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5話


「そうですわね、リュシーには正直にお話しいたしますわ。実は私にも、ルキと一緒で幼い頃から想う方がおりましたの―――」


 レンの想い人は年上で、初めての出会いは年に一度開かれる武勲祭だったと、ほんのり頬を赤らめながら話しはじめる。

 それは、名の通りその年に武勲を上げた精鋭たちが腕を競い合う国王主催で行われる祭のことだ。


 トーナメント戦で彼は準決勝まで進んだが、最後に負けてしまった。

 観戦を終え、母親とレンが父親のいる役員たちのいる部屋へ戻るときに、競技場の回廊で彼が家族と笑っていたのを見たという。奥様と、まだヨチヨチ歩きの子息と彼は手を繋いでいて、優しい笑顔だった。


 次に彼と会ったのは、彼の奥様が亡くなったひと月後くらいだったとのこと。


 その日レンは、午後の時間を邸のバラ園の温室で過ごしていた。

 そこに、父親と一緒に入室して来たのが見慣れない騎士服を着た彼だった。父親と彼は、私に気がつかずに会話をしていたが「私も一緒に死んでしまいたかった」その言葉が聞こえた瞬間、レンはふたりに向かって「ごきげんよう」と大きな声を出したらしい。


 ふたりが驚いていた中で、さっさと挨拶を済ませた後、レンは会話に加わったという。


「死にたいとは、何故でしょうか?」


······直球で聞いたのね

······さすがレンだわ



「死んでしまったんだ。私と息子を残して···」


 彼はポツリとそう言った。

 そして、何処を見ているのか分からない曇った瞳で張りぼての笑顔を見せた。

 その笑顔は、とても衝撃的だったらしく、今でも鮮明に覚えているのだとか。


「では、私が貴方の大切な人になって差し上げますわ。5年後、高等学園を卒業するまで待っていて下さい。約束ですわ。なので、死んでしまいたかったなどと二度と言わないで下さいます?5年後の大切な人、そう私とのことを楽しみに考えていれば、いつも笑顔でいられるはずですわ」


 彼は、目を丸くして「······ありがとう」と微笑んだ。その微笑んだ目は曇っていなく、しっかりとレンに視線を合わせていたらしい。


 そのあとは、毎年2回短いお茶の時間を楽しんでいた。毎回見せる色々な彼の表情に安堵していたという。



 そうして、最終学年を前にして両親に、一年後の婚姻を進めてもらえるように話すと、子供の頃の冗談程度にしか思われていなかったらしく、まだ遊びが続いていたのかと「何も後妻として嫁がなくても」とか言って、後日に婚約者候補を何人か見繕ってきたという。


「全く信じられませんでしたわ、私が話した三日後には、婚約者候補の話をしだしたのよ!なので、私もその三日後に邸を出ましたの」


「えっ?邸を出たって···公爵令嬢のレンが家出したの?どこに?」


「王宮騎士団の寮です。あら?私が王宮騎士団に所属していることはご存知なかった?」


「えぇー!公爵令嬢なのにですか?」


 それは、彼の大切な人となるには必要だと思ったからだといい、レンは「ふふっ」と笑って、袖をたくし上げた。


······き、筋肉すごっ!

······チキンパワー?


 しかし、驚いた。温室育ちのお嬢様だと思っていた。


 バラ園の温室で「ありがとう」と受け入れてくれた彼。レンはその日のうちに、婚姻までの計画を立てたらしい。そして次の日には、騎士となるべく両親を説得。首を縦に振らないので、陛下と王妃に助けてもらい、騎士団に入隊。毎日の早朝ランニングから始まり、学園下校時は騎士団へ直行し、学園の長期休暇は全て騎士団で体を鍛え上げていたという。更に、お茶会や社交のお付き合いなど、レンは365日でいつ休んでいるのだろうか?


