表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/47

フローレンス 6話

いつもお読み下さりありがとうございます。



※誤字脱字報告ありがとうございました。

m(_ _)m




 先ほど、ニーズベクト候爵家でアンドレイン様がナタリーを上手く射止めた方法の情報を得ると、私はその足で我が上司の元へとやって来た。


 アンドレイン様が言っていた『レイニールの戦略』……私も戦略を伝授していただかないと!可愛い部下の頼みなら、団長も断れないわよね!

 そう思うとレイニール団長の素晴らしい作戦に期待に胸を膨らませ、気鬱だった心は一気に上昇し騎士団へと戻ってきた。


――私って、意外と単純だったのね。




 しかし、アンドレイン様には驚いた。ナタリーの尻に敷かれている彼が、あんな行動をするなんて。窮地に立たされると、とんでもないことをする人だったとは――。レイニール団長の友人ってだけで、変わり者だろうなとは思っていたけど。


 ナタリーの夫のアンドレイン様は何年間もナタリーに片思いをしていたらしい。

 騎士団では、アンドレイン様が第一騎士団の副団長になると直ぐにナタリーも第四騎士団の副団長へと昇格したのだとか。その頃、アンドレイン様は26歳を迎える年になる。

 そして、次々と縁談話を断っていたアンドレイン様のご両親が候爵家の存続をかけて動き出した。水面下で婚約者探しを始めたのだ。

 多くの貴族の令息が集まる騎士団内ではアンドレイン様の婚約者探しの話は直ぐに広まった。騎士団内での噂話からアンドレイン様が自身の婚約者探しを両親が始めていることを知ったらしい。


「悩んでいるところに、レイニールが私に声を掛けてきたんだ」


 恥ずかしそうな表情でアンドレイン様が私にそう告げるが、隣でナタリーは呆れ顔で彼を見ると話を続ける。


「そうです。レイニール様がアンドレインに悪事をさせたのです」


 レイニール団長は、アンドレイン様に話を聞いた後に「外堀埋めてナタリー副団長を嫁にすればいいだけだろう?」と悪魔のような魅惑的な言葉を発したらしい。





 まず、レイニール団長はアンドレイン団長のことを話している団員達の輪に入り、


「あぁ、子爵家の令嬢に決まったみたいだな。第四騎士団の副団長だろう?でも、同じ職場だから本人にはまだ知らされていないらしいぞ」


 そう告げて回った。

 すると、レイニール団長の話は瞬く間に騎士団内に広まる。それを知った団員達は、家へと話を持ち帰る。団員の親達も候爵家の祝い話とならば話題に最適で、社交界に広がっていく。最終、茶会や催しに参加したアンドレイン様の両親には直ぐに耳に入ることとなった。アンドレイン様がレイニール団長に話をしてから1週間後には両親からその内容を告げられたという。

 そこで重要だったのは話の尾ひれはひれだ。騎士団の団員達はみんなが知っていた……アンドレイン様がナタリーに恋していることを。アンドレイン様が何度かナタリーにアタックしていたとことを団員達が見聞きしていたのだという。


 最終的にアンドレイン様の両親に到達した内容は、「アンドレイン様がずっとお慕いしていたナタリー嬢と婚約を結ぶ方向で話が進んでいるとお聞きしましたわ。おめでとうございます」だ。それを知ったアンドレイン様の両親は、すぐに子爵家へと向かったらしい。10代の頃から縁談を断り続けてきた息子がナタリーに恋をしている事を知った両親が子爵家に赴き話をまとめてきたのは言うまでもない。


 そうして、ナタリーはアンドレイン様の妻となることになったが……その前に一悶着あったという。


「訓練の休憩時にアンドレインを呼び出して婚約解消してほしいと告げたのです」


「卑劣なやり方だったし断られるのは分かっていたんだ。だから、私はその場でナタリーの前で跪き告白したんだ。いつもは私の言葉をサラリと流していた彼女に提案をしたんだよ」


「そのとき、取引みたいにアンドレインが言いました」


「私の妻になってくれれば騎士団を続けられるよ?騎士姿のナタリーも大好きなんだって」


 アンドレイン様のお母様である前候爵夫人は王妃様の妹だったため、貴族らが夫人が喜んで迎え入れた嫁の悪口は言わないだろうし、候爵家が良しとしたことを否定する輩はまずいないからって。


「もしかして?その筋書き全て――」


「ハハッ!……全てではないけどね」



 とても素晴らしい!是非、私も伝授して貰わないと!

