い光を宿して頷いた。

「…ふぅ…まぁね。戦闘ジョブの適性が無いのがなんだ、そんなの根性で打ち破ってやるってね。筋力強化のスキルをあげるため、毎日重い岩を背負って特訓の毎日だったよ」


その言葉に込められた並々ならぬ意志に、アリシアは感嘆の息を漏らす。

「ふふっ…ご両親もきっと驚いたでしょうね。息子さんが子供の時から自分にあった適性ジョブを鍛え込むなんて」


「…親かぁ…」

その単語に、ゼロスの表情から笑みがすっと消え、陽気だった空気が微かに揺らいだ。テーブルの上に、気まずい沈黙が落ちる。

「…もしかして、もう他界されているんですか?」

アリシアが心配そうに尋ねると、彼は視線をそらし、ぽつりと呟いた。

「…いや…この話、しないとダメかな…?」


アリシアは彼の声に含まれた明確な拒絶の色に、はっと息をのんだ。

「…いえ、申し訳ありません。不躾でございました」


ゼロスは困ったように頭を掻くと、わざとらしくカラッとした、しかしどこか寂しげな声で言った。

「俺、親っていっても孤児院のじっちゃんが、親みたいなもんだからなぁ、アハハ」


「し、失礼致しました」

アリシアは慌てて頭を下げる。

「いいっていいって。どう楽しく話したもんかと考えたけど、いないものをいるように取り繕うのも無理だしさ…こんな話聞いてもつまんないだろ?もっと楽しい話しようぜ」


「…そうですね」

彼の気遣いが、アリシアの胸にちくりと痛んだ。

(気を遣わせてしまった…私はいつも、この人に守られてばかりなのに)


アリシアは彼の気遣いに応えようと、努めて明るい声で話題を冒険のことに戻した。

「で、では、ゼロスさんが冒険者になったのはおいくつなんでしょうか?」


「ん-…15の時かなぁ…じっちゃんに『お前は荷物持ちの仕事をやるんだろ?』って聞かれたけど『俺は冒険者になるんだっ!』って言って、そのまま孤児院を飛び出したんだ」

その時のことを思い出したのか、彼の目には誇りと反骨精神が混じった、若々しい光が宿っていた。


「なるほど、ではもう15から冒険者に?」

「そ。まぁ、でも戦闘ジョブでもない俺を雇ってくださるお優しい ぱーちー なんかなくてなぁ。そこで声をかけてきたのがあの3バカ」


「元のパーティの方々ですか…」

アリシアは思わず怪訝な表情をした。彼の口調から、その人達への軽蔑と、それだけではない複雑な感情が透けて見えたからだ。


ゼロスは自嘲するように肩をすくめた。

「ま、俺もこんなことになるとはわからなかったから、あいつらがSランクになるまで、ひたすら縁の下の力持ちをしてたってわけ。ま、あの3バカは俺の荷物を使うだけで、俺を護りもしないから、俺も自分の身を護るくらいには努力して、なんとか今に至ったって話…聞いててあんま面白くない話でごめんね?」


「い、いえ!とんでもありません」

彼女は彼の言葉の裏にある、想像を絶する苦労に胸を痛めつつ、質問を続けた。

「なら、そのパーティで何年くらいいらっしゃったんですか?」


「3年くらいかなぁ」

「…ということは、さらにそこから単独の期間があった…と?」

アリシアの言葉に、ゼロスは素っ頓狂な声を出す。

「…ほぇ?」


「…違いましたでしょうか?」

「うむ」

彼の反応に、アリシアは少し考え込む。そして、確信を得るために、改めて彼に向き直った。

「…えっと、ゼロスさん」


「はいはい、なんでしょうお姫さま?」

「姫ではありません」

「そりゃまた失礼」

アリシアは彼の軽口を軽く受け流し、核心に迫る質問を投げかけた。

「…いまおいくつなんですか?」


その問いに、ゼロスはふふん、と不敵に笑うと、わざとらしく胸を張ってかっこつけた。その顔には「さあ、俺の魅力を存分に味わうがいい」とでも言いたげな、自信満々の表情が浮かんでいる。

「…ふっ…いくつに見えるよ?」


アリシアは彼の酔った姿に呆れた視線を一瞬向けつつも、真面目に考え込んだ。顎に手を当て、彼の落ち着いた瞳、時折見せる年長者のような思慮深さ、そしてあの圧倒的な戦闘場面を思い返す。

「…ギルドでの慣れた立ち振る舞い、戦闘時のあのお姿…」


「やだ、俺すごい褒められてる、キャッ」

ふざけて体をくねらせるゼロスを完全に無視して、アリシアは慎重に言葉を選びながら、結論を口にした。

「…客観的に見て…21歳でしょうか?」


「21…」

その言葉に、ゼロスの表情から一気に酔いとふざけた空気が吹き飛んだ。自信満々だった笑みは消え、まるで魔法が解けたかのように固まる。彼は持っていたジョッキをそっとテーブルに置き、真顔になった。


