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6話

お読み下さりありがとうございます。



 私の目の前にいる彼は、白い高級生地の襟部分に紫色の家紋が入った騎士服を着て、大きな店の扉を開き振り返る。


「足元にお気をつけください」


 キラッキラッスマイルを向けてくるのは、護衛騎士のマキシリアンだ。


 まだ婚姻前にもかかわらず、学園卒業後カリュザイール公爵へと臣下降下したルキは、公爵となった次の日から私の専属護衛騎士を公爵家から3名程、我がガトゥーラ侯爵家へ配属してきたのである。


·····その笑顔いらないから

·····この3人、どうにかならないかなー


 

 専属護衛騎士の3人のうち、店の扉を開けているマキシリアンは、学生のとき風魔法を暴走させ、ルキと私が保健室に行くことになったときの原因を作ったビブジョア子爵令息だ。その後、ルキに謝罪に行ってから学園では友人として過ごしていたらしい。童顔の彼は紅茶色した髪と瞳がキュートだが、魔力量が多く魔法も最上級魔法をいくつか使えるという天才だ。

 見た目は可愛いが、やることド派手なんだよね。


 そして、隣にいて「私がエスコートしましょう」手を差し出してきたのが、ルキが第二王子だったときの専属護衛騎士セクレイト。アルティメンテ侯爵家の三男だ。スカイブルー色の長髪に私と同じアメジストの瞳が、美しい顔立ちに妖艶さをプラスしていて···いや、相乗効果で「美の女神」と言われているのも納得である。彼を目にした周囲の女性たちは、目をハート型にして貴方に釘付けですよ。


「大丈夫です。エスコートはいりません」


·····貴方狙いの女性からの護衛ですか?

·····近寄るな!要らぬ災いが降りかかるだろー



 最後のひとりは、私から少し離れた位置で周辺に目を配ってくれている、この国では珍しい黒髪に焦茶色の瞳を持つ美青年のダン・ルカオル。ダンは王宮騎士総団長の令息でルカオル侯爵家では三男だが、次期当主の座を実力で勝ち取り、この春から若いながらに王宮近衛騎士の副団長に就任する予定だった。

 ――だったのだが、毎日の集団行動が面倒臭いと思っている彼にルキが提示したのは、うちの公爵家の騎士団長になってくれれば、部下の指導、剣の指導、魔法の指導なんかは副団長や専門の指導者も雇うから、自分の時間がたくさん出来るよって感じに引き抜いたらしい。更には、通常は僕の奥さんの専属騎士になってもらいたいから、集団行動はほとんどないよって話をすると二つ返事だったという。


 そんな彼らとの初めての外出。ガトゥーラ侯爵家に配属されてから二日目の今日。明日のレンとのお茶会で、先日報告を受けた婚姻のお祝いをプレゼントするために、王都にある老舗の武器屋ドルドレアに来たのだ。


