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7話

お読み下さりありがとうございます


 ルキと一緒に朝一で焼き上げたアップルパイを手土産に、ドゥルッセン公爵家の家の前でルキと馬車を降りる。

 玄関の前では、瞳を輝かせたレンが両手を広げて出迎えてくれた。


「リュシー!待っていましたわ」


「お招き頂きありがとうございます」


「甘くて美味しそうな匂いがしますわ」



 急かすようにレンに手を引かれ、何度か訪れたことのあるドゥルッセン公爵家のゲストルームに入ると、色とりどりの薔薇の花が活けられている。お茶の邪魔にならないように、微香の薔薇をチョイスしたのだとか。


 すると、先に席に着いていた一人の男性が立ち上がり「こちらは、ファイニール辺境伯様ですわ」嬉しそうに頬をピンク色に染めてレンが婚約者を紹介してくれた。


「婚約者のラファイエ・ファイニールです。イルキス殿下とは一年ぶりくらいでしょうか?久しぶりの――」


「いや、もう殿下とは呼ばないでくれ。私は、新たにカリュザイール公爵位を賜った、ただのイルキスだ」


 話を最後まで聞かずに、つっけんどんにルキが挨拶を終えると、鮮やかな緋色の髪で一度会えば忘れないだろう金色の瞳が、リュシエルに優しく微笑みかける。


「はじめまして、リュシエル・ガトゥーラと申します。お会いできて光栄です」


「リュシエル嬢のことは、レンからとても仲の良い友人だと聞いていたので、お会いできて嬉しいです。これからは、私の友人としてもお付き合いしていただけますか」


「もちろんです」「無理です」


·····バカルキ!何が無理ですよ

·····なんでアンタも返事してんのよ!



「女嫌いのイルキス殿···様が、会話だけで嫉妬するとは···ははっ」


「ラブラブを押し付け過ぎですの。リュシーが可哀想なのですわ」


「おい、レン。リュシーの作った菓子は、まだ私が持っているぞ!要らんのなら持って帰るが···。食べたいのなら言い直せ」


「真実の愛で結ばれている二人の間には、誰も邪魔に入ることができないのですわ···で、いいでしょうか?」


「ふん。私の言動をリュシーは喜んで受け入れているんだ」



「「「·····」」」





 手土産のアップルパイと、ちょっと早いが婚姻のお祝いに用意したプレゼントを渡すと、二人はとても喜んでくれた。


 ティーカップにお茶を注いだ後、侍女はパイを切ってテーブルに並べて部屋から退出した。


 カップの中では、薄い桃色のお茶に薔薇の花びらが一枚浮いている。ファイニールの地域で育てられている薔薇は、お茶や蜂蜜漬けなど食せるものを栽培している。このローズティーは、ラファイエ様からの贈り物だとレンは微笑んだ。


 お茶を一口いただくと、薔薇の仄かな香りが口から鼻にわたり満たされた。その後でレンが表情を一瞬に曇らせた。


「実は、侍女らを下がらせたのには理由がありますの···」


 レンが困り顔でラファイエ様に視線を向けると、彼はひとつ頷いてから私たちに視線を戻した。


「昨日、王都の宝石店にて息子が何者かに拐われた」


「えっ?」「なに?」


「宝石店と言うより――」



 宝石店で予約をしている最中に、令息が痺れを切らし先に馬車に戻ると言って護衛と店から出ていったときだという。

 一緒にいた護衛の話によると、店を出たあとに一人の女性が目の前で転んだらしく、護衛が手を差し出し起き上がらせようとしたところで背後から何かで殴られた。

 そのまま、衝撃でうずくまった瞬間に令息が連れ去られたということだった。



「昨日、王都でお見かけしたのはファイニール辺境伯様だったのかしら?数人でいた中の一人に似ている方をお見かけしたのですが」


 武器屋のドルドレアを出た後で見た、筋肉団の中に細身で緋色の髪色をした人を見たんだよね。瞳の色までは見ていなかったけど。


「昨日は、辺境の地から一緒に来ている護衛たちと王都に行きました。どの辺りでお会いしていましたか?」


「辻馬車が2台前後に並んでいたところに、数人で話されてました。近くにいた方が「子供がさらわれたらしい」と言っていましたので、多分そのときかと」


「そうでしたか···」


 ラファイエ様は、深く溜め息を吐く


「実は、まだ見つからないのです」



「えっ?」「なに?」



 今日のお茶会は、新公爵のルキを呼んだことでラファイエ様が居ないのは不味いと思ったのだろう。護衛で一緒に来ていた者たちとドゥルッセン公爵家、昨日に引き続き警護団で今も捜索しているという。


·····「はぁ?」

·····「お茶してる場合じゃないでしょう?」

·····「無駄な筋肉より、脳筋鍛えなさいよ」


「「「·····」」」



 令息の容姿の特徴を聞けば


「髪型は私のような――」ラファイエ様と同じ短髪緋色の髪で、瞳の色はちょっぴり緑がかった金色をしているとのこと。この国では、緋色の髪色は大変珍しいので、目撃情報があればほぼ令息と断定できるという。

 

「ルキ!出番よ」


·····「新公爵として恩を売るチャンスよ」

·····「一日経っても見つからないなんて」

·····「それに、多分泣いているわ」


「早く見つけてあげないと!」


「リュシー、すべて言葉にしなくても私とルキには通じますわ」


·····やってしまった?

