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月影の姫と月の呪いー転生聖女の異世界癒し旅ー

ルーナ地方中央に位置する丘の上に、白亜の城がそびえ立っていた。

 その城は、日中は透き通るように美しく、夜になると薄青い月光に染まるため、いつしか人々はこう呼ぶようになった——月影の城と。


 だが、その城にはよくない噂が絶えなかった。

 「姫が夜になるたび苦しむという。しかも、それは自らにかけた呪いらしい……」

 何人もの医師が治療を試みても原因がつかめず、姫は夜ごと目を伏せてうめき声を上げる。城の人々は憂いに包まれ、どうすることもできなかった。


 一方、過労と不幸な事故から転生し、聖女となり旅をしているアヤノと、エルフの薬草師エルナは、王から届いた切実な招きに応じ、この城を訪れる。


 夜が近づくほどに、城の白い壁が青白い光を帯び、まるで月が宿っているかのように見える。この幻想的な城で、姫はいったいどんな苦しみに囚われているのか。二人の胸には、不安と使命感が入り交じっていた。


 城の案内を受け、アヤノとエルナは謁見の間へ通される。

 そこではラディアス王が待っており、やつれた面持ちで二人を迎え入れた。温厚そうな王だが、深い苦悩を抱えているのがひと目でわかる。


「よく来てくれた。……娘をなんとか助けてやりたいんだ。」


 王は声を落とし、隣の臣下たちも沈鬱な表情だ。

 エルナが少し身をかがめて答える。


「姫さまが夜になると痛みに苛まれると聞きました。わたしたちで原因を突き止め、お力になれればと思います。」


 王は眉を寄せ、苦しそうに頷く。


「何人もの医師に見せても、“身体的には異常なし”と言われるばかり。夜が来ると、激しい痛みに襲われているというのに……。どうにもしてやれないのだ。」


 アヤノは決心したように微笑む。


「わかりました。まずは姫さまにお会いして、痛みの原因を探ってみます。」


 王は「頼む……」と、沈んだ声で応える。臣下たちもほっと息をつくが、城の雰囲気は依然として重い。これから訪れる“夜の時間”に姫がどう変化するのか、二人は不安とともに謁見の間を後にした。


 夕刻が迫り、薄い赤紫の空が窓を染める頃、アヤノとエルナは姫シェリスの部屋へ向かう。

 扉を開けると、中には金色の髪をした華奢な姫がベッドに腰かけていた。顔色は優れず、肩を落としてぼんやりと外を眺めている。


「……あなたたちが新しく呼ばれた治癒師?」


 姫はそう呟くように言葉を落とし、こちらを見ないままだ。エルナが礼をして、小さく微笑む。


「はい、わたしたちはアヤノとエルナと申します。姫さまが夜になると痛みを感じると聞いて……。もしお許しくださるなら、少しでもお力になれればと……」


「……関係ない。」


 姫は弱々しく首を振り、目を閉じる。


 外の空が暗みを増し、月がのぼり始めた瞬間、姫は苦しそうに胸を押さえ始める。呼吸が荒くなり、今にも崩れ落ちそうな様子だ。


「……あぁ……! やっぱり……くる……痛い……!」


 アヤノとエルナは目を合わせ、エルナが急ぎバッグから薬草粉を取り出す。


「姫さま、これをお飲みください! 痛みを和らげる薬草です!」


「いらない……放っておいて……わたしが……苦しむのは当然……なの……」


 姫は半ば拒絶するが、耐えきれないのか身体を丸めてしまう。アヤノがすかさず抱き起こすように支え、ヒールの力を注ぎ込む。


「……ヒールなら痛みを減らせるかもしれません! 姫さま、耐えて!」


 すると、アヤノはヒールの術を放ちながら、妙な抵抗を感じる。まるで姫自身が、魔力をはじいているようだった。

 汗がにじむ姫の額を拭きながら、アヤノは過去の経験から内心で思う。(これ……完全に心の呪縛だ。……。姫さま自身が自分に呪いをかけている……)


