フローレンス 3話
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「フ、フローレンス様!2日後のお茶会では王都で今人気急上昇の菓子店の新作スイーツを……発売前に、お、お出しする予定ですの。楽しみにしていらして下さい」
「まぁ、発売前の新作のスイーツですか?とても楽しみですわ!お誘い下さってありがとうございます。嬉しいですわ」
「私の家での、さ、再来週に開くお茶会では……フローレンス様のお好きな、マ、マカロンの新作をご用意する予定でおりますわ」
「マカロンの新作とは、どんなお味のマカロンなのでしょう。とても楽しみにしておりますわ」
学院の下校時。
正門までの距離が非常に長い気がする。
毎日、少し早歩きをしているはずなのに、取り巻きの令嬢達はめげずに息を切らしながら付いてくる。
しかし、私がマカロンを好きだと誰が言ったのかしら?好きな焼き菓子は、ダックワーズなのに……。まぁ、いいか。
「それでは皆様、また明日」
やっとの思いで正門前の公爵家の馬車までたどり着くと、クルリと振り返り満面の笑みを皆に向ける。
馬車に乗り込むと笑顔で窓から皆に手を振り学院を後にする。その後で馬車のカーテンを閉めると私は急いで制服から騎士服へ着替えをし、同乗している公爵家の護衛騎士兼侍女のナタリーに髪を結い上げて貰う。
「毎日、お嬢様は大人気ですわね」
「私が喜んでいるように見えるのかしら?」
「ふふっ、さすが公爵令嬢だなぁーと感心しておりますのよ。私のときは時間が勿体なくて威嚇して蹴散らしたものですから……やはり、上位貴族の令嬢にもなると幼い頃から色々と大変なのでしょうね。はい、出来ましたわ!」
「ナタリー。貴女こそ私を見習うべきよ。結婚してからお茶会に行ったことは?」
「子育てが忙しくて――」
「子育て後は?」
「仕事が忙しくて行けませんわっ!」
王家主催以外の催しに参加した事がないなんて……よく旦那様は何も言わないわね。多分、それも婚姻の条件に入れてあるのでしょうが……。旦那様はナタリーを甘やかし過ぎだと思うわ。まぁ、あの旦那の様子では仕方ないか――。
「お嬢様。はい、いつものですわ」
いつものとは、公爵家のシェフが騎士訓練で体を動かす私の為に作ってくれている飲み物だ。塩分やビタミン補給の為に野菜やフルーツを使いゴクゴク飲めるように日々改良されたものが水筒に入っている。
用意が終わるころに王城へと着く。馬車は門をくぐると城とは反対方向へと走り、騎士団訓練所の手前で停まる。
馬車から降りるとナタリーと一緒に早歩きで訓練所まで向かう。
私の訓練中、ナタリーは私の護衛として訓練所にて待っている……待っているはずなのだが――。
もと第四騎士団の副団長だったナタリーに手合わせを願い出る輩が後を絶たず、私と軽くストレッチを終える頃には本日の番号札を持った騎士達が……1列に並んで彼女が来るのを待っているのだ。
「ナタリー、今日もきっちり10名並んでいるわよ。モテモテね!……そして、今日も仕事を放棄して柵の向こうからこちらを覗き見ている人物の姿も――」
「柵の向こうは見なくて結構ですわ」
ナタリーは、ため息を吐くとチラリと柵へと視線を走らせた。
柵の向こうに居るのは第一騎士団団長のアンドレイン様だ。彼は、ニーズベクト候爵でありナタリーの旦那様である。
ナタリーは、子爵家から候爵家へと嫁いだのだが、王宮騎士を辞めなかった。いや、王宮騎士を辞めなくてもいいという条件でアンドレイン様の元へ嫁いだのだ。
第四騎士団の副団長だったナタリーが出征先で彼を助けたのをきっかけに愛を囁やかれるようになったらしい。
妊娠が分かり騎士団を辞めたが、二人の子供を産んだことで騎士に返り咲きたかった彼女は、職から離れた3年半で騎士に戻れる体力がなくなってしまったと、護衛騎士に転職したという。候爵夫人の彼女が働ける場所は限られていた。そして、転職先がうちのドゥルッセン公爵家だったわけだ。
――ナタリーも候爵夫人になれたのに
働かなくてもいいのでは?