·····思考が口からもれてた?



 クスリとレンが笑うと、はやる気持ちが少し落ち着いた。 


「ファイニール辺境伯、私にも捜索を手伝わせてくれ。リュシーが悲しんでいる」


「「「·····」」」



 お茶会はまた後日ということになり、ルキとラファイエ様は令息の捜索へ、私はというと建設中のカリュザイール公爵家へ一人で向かうことになった。

 建設中のカリュザイール公爵家へは、お茶会が終わってからルキと向かうことになっていた。

 完成間近で部屋の壁紙を決めなくては施工が進まないからだ。なので、壁紙を私が一人で決めることになった。

 一人といっても三人の護衛付きだが。





 一人で出掛けることになったので、一度ガトゥーラ侯爵邸に戻り簡単なワンピースに着替え、カリュザイール公爵家の馬車ではなくガトゥーラ侯爵家の家紋が入ったもので移動することにした。

 そして、護衛の一人が馬車に一緒に乗り込み残る二人は愛馬に跨がりついてくるが、彼らの騎士服がかなり目立つ。


「チッ」


「淑女は舌打ちしませんから」


 私の前で座って、いや···だらりと背もたれにもたれて仕事を放棄しているマキシリアンが紅茶色した瞳を細めてボソリと言った。


「マキシ、貴方こそ護衛をする気はあるのかしら?そんなにだらけて、きちんと仕事しないと給金減らすようにルキに言うわよ」


「はっ?仕事はきちんとしてますよ。馬車全体に防御魔法かけ続けているので」


「え?」


·····凄い。気づかなかったわ

·····天才って、伊達じゃないのね



「もしかして、リュシエル様は俺が何もしない給金泥棒だと?昨日も王都での買い物中に、防御魔法を展開していましたよ」


 ルキが付けた三人の護衛は、一人三人分の働きが出来る超凄腕たちなのだと、どのようにして選ばれたのかをこの後休みなく語るマキシから逃げる場所がなかった。馬車の中だったからね。


 マキシがやっと口を閉じた。

 目的地までは、まだかなり手前のはずなのに、馬車が止まったのだ。

 窓から御者にどうしたのかと問うと、吊り橋を渡ったところで車輪の外れた馬車が道を塞いでいるという。


 セクレイト様が馬車の御者に状況を確認しに向かっているところだと、ダン様が窓から伝えてきた。


 話を終え戻ってきたセクレイト様の話によると、馬車の持ち主はマルロー男爵で、領地に帰るところだったらしい。そして吊り橋を渡ったところで右側後方の車輪が外れ、その後すぐに私達がやってきたとのこと。


「ひとまず、私たちも一緒に馬車を道の脇に移動するのを手伝ってきますので、しばらくお待ち下さい」


 そう言って、セクレイト様はダン様とマキシにも手伝うように促した。


 馬車からマキシが降りるときに「リュシエル様も降りて下さい」と声をかけてきた。


「なぜ私も?」


「少しだけ浮遊魔法で浮かせて欲しい。ここで三人とも体力使うとなると、帰りに疲れが出たところで賊に襲われでもしたら大変だからさ」


 小さな声で耳打ちされ「分かったわ」と返し馬車から私も降り立った。


 そこに、マルロー男爵が直ぐ様挨拶にやってくるとリュシエルに何度も頭を下げた。



「馬車の中で唸り声のような声が聞こえるのですが?中にどなたか乗っているのでしょうか?出来れば馬車を動かすのに、降りていただきたいのですが?」


 マルロー男爵に、ダンが馬車を少しでも軽くしたいと伝えると、男爵は顔を青くした。


「···な、中には息子が···具合をわ、悪くして横になっていまして」


「具合が良くないのでは仕方がないですね。では、そのまま動かしましょう」


 馬車を動かした場所には、車輪を締めるボルトが落ちていたので、その場で車輪を締め直し簡易的な修理ができた。


 男爵に別れを告げ馬車に乗り込むと、マキシから「中にいたのは珍しい赤毛の子供だった」と聞かされた。馬車を移動する際にカーテンが揺れて中が見えたと話す。


 マキシと話しているうちに、男爵の乗った馬車が先に動き出した。


 私は小窓から顔を出し、セクレイト様にはルキを探してラファイエ様と二人で、マルロー男爵の領地に向かうように話す。ダン様には男爵に見つからないように尾行を頼み、馬車に備え付けられている緊急時に使う狼煙筒を渡した。


「しかし、そうなると護衛が――」


「大丈夫だよ。俺がいるし。実は、学院時代に魔法の天才と言われた人はもう一人いるんだ。···彼女さ!」


 マキシはキラッキラッスマイルで、私の右手首を掴み持ち上げ挙手させた。





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