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第6話 遺言無用、でも心は重要!

雅夫と誠の対立は収まる気配がなく、弘は困惑し、久美子は涙ぐんでいる。

市子の声が恵の耳に届いた。

「いまよ! 額縁の裏を見て」

恵はすくっと立ち上がり、祖父の遺影に目を向けた。手を伸ばそうとした瞬間――

「おい、何してる?」

雅夫の声が背後から飛ぶ。

「えっ……ただ、ほこりが気になって……」

恵は笑ってごまかした。

雅夫たちが視線を外した隙に、裏を探る。

――指先に、封筒の感触。

「……あった」

小さな声でつぶやいた瞬間、恵の胸は高鳴っていた。


席に戻った恵は久美子に目配せし、小さく桜の絵を指差した。

久美子は合図に気づき、市子の作戦通りに演技を始めた。

「あら、この絵、ちょっと傾いてるみたい」

久美子は立ち上がって額縁に近づき、調整しようと手を伸ばした。

「あれ?なにか挟まってる。

お父さんのへそくりかしら」

額縁を動かすと、封筒に入った手紙が額縁の裏から現れた。兄弟たち全員の注目が集まった。

恵はすかさず手紙を受け取った。

恵は手紙を開いて、祖父の文字で書かれた内容を朗読した。


「お前たち、家にこだわるな。家なんてのは所詮雨風をしのぐ箱にすぎん。大事なのは箱じゃなく、中にいるお前たちだ。ワシが残したいのは土地でも金でもない。笑って飯を食う時間だ。……それを忘れるな」


手紙は短いものだったが、祖父の心からの願いが込められていた。

一時的な静寂が客間を包んだ。

それぞれが複雑な表情を見せている。

誠は「じいちゃん...」と感動の声を漏らし、久美子は涙ぐんでいる。


しかし、しばらくすると弘が現実的な反発を示した。

弘が手紙をテーブルに叩きつけた。

「こんなの、ただの紙切れだろ! 遺言書でもなんでもない!」

誠も負けじと声を張る。

「紙切れでも親父の気持ちは書いてあるんだ! それを無視するのか!」

「気持ちで財産分けできるかよ!」

弘が立ち上がり、今にも部屋を出ていきそうになる。

久美子が慌てて手を伸ばした。

「やめて!

お父さんの前でそんな言い方しないで!」

一瞬、場の空気が凍りつく


――その緊張を破るように、恵が立ち上がった。

「ちょっと待ってください」

これまでにない強さだった。

「おじいちゃんが悲しむのって……家がどうなるかじゃないと思うんです」

恵は少し声を震わせながらも、言葉を続けた。

「この家がなくなってもいい。

でも、みんながケンカばっかりして顔を合わせなくなるのは、絶対に嫌だと思うんです。

……だって、この家で笑ってご飯食べるのが一番の思い出なんだから」

兄弟たちは顔を見合わせ、口を閉じた。

その場の空気が、ゆっくりと静まっていった。オブザーバーとして参加している恵だが、的を射ている。

恵の解決案はこうだ。

・家は誠おじさんが引き継ぐ

・ただし、毎年命日とお正月とお盆は、必ず兄弟全員を招く

・山岡の家は、家族が集まる場として使ってもらう

・現金その他の財産は、残り3人で等分


この提案は、誠の家への愛着を尊重しながら、他の兄弟にも配慮した現実的なものだった。


---


雅夫が現実的な懸念を示した。

「維持費は誠が全部負担するのか?それは不公平だろう」

恵はひるまない。理論武装は万全だ。だって市子との作戦会議で検討済みだから。

「日常の修繕は誠おじさんが住んでる以上、負担するのが自然でしょ。

でも大規模な修繕が必要な時は、みんなで相談して、必要に応じて協力する」

弘はまだ法的な側面にこだわっていた。

「それでも法的には平等相続が原則で...」

恵は感情論で応える。

「法律も大切だけど、家族の気持ちはもっと大切でしょ。

おじいちゃんは『心のつながり』って書いてるじゃない」

恵の言葉には説得力があった。


雅夫は、張り詰めていた緊張の糸が切れて、肩の力が抜けるのを感じた。

長男としての重圧に、恵は救いの手を差し伸べてくれた。

優しい口調で、しかし確信に満ちた言葉は、彼がずっと探していた答えだったのかもしれない。

弘が叩きつけた手紙は、ただの紙切れではなかった。それは、自分にとっては何よりも大切な、家族の絆を取り戻すための道しるべだった。

誠は黙ってうつむいていた。

兄たちに対して、ただ家を守りたいと願うことしかできなかった自分。しかし、恵の勇気ある行動と、その言葉を聞いて、決意が固まった。

---


誠が立ち上がった。

「よし、この家は俺がしっかり守っていく」

誠の表情は明るく、笑顔で続けた。

「みんなも時々ここに集まってくれよ。俺がごちそうする」

恵は誠を後押しした。

「誠おじさん、それステキ!

「命日とお盆とお正月は、おじさんたちみんなを招いて、今まで通り仲良く宴会してよね」

とうとう、雅夫と弘が頷いた。

「約束だぞ、誠」と雅夫が言う。

「年3回、絶対だからな」と弘も続けた。

「楽しみにしてるから」と久美子は嬉しそうに言った。

誠はニコニコしながら答えた。

「うん、分かった。

今年からみんなで集まるのが楽しみだよ、昔みたいに」


---


雅夫は「なるほど、それなら筋が通るな」と納得し、弘も「うん、それで行こう」と同意した。

誠は「よし、決まりだな!」と嬉しそうに叫んだ。

久美子は小声で「恵ちゃん、ありがとう」と恵に感謝を伝えた。

先程までの険悪な空気は流れ去って、客間に笑顔が戻った。

「今度のお盆が楽しみだよ」

誠が嬉しそうに言う。

雅夫も「夏休みは家族でこっちに来るよ」と答えた。

家族の絆が修復された瞬間だった。


---


その日の夜、マンションに帰宅した恵と市子は、今日の出来事を振り返っていた。

恵は安堵の表情を浮かべていた。

「うまくいって良かった。

みんなが納得してくれて安心した」

市子は恵の成長を評価した。

「恵が立ち上がっていった演説、素晴らしい出来だったわ。

法律だけじゃ問題は解決しないのよ」

恵は人の役に立てた喜びを実感していた。

「人の役に立てるって、嬉しいものね。

市子さんと一緒だと、なんでもできる!

気がする!!」

市子も満足そうだった。

二人の絆はさらに深まったようだった。


その時、恵のスマホに美香からの着信があった。

「今度は美香から連絡が...また相談かな?」


二人の達成感もそこそこに、新たな問題が降りかかりそうな夜だった。

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