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39話 最終話

誤字脱字報告、ありがとうございます


大変遅くなり

申し訳ありませんでした


最終話になります


最後まで読んでいただき

ありがとうございました




「遅くなってすま···な···」


 執事のマギリオンが泣きっ面で応接間を出ていってから、先ほどまで母様が座っていた場所にドサリと座ると、一人になったことで緊張の糸も緩みテーブルの上に置かれた菓子に手を伸ばした。


 そこに、遅れてルキが入室してくるや···彼はこちらを見ながら時が止まったかのように動きも止まった。


「···どうしたの?」


 伸ばした手を菓子を掴む前に引っ込めて、まだ食べていないことをアピールするかのように手を左右に振ってみた。


「リュシー···立って」


 カツ···カツ···カツ···止まっていた時間がゆっくり動き出したかのようにルキが近づいてきた。


「あっ、食べてないわよ。食べたいけど···」


 言われるがままにその場に立つと、私は再度両手を振った。


「·····」


「ねぇ、どうしたの?」


 目の前に立ち、私を見続けて黙りとしている彼に何かしら心配になる。私は、彼の手をとると顔を見上げて何かあったのかを確認した。 


「···今から、私室に戻ろう」


「はい?な、何いってるの?」


「披露宴は中止する」


「へ?ちゅ、中止?」


「···いや···私が一度顔を出してくるから、リュシーは私室で休んでいてくれ」


「ちょ、ちょっと待って?何いってんの?意味が分からないわ」


「いいから!リュシーは邸で待ってて」


「待たないわよ!何が何だか分からない!分かるように説明して!」


「···誰にも見せたくない。リュシーを、みんなに見せたくない」


 ルキは、そういって応接間から一人で出て行こうとした。


「待ちなさい!」


 私は、急いで右手を彼の背に向けて前に出す。

 『浮遊』心の中で念じた言葉に手の平から放たれた魔法がルキを床から浮き上がらせた。


「ク···クソッ···リュシー!下ろせ!」


「嫌よ!」


 バタバタと足を動かしながら抵抗しているルキを、宙に浮かせたまま自分の前まで引き寄せる。彼は抵抗しても無意味だと悟ったらしく動くことを止め、目を細めて私を見下ろした。


「リュシー。下ろしてくれ」


「私の話が終わったらね」


 披露宴に出席して下さる方々は、カリュザイール公爵夫妻のお祝いに来てくれたのだ。なのに、一人で行くってどういうことよ?各地から来て下さった貴族の皆さんは、この日のために時間を調整して装いにも大金を使って準備してきて下さっているというのに。馬鹿にするのも大概にしろって思う。


「皆さんは二人の婚姻を祝って来て下さったのに···。夫人を伴わない披露宴など必要ないよね!私を披露することができないのなら、私は必要ないよね。私、今すぐ離婚します。あぁー、婚姻を誓ってから24時間以内だから離婚じゃなくて白紙にできるわね」


「や、···え?···必要だ···り?···白紙になんかしない!させない!」


「婚姻したことにより、ルキが失態をおかせば私の失態にもなるのよ!何が白紙にさせないよ、その自分勝手な考え方と行動力はどうにかならないの?そんな人と一生寄り添って生きていく自信はないわ。貴方が言うように今から私室に行きます。そして荷物をまとめてガトゥーラ候爵邸に帰りますね。話は以上です」


 ドタッ···浮遊魔法を解除すると、ルキが床に転がった。それを横目にチラリと見た後で私は彼の隣を素通りし応接間を出た。応接間の扉の外には、顔を青くした使用人らがずらりと並んでいた。


···あらまぁ。

  この様子だと、側耳を立てていたのね



 廊下に並んでいる使用人らの前をコツッ、コツッと歩き出すと、背後からルキがガバッと抱きついてきた。


「白紙だなんて···」


「じゃぁ、謝ってよ。ルキが悪いんだからね!」


 目の前で行なわれている夫婦喧嘩に、使用人らは一斉に驚愕しつつも何食わぬ顔で瞼を閉じて平然と立ち尽くしている。さすが公爵邸の使用人達だ。


「······悪かった。俺が悪かったから、機嫌を直してほしい。白紙だなんて言わないでくれ」

 