「彼への愛の力ですわ」


······うん、すごく重いと思うよ

······騎士団は、すごく迷惑だったと思うよ



「そろそろ、彼とは誰だか教えていただけますか?」


「あら、ごめんなさい。言ってなかったかしら?······ファイニール辺境伯のラファイエ様ですわ」


 そして、家出先の騎士団に迎えに来たのは、ファイニール辺境伯のラファイエ様だったという。

 辺境を守るだけあり、滅多なことでは辺境から出ないことで有名なラファイエ様が王宮に足を運んで下さったのだ。

 父親が書面で「娘との軽い口約束の責任を取れ」とラファイエ様に家出を知らせたらしく、レンを娶るためではなく、諦めさせるために説得しにきたのだった。


 そして、未来の切符を手に入れるための戦いが開戦?したという。


「フローレンス様、申し訳ありません。私は未だ亡き妻を忘れることが出来ません。しかし、あのときのフローレンス様の言葉はとても嬉しかった、救われたのです。私は生きていくことを選びました。なのでもう、気に病む必要はございません。これからは同世代の若者たちと···」


「勝手に一人で終わらせないで下さい。子供だとラファイエ様はあの日、私を侮っていたのですね。その後も、年に2回の国王陛下との謁見の後、いつも短い時間でしたが一緒にお茶をお飲みしていたときも、蔑んでいたのかしら?」


「そんなことはない」


「私は、この国のヒエラルキーの頂点に立つ貴族の令嬢です。その私が、貴方に直に伝えたいことがありますわ」

「私は5年前の邸の温室のバラ園で、貴方に恋をした訳ではありません。その年に行われた武勲祭のときに最後に負けたラファイエ様がご家族と共に笑顔でいたのを見かけていたのです。そして、温室でお会いしたときにはラファイエ様は廃人のようでした。私は、貴方ではなく家族に恋をしました。家族となれば、あの優しい笑顔を取り戻せると信じたのです」

「···私は5年間、辺境の地へ行くための努力をしてまいりました。自分の身は自分でも守れるように騎士団で剣術を覚えました。戦にも備え、実戦も経験しました。学園での勉強では、出来る限りの語学を学びました。強い体を作るため何でも食し体に取り入れました。辺境隣の国の毒にも、耐性を付けました。······ラファイエ様のもとに嫁ぐためには、私は先に死んではいけないから」

「ラファイエ様は、奥様を忘れられないとおっしゃいましたね。当たり前ですわ。忘れてはいけないのです。ずっと愛していていいのです。だって、ラファイエ様の愛する人は一人ではないでしょう?父、母、兄弟と、子供と、妻と······私はその中のもう一人になりたかったのです。5年間、私はその中の一人になるために生きてきましたわ」


「フ、フローレンス様······」


「父にお伝え下さい。嫁ぐ先はどこでもいいと、婚約者候補が決まりましたら邸に戻りますので······それでは、失礼させていただきますわ」


 そして、その場を去るときに彼の前で騎士団長が言ったのだ。


「では、私が立候補をしても?フローレンス嬢との初夜は魅力的だと思うので、貴女の背中の大きな古傷も私ならば愛せます。大丈夫です、すぐに私に夢中になるでしょう。淋しくなんかさせません。毎夜貴方を抱き潰して差し上げますよ。今日までの5年間より···」


「ドッ」


 突然だった。騎士団長はドサリとその場に倒れた。彼が騎士団長の左頬を殴ったのだ。

そして―――


「ふざけるな!フローレンス様は、これから幸せになるお方だ。お前なんかに嫁がせるか!」


「ふん···何だ?ファイニール辺境伯様は、もう彼女とは関係ないのではないかな?自分から彼女との縁を切ったのだろう?これからの彼女がどんな人生になろうが、貴様には関係ないではないか」


「くっ!」


「それと、彼女は貴族だ。それも公爵令嬢だ。恋愛結婚なんて出来ないんだよ。政略結婚しかないんだ。他国に嫁げば、この年齢では第二、第三妃となるんだぞ。今、彼女が言っただろう?嫁ぎ先はどこでもいいと。貴様が捨てた今を以て決まったんだよ、彼女の未来が絶望的だとな!はっきり言わせてもらうが、王宮騎士団員は全員貴族だ。今までみんな、指を咥えて見ていた彼女がフリーになったんだぞ?まぁ、もうファイニール辺境伯様には関係ないが」


「···が、俺が、フローレンス様を幸せにしてみせる!下賤な奴等になど渡さない。誰にも彼女を渡しはしない!」




 と、言うことで晴れて婚姻にたどり着いたという話だった。


······ん?何か引っ掛かる

······そもそも公爵令嬢相手に騎士団長が?