相当変わっているのよね?
時間になると、訓練を早々に引き上げ帰路に就く。帰りは就業時間を過ぎているナタリーをニーズベクト候爵邸へ迂回をして降ろし、その後で公爵邸へと帰るのが日課になっている。
帰ってからは夕食の時間までを勉強の時間とし、夕食後は勤務中の夜間護衛騎士に頼み込んでの手合わせ。その後で入浴をしてから勉強の残りを終わらせ就寝する。
早朝、まだ辺りは薄暗いころ軽く体を動かしながら邸を扉から出ると扉前で1晩中護衛をしてくれていた二人に声を掛ける。
「おはようございます!早朝ランニングを始めますわね」
「おはようございます。はい周回をお声がけいたします」
「ありがとう」
邸前から厩舎前を通過し庭園の小道をからまた邸前へと戻る。一周で15分くらい時間が掛かる。最初にランニングを始めた頃は、一周を25分で戻って来れなかったが、段々と走ることに慣れてくると時間が掛からなくなり、今では時間も体力も合わせると3周出来るようになった。そして、一周ごとに邸扉前の護衛騎士が声を掛けてくれるのが嬉しい。
二年生になって迎えた夏の長期休暇前。
騎士団員になってからの初の長期実務の辞令が出た。盗賊の被害が頻繁に起こっているという村の護衛だった。
同じ学年に第一騎士団員が2名、第三騎士団員1名、第四騎士団員1名、第5騎士団員2名がいる。昼休憩の時間に学院の図書館裏に招集がかかった。
「お待たせいたしました」
「フローレンス様も辞令が出たのでしょうか?」
なに?この男?失礼でしょう
「えぇ、私はロナエ村の盗賊討伐でした、確か5週間でしたわ……貴方は?」
「え?5週間でしたか?」
その男は大事そうに辞令を学院にまで持ってきたようだ。呆れるわ。
私の言葉に慌てて書面を確認している。
その間、他の騎士らは辞令の内容を次々と上げる。
そして、また彼に戻る。
「俺は何度見ても2週間の川の橋の増設工事の護衛です」
辞令まで持ってきといてウケル。
「橋の増設工事の護衛?……ふーん。それで?貴重な昼休憩時間に私を呼び出したのは誰ですの?」
プルプルと震え手を挙げたのは、橋増設護衛の二人だ。
「呼び出した理由を聞かせて下さいますか?」
「初めての長期の辞令で、学院生であることから2週間も任務に就くとなると学業が疎かになってしまうと思い、皆で騎士団へ抗議に行こうと相談を――」
「はぁー。貴方のお名前をお伺いしても宜しいかしら?あと、そちらの増設護衛仲間の方もね」
顔面蒼白で名前を告げた二人は、候爵家と伯爵家の令息だ。
「では、私は抗議に参加致しませんので失礼いたしますわ」
無駄な時間を割かれたことが腹立だしい。
抗議より、辞めた方が早いと喉まで出かかったくらいだ。
イライラを鎮めてから教室へ戻ろうと思いながら校舎へと入る。すると、教室へ向かう階段の脇には小さな集団が出来ていた。
「どうかされましたか?」
一人の女学院生の泣いている姿を視線に捉え声を掛ける。数名は顔見知りの令嬢たちだ。
「「「フローレンス様」」」
「あら、皆さん。こちらの方は泣いていらっしゃいますが、何かあったのですか?」
顔見知りの令嬢の一人が私の問いに答える。
「彼女の婚約者様が長期休暇中に、2週間にかけて騎士団の任務に向かわれるそうなのです。危ない任務に向かわれるそうで、彼女は心配して泣いているのですわ」
解せぬ!2週間といったらあの二人のどちらかね!あの任務で婚約者が泣くわけなかろうがー!多分、内容を知らされていないのね。
「もしかして、婚約者はバーミリヨン候爵家かエルネス伯爵家の令息でしょうか?」
「はい。バーミリヨン候爵家のダートン様です」
やっぱりそうだ!アイツだわ!
