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出雲朔太郎の能力

 喧嘩番長の称号を巡った戦いなんて言うものだから、壮絶なバトルでも繰り広げられるのかと思ったけど、勝敗は呆気なく、一瞬で決まったのだった。


 今までに見た、吉光という人の雷の能力。そして、目の前にいる爆野くんの爆弾の能力。それらと同じように、出雲くんには強い能力がある。まだそれを目の当たりにはしたことがなかったので、果たしてそれがどれだけ強いものなのか、私は知らなかった。


 気が付いた時には、私以外の、出雲くんの前に対峙していた爆野くん、そして爆野くんの後ろに控えていた沢山の阿修羅高校の生徒たちが地面にひれ伏していた。何が起こっているのか分からないが、何故だか目の前の彼らは地面に這い蹲り、苦しげに表情を歪めている。


「ぐっ………!噂以上の力だな………っ!!」

「もうお前たちは立ち上がることすら出来ない。俺が力を解除しない限りな」

「これがテメェの………、重力の力か………!!!」


 重力、という単語を聞いて、漸く出雲くんの能力が何なのか、何となく理解し始めていた。恐らく爆野くんたちは、出雲くんの力による重力で地面に倒れ込んでいる。その力の大きさは、ミシミシと音を立ててめり込んでいく爆野くんの体が物語っている。今思い返してみると、吉光くんと対峙した時も、気付いたら地面に倒れ込んでいた気がする。あれはそういうことだったのか。


「大人しく帰れ。そして2度と俺に関わるんじゃねぇ」

「くそ………っ、ふざけんな………!」

「それを約束するなら力を解除してやる」


 有利は完全に出雲くんが握っていた。この状況下で爆野くんに残されている選択肢は、出雲くんの条件を飲む事しかない。爆野くんはとても悔しそうだったが、やがて諦めたように項垂れ、負けを認めた。「分かった」と渋々搾り出した声によって、出雲くんは己の力を解除し、解放された阿修羅高校の面々がゆっくりと立ち上がるのだった。


「素直に認めてやるよ。俺はお前に負けた。喧嘩番長にはなれねぇって事だ」

「俺はそんな称号興味ねぇ」

「お前は興味無くても、周りは勝手にレッテルを貼る。お前のその強過ぎる能力が故にな」


 制服の土埃を払いながら立ち上がった爆野くんは、ハッキリと出雲くんにそう告げた。後ろの下っ端たちは、悔しそうにオイオイと声をあげて男泣きをしていて、「兄貴ィ〜!!俺たちにとっての1番は兄貴だけですぜ〜!!」と何とも美しい友情?を見せてくれた。なんて青春なんだろう。私がいた世界には無かったタイプの青春。これもまた1つの、甘酸っぱい思い出………。


「お前まで何泣いてんだクソアマ」

「だって………!すごく感動して………!!」


 それはまるで、私が過ごしたあのサッカー部での日々のように。夏の全国大会出場を目指して練習に明け暮れる日々。思い通りに行かない練習。一向に勝てない練習試合………。それに悩む恋水くんを支えていたあの頃が、最早懐かしい。サッカー部で一丸となって、汗を流しながら努力し続けた結果、漸く勝てるようになってきて、漫画やゲームの世界ではありがちなご都合展開かもしれないけど、私に取っては間違いなく青春だった。あの時のことが重なって、涙せずにはいられなかったのだ。


 そうだ、これは私にとっての部活と同じなのかもしれない。喧嘩番長になりたいという目標の為に、努力し続ける。変わらぬ熱意の元、その夢をただひたすら追いかける。それに心を打たれない人などこの世には存在しない!


「爆野くん!!!」

「は?」

「私、応援するから!!爆野くんの夢!!」

「はぁ?」

「出雲くんのことも応援するから!!」

「おいクソアマ………。意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇ………」


 勝手に感動して勝手に暴走する私に、出雲くんも爆野くんも置いてけぼりを食らっているような表情だった。夢に向かって頑張ってる人がいるなら、私はそれを応援し、サポートする………。それがマネージャーの務め!


 やがて爆野くんは、自分の部下たちも引き連れて帰って行った。「この借りはいつか必ず返す!」というお決まりの捨て台詞を残して、ようやく焼野原高校には静寂が帰ってきたのだった。何とか一件落着か、と思ったのも束の間。教室に戻ろうとする私を、出雲くんは何故か腕を掴んで引き留めた。


「え………」

「テメェ、やっぱり能力者だな」


 突然の言葉に、ポカンと開いた口が塞がらない。能力者?一体誰が?と考えるも、どう見ても出雲くんは私の方を見て話しているし、私に対して言葉を発している。


「何のこと………?」

「………まさか、無自覚なのか」


 本気で分かっていない様子の私を見て、出雲くんも私が嘘を付いているとは思わなかったみたいだ。私も私で、何が何だか分からず動揺する。当然、私は能力なんて使ったことがない。仮に知らぬ間に使っていたとして、いつどのタイミングでどんな能力を使っていたのか、全く見当も付かなかった。出雲くんや吉光くん、爆野くんのような、目に見える派手な効果は無かった筈………。


「お前が窓から飛び降りてきた時、俺にはお前が瞬間移動してきたように思えた」

「え?」

「お前が教室からここまで落ちてくる間の時間が"無かった"」


 ますます分からない。だって私は、その時間をちゃんと体感していたから。窓から飛び降りた後、風を受けながら落下していく、あのフワフワとした感覚。あれは夢でも幻でもない。落下している最中の時間は、"確かにあった"。でも出雲くんが言うにはその時間が無くて、私が窓から飛び降りるのを見た後、次の瞬間には目の前に私がいたのだと。


「あの時テメェは何をした………?」

「何をしたって………」


 あの時私は確か………、選択肢を選んでいた。出雲くんに対する台詞を選んでいた筈。それ以外は、あの落下中にできたことなんて何もない。だから可能性があるとするのなら、その選択肢だろう。


「私には落下中の時間があったから………」

「………ということは、お前以外の、俺たちの時間が止まってるって事か………」


 冷静な出雲くんの言葉は、私にとってあまりにも衝撃的な事実だった。私が選択肢を選んでいる間、ほんの数秒の時間ではあるが私以外の時間が止まっている。まあ確かにゲームの仕様上、選択肢を選んでいる最中は物語やキャラクターは停止した状態で待っている。それはつまり、言い方を変えれば時間を止めているということになるのか。


「わ、私が………能力者………」

「チッ………。面倒なことになってきたぜ………」


 私も出雲くんと同じ能力者だなんて、信じられない。理解が追い付いていない中で、私たちを呼ぶ野太い声が響いてくる。


「朔ちゃ〜ん!!恋子〜!!!2人とも無事なの〜!?」


 事の一部始終を教室から見ていた筈の鎌ッチが、心配してここまで駆け付けてくれていた。駆け寄りながらこちらに手を振る鎌ッチに、私も手を振り返す。とりあえず私は出雲くんのお陰で傷一つないし、出雲くんも見ての通り無事だ。


 しかし、新たに浮き出てきた問題。実は私も能力者だったという驚きの展開。私はこれからどうなっちゃうの〜!?という台詞がまさに似合うような展開に、私も出雲くんも驚きを隠せずにいた。

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