 扉を抜け中に入ると、金属と油のような匂いが鼻についた。


「何かお探しですか?」


 店の奥から若い男性の店員さんが出てきて声をかけてきた。私にではなく、斜め後ろにいるマキシリアンにだ。


 私はひとつ咳払いをし


「結婚祝いのプレゼントを探しています」


 店員さんに尋ねると、店員さんは困ったと首を傾げた。そして、相手にするのも面倒だと言わんばかりの表情で「うちは武器屋ですが?」鼻で笑いやがった。


「チャキ」


 店内を見ていたセクレイトが、店員さんの言動に剣の柄を握る。

 それを見た店員さんは、慌てて謝る始末。


「セクレイト様、店の外に出ていて下さいますか。私は買い物をしにきたのです」

「しかし···」

「マキシリアンがいるので大丈夫です。外でお待ち下さい」


 セクレイトが店から出ていくと、今度は店の奥からガタイのいい老人が入ってきた。


「何か失礼がありましたかな?」


 白髪まじりの老人は、顔をクシャリとさせて眉を下げ「うちの店員が申し訳ありません」と深々と腰を折った。


「お爺さん、失礼をしたのはこちらですので、頭を上げて下さい。私の言葉が至らず申し訳ありませんでした」


 この店は、いつもお爺さんだけなのだが今日はお孫さんが来ていて、店を手伝ってくれているという。


「して、何をお探しですか?」


「友人への結婚祝いなのですが。騎士同士の婚姻なので、二人で使えるものがいいのではと思いまして、武器や防具で何かあれば見せていただけますか」


 自分には武器や防具のことなどは何も分からないことを伝えると、お爺さんは分かる人がいた方がいいと言ってマキシリアンを見た。


「俺?俺は魔法オンリーだから無理です。でも、ちょっと待ってて下さい」


 そう言って扉から出ると、店の外からのダンを連れて来た。


「ダン様、ごめんなさい。私は武器や防具の知識がなくて、一緒に選んでほしいのです」


「分かりました」


 ダンがお爺さんに回復系の魔石を見せて欲しいとお願いすると、お爺さんは眉をピクリと上げ、店の奥から木箱を持ってきた。


「今はこれしかないよ」


 蓋を持ち上げられた箱の中には3色の5つの魔石が大事そうに並んで入っていた。


「5つもありますか、さすが老舗ですね」


 目を細め食い入るようにそれを見てダンは微笑み、桃色は毒消しで緑色は怪我の治癒、黒色は魔力回復の魔石だと教えてくれた。


 そうしてダンと一緒に選んだのは、剣の柄にベルトで装着する魔石だ。魔石はお揃いになるよう2つあった緑色のものにした。

 金額を聞いてビックリしたが、カリュザイール公爵へ請求をお願いして無事買い物終了である。


「初めて見る騎士服だったから、どこの騎士かと思ったら、カリュザイール新公爵家の騎士様たちだったとは···その騎士服、大丈夫なのか?白に金は王家の色だが。白に紫って···凄いな。ダン、お前は王宮近衛副団長になると親父から聞いていたが?ルキ坊のおもりになったのか?」


「坊っちゃんのお誘いが魅力的だったので、王宮勤め辞めちゃいましたよ」


「ふーん。んで、その美人な嬢ちゃんが、ずっとルキ坊が探しまわっていた奥方か!」


「リュシエル・ガトゥーラと申します」


「なんだ?ガトゥーラ?宰相の娘だったのか?なんで直ぐに見つけられなかったんだ?」


「い、色々あり···長年変装してまして···」


·····このじーさん何者?

·····アットホームだわ


 私が、二人の会話を不思議そうにして聞いていたので「じーさんは前王宮騎士総団長です」と、ダンは小さな声で耳打ちして教えてくれた。


 そして、新公爵の武器や防具はドルドレアに発注するようにルキに言伝てを頼まれ、私たちは店を出た。





 店から出て扉を閉めたときだった、目の前を何人かの男の人が走って横切っていく。

 その先にはやじ馬らしき人たちが「子供がさらわれたらしい」と、男の人が走って行った方向へ視線を向けながら言っているのが聞こえてきたので、近くにいたカップルらしき男女に事情を聞いてみた。


「今、さらわれたと聞こえましたが、何かあったのでしょうか?」


「私は、悲鳴が聞こえたのでそちらを振り返ってみたら、倒れている人がいて···手を伸ばして何かを叫んでいたんです。すると後ろから二人の男性が駆けてきて、倒れている人が何か伝えていたの。二人は倒れている人をそのままにして、手を伸ばしている方向に走って行ったわ」


「倒れた方はどうなったのですか?」


「倒れていた人はその後に駆けてきた3人の男性のひとりが担いで、そこに停まっている馬車に乗せているところだぜ」


 男性が指を指した先を見れば、通りには緑色の辻馬車が2台前後に並んで停まっている。そこには後ろの馬車に男性を抱えながら乗ろうとしている人が···二人同時に馬車の扉をくぐれずに、右往左往しているところだった。


「あっ!さっき駆けてった人たちが戻ってきたぞ」


「姉ちゃん、騎士を連れてるってことはお貴族様なんだろ?アイツ等も多分、お忍びの騎士か何かじゃねーかな?服装を変えても、シワが出来てない新品の服なんざ、平民は着れねーからな!」


 戻ってきた男性たちは、薄い生地の服では隠しようがない堂々とした体躯をしていた。


·····無駄のない筋肉ボディーだわ

·····変装したつもりかな?意味ないわ



 そして私は、私の連れている3人の騎士を順に見た。


「俺、リュシエルの専属騎士だから、あちらさんの仕事は関係ないからな」


·····口を尖らせ可愛さアピールされてもさぁ

·····騎士なんだから可愛さはいらないよ



「見た目の割に、いい仕事が出来なかったのでしょうか」


·····見た目と仕事って関係あるんかい?

·····あなたはモデルさんですか?



「面倒事に巻き込まれる前に、さっさと移動しましょう」


·····そうですね

·····賛成です



「何かあれば、駐屯の警護団に行くでしょうから···では、ランチに行きましょう。今日は皆さんとは初めての外出ですから、お勧めのお店を一部貸し切りにしました」


 そして四人が向かった先は、職人達が集う定食屋。一部貸し切りは、店の裏庭。


「いいところでしょう!」


「「「·····」」」


 私のチョイスは完璧だと思う。裏庭なら誰にも見られないし、見られないからマナーも無視出来るし、何を食べようが視線が気にならないのだ。

 それに···この3人と一緒ということは、ちょっとした場所を選ぶと女性が寄ってくるので香水臭い中で食事をすることになる。それが、ここでは入店してから裏庭に出るまでの間、客の汗臭さを息を止めて我慢するだけで済むのだ。


·····めっちゃ穴場なんだよね


「女将!まずは、ケバブ四人前!ポテフラ四人前、バーベキューソース別皿で!それと先にお茶をお願いねー」


「「「·····」」」


「定食屋だけど、何でもあるわよ。食べたいものを注文してね」


 お茶を持ってきてくれた女将は、哀れみの眼差しを3人に向けたあと、残念そうな顔で私に微笑んだ。


·····な、なんで?




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