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ドキドキ同棲生活

 それにしてもさっきのあの雷は何だったのだろう。私の前を無言で歩いていく出雲くんを必死に追いかけながら、私は先程の出来事を思い出していた。


 突然目の前を走った稲妻。状況から見るに、あの吉光くん?という人の仕業のように見えたけど………。人間が雷を操るなんてあり得ないし、この乙女ゲームの世界での特殊な演出なのかな?それに、私が目を閉じてる間に出雲くんが吉光くんに何かしてたみたいだけど、それも一瞬の出来事過ぎてよく分からなかったな………。


 ま、いっか☆乙女ゲームの世界で、殺し合いとか戦いとかそんな殺伐なこと起こる訳ないしね!あれが日常の、ただの男子高校生同士の喧嘩なのかも!


「どこまで着いて来る気だ、アマ」

「だって………、私他に行く宛ないし………」

「チッ………」


 相変わらず出雲くんは冷たくて、ずっと後ろを追いかけてくる私を鬱陶しそうに見下ろした。やっぱり、迷惑なのかな。彼しか頼れる相手がいないから必死にしがみ付いていたけど、出雲くんからしたら得体の知れない女。勝手に頼りにされても困るよね。


 しゅん、として立ち止まる。やはり誰かに頼ろうだなんて考えが甘いのかもしれない。自分のことは自分で何とかするしか………。


「おい!モタモタしてんじゃねぇ!置いてくぞ!」

「えっ」

「早く来い!」

「着いて行っていいの………?」

「………俺が見放したせいで野垂れ死なれても後味悪いからな。勝手にしろ」

「出雲くん…………!!」


 やっぱり出雲くんって、怖くて厳つくてちょっぴり近寄り難いけど、すごく優しい人なのかも!出雲くんの優しさに触れて嬉しくなった私は、るんるんと足取り軽やかにスキップしながら、出雲くんの隣に並んだ。「クソアマ!気安く俺の横に並ぶんじゃねぇ!」なんて怒っているけど、きっとそれも照れ隠しなだけだよね。何となく、出雲くんというキャラクターが分かってきたかも。


 それにしても、さっきの吉光くんとのイベントといい、出雲くんといい、この乙女ゲームは変わっている。私がいた乙女ゲームとは180度違う。こういうジャンルが今は流行っているのかな?よく分からないけど、ここにいる間は私がこの世界観に合わせていくしかない。出雲くんを頼りつつ、もっとここのことを知っていかなくちゃ。















「ええぇぇえ…………」


 思わず漏れた驚きの声。出雲くんに着いて歩くこと30分。私の目の前には、立派な門を構えた日本風のお屋敷が佇んでいた。しがないマンションに住んでいたごく一般家庭の私には、あり得ない程の大きさ。門の向こうを覗くと、日本庭園か何かか?と思うような美しい庭が見えて、またしても言葉を失う。


「ここが出雲くんのお家?」

「ああ」

「出雲くんって、御曹司か何かなの………?」

「親父が会社を経営してる」


 どうやらこれは正真正銘のおぼっちゃまらしい。確かに、どの乙女ゲームのキャラクターにも1人は必ずいるであろう、お金持ち設定。まさか出雲くんがその人だったとは………。あの乱暴な言葉遣いから全く想像が付かなかった。


 驚く私を他所に、出雲くんは慣れた様子で門を潜った。まあ自分の家なのだから、慣れているのは当たり前なのだが。動かない私を置いてどんどん中に入っていく出雲くんに意識を弾かれて、私は慌てて彼を追った。私は今日から、元の世界に帰れるその日まで、ここでお世話になるのだ。


「ただいま」

「お、お邪魔します………」


 ちゃんとただいまと挨拶をして玄関に入った出雲くんが、失礼かもしれないが少し意外だった。ヤンキー風な出立ちをしているので、親に対しても絶賛反抗期なのかと思ったが、意外とその点はしっかりしているらしい。と、私が内心そんな失礼なことを考えていたのが顔に出ていたらしく、それに気付いた出雲くんがバツが悪そうな顔をした。


「言わねぇと親父に半殺しにされんだよ」

「は、はんごろしって、そんな大袈裟な………」


 半殺しとかいう物騒な単語が聞こえてきたが、要はお説教されるという事かな?お父さんのお説教を怖がるだなんて、高校生らしい可愛いところもあるじゃないか、と思ったが、それを言ったら確実に怒られるので黙っておいた。そうしている内に、奥の方から誰かがこちらに向かってくる、パタパタとした足音が聞こえてきて、