ふふん……私の昼休憩を奪った罰をここで与えましょう。
「2週間の危険な任務の内容をお聞きしたのでしょうか?」
「いいえ。危ない任務だとしか……内容を聞いたのですが、極秘だと――」
「あら?おかしいわね?バーミリヨン候爵家の令息は、2週間の橋の増設工事の護衛だとお聞きしておりましたが。私でも知っている内容を婚約者には極秘だとおっしゃったのですか?それも、危ない任務だとおっしゃってまで?もう一度確認することをお勧めいたしますわ。私から聞いたと言って下さってよろしくてよ」
私の言葉に彼女は涙をピタリと止める。その後で眉間にシワを寄せると彼女は確認しに行くと言い階段を登り始めた。
――はぁースッキリしたー!
その日、騎士団の訓練が終わるとレイニール団長に第一騎士団の団長室に行くように言われ、私は先にナタリーを帰し団長と共に第一騎士団団長室へと赴いた。
団長室では昼休憩時に集まっていた団員達が既に入室しており、各団長達の面々が揃っているではないか!
「第二騎士団団員のフローレンス・ドゥルッセンです」
騎士の礼を執ると、直ぐに第一騎士団団長のアンドレイン様が本題に入った。
「フローレンス・ドゥルッセン。本日、我が第一騎士団の団員二人が学院にて学院生の騎士団員を呼び出したことは間違いないか?」
「はい」
「その場に、フローレンス・ドゥルッセン君も居たのか?」
「はい」
「辞令を持っていたのはダートン・バーミリヨン一人だけだったと報告が上がったが間違いないか?」
「はい。多分、婚約者の方が言った名前は……そんな名前だったような?気がします」
「ん?婚約者?その話は聞いていないな……。フローレンス・ドゥルッセン詳しく話してくれ」
第一騎士団団長に話せと言われたからには話さないわけにはいかないわね。
私は増設護衛の二人をチラリと見た後、学院の階段脇での出来事を話した。
そして、話し終えるとこの後予定があると告げ、早々に帰路に就いた。
団長室から出ると、レイニール団長が軽蔑の眼差しを私に向ける。
「なんですか?見ないで下さい」
「フローレンス。お前、婚約者に言ったのか」
「えぇ。言いましたわ。だって、泣いていたのですわ!心配させるような言い方をして、男なら安心させるべきではありませんか?まぁ、あの増設護衛の二人からして見れば、増設護衛は危険な任務なのでしょうが。危ない任務だから極秘だなんて嘘までついて――」
「極秘?橋の増設中の護衛が?」
「そうですわ。今日の昼休憩の出来事ですのに、もう第一騎士団の団長の耳に入っているのです。集まった他の騎士団の彼等も私と同じ5週間の任務に対し、第一騎士団だけが2週間の任務という辞令でしたのよ。いくら高位貴族の多い第一騎士団だからといって、おかしいと思うでしょう?気に入らないから告げ口されるのですわ」
「今日は、昼休憩で時間を取られ、訓練後も時間を取られ……あの二人、機会があれば貴族社会から抹消してやりたいですわ。では、私は帰らせていただきます」
馬車の扉を閉めると窓から団長に手を振る。団長が何やら叫んでいるようだが、馬車に乗ってしまった後で聞き取れない。
「お前はー。マジで抹消するなよー」
もう一度、窓から団長に向かって笑顔で手を振ると、なぜか彼の顔が青ざめて見えたが確認する前に馬車は公爵家へ向かって動き始めた。
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