「ん、和らいだ……?」


 苦しげな息の中、姫はぽつりと呟く。ヒールの光は最低限の痛みを緩和させ、姫は床に手をついて深呼吸をする。アヤノは小さく安堵しつつ、姫の瞳を見て問いかける。


「姫さま、自分を責めているのですか?私には姫さまが自分に呪いをかけているように見えます。」


「……知らない……わたしは……何もできなかった……」


 姫は悲痛な表情のまま答えを拒み、俯いてしまう。エルナも歯がゆそうに目を伏せる。


 アヤノとエルナは、姫の部屋を後にしてから廊下で顔を合わせる。

 エルナが切なげに呟く。


「姫さまは自分に呪いをかけているということなの……?まるで罰を受けたいかのよう……」


「うん。ヒールを通そうとしても、姫さま自身が拒否するような感覚があった。これはもう、身体の病じゃない。彼女の心が呪いを生んでるんだよ」


 二人は溜息をつき、しばし黙り込む。だが、エルナはすぐに顔を上げて言う。


「王さまならば、何か知っているかもしれない……」


 アヤノがうなずくと、二人は王に事情を話すため、再び謁見の間へ足を運ぶことを決める。


 王に面会すると、二人は姫が夜の痛みと自責の念に苛まれていること、そしてヒールが上手く作用しない現状を報告。

 王は暗い顔で小さく頷き、


「シェリスは母の死を自分のせいだと思い込んでいるのかもしれん。」


少し悩んだ後、王は思い出を語ってくれた。


「シェリスは昔、母とともに、この城にある月の庭園で遊ぶのが何より好きだった。満月の晩にはその庭が一番美しくて、花や噴水が月光に照らされ、二人の笑い声が聞こえたものだ。……だが、今はその庭には近づかない。」

「もしかしたら、そこへ行ってなにか思い出せば、シェリスの心が解かれるかもしれない。だが、娘が肯んで行くとは思えぬ……」


「姫さまを説得してみます。月の庭園でのの思い出を思い出せば、呪縛が解ける可能性があります。わたしたち、やってみます。」


 アヤノが決意に満ちた表情でそう答えると、王は穏やかに微笑んだ。

 こうして二人は、姫を月の庭園へ連れ出す使命を帯びたのだ。


 夜が迫る時間、アヤノとエルナは姫の部屋をもう一度訪れた。扉を開けると、シェリスは窓辺で月を見上げていた。

 エルナがやや緊張した声で口を開く。


「姫さま、月の庭園へ一緒に行ってみませんか? 夜の痛みが解かれるかもしれません。お父上もそれを願っています」


「……いやよ。月の出る日に外へ出たら、また痛い思いをするだけだもの。」


 姫は震えた声で返し、背を向けようとする。だが、アヤノはゆっくりその前に回り、真っ直ぐ視線を重ねる。


「姫さまは、本当にそれでいいんですか? お母様はそれをお望みだと思うのですか?」


「……そんなの……わたしが悪いから母様は……」


 姫の瞳にまた痛みが走り、胸を押さえる。アヤノはすかさずヒールをかけ、苦しみを和らげる。


「もしこのまま、何もしなければ、ずっとこの痛みに囚われ続けてしまいます。でも、もし違う可能性があるなら、試してみてもいいのでは?」


 エルナが薬草袋を握りしめ、優しく微笑む。


「わたしたちが一緒に行きますよ。もし痛みが強くなっても、なんとか支えます。だから、もう一度、母さまと一緒に過ごした場所へ行ってみませんか?」


 姫は沈黙を保つが、瞳が揺れている。声にならない想いが胸を満たしているのだろう。

 やがて弱々しく、


「……そんなことして……もし治らなかったら……わたし、また自分を責めるだけよ……?」


 とこぼす。エルナは苦笑いしながら首を振る。


「もし治らなくても、わたしたちはあなたを放り出したりしません。呪いを解く方法、きっと見つけます。あなたが本当にもう苦しまなくていい、と心から思えるまで、寄り添いますから」