 二人の話す内容に感動?した私は、胸を弾ませるとレイニール団長の元へ一直線にやって来たのだ。








「はぁー……なんとなくだが、聞かない方がいいような気がするのだが――」


 瞳を輝かせ団長の前へと立つ私に、一抹の不安を感じたようなレイニール団長の嘆き。しかし、そんなのお構いなしである。

 私は胸の前で両手を合わせ、レイニール団長へ満面の笑顔を向けて可愛らしく首を傾げる。


「私も、外堀を埋めたいのです。是非、ご協力をお願いいたします」


「……何の話をされているのか分からないのだが?」


 やっぱり、厄介事かと顔を背け「チッ」私に聞こえるように大きな舌打ちをするが、さすが団長だ!もう既に戦略ができていたのではなかろうか?という具合に、この後でスラスラと案を出してくれることになる。


「団員達から話は聞いてはいたが、情報が少なすぎる。こうなった経緯を追って順に話してみろ」


 レイニール団長は嫌そうな表情をしながらも部下の不安を取り除くという団長の仕事を務めてくれるようだ。


「はい。ありがとうございます」


 そして、私は言われた通りに順に話をする。


「――どう思います?私がファイニール辺境伯のラファイエ様との縁談を進めて欲しいとお父様に伝えた3日後に、婚約者候補となりうる令息達が我が家に訪問しているのですよ!その3日後とは今日のことなのですが……信じられませんわ。怒りで父様をどつき回したくて仕方がありません」


「なるほど。さすがは公爵様だ。やることがお早いな……では、3日後に婚約者候補を集められたということで、3日後に家を出てみてはどうだ?売られた喧嘩は買ってやらんとな」


 ニタリとした顔は悪徳商人のような表情だ。


「家を出たからといって父様が断念しますかね」


「公爵様のことだ醜聞を気にするだろうからな。直ぐに迎えに来るさ。それでなくても騎士団寮は男だらけだし、まぁ、女性もいるが数が少ない上に下位貴族令嬢しかいないからな」

「フローレンスが騎士団寮に逃げてきたことは通いの団員達が家で話すだろ。近辺の貴族らならすぐに話が回るぞ。外堀はこれで解決だな」

「辺境伯領までは遠いから、フローレンスが騎士団寮で寝泊りしている話が回らぬうちに、公爵様はファイニール伯爵の嫁ちゃんにさせるしかなくなるんじゃないか?ただ……公爵様は頭がいいからなぁー。その後の動きが予想出来ない。その都度対応策を考えるしかないかもな!」

「あぁ、それと。第二の奴らは知っているが、他の団員にも話を回すか?フローレンスがファイニール伯爵へ直に求婚していることを。流石にそれを知った貴族らは釣り書を送らないだろ?」

「それに、アンドレインがフローレンスに余計な事を言ったために俺まで駆り出されることになったんだ。あいつにも協力させるぞ」


 ちょっと後ろめたい気持ちもあるが、今はレイニール団長の戦略を実行してみるのが一番早く事が収まるだろうと思う。


「ありがとうございます。では、騎士団寮へ寄って部屋の用意を頼んでから帰宅しようと思います」


 晴れ晴れとした気持ちで団長にお辞儀をする。その後で、団長室から退出する際に団長が後ろから放った言葉に私は首を傾げた。


「お、おい!フローレンス?寮の部屋の用意をお願いするだと?……そんなん、自分自身で用意するに決まっているだろう!明日訓練を終え次第自分で掃除をするんだぞ」


――掃除と聞こえたが?

  公爵家の令嬢が掃除の仕方など……

  分かるわけないでしょう


 耳にしたそれは、私には無理な話よね。







 そうしてレイニール団長の戦略通りに家を出てみた。


 長期休暇も終わり、3日後から最高学年として学院が始まるという日。騎士団内が一気にざわめきだった。


 邸を出てから2週間、父様からは何の連絡も無かった。私が折れて戻るまで待っているつもりだろうけど。そっちがその気ならと思っていたのに。


 第二騎士団の訓練場に現れた人物に私は驚愕した。


 訓練の休憩時にその姿を確認すると、私は団長室へと急いだ。


「レイニール団長!予期せぬ事態が――」


 私がそこまで言うと、レイニール団長は困り顔で私を見る。団長の机の前には副団長のジューク様が立っている。既に、急な来客の報せをレイニール団長へと届けていらたしい。


「あぁ、今報せが来た。フローレンスに会いたいらしい。公爵様からフローレンスと話をするように言われてきたらしいぞ。……ファイニールから……普通、来るか?」 


「団長、プランは?」


 頭が真っ白になり、こうなったら全てレイニール団長に頼るしかない。


「予期せぬ事態だ。辺境伯が来るなんて、あり得ないだろう!お前の親父、無茶苦茶じゃねーか?」


――あぁ、団長も半ばパニック状態だわ?



「そんなこと言ってる場合じゃないです!早くしないと、開戦は目の前ですわ!レイニール団長だけが頼みの綱なのよ!」


「あぁーとなぁー。どうすっかなー」


――お願い団長!


 神様に祈るようにレイニール団長に祈りを捧げると、さすが神様……じゃなくて団長!何やら閃いたらしい!


「よし! フローレンスモテモテ作戦にすっか!」


 団長の閃きに副団長のジューク様が蔑んだような表情を浮かべる。しかし、私はレイニール団長に託すしか手立てがない。


「はい!よろしくお願いします」


 満面の笑みでそう答えた私に副団長のジューク様は、私の肩に手をポンと置くと憐れみの表情を浮かべた。







誤字脱字がありましたら

申し訳ございません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