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2度目のお姫様抱っこ

 バキ、と聞いたこともないような骨の軋む音がして、思わず私が小さく悲鳴を上げる。出雲くんが容赦なく吉光くんの顔面を殴り飛ばし、彼はそこらの机や椅子もろとも勢いよく吹き飛ばされた。あまりにも痛そう………、という人並な感想と、やはり見慣れない喧嘩は傍でこうして見ているだけでも少し怖い。無意識に私は、出雲くんの背中にぎゅっとしがみついて、事の成り行きを見守っていた。


「………やはり俺の作戦は間違っていなかったようだね。むしろ、俺の想像以上に効果的だったようだ」

「さっさと帰れ」

「殴られっぱなしで、俺がこのまま素直に帰るとでも?」


 すると吉光くんはゆらりゆらりと立ち上がって、その体に再びバチバチと稲妻を帯びだした。警戒し、臨戦態勢に入る出雲くんの後ろに隠れる私は、なぜか足元がぴりぴりと痺れるような感覚を覚え、床に目線を映す。


「い、出雲くん!下が………!」


 私の言葉につられるようにして足元に目線を映した出雲くんは、小さく舌打ちをした。吉光くんのものと思われる青い光が、教室の床一面に広がり、徐々にその電気を蓄え始めていた。


「出雲………、君にとっては痛くも痒くもないだろうが、その後ろの女にとってはどうかな」

「テメェ………!」

「普通の人間なら、その足………使い物にならなくなってしまうかもしれないね」


 そう不適に笑いながら、吉光くんは更に自分の力を強めた。先程までは若干ピリピリと不快感を感じるかな?程度だったものが、確実に痛みを増している。どうやら吉光くんは、殴られた恨みを私で晴らそうとしているみたいだ。かといって、宙に浮くなんてことはできないし、私、一体どうしたら………。


「ひゃっ!?」


 今度は全身に感じる浮遊感。ぐらりと揺らぐ視界。気づけば足元の痛みはなくなっていて、私のすぐ傍には出雲くんのたくましい分厚い胸板。


「出雲くん!?」


 気付けば私は出雲くんに軽々とお姫様抱っこをされていた。状況を理解するのに数秒かかって、私は目をぱしぱしと瞬かせた後に、一気に顔を真っ赤にする。とはいえ落っこちるのも嫌なので、慌てて彼の首に腕を回す。出雲くんにこうしてお姫様抱っこして貰うのは、最初に出会った時以来2回目ではあるが、やはり慣れるものではない。だって恋水くんにはされたことがないし、元いた乙女ゲームの世界では、どの攻略キャラのストーリーでもこんな展開は用意されていなかった。最近出雲くんのお母さんの料理が美味しすぎてちょっと太り気味だし………。気になるところはたくさんある。


「は、恥ずかしいよ出雲くん!」

「近くでワーワー喚くんじゃねぇ!俺は女の甲高い声が嫌いだ」

「で、でも………!私重いでしょ………!?」

「なら下りるか?テメェの足は一瞬で焼けて無くなるだろうがな」


 恐る恐る床を見下ろすと、既にそこは先程よりさらに電気を帯びて、常人が触れたら間違いなく一瞬で消し飛ぶだろう破壊力になっていた。出雲くんの言う通り、私はもう立っていることすらできないだろう。恐怖に思わずゴクリと生唾を飲み込む。しかし出雲くんは、相変わらずその雷の中で平気で仁王立ちしていた。


「出雲くんは平気なの………?」

「俺はお前のような軟弱な絵柄とは鍛え方が違う」


 さ、さすがだわ………。やっぱり出雲くんってすごい………。

 そう感心しているのも束の間。


「君がそう行動するのは読めていたよ!両手が塞がっていればいいハンデになるだろう!」


 ほったらかしになっていた吉光くんが、一気に距離を詰めてきた。吉光くんはその力のせいか、光のような速さで出雲くんに向かって何度も殴りかかり、雷を放ってくる。そして出雲くんは、私を抱えたままでそれを軽々しく避けていく。その動きは洗練されていて、吉光くんの攻撃が少しでも私が当たらないようにという配慮もされていた。


 しかし、さすがに出雲くんが避ける度に、抱えられている私もグワングワンと振り回され、その勢いに落ちそうだった。悲鳴をあげながら必死にしがみついて、何とか持ちこたえる。せっかく出雲くんが私を守ろうと頑張ってくれているのに、ここで間抜けに落っこちるなんてことはなりたくない。


「らしくないよ出雲………。君はずっと1人で、何人も寄せ付けず………、誰のことも信用してこなかったじゃないか………」

「…………」

「それなのに君は今、たった1人のよく分からない女の為に、こんなことまでしているのか」

「………テメェには関係ねぇ。俺のことは俺が決める」

「君にはがっかりしたよ。その女と共に仲良く死んでくれ」


 そうして吉光くんは、奥の手と言わんばかりにその手に力を蓄え始めた。みるみる大きくなっていく雷の玉。吉光くんが力を使う限り、永遠に大きく、強力になっていく。そして彼はその電磁砲を、私と出雲くんに向けて構えた。こんなの大きすぎて避けようがない。その上出雲くんは私というハンデを………。


「ウルァァ!!!!」

「ぶっ!!!!!!!!!」


 出雲くんの巻き舌と共に、出雲くんのそれはそれは長い脚が吉光くんの顔面に炸裂した。先程の殴打よりももっとひどい、ゴキ、というもはや骨が折れたのではないかという音がして、吉光くんは教室の壁を突き破ってさらにその先の方へと吹っ飛ばされていった。けたたましい破壊音と土埃に、私は茫然とする。出雲くんは、吉光くんが必殺技のようなものを使う前に、彼を蹴り飛ばしてしまったのだった。


「あ、あの………、こういうのって普通、必殺技を見届けてから決着つけるんじゃ………」

「めんどくせぇ、そんなの待ってられるか。十分茶番には付き合ってやっただろう」


 吹き飛ばされすぎて、吉光くんの姿が見えないが、気づけば床の雷も無くなっていて、おそらく吹き飛ばされた先で完全に伸びてしまっているのだろうということが想像ついた。


 悪いのは吉光くんだけど、少しだけ同情してしまった。

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