「きゃあああああっ!!!!」


 奥から姿を現した若々しいエプロン姿の女性が、私と出雲くんを見るなり悲鳴を上げた。その女性の体がぐらりと傾いて、このままじゃ倒れる、と私が手を伸ばしかけるよりも前に、隣にいた出雲くんが光の速さで女性に駆け寄る。出雲くんの手によって抱き止められた女性は、何とか床に倒れずに済んだ。


「何してんだクソアマ!いきなり悲鳴あげやがって!」

「だ、だって…………」


 私と同じようにクソアマ、と呼ばれた女性は、虚な瞳を開けて額に手を当てた。ごめん、もう大丈夫だからと言って出雲くんから離れると、自分を落ち着けるように深呼吸をする。


「だって、朔ちゃんが彼女を連れてくるんだもの………。驚いちゃって、つい………」

「さ………、朔ちゃん………?」


 聞き慣れないあだ名に思わずその言葉を繰り返すと、苛立った様子の出雲くんが女性に牙を向く。


「クソアマ!その名前で呼ぶなと何度も………!」

「良いじゃない、貴方が赤ちゃんの頃からこう呼んでるんだし、今更変えられないわ。それより貴方こそ、母親をクソアマって呼ぶのやめなさい」


 母親。………母親?


「お、お母様ですか!?」


 私が驚いてそう叫ぶと、その女性はニッコリと美しい笑顔を浮かべて頷いた。私の為に来客用のスリッパを出してくれて、さあ上がって、と優しく声をかけてくれる。


「………俺のお袋だ」

「初めまして。どうぞ遠慮なく上がって!今お茶を淹れるから!」


 あまりにも美人で若々しい人だったから、てっきりお姉さんか誰かかと思っていたが、まさか出雲くんのお母様だったなんて。お母様のお言葉に甘えて、靴を脱ぎスリッパに履き替えると、そのまま広い廊下、縁側を通り、これまた立派な畳の客室へと通された。開け放たれた襖から見える中庭の景色は、どこかの高級旅館にも負けないくらいの絶景だ。そうして風景を堪能している内に、お母様が盆に乗せた温かいお茶を出してくれて、私は深々と頭を下げた。これだけ立派なお屋敷だと、何だか自然と背筋が伸びてしまう。


「で、朔ちゃんのどこが好きなの?」


 開口一番、私の名前を聞くよりも、自分の息子のどこに惚れたのかと聞いてくる辺り、どうやらお母様は私と出雲くんが恋人同士なのだと勘違いしているようだ。えっと………、と反応に困っている間に、盛大な舌打ちを漏らした出雲くんが強く否定をする。


「コイツはそんなんじゃねぇ。………拾ったんだ」

「まあ。そんな犬みたいに………」


 ごめんなさいね、口が悪くて、と出雲くんの代わりに謝るお母様は、とても優しくて良い人そうだ。私の事を拾った、としか説明しない言葉足らずな出雲くんに代わって、私は事の経緯を説明する。まずは私の名前と年齢。そして、別の世界から、突然この世界に飛ばされてきた事。そこで偶然出雲くんに出会った事。行く宛のない私をここまで連れてきてくれた事。どこまで信じて貰えるのか分からなかったが、ありのままの事実を伝えると、何故かお母様は次第に目をウルウルとさせて、ポケットからハンカチを取り出し、目頭を押さえ出した。


「………そんな大変な目に遭っただなんて………!こんな可愛くて年端もいかない女の子が………!」

「チッ………。いちいち泣きやがって………これだから女は………」

「よくやったわ朔太郎!貴方は男の中の男よ!」


 悪態をつく出雲くんをストレートに褒めるお母様。お母様は、私が帰る方法を見つけるまで、この屋敷に居候することを快く受け入れてくれた。なんて良い人なのだろう。


「困っている女を守れない男はクズよ!男の風上にも置けないわ!死ねばいいわ!!」

「お、お母様………?」

「朔ちゃん、ちゃんとお父さんの言い付けを守っているのね………!お母さん感激!」

「黙れ」

「今日の夕飯はお赤飯にしましょう!朔ちゃんの漢気と、恋子ちゃん歓迎パーティーをするのよ!」


 何だかよく分からないが、凄く良い人には違いない。最初に出会ったのが出雲くんだった事、そしてすごく素敵なご家族に巡り会えた事は、本当に幸運だったのかもしれない。


 こうして私はこの日から、出雲くんのお屋敷でお世話になることになった。男の子とひとつ屋根の下………。一体どうなっちゃうんだろう………!

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