「ち、違いましたでしょうか?」

彼の急な変化に、アリシアは戸惑いの表情を浮かべる。

「…アタシも、もうちょっと若造りがんばらなきゃ…」

ゼロスはしょんぼりとした顔で、両手を鏡のようにして自分の顔を覗き込んだ。


「…実際おいくつなんですか?」

「もう21でいいでちゅ」

ぷいっとそっぽを向き、エールをまたチビチビと拗ねたように飲み始める。


「………」

アリシアは頬杖をつき、半眼になって黙って彼を見つめた。その「早く本当のことを言いなさい」と語る無言の圧力に、ゼロスは観念して天を仰いだ。

「…ったく、女のその顔には敵う気がしねぇなぁ…18だよ18。老け顔で悪かったな」

彼はぶっきらぼうに、吐き捨てるように言った。


「…18!?」

今度はアリシアが驚愕する番だった。彼女の目が、信じられないものを見るように大きく見開かれる。


「やっだぁ、傷つくぅ。乙女の年齢何度も言うのは失礼って聞かなかったの?ぷんぷん」

ゼロスは両手で頬を叩き、わざとらしく頬を膨らませて見せた。

「す、すいません…まさか年下とは思わず…」


「…へ?」

「だから、年下…」

ゼロスの顔が、今度は別の意味で青ざめていく。

「年下!?」


「…はい」


「つまり、俺がロリコンと!?」

「殴りますよ?」

アリシアは真顔で、静かに、しかし有無を言わさぬ迫力で言い放った。


「すいません…」

彼はシュンとうなだれる。

「で、アリシアさんが俺より年上と?てっきり同い年か、俺より年下かと思ってたぜ…いえ、思ってました」


「急に敬語使うのやめてください」

「すみません」


「まさか、あんなに落ち着いてるゼロスさんが私よりも年下だとは驚きました」

その言葉に、ゼロスはぱっと顔を輝かせた。

「あら、俺褒められてる?」


「いつも褒めてるじゃないですか」

アリシアは顔色一つ変えず、しれっと言った。


その言葉に、ゼロスは「キャッ」と乙女のようなポーズを取り、照れ隠しにジョッキを呷る。そして、形勢逆転とばかりに、ニヤリと挑戦的な笑みをアリシアに向けた。

「…で、そういうアリシアさんはおいくつなのよ?」


アリシアは少し意地悪な笑みを返し、同じ質問を投げ返した。

「…いくつに見えますか?」


「…15チャイ☆」

ゼロスは悪戯っぽくウインクを飛ばす。しかし、アリシアの笑顔がすっと消え、真顔になった。

「殴りますよ?」


その静かな迫力に、ゼロスは慌てて両手を振った。

「冗談だって。そうだなぁ…」


彼はふざけるのをやめ、アリシアの顔をじっと見つめた。その眼差しは真剣で、どこか優しい。そして、少し考えてから、確信を持った声で言った。

「19かな?当たった?」


その言葉に、アリシアの表情がぱっと花が咲くように明るくなった。驚きと喜びが混じった、満面の笑みだった。

「よくわかりましたねっ!」


「そりゃ…俺がアリシアさんの事をわからないわけ…ないだろ?」

彼は得意げにそう言ったが、内心では冷や汗をかいていた。

(だって、年上ってわかってて、いきなり2歳も3歳も年上だなんて言えないだろ…)


「ふふっ、さすがゼロスさんです」

彼女はさらにエールをご機嫌で流し込む。その嬉しそうな横顔に、ゼロスはほっと胸を撫でおろした。

ゼロス(…うん、流石俺。地雷を踏まずに済んで良かった)


ゼロスは安堵のため息をエールで流し込むと、今度は穏やかな口調で尋ねた。

「ところで、アリシアさんはなんで冒険者に?」


その問いに、アリシアの表情からふっと明るさが消えた。花が咲くようだった笑顔はどこかへ行き、その瞳が寂しげに揺らめいて、手元のグラスへと視線を落とす。

「…教会に居場所がなかったからです」


ゼロス(こっちが地雷だったかぁぁぁぁぁぁああああ!!!)

ゼロスは内心で絶叫し、冷や汗が背中を伝った。

「でも、アリシアさんのヒーリングスキル凄い効果だったじゃん?」


「あれは、たまたまですよ…」

必死で取り繕うゼロスにも、彼女は力なく首を振る。

「やっだぁ、ご謙遜を~」


「本当です…」

アリシアは残っていたエールをぐいっと飲み干し、ちょうど通りかかった給仕に声をかけた。

「すいません、エールお替りください」


その目は完全に座っていた。

「かしこまりましたっ!ゼロスもエールでいい?」

給仕はゼロスに顔を近づけて、周囲に聞こえないように小声で囁いた。

(あんた何言ったのよ…)


ゼロス(…女の過去には秘密があったほうが素敵だね、って話を)

