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第8話 浮気は撲滅いたします!(後半)


「でも、この作戦は、私が美香に提案して説得するのよね。

うまくできるかな」

恵は、美香と話しているうちに感情が爆発してしまいそうで、少し心配でもあるのだ。

「大丈夫、わたしがついててあげるわ

恵ちゃんが答えられないようなときは私が代わりに答えてあげる」

「でも、市子さんは美香は見えないし、美香には聞こえないよ」

「私が言ったことを同時通訳みたいに、恵ちゃんが伝えればいいのよ」

「うまくいくかな?」

「安心しなさいって。

あと、明日はファミレスで会いなさいよ」

「ファミレス? あんな騒がしいとこで?」

「静かな喫茶店はかえって内密話は危険なのよ。ああいうところには、盗み聞きが趣味という変態が出没するのよ。

法律事務所時代も、うちの先生たちは、外で打ち合わせするとき、ほとんどファミレスだったよ」

市子はあらゆることにお役立ち情報を持っている!


## 翌日、ファミレスにて


先に来ていた美香に、恵は早々に。

「大事な話をするのに、なんでファミレスって思っているでしょ。

実はフェミレスこそ、内密話に最適なのよ。静かな喫茶店だと話が盗み聞きされる危険があるんだって」

「へーえ、そうなんだ」

美香はあまり気にしてなかったようだ。もっとも、恋人が浮気しているという状況で、どこで話をしようなんて、気にしている場合じゃないのかもしれない。


美香と別れたあと恵は「そのままレストラン外で張り込みを続け、二人が出てくるときは、彼女さんが花束を大事そうに持っていた」という報告をした。

実際は、残って張り込みなんてしてないが、市子が二人の会話を聞いてきて、浮気確定、しかも美香とは近く別れる宣言までしたとは、到底言えるはずがない。


美香は昨日より強い目をしていた。一晩考えて、このまま続けてもしょうがないことは認めるしかないことを。一晩経って、気持ちは落ち着いてきたようだ。あとはどういう別れをすればいいのか。


「一晩考えてみたの。浮気する男はやめられないと思う。

もう二度と浮気しないと誓っても、誓ったのは、その時の浮気相手に対してだけ。新しい浮気相手が現れたら、また同じことを繰り返すわ」

「私もそう思う。まさか拓海がそんなやつだとは思わなかったけど」

「だから、あとはどう別れるか、だと思う」

恵は説明を続ける。

「基本戦略は、理想的な彼女を演じて、拓海の浮気の罪悪感を最大化させること」

「理想的な彼女? 浮気の罪悪感?」

出だしで突っ込まれるとは思わなかった恵がたまらず、市子の方を見ると!

市子は、隣のテーブルでおしゃべりに夢中なお母さん方のベビーカーの赤ちゃんをあやしていた。

(なんで市子さんが赤ちゃんをあやしているの?)

びっくりした恵に、

「恵、何を見てるの?」

「えっ、何も見てないよ。ゴーストなんかいるわけないじゃん」

「ゴースト? 何を言っているの?」

しまったという顔の恵。

「ゴーストじゃないわ、コース料理はいらないわって言ったのよ」

「どうしたの? お腹が減っているの? なにか頼む?」

美香には見えないように、市子に向けて手招きをする恵。戻ってきた気配を感じる。

「ううん、平気。ごめんね。

さて、理想的な彼女というのは・・・・」

市子が戻ってきて、安心した恵は、昨日の作戦を、市子の解説を時々もらいながら、美香に提案した。


「それいいね!浮気の罪悪感で苦しませるのね。私、演技得意だから、完璧にやってみせる」

美香の目に悪戯っぽい光が宿った。

それから、二人は理想的な彼女とはどういう女性なのか、について、あれこれ話し合い、どうやってそれを拓海にアピールするか、で盛り上がった。

昨日は、彼氏の浮気現場を張り込みという緊迫した雰囲気だったのに、一晩で切り替えられる女。ちょっと怖い。


「万が一のために、証拠も集めておこうよ。最悪の場合の保険として」

「それいい!」

美香が手を叩いた。

「浮気の証拠があれば、別れ話でも優位に立てる」

二人の結束は完璧だった。

「これ、なんか楽しくない?」

恵が笑った。

「昨日は落ち込んでいたけど、理想的な彼女になるんだと思ったらワクワクしてきた!

拓海に浮気の罪悪感で苦しんでもらいましょう」

美香も笑い返した。


市子は二人のやり取りを見ながら、若いっていいなと思った。



それから2週間、美香は完璧な演技を続けた。

拓海に対して以前より優しく接し、「最近忙しそうね。無理しないで」「新宿の打ち合わせって大変?」と、さりげなく探りを入れながらも、心配している彼女を演じ続けた。

拓海は美香の優しさを嬉しそうに受け取っていた。

しかし、日が経つにつれて明らかに動揺し始めたそうだ。

LINEの返事がさらに遅くなり、美香を避けるような行動が目立つようになった。


「計画通りね。

拓海、明らかに“理想の彼女”に対して浮気の罪悪感で苦しんでる!」

恵と美香は進捗を確認し合った。

そして3週間後、ついに拓海から別れ話を切り出してきたそうだ。

「お見舞金を出すから勘弁してくれ、だって」

美香は苦笑しながら恵に封筒を見せた。

「五十万!

……最低。そして美香は最高の結果になったのね」


## 勝利の祝杯


別れ話のあった週末の夜、恵のマンションで恵と美香は勝利の祝杯を上げた。

「完璧だった!恵の作戦のおかげよ。

50万円ももらえちゃった」

「作戦が成功して嬉しい。

美香、女優になれるかもよ」

集めていた証拠写真をシュレッダーにかけながら、美香が言った。

「もう騙されるような恋愛はしない。次は本当に信頼できる人を見つける」


美香が帰った後、恵は思った。

(市子さんがいてくれるから、美香を助けることができた

私一人だったら、絶対にあんな作戦は思いつかなかった)



翌朝、恵の携帯にメールが着信した。

「会社で大きなプロジェクトの話が月曜にあるみたい」

「今度は仕事か!

お手伝いできることがあったら、いってね」

市子が微笑んだ。

二人の絆はますます深まっていくようだった。

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