 姫はやや頬を赤らめるようにして目を伏せ、


「……そこまで言うなら……行ってみる……。」


 アヤノがほっと息をつき、微笑む。

 こうして、姫は重い足取りながらも月の庭園へ行くことを承諾した。


 シェリスは夜の回廊を歩きながら、小さく肩を震わせている。夜が深まれば、いつもの激痛が襲う——その怖れと、母の思い出を目の当たりにする不安が、表情に滲んでいた。


 エルナは隣を歩きながら、そっと問いかける。


「姫さま、もし痛みが強くなったら遠慮なく言ってくださいね。すぐに薬草とヒールで抑えますから。」


 シェリスは目を伏せたまま、小さくうなずく。


「……わかったわ……ありがと……。」


 声は震えているが、ささやかな感謝の気配が混じっていた。


 廊下の先には大きな扉があり、その先が庭園へ続く出口だ。漆黒の空に淡く浮かぶ月を見上げながら、アヤノとエルナは深く息をつく。


 そして二人は、扉を押し開けた。

 夜風がさっと吹き込み、城の奥に広がる美しい庭園がかすかな月光を帯びて浮かび上がる。そこが「月の庭園」——シェリスと母がかつて笑い合った場所だった。


 そこに広がるのは、白い敷石を施した広い庭と、中央に据えられた噴水。夜の闇の中で、噴水から落ちる水が月光を反射し、銀色の滴となって煌めく。花壇や生垣は青白い幻想の景色を作り出している。

 シェリスは一歩足を踏み出したが、体がすくんだように動きを止める。


「……こんなにも変わらず、綺麗なんだ……あの頃と……同じ……」


 その声には震えが混じる。思い出が揺さぶられたのだろうか。

 エルナは姫の肩にそっと触れ、優しく励ます。


「大丈夫……行ってみましょう。」


 姫はおずおずと歩き出すが、ほどなくして胸を押さえて顔をしかめる。


「……ううっ……やっぱり……夜の月が……わたしを……」


 アヤノは即座にかがみ込み、姫の背をさする。


「ヒールをかけます。少し呼吸を整えて……落ち着いて、大丈夫。」


 静かにヒールの光が姫の体を包むが、その魔力が強く拒まれる感覚がまた走る。

(姫さまは、まだ自分が苦しまないといけないと思ってる……でも……)

 アヤノは歯を食いしばり、さらに魔力を注ぎ込む。姫が小さく息を吐き、ほんの少し痛みが和らいだのか、また歩を進める。


「ありが……と……でも、わたし……母を……」


 そう姫は呟くと、噴水の縁までなんとか近づく。夜風が花の香りを運んできて、彼女の記憶をさらに刺激する。わずかに涙が浮かんだように見えるが、姫はそれをこらえようとするかのように顔を背けた。


 庭園の奥には、あずまやがある。優雅な円形の屋根を持ち、夜でもちょっとしたお茶を楽しめるようになっている。

 姫はその柱に触れ、「……母様と、ここでいつも……夜のお茶を飲んだ……。綺麗な花や噴水を一緒に眺めて……」と懐かしそうにつぶやく。

 そこにこもる懐かしさは強いが、同時に“母がいない現実”が姫を痛ませているのが、二人にも伝わる。


 ふと、隅のテーブルには小さな木箱が置かれていた。姫の目がそれを見つけ、動揺が走る。


「……あれ、母様が……最期に触れてた、箱……どうして、こんなところに……」


 エルナが周囲を警戒しながら、「開けてみますか?」と姫に問う。姫は逡巡の末、小さく頷き、ふらつく足取りで箱へ近づく。蓋を開けると、古い手紙が一通入っていた。

 そこには優しい文字で、王妃が危篤状態で書き残したと見られる文言が並ぶ。


『シェリスが、月の庭園で笑顔を向けてくれると、私は世界が幸せになるのを感じるの……。どうかあの子が、自分を責めないように。あの子が……もし自分を責めるときは、この庭で抱きしめてあげて……私はシェリスが生きていてくれるだけで嬉しいから……』