給仕は呆れ果て、持っていたメニューの端でゼロスの頭を軽くコツンと小突いた。

(ふざけんな)


アリシアは二人の様子を不思議そうに見つめている。

「???」


給仕はアリシアに向き直ると、完璧な営業スマイルを浮かべた。

「…アハッ☆、今の男性のお客様限定のサービスでございます」


「ありがたき幸せ~~~」

ゼロスがおどけて言う横で、給仕は鋭い視線で(早く行けよ)と合図する。

「じゃぁ、すぐ追加のエールお持ちしますね~」

給仕はそう言い残すと、去り際に「この朴念仁」とでも言いたげな、やれやれといった視線をゼロスに送って去っていった。その目には(うまくやれよ)という激励の色も混じっていた。


ゼロスは咳払いを一つすると、アリシアに向き直った。

「まぁ、アリシアさんも別に喋りたくないなら無理して話さなくても」


「いえ、私もゼロスさんの親御さんの話を聞いてしまったので話させてください」

「き、気にしなくていいのに…」

アリシアは彼の制止を振り切るようにして、ぽつりぽつりと自分自身の過去を話し始めた。その声は小さく、震えていた。

彼女は語る。

同じく15の頃から教会で勤め、擦り傷・打撲・切り傷などの軽症者の面倒を見ていたこと。しかし、どれだけ祈っても、どれだけ学んでも、回復スキルの上達が全く無かったこと。そのせいで満足にお布施を稼ぐこともできず、年若いシスターたちに次々と追い抜かれ、次第に教会にいたたまれなくなったこと。そして、最後は自ら脱退の決意を固めて、冒険者という未知の世界に足を踏み出したこと。


ゼロスはただ黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。相槌も打たず、ただ真剣な眼差しで彼女を見つめ、彼女が紡ぐ痛みを全て受け止めようとしていた。

やがて、彼女が話し終えると、彼は少し気まずそうに、しかし優しい声で言った。

「な、なるほど…なんてミステリアスな人生なんでしょう…」


「でも、結局、色んなパーティを半年ほど転々としましたが、どこにも居場所はありませんでした…」

「こんな綺麗な人なのにねぇ…最近の男は見る目がないわねっ!」

彼の軽口にも、アリシアは力なく微笑むだけだった。

「別に、私くらいの容姿なんてどこにでもいますよ。問題は私の回復スキルの弱さと、回数が少なすぎることです」


「なるほど…特に武器の心得もなく、自衛も厳しく、回復回数も威力も心もとないからと…」

ゼロスが彼女の苦境を要約すると、アリシアはこくりと頷いた。

「…そうですね、今考えれば追放扱いも仕方ないとも思っています」

そう言って、アリシアはエールを寂しげに口に運んだ。その横顔は、諦めと悲しみに濡れていた。


「でも今は頼もしいじゃないですか!俺はジェネラルの時の恩は一生忘れないぜ」

「…ありがとうございます」

彼女は俯いたまま、か細い声で礼を言った。(庇ってもらったのは私なのに…)


ゼロスはジョッキをテーブルに置き、身を乗り出すようにして尋ねた。

「でも、なんであの時、俺を誘ったんだ?事情を聴くに、もっと戦力あるジョブのやつを選ぶのが普通じゃないか?荷物持ちなんて足手纏い、わざわざ無理に入れなくても」


アリシアは少し躊躇ってから、真っ直ぐにゼロスを見つめた。その瞳には、切実な色が浮かんでいた。

「…ゼロスさんが優しそうに見えたからです」


「ほぇ?俺が?優しく?」

「優しいじゃないですか、今も」

その真っ直ぐな言葉に、ゼロスは照れくさそうに頭を掻いた。

「褒めても何も出ないよ~」


「あの時の私は、誰か傍に居て欲しかったんです。別にパーティで活躍できなくてもいい。とにかく私の傍に居て、愚痴を言い合えるような、そんな関係が欲しかったんです…」

彼女の声は、か細く震えていた。


「なるほど」

エールをあおるゼロス。その横顔は真剣だった。

アリシアは自分の本音を晒してしまい、恥ずかしそうに俯いた。

「…」


ゼロスはジョッキを静かに置くと、これまでのどんな言葉よりも穏やかな声で尋ねた。

「で、俺で満足できたかい?」


「…そりゃぁもう…」

彼女は顔を上げて、涙の膜が張った瞳で、心からの笑顔を見せた。


「…そいつは良かった」

ゼロスも、柔らかく笑い返した。

「…はい」


その後二人は、「ゼロスさんはもうちょっと金銭感覚を付けたほうがいいですよ」「うっ…それはアリシアさんにお任せしまーす」などと軽口を叩き合いながら、酒場の夜は更けていった。


この祝勝会のおかげで、二人の間にある見えない壁がまた一つ取り払われ、その距離がぐっと縮まったのであった。それは単なるパーティメンバーという関係から、もっと深く、かけがえのない何かへと変わっていく、確かな始まりの夜だった。


(第11話/完)

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