第1話:新婚初日の絶叫と衝撃の真実 ~夫、胃潰瘍で倒れる~
私は、今日、この手で、健太さんの心と胃袋を掴んでみせる。
【花子視点】
新婚初日の食卓は、私にとって理想そのものだった。
SNSで見たような、彩り豊かで美味しそうな朝食。
健太さんと並んで座り、「いただきます」。
笑顔を交わす。
そんな朝食を、毎日、健太さんに。
作りたかった。
だから、練習した。
卵焼きの形。
味噌汁の具材。
肉の下味。
時間も惜しまなかった。
私のアカウントには、練習で撮った
「SNS映えする料理写真」が並んでいる。
今日の食卓も、きっと完璧なはず。
それが、私の唯一の願いだった。
期待を胸に、湯気の立つ(はずの)料理を
健太さんの前に並べた。
焦げ付いた卵焼きは、フォークで刺しても
跳ね返す弾力だった。
皿の上で、無残な炭の塊と化していた。
泥のような味噌汁からは、味噌の香りどころか、
ツンと鼻を刺す異臭が漂う。
湯気は全く立たない。
そして、肉炒めは、どう見てもゴムのような硬さだった。
噛み切れる気がしなかった。
一口味見した時。
舌が麻痺するような感覚が残っていた。
私は、健太さんのために、心を込めて作ったはずだった。
胸の奥が、ぎゅう、と締め付けられる感覚があった。
「……これ、誰の料理だ?」
健太さんの声。
戸惑い。
小さな絶望。
静かな部屋に響いた。
その声。
私の心臓を直接掴まれたようだった。
「え、あ、その……私が、作りました……」
私の声は、情けないほどに震えた。
健太さんが交際中に食べた「手料理」は、義母の味だった。
それが、新婚初日に、私のマズメシによって
白日の下に晒されたのだ。
健太さんの目。
ゆっくりと、しかし確実に死んでいくのが分かった。
その視線が、私自身の「料理ができない」という事実を突きつける。
料理ができない自分は、健太さんに相応しくない
「欠陥人間」なのではないか。
まるで、家庭から料理という大事なものが欠けているみたいだ。
そんな自己卑下。
私の心を締め付けた。
私の存在意義は、料理ができないことで失われてしまうのか。
健太さんは、一口食べた味噌汁を、なんとか飲み込もうとしていた。
その喉が、ゴクリと大きく鳴る音が聞こえた。
その光景。
私はただ、縮こまるしかなかった。
息をすることすら、苦しさを感じた。
「……そ、そうか……。うん、花子が、作ったんだな……」
健太さんは、無理やり口角を上げて笑ってみせた。
その笑顔が、かえって痛々しかった。
彼の瞳の奥に、かすかな悲しみが揺れているのが見えた。
まるで、遠い夢から覚めたかのような、虚ろな光だった。
健太さんの胃が、早くも悲鳴を上げ始めているのが分かった。
彼は、食後すぐに、慣れた手つきで胃薬を口にした。
錠剤が喉を通り過ぎる音だけが、不気味なほど鮮明に聞こえた。
その音は、私の罪悪感を、さらに深く刻み込んだ。
新婚初日。
絵に描いたような幸せな食卓は、私の手で、あっけなく崩れ去った。
私は、この状況を、どうすればいいのか。
全く分からなかった。
ただ、健太さんの顔色が変わっていくのを、
見ていることしかできない自分が、情けなかった。
(花子の脳内風景)
「私……私、何のためにここにいるんだろう……?」
「美味しい」。
遠い幻。
【健太視点】
新婚初日の夕食。
今日の俺は、朝からフワフワしていた。
市民の安全を守る警察官として、
どんな凶悪犯にも臆さず立ち向かう俺だが、
今日の相手は凶悪犯なんかじゃない。
花子だ。
今日から毎日、花子の手料理が食べられるのか……幸せだな。
そんな甘い独白を、署に向かう道中、何度も繰り返した。
だが、その甘い予感。
目の前の食卓で、音を立てて砕け散った。
焦げ付き、炭と化した卵焼きからは、焼肉屋の換気扇を
忘れ去ったような、焦げ臭い煙が立ち上る。
鼻腔を焼き切る異臭がした。
フォークで刺しても跳ね返す弾力は、まるでアスファルトだ。
味噌汁は泥水のような色で、沈殿した具材は原型を留めていない。
湯気はなく、酸味が目にしみる。
嗅覚は悲鳴を上げているようだった。
そして、肉炒めは、どう見てもゴムのような硬さだった。
噛み切れる気がしなかった。
皿の上で、テカテカと不気味な光を放っていた。
「……これ、誰の料理だ?」
俺の声は、自分でも驚くほど冷静だった。
だが、胃の奥底がひっくり返るような衝撃に襲われた。
経験したことのない味覚の暴力だった。
刑事ドラマの現場でも、こんな衝撃は受けない。
交際中。
花子が作ったと言っていた温かい料理。
まさか全て、母さんの手によるものだったとは!