 読み終えた瞬間、姫の瞳から涙がこぼれる。


「母様は……そんなこと……言ってたの……? わたし……ずっと……母を救えなかったって……。でも……」


 言葉が途切れ、胸に突き上げる感情がまるで洪水のようにあふれる。


 ズキリ……

 またしても姫の胸を鋭い痛みが刺し、彼女は「あっ……」と声をもらして膝をつく。月がちょうど雲間から抜け、庭を青白い光で満たす時刻——まさに姫がいつも苦しんでいた時間だ。

 エルナが「姫さま、薬を……」と近づくが、姫は泣きながら首を横に振る。「もう……どうせ……わたし……」

 アヤノは「しっかり!」と抱きとめ、強めにヒールの力を注ぎ込む。だが、先刻にも増して抵抗が強く感じられる。姫の心がまだ自分の罪を手放しきれず、呪いが意地を張っているかのようだ。


「姫さま、聞いて! お母さまは、あなたが苦しむことなんて望んでいない。生きて笑うことを願っていたはず!手紙にもそう書かれているじゃない!」


「でも……わたしが……何もできなかった……から……っ」


 苦しさに呻きながら、姫は長年培った罪悪感を捨てきれず、涙をこぼす。その涙は痛みと絶望の混じったもの。しかし、同時に母からの想いを知った動揺が彼女の鎧を崩しかけている。


 まるで呼応するように、姫の瞳に母の幻がよぎる。

 夜の庭園を手をつないで歩いている幼き日、母が微笑み、「シェリス、あなたが笑うと月も嬉しそうね」と声をかける光景が、まぶたの裏にありありと浮かぶ。そこでは母が確かに生きていて、姫は無邪気な笑顔を振りまいていた。

 (ああ、母様……わたし、ずっと自分を責めていた……でも、ほんとは……)


 ぐっと肩を震わせた姫は、痛みをこらえながら「母様……わたし、あなたが……あんな手紙を……」と呟く。エルナが再度薬を差し出し、「自分を痛めつけなくてもいいんです。母上は最後まであなたを愛していたのよ」と優しく声をかける。


 姫は歯を食いしばり、ベンチに手をついてようやく上半身を支える。


「……本当に……わたし……苦しまなくて、いいの……?」


 アヤノは姫の肩を抱き、「そうです。もう、あなたが自分を責める理由はないんです」と強く言う。

 すると、姫の目に涙がぶわりと込み上げ、理性の堤防が決壊したように大粒の涙を流す。


「母様……わたし……ごめんなさい……ずっと……わたしが……悪いって……思ってた……。でも……母様は幸せだったって……」


 痛みは最高潮だったはずなのに、涙とともに少しずつ鎮まっていく感覚が姫の中に広がる。呪いがほどけていく——そう感じた瞬間、姫は声を上げて泣き始めた。

 エルナが暖かな布をかけ、「大丈夫、大丈夫……もう苦しまなくていい……」と背をさする。アヤノは微笑みつつヒールを弱めていく。すでに姫の体を包んでいた“自責の魔力”は消え去ったようだ。


 月光が噴水にあたり、水の表面を銀色に揺らす。姫の涙はその光にきらめいて落ち、夜の花々がそっと風に揺れる。

 シェリスは何度も胸を押さえて呼吸を整え、「痛くない……。こんなに楽なの、いつ以来か……」と驚き混じりに言う。エルナは小さく笑って、「あなたが心から『もう苦しまなくていい』って思えたから、呪いも力を失ったんですよ」と返す。

 姫は感極まったまま、声にならない涙を流す。痛みからの解放と、母の真実を知った安堵とで、気持ちが溢れ出しているのだろう。


 少し遅れて、ラディアス王が庭園に現れる。娘を追いかけていたが、遠巻きに様子を見守っていたという。王は、姫が涙を流している姿を認めて駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。