「そう、今の話は実際にあったことですが、実は断られたときのために、彼が迎えにきたと分かった時点で、団長に演技していただけるように頼んでいたのですわ」


······公爵令嬢の権力、怖いわー




「リュシー!」


 丁度、話が終わったときに邸の方からルキが颯爽と?歩いてくる。

 なんだか、正装が若干ヨレヨレして見える。

 今日は、卒業式で答辞も読んだし緊張して疲れたのかと心配すれば、彼は急に私を椅子から立たせ、ぎゅうぎゅう抱きしめてきた。


······ひ、人前だから

·····それよ···り···く、苦し···


「ルキ、離しなさい!リュシーが白目をむいているわ!」


 レンが慌てて、ルキを引き剥がしてくれた。


······デ、デジャブ?

······いや、二度あることは三度ある?


 そして私は気がついた。まだ二度目だったことに。


「リュシー、一緒に帰るはずだったよね?」

「そうね」

「どうして、待っていたのに一人で先に帰ってきたんだい?」

「ルキの周りにたくさんの人がいて、帰れそうになかったから言伝てを頼んできたんだけど」

「一番最後の花束を渡してきた令嬢から聞いたよ」


 私の銀に薄い紫色した髪先を指先でくるくると、遊びながら額に唇を押し付けて「もう置いていかないように」と、また抱きついてきたルキを横目にしたレンは、ひとつ大きなため息をついた。


「そういえば、どうして我が家にレンがいるんだい?」


「ふぅー、今更?······リュシーに、ラファイエ様のことを教えていなかったので、聞いて欲しくてですわ······。それと······どうしたらそんなにラブラブになれるのか、これからお聞きするところでしたの」


「ファイニール辺境伯がラブラブ?······正気か?想像できないのだが?」


······ルキだけには言われたくないと思うよ

······無表情、無関心を貫いてきた

    貴方だけにはね


 テーブルに肘をつき両手をアゴに添えながらジト目で見ている私にレンが視線を向け「うん。その通りよ」と頷いた。


「ファイニール辺境伯のラファイエ様とは、どのような方なのですか?噂でしか聞いたことがないので、ご本人を拝見してみたいです」


「ルキが帰ってきて、話の腰を折ってしまったから話せなかったのですが―――」


 二ヶ月後に身内だけで式を挙げて、その一月後に御披露目をするので、披露宴の招待状がこの後送られてくるという。

 そして、レンが王都にいられるのは残り2週間くらい。明後日、ラファイエ様が王都に到着予定で、公爵家との婚姻の諸々を終えた後、ファイニール辺境地へ帰るときにレンも一緒に旅立つことになっているらしい。

 馬車で早くても10日以上の距離なので、通過する街を観光しながらゆっくり移動するのだと話すレンは、嬉しそうに目を輝かせた。


 そして―――


「5日後のお茶会に、ラファイエ様も同席しますわ。なので、すぐお会いできます。······それと、今までの話の流れでお分かりになったと思いますが、その日が2回目の開戦日となります。貴方たちは準備を怠らないように」


······さっぱり分かりません

······何の準備でございますか?


「えっ?お茶会にルキも行くの?」


「当然ですわ!作戦がありますの」


 レンの、悪徳商人のようなニヤリ顔を見て私は悟った。



······絶対成功しないに、1票




次話は2週間後くらいになります


(*_ _)σ 申し訳ございません

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