表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

第10話 がんばれ! サブリーダー

ある月曜の朝9時、商社の会議室。

新体制でのドイツプロジェクトが本格的に始動していた。中村主任の件が解決してから一週間が経ち、恵はサブリーダーとしての責任を強く感じていた。

佐々木部長が挨拶をした。

「中村主任の件は残念だったが、新体制で頑張ろう。

春日さん、ドイツ担当もよろしく」

「はい、精一杯やらせていただきます」

恵は決意を込めて答えた。市子のサポートがあれば大丈夫」という安心感があるからだ。

チームの雰囲気も良好だった。

「春日さんなら安心です」

佐藤くんが励ましの言葉をかけてくれた。

恵は自信を持ってプロジェクトに取り組むことができそうだった。


---


その夜、マンションで市子と作戦会議を行った。

「明日からドイツ企業との本格交渉が始まるわ」

恵は緊張と期待が入り混じった表情で話した。

「じゃあ、私の法律事務所時代の経験を話しておくね、役に立つかも。

ドイツ人は契約条件に非常に厳格よ。

曖昧な表現は絶対に避けて、数字は正確に」

「市子さんがいてくれれば、どんな困難でも乗り越えられるそう!」

恵の市子への依存が深まっている様子だった。


---


火曜日、初回ビデオ会議が開催された。相手はドイツ側担当者のミュラー氏(50代、厳格な印象の男性)だった。

市子は恵にリアルタイムでアドバイスを送っていた。

「今の質問、品質管理体制について聞いてるわ」

市子の助言により、恵は的確に回答することができた。

「とても専門的ですね。次回も期待しています」

ドイツ側も満足そうな表情を見せている。ミュラー氏からの評価は上々だった。

恵は手応えを感じていた。


---


水曜日、マンションで。

爆睡している恵に市子が声をかけてきた。

「起きて!

私、これから数日いないからね」

「どうしたんですか?」

「ゴースト仲間からSOSが来たのよ」

「ゴーストって日本中にたくさんいるんですか?」

「そりゃそうでしょ。この世に未練を残している人だっているはずだわ、そういう人が10万人に一人とすると、毎年16人いるはずよ」

返事を聞く間もなく、市子は笑顔を残して消えてしまった。

「へーえ、そうなんだ」

恵はまだ半分寝ているようだった。


そして、恵が出社すると、予期せぬトラブルが発生していた。

「春日さん、大変です!」

佐藤くんが慌てながら恵のデスクにやってきた。

「プレゼン資料の画像、著作権侵害の可能性があるそうなんです」

コンプライアンス部門からの緊急メールが届いていた。中村主任が使用していた素材が無断転用だったのだ。

「明日のドイツ側プレゼンで使用予定の資料ですよね」

「どうしよう...代替の資料を一から作り直さないと」

一晩で新しいプレゼン資料を作るのは、相当な困難が予想された。


---


恵は市子を探したが、見つからなかった。

「市子さん?どこにいるの?

あ、そうだ、今日から数日いないって市子さんが言ってた。

どうしよう、私一人じゃ...」

恵は焦りを隠せなかった。いつも市子に頼りきりになっていることを、改めて実感した。


---

そんな恵の様子を見て、佐藤くんが提案した。

「僕も手伝います。みんなでやれば何とかなりますよ」

中村主任の代わりにチームに加わった2課の遠藤さんも同調した。

「私も残業します。一緒に頑張りましょう」

明日のプレゼンにはなんとしても、間に合わせなければならない。

「やってみるわ。明日のプレゼンには間に合わせないと。

みんな手伝って。いっしょにがんばろう!」

市子と知り合って以来、いつも市子がそばにいたけど、今日初めて、市子なしでやり遂げないといけない。


---


今日は徹夜で作業にあたる。強制はしないことにした。また、途中でつらそうになったら、遠慮なく仮眠室で休むことも事前に確認した。

あとはやるだけだ!

「シンプルに、データで勝負するしかないわね」

恵がそう言うと、佐藤くんがPC画面に顔を近づけて「よし、僕がグラフと図表を一気に作ります!」と意気込んだ。

遠藤さんが、心配そうに尋ねる。

「佐藤くん、急ぎすぎて数字を間違えないでね」

「大丈夫です、遠藤さんがチェックしてくれるんでしょう?」

佐藤くんの冗談に、遠藤さんは少し顔をほころばせた。

恵は二人のやり取りを見守りながら、胸が熱くなるのを感じた。

いつも市子に頼りきりだった自分が、今、このチームを動かしている。

それは、市子が教えてくれた「本質を見極める」という視点があったからだ。

やがて、佐藤くんと遠藤さんとの協力により、午前2時には著作権問題をクリアした新資料が完成した。

恵の的確な判断と指示で、前のデータより論理的な内容にバージョンアップすらしていた。


---


木曜日午後、重要なプレゼン本番が開催された。

ドイツ側はミュラー氏と技術担当2名が参加している。

恵がプレゼンテーションを行った。

恵はグラフを映し出しながら説明を始めた。

「こちらが過去3年間の販売推移です。特にドイツ市場は前年同期比で18%伸びています」

さらに競合との比較表を示し、

「この価格帯で、同じ性能を維持できているのは私たちだけです」

と自信を持って語った。

具体的な数値と明快な分析は、徹夜明けを感じさせない完璧な説明だった。質疑応答も的確に対応し、ドイツ側を納得させることができた。

「素晴らしい仕事です。データ分析が非常に印象的です。

次の段階に進みましょう」

ミュラー氏は高く評価した。


---


プレゼン終了後、周囲からの評価が一変した。

「春日さん、素晴らしいプレゼンだった。

君のリーダーシップで、チーム全体が成長した」

佐々木部長が称賛した。


みんなからも「春日さん、すごいです」との声が聞こえてくる。

オフィス全体で恵への評価が上がった。


しかし、山田主任だけは複雑な反応を示していた。

表向きは「お疲れ様でした」と言うが、表情は不機嫌だった。あろうことか、小声で「まぐれだったんじゃない?」と呟いている。

恵の成功を素直に認められない様子だった。


---


夜9時、マンションに帰宅した恵は疲れた表情を見せていた。

「お疲れ様。私がいないときに大変だったね」

「最初は不安だったけど、最終的に何とかなった。

なんだかんだいってもチームワークの勝利よ!」

市子は恵の成長に驚きと感動を覚えた。

「自分のがんばり以外にも目が届くなんて、本当に成長したのね。

私がいなくても、立派にやり遂げたんだね」

市子は市子で複雑だった。恵の成長は嬉しいが、それでいて少し寂しいのだ。

「これが恵の幸せへの階段ね」

一方、恵の心境も変化していた。

「市子さんがいてくれると心強いけど。

自分の力でも、ある程度はできるんだ!

これからも市子さんと一緒にがんばるけど、自分でできることは自分でやってみる」

適度な自立への転換点だった。


---


恵の成長が続く一方で、職場では新たな人間関係の問題も芽生えていた。特に山田主任の恵に対する嫉妬は、今後さらなる問題を引き起こす可能性があった。


でも今は、恵の自立への第一歩を踏み出せたことを素直に喜びたい。

(市子さんがいなくても、ある程度は自分でできるんだ。

もちろん、市子さんがいてくれると、もっと力を発揮できる)

市子との関係性も、支配と依存から、より対等で健全なパートナーシップへと変化していく兆しが見えていた。


恵の成長物語は、まだ始まったばかりなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