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第9話 恵、出世する?!

月曜日の朝9時、恵の商社の会議室。

佐々木部長が新しいプロジェクトチームを発表していた。

恵は緊張しながら部長の話を聞いている。美香の浮気問題を見事に解決した達成感もあり、仕事に対するモチベーションも高まっていた。


「ドイツ企業との新規開拓プロジェクトチームを発表する」

佐々木部長は資料を手にしながら説明を始めた。

「リーダーは私が務め、サブリーダーは春日さん」

周囲から小さな拍手が起こった。

(サブリーダーに抜擢されるなんて、予想もしていなかった)

恵は素直に喜んだ。

「メンバーは佐藤くん、遠藤さん、そしてドイツ担当として、営業2課の中村主任にも参加してもらう」

計ったかのように、中村主任(45歳)が会議室に入ってきた。ドアの前で待機していたようだ。

恵は初対面だったが、どこか自信過剰な雰囲気を感じた。


---


中村主任は胸を張り、自己紹介を始めた。

「私はドイツに3回も出張経験がありまして、ドイツ人の気質は熟知しております」

何となく薄っぺらい。

その薄っぺらい発言をまとめると、こうなる。

・ドイツ人は時間に厳しいから、会議は必ず5分前に始める

・ビールの話をすれば必ず喜ぶ」

・『ダンケシェーン』と言えば打ち解けてくる


恵は首をかしげる。でも、サブリーダーという立場上、初対面早々に反論するわけにはいかない。表面上は「なるほど」と相槌を打った。

佐藤くんも困惑した表情を見せていたが、何も言わなかった。


---


その夜、マンションで。

「中村主任、なんか怪しいんだよね」

恵は今日の会議での中村主任のようすを市子に報告した。

「ドイツ通なのに、コントで使うような豆知識ね。

ドイツに詳しいなら、具体的な商習慣や法制度を解説するはずよ」

市子は法律事務所時代に様々な国際案件を扱った経験があり、ドイツのビジネス慣習についてもある程度知識があった。

「明日、私が中村主任を“調査”する必要があるわね」

今夜も市子は頼もしい。


---


翌日、市子は恵の会社に潜入調査を開始した。

営業2課のデスク周辺で、見えない状態で立ち聞きを始める。昼休み時間、同僚たちの本音が明らかになった。

「中村主任、大抜擢だけど大丈夫かな」

「知らぬは営業1課ばかりなり、だよね」

「あいつドイツ行ったって自慢するけど、仕事じゃなくてパック旅行でしょ」

「支社時代の出張って言ってるけど、記録にないんだよな」

さらに中村主任の企みも立ち聞きできた。

「中村さん、ドイツプロジェクト大丈夫?」

同僚が心配そうに聞くと、中村主任は本音を漏らしたそうだ。

「余裕だよ。失敗したらサブリーダーのせいにすればいい。

うちの会社は伝統的にサブリーダーが責任取るシステムだから」


(恵を嵌める気ね!許せない)

中村主任、知ってか知らずか市子を怒らせてしまったようだ!


---


市子は正義感と恵のため、妨害工作を開始した。


まずは、第1次妨害作戦「嫌な予感作戦」である。

中村主任がドイツの商習慣について、完全に間違った内容の資料を作成していた。市子はその背後で強い嫌な気配を発する。

振り返った拍子に、中村主任が間違ってDeleteキーを連打してしまい、重要な部分が全て消去された。

「あれ?なんか嫌な感じが...」

中村主任は困惑した。

「せっかく作った資料が消えた!」


第2次妨害作戦「悪夢&寝坊作戦」も効果的だった。

重要なミーティングの前夜、市子は中村主任の自宅に侵入し、一晩中悪夢を見せ続けた。ドイツ人に嘘がバレる夢、プロジェクト大失敗の夢などなどを延々と見せる。

翌朝、寝不足でフラフラの中村主任は、朝の重要なミーティングに30分遅刻した。

佐々木部長へ電話で謝罪していると、市子が受話器から変な音(若い女性の声)を発生させ、「君はどこからかけているんだ!」と部長から厳しく怒られた。

中村主任はパニックになった。


---


第3次妨害作戦「接待妨害作戦」は、気の毒だが、取引先にも迷惑をかけてしまう作戦である。

中村主任がプロジェクトについて、大風呂敷を語っている最中に、市子が強烈な気配を発した。

驚いた中村主任が手元のコーヒーカップをこぼしてしまう。

コーヒーは流れ流れて、取引先のズボンに届いてしまった。

「すみません!なんか急に...」

取引先の冷たい視線を浴びる中村主任。


---


そして決定打となるのは証拠発見作戦である。

市子は夜間に中村主任の自宅に侵入し、ドイツ関連の資料を探した。そしてパック旅行のパンフレットを発見した。「ビール美味しい♪」と書かれているメモ書きがはっきりと残っている。

(『ノイシュバンシュタイン城最高!』って観光気分満載じゃない)

市子は呆れた。

翌朝、市子はそのパンフレットとメモを佐々木部長の机に置いた。

---


佐々木部長はパンフレットを手に、中村主任のもとへ。

「中村さん、これについて説明してもらえますか?」

部長がパンフレットを見せると、中村主任の顔が青ざめた。

「申し訳ありません。

実はドイツ出張というのは観光旅行でした...」

中村主任は白状するしかなかった。


「君はこのプロジェクトから外れてもらいます」

佐々木部長は冷たく言い渡した。

そして佐々木部長に「ドイツ担当も兼任してくれ」と言われた瞬間、恵は迷った。

(できるかな...

でも、ここで逃げたら市子さんに甘えるだけだ)

「はい、やらせてください!」

口に出したとたん、背筋が伸びるのを感じた。


---


その日の夜。

「市子さん! すごいことが起きたの」

マンションのリビングで、新体制での大抜擢に覚悟を決める恵。

「今度こそ、私が主体となって頑張る」

でも必要になったら市子さん、引き続きサポートお願いします」

「もちろんよ。恵なら絶対大丈夫だし、私がついてるから、安心して」

気持ちが高揚したのか、恵は宣言した。

「そうだ、新しいことを始めてみようかな」

恵はスマホを取り出し、以前から気になっていた出会い系アプリをダウンロードした。

「今度こそ、本当に大切にしてくれる人を見つけたい」


しかし、翌朝、オフィスの廊下ですれ違いざま、山田主任が小声で呟いた。

「春日さん、最近調子づいてない? ラッキーがここまで続くと、そのぶり返しが怖いよ」

恵はスルーした。

もう山田主任の嫌味に動じることはない。市子がついていてくれるという安心感があった。

恵の職場での立場は一変した。しかし、それは市子の強力なサポートがあってこそのものだった。

恵の市子への依存はさらに深まっていくのだった。

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