二話
まじまじと見てみても、教室の片隅で背を丸めてるあの七島七海とは重ならない。
イケメンって言うか男前って響きが似合う。
そして何より背筋が伸びてる。
「いやー、別人みたいだろ? 陽太のクラスに転校生が来たってのをこの間俺のいとこに話したらさ。何かその学校で入学早々問題起こして転校した男子がいるとかって言ってて。まさかの名前も一致してて」
「いとこって舞姉ちゃん?」
「そ。舞の学校」
舞姉ちゃんは一個年上で少し離れた町に住んでいる。
小さい頃は近所にいて同じ小学校だったから、俺とリツの三人で良く遊んだっけ。
確かわりと偏差値の高い高校に進学したはずだ。
「で? 隠し撮り写真まで使って何をそんなに調べてんだよ」
確かにこの画面の中の彼と転校生の七島が同一人物だとするなら、一体何があったんだ?って感じではあるけれど。
リツが女子の絡まない話題でこんなに興味を持つとは思えない。
俺が聞くと、リツはスッと顔を近づけてきて声を潜めた。
「それがさ……。この七島くんはめちゃくちゃモテてたらしいのよ」
「……は?」
「そんで、舞が、『七島くん連れて来てくれるんならこっちも女子呼んで遊びに行ってもいいわよ』って言うもんだから」
「おま、……はぁ」
聞くんじゃなかった。くだらなすぎる。
そりゃあこんな男前ならモテるだろうけど。
女子も集まるだろうけど。
お前はソレで良いんか。
「リツ。お前も顔だけなら負けず劣らず……いやちょっと負けてるかもだけどイケメンなんだから自信持てって」
「え? ありがとう?って言うか顔だけってなんだよ。しかもちょっと負けてるってなんだよ」
「とにかく! そんな理由なら俺は関知しないからな。別人に見えるほど気配消してるなんて、よっぽどの事情があるんだろ? そっとしとけよ」
「えー! 俺女子とお近付きになりたい。陽太、七島連れてきてよ〜」
「えー! じゃない。女子とは自力でお近付きになりなさい」
「何だかんだ断われないくせにぃ〜」
「これは断われるわ!」
そう、自覚するほどに俺は頼られると断われないタイプである。
だがこれは断わるべきだ。
転校するほどの何かがあって。見た目も変わってて。
きっと触れちゃいけない。
残りのおかずを雑に口の中へかきこみ、未練がましい視線を向けてくるリツを残して中庭を後にする。
俺も七島も得しない。ついでにリツも得しない。
あんな男前連れてってみろ。他が空気になるのは目に見えてるじゃないか。
俺は絶対関わらないぞ。
……そう、決めてたんだけどな。