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後世において、アリア・ローズは処刑の女王として知られている。
在位は十年。その内の、ほんの二年で3000人を殺した。独裁を敷き、恐怖政治を築き上げ、貴族にも平民にも恐れられる女王であった。
悪夢のような女王。そう評され、あらゆる創作物の中で恐怖の独裁者として描写された少女。
けれど近年になって、アリア・ローズの評価は段々と見直されるようになっていた。
独裁政権下。アリアが力を入れていたのが、民の救済、経済回復であったこと少しずつ認識されるようになった為である。
当時のモントタルテがどれほど疲弊しきっていたか。当時のモントタルテでどれほど貴族達が贅沢に暮らしたかが明らかになりつつあったのだ。
アリア・ローズは3000人を殺した。
主に不正を行っていた貴族や、それに迎合していた役人達を。
そうして様々な改革を行って、私財を投じてまで弱者救済を成し遂げたのだ。
炊き出しを行い、シェルターを作り、道路整備や都市開発。様々な国家事業を行うことで雇用を作り、経済を回復させた。
処刑の女王は特権階級を二の次にして、何十万、何千万という平民を救ったのである。
当時の価値観としては全く異例なことであり、後の歴史学者はアリア・ローズをして、「実に先進的な価値観を持つ女王だった」と評価した。
だからこそ惜しかった、とも。
民の為に立ち上がり、民の為に尽くし、民の為に様々な改革を行ったアリア・ローズは、けれど当時の国民に『贅沢女』と呼ばれ嫌悪され憎まれていた。
アリア・ローズがあの改革を行わなければ、モントタルテの国が凋落するのはもっと早かっただろうとさえ再評価された女王。
しかし彼女が公の場に姿を現して、『女王陛下、ばんざい!』と叫ぶ声は実に小さかったことも分かっている。
長らく、世紀の悪女として世界に知られ、多くの娯楽で消費されたモントテタルテのアリア・ローズ。
幼少期から適切な教育を受けていれば。人財に恵まれてさえいれば。もっと早くに生まれていて、世間を知り、新聞や噂話の世論がどれだけ重要かを知っていれば。それともアリアを諌め、教え導ける誰かが居たのなら。
彼女はきっと、あんな形で失脚することは無かっただろう。
ともすれば、世に聖人君子と名を残す女王にもなれたかもしれない、と後の歴史学者達は話した。
アリア・ローズの統治時代から、実に四百年後のことである。




