一話
陰キャだとか陽キャだとかって言い方は正直あんまり好きじゃないんだけど、こういう分類はざっくりしていていい加減で、ある意味では便利だとも思う。
特に、対して関わったことのない人間のことを位置づけする時なんかには。
七島七海。
早口言葉みたいな名前だ。そんで暗そう。
第一印象はそんな感じ。
高一の夏休み明けに転校して来て現在一ヶ月経過。
俺と同じ一年二組。
それなのにほとんど話したことは無い。
目を隠すように伸びた前髪とフレーム大きめの眼鏡。
彼はいつも、窓際の席で背を丸めて本を読んでいる。
そんなだから、
「一言で言えば……陰キャ? って感じだと思う、けど」
『七島ってどんな奴?』
そう聞かれて、答えられたのはこれだけだった。
「そっかー。同じクラスの奴ならなんか分かるかと思ったんだけど……」
昼休み。中庭のベンチで友人と二人して弁当を食べながら駄弁る。
別にいつもそうしている訳じゃないけれど、今日は授業が終わってすぐ、隣のクラスからこいつが飛んできて捕まった。
そしてさっきの質問である。
「同じクラスっつっても、全然喋らないし良く分かんねぇよ」
「陰キャねぇ〜。てか、陽太がそういう表現すんのも珍しいよな」
「そうか? リツこそ、何でそんなこと聞くんだよ。七島は男だぞ? ナナミちゃんじゃないんだぞ」
こいつ、幼なじみの”リツ”こと習志野律人は、十六歳にして自他共に認める女好きだ。
センター分けが爽やかなイケメンであるにも関わらず頭の中身はピンクのお花畑である。
それが滲み出ているのか、いまいちモテない。
俺の頭の中身は男子高校生として人並みだと思うが、モテない。
何故だ。
「分かっとるわ。あいつ遠目から見てもデカいし、何なら俺より漢だし。お目々パッチリおちびな陽太ちゃんと違ってぇ〜。クリクリ天パが可愛いでちゅね〜」
いや、モテない要因はこういうとこかもしれない。
「うざい!」
「いだだだだっ」
からかうように頭を撫でてきたリツの手首を思い切りひねってやる。
前を通りかかった二人組の女子がこっちを見て何やらひそひそ話をしていったが、気にしてはいけない。
現在身長164センチ。まだまだ伸びるし。
「天パじゃないし。ちょっとくせっ毛なだけだし」
「それを天パって言うんだろって……痛っ! ちょ、ごめん。ごめんって! これ、これ見て!」
リツは掴まれているのと逆の手で器用にスマホを操作すると、それを俺の顔面に押し付けてくる。
画面には見たことのない制服を着た男子生徒が写っていた。
「……ん?」
「これ! 前の学校にいた時の七島七海!」
それは隠し撮りのような妙なアングルで、しかし顔ははっきりと認識できる。
やや長めの黒髪。
風が鬱陶しいだけなのだろうが、右手で前髪をかき上げる姿がやけに様になっている。
キリッとした眉。その下の眼光強めな切れ長の瞳。
鼻高っ。
足長っ。
シュッとしてる。
雑誌の切り抜きか。
「……いや誰?」