「シェリス……。もう大丈夫だな。よく頑張ったな……」


 姫は王の胸の中で、子供のように泣きじゃくる。


「お父様……ごめんなさい。わたし……ずっと逃げてた……。自分が悪いんだって思い込んで……。でも……違ったのね……」


 王は姫の背を優しくなでる。


「うん、違うんだ。最後の願いは、シェリスが生き生きと過ごすこと。それだけだったんだ。」


 その光景を見て、アヤノとエルナも笑みを浮かべて視線を交わす。

 エルナが小声で、「よかった……姫さま、本当に救われたんだね。自分を責める呪いから解放されたんだ。」

 アヤノも静かに頷く。


「うん、夜の痛みはもう起きないと思う。もしまた少し不安があっても、きっと、姫さまは大丈夫……」


 姫は少し落ち着きを取り戻し、涙を拭きながら二人の方へ向き直る。


「ありがとう……。あなたたちがいなければ、わたしはここまで来られなかった。」


 声は震えているが、間違いなく先ほどまでの絶望感とは違う、温かい響きが宿っている。


 しばらくして、庭園の闇がゆるみ始める。東の空が薄紅色に染まり、星が消えていく頃、姫は噴水の縁に腰を下ろし、深い呼吸をする。痛みはもう感じない。心を蝕んでいた呪いも跡形もなく消えていると自覚する。


 王が寄り添い、姫の手を握る。


「夜が終わった……どうだ、シェリス? 大丈夫か?」


 シェリスは小さく微笑み、「はい……。こんな穏やかな朝を迎えるの、何年ぶりでしょう……もう自分を傷つけなくていいんですね……」と呟く。


 庭園の花には朝露がきらめき、噴水の水音が優しく響く。姫は空に向かって心の中で語りかける。「母様……わたし、ようやくわかったよ。あなたが最後に言いたかったのは、幸せに生きてほしいって願いだったんだね……」

 不思議と、その言葉を口にしただけで胸が熱くなる。悲しさよりも、母の温もりが蘇ってくるようだ。これが、姫がずっと望んでいたのに気づけなかった真実。


 エルナが微笑みかける。


「姫さま、きっとあなたは、今夜からは痛みに縛られることはないですよ。身体も心も、ちゃんと治っていくはずです。」


 アヤノも言葉を添える。


「そうです。母さまの愛がちゃんとあなたを支えていますから。もしまた不安になったら、いつでも呼んでくださいね。」


 姫は二人に深く頭を下げる。


「本当にありがとう……。これからは、この庭で月を見ても、わたしは……怯えないと思う。むしろ、母様が見守ってくれてるんだと感じられる……」


 そう言って、はにかむような笑顔を見せる。その笑顔は、ずっと隠れていた柔らかい光を放っていた。


 城の人々も姫が夜を無事に越えたと知り、安堵と喜びで包まれる。王は二人に深く礼を述べ、「娘の笑顔を見られるのは、わたしも久々だ。おまえたちにいくら感謝しても足りん……」と涙を浮かべて言う。


 こうして、姫の苦しみはひとつの終止符を打った。

 呪いは、姫が自分で生み出した鎖だった。愛する母を救えなかったと自らを責めるあまり、夜の痛みに囚われ続けてきた。しかし、母が本当に伝えたかったのは「生きていてくれて嬉しい」という温かい言葉。月の庭園と、そこで見つけた手紙が、その真実を姫に教えてくれたのだ。


 朝の光が月影の城に柔らかく降り注ぎ、月の庭園にも金色の彩りが映える。

 これから姫が歩む道には、夜の恐怖ではなく、母の愛がいつも寄り添い、月の庭園で満たされる新しい希望が待っている。


 こうして長かった呪いの夜は終わり、姫は目を潤ませながらも、しっかりと自らの未来を見据え始めるのであった。

気に入っていただけましたら、評価・レビューしてくださるととても嬉しいです。

こちらの話には連載版があります。もしよければそちらもご覧ください。

連載版→https://ncode.syosetu.com/n0106ka/

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