騙された事実。
心底打ちのめされた。
「え、あ、その……私が、作りました……」
花子の情けない声が聞こえた。
だが、その声よりも、胃のキリキリとした痛みが先行する。
それでも、俺はなぜか「耐えられない」というほどではなかった。
幼い頃、共働きで忙しい両親に代わって料理をしてくれた姉・陽子も、最初はひどかったからだ。
初めて姉ちゃんが作ってくれたオムライスは、
卵がゴムのようだったし、カレーは水の味がした。
姉ちゃんはいつも俺に「美味しい?」と不安げに聞いてきた。
口下手な俺は曖昧にしか答えられなかった。
だから、姉ちゃんは、俺に「美味しい」と言わせてやる。
色々な料理に挑戦してた。
そんな姉ちゃんの、献身的な姿を見て、俺は文句一つ言えなかった。
花子も、あの頃の姉ちゃんにそっくりだ。
だから、俺は、なんとか耐えられたのかもしれない。
「……そ、そうか……。うん、花子が、作ったんだな……」
無理に笑みを作り、胃薬を喉に流し込んだ。
胃粘膜。
荒れる不快感。
薬の苦み。
料理の味覚を上書きした。
「もう、凝った映える料理なんて望んでない。
クックドゥで良いんだ。
いや、クックドゥにしろ、マジで頼む!」
心の中で、俺は悲痛な叫びを上げた。
市民の安全を守る警察官。
凶悪犯にも臆さず立ち向かう俺が、
まさか自宅の食卓で、味覚の危機に瀕するとは。
この胃の痛みは、これからどうなるんだろう。
明日から。
俺の胃。
この過酷な新婚生活。
耐えられるのか。
白米の隣。
ふりかけの小袋。
まるでオアシス。
(健太の脳内実況)
「味噌汁、殉職。」
「卵焼き、戦線離脱。」
「残る希望は…白米にふりかけ!」
「花子、胃の痛みは増すばかりだ。この事態、どう対処する?」
「司令部(俺の胃)、応答しろ!」
### 【2chスレッド:嫁のメシがまずい】
1 名前:名無しの健太 2025/06/09(火) 23:00:00.00 ID:xyz789
新婚なんだが、嫁のメシがヤバすぎる。
交際中は美味いって思ってたんだが、どうやら
義母さんの料理を「私が作った」って出してたらしい。
初めて嫁の手料理食って、衝撃で胃がひっくり返った。
胃薬常備してるんだが、マジで死ぬかもしれん。
せめて、ふりかけだけは切らすなよって頼んだら、泣かれた。
俺が悪いのかな?
あと、俺には姉ちゃんが国際結婚してイギリスにいるんだけど、
そいつも昔は料理ド下手だったんだけど、嫁はそれ以上だわ。
姉ちゃんも頑張ってたから、嫁も…って思うけど、限界が近い。
もう、凝った映える料理なんて望んでない。
クックドゥで良いんだ。
いや、クックドゥにしろマジで頼む。
2 名前:名無しのメシウマ 2025/06/09(火) 23:02:15.34 ID:abc123
新婚早々それは地獄だなwww
てか、今まで義母さんの飯を自分のって偽ってたとか、
そっちの方がヤバすぎだろ。
健太くん、大丈夫?生きてる?
姉ちゃんがド下手だったとか、そっちも気になるわwww遺伝か?
クックドゥwwwwwそこまで追い詰められてるのか健太www
3 名前:名無しの既婚者 2025/06/09(火) 23:04:10.12 ID:jkl456
うちの嫁も最初はひどかった。
でも今じゃ俺より料理うまいぞ。
愛があれば、味覚も進化する。
頑張れ、健太。
次回予告: 新婚生活は始まったばかり。
胃薬は友。
ふりかけは命綱。
健太の胃痛は日増しに悪化していく。
花子の料理は、果たして健太の胃袋と心を救えるのか?
次話:第2話 我慢の日々、開幕 ~胃薬が手放せない新婚生活~