 主人の謝罪の言葉を耳にすると、使用人らは一斉に目を開き目線だけをコチラへと向け始めた。この茶番劇を鑑賞することにしたようだ。


「自分勝手に事を進めようとするのやめてよね!」


「分かった。約束する。···でも、どうにもならないことだってあるんだ。リュシーが···俺をそうさせているんだから仕方がなかった」


 主人の言い返しに目線だけでは足りなくなったのか、使用人たちは顔までコチラを向いて食い入るように鑑賞しだした。


「え?私がそうさせたって?どういうことよ」


「···こ、こういうことだ」


 彼が後ろから私を抱きしめたまま、一度腰を私の背中にこすり当てた。

 同時に、一斉に聞こえてきたのは使用人らのため息だ。その後で、彼らは残念そうな表情をし主人の見苦しい行動から目を背けた。


「···ど、どうしたらこの状況で発情なんかできるのよ!」


「だから、リュシーが―――」




「コホン!」

「馬車に乗るお時間です。続きは披露宴が終わってからにして下さいませ」


 侍女頭のミネルバさんの大きな咳払いにルキの言葉が続かず、彼女のギロリとした視線が私たちを見据えると夫婦喧嘩の幕が閉じた。


 彼女の顔圧に耐えられなかった私とルキは、俯きながら無言でトボトボと使用人らの前を通過し馬車へと乗り込んだ。





 別邸前の庭に設置した披露宴の会場では、王宮魔法士たちがシールドドームを作ってくれている。温かいし雨が降っても濡れることはない。とはいっても、夕暮れどきの今は快晴である。この後で陽が沈んだら、夜空に輝く星が綺麗に見えることだろう。


 私とルキは、時間ギリギリまで会場に入場しないので、先ほどの喧嘩の続きを馬車の中で続行中だ。





「マキシリアン様。お顔が···だいぶお疲れのようですが魔力が足りていないのでは?私も披露宴会場の演出をお手伝いしたいです。そして、リュシー姉様に「チェリー!よくやったわ!」って誉めてもらいたいし、ビックリさせてみようかと···どうでしょうか?」 


 薄いピンク色のクルリとした瞳をキラキラと輝かせながらチェリーがマキシリアンの顔を覗き込む。

 人生初のドレスを着たのだと、彼女は披露宴会場に来るまでに何度も回転し栗色の巻き毛とドレスをフワリフワリとさせて喜んでいたという。


 マキシからチェリーに初めて贈るプレゼント。なんと、デザインしたのはマキシ本人だ。私のドレスのデザインを作成しているルキに感化されたのだろうか?デザイン画を描いてはルキに指摘されながら何度も手直ししてやっと完成した。

 クリーム色のドレスはレースをふんだんに使いフワリとした可愛いらしいドレスだ。首元にピンクダイヤをトップに付けたペンダント。いったい、総額いくらのプレゼントをしたのやら?


「じゃぁ、一緒にやるってことならいいよ。ただ、チェリーは何もしなくてもリュシエル様はビックリすると思うけどねー」


 そう、チェリーがガトゥーラ候爵家の養女として王都にあるガトゥーラ邸で過ごしはじめてから約3週間。なんと、身長が15cm以上も伸びたのだ。

 マキシが、チェリーの魔力溜まりを改善するために、毎日ガトゥーラ邸へ転移して通っている。

 しかし、私の護衛中に馬車の中で彼から聞かされるのは『惚気話』ばかりだ。蕩けるような瞳で何かしら思い出してはニヤケ顔になるマキシ。マジウザイしキモイ。マキシがこういった人種だったとは?まぁ、彼の主人がルキだから、似たもの同士って感じかな?





 会場の中央には人集りが出来ている。ファイニール辺境伯夫妻のラファイエ様とレンの回りには、地方の貴族らがここぞとばかりに押し寄せていた。

 体の大きいラファイエ様と背の高いレンが並んでいるだけで目立つのだ。


「ご無沙汰しております。フローレンス様がファイニール辺境伯爵様とご結婚するにあたり、我々王宮騎士団は多大なるあと押しをさせていただいたことを覚えていらっしゃいますよね。やはり、恩は恩にてと申しましょうか。そろそろ、フローレンス様からの恩返しを所望します------」


 高位貴族らを押し退けてファイニール伯爵夫妻をしれっと脅しているのは王宮騎士第二騎士団団長のレイニール・シュトレー様だ。


「シュトレー騎士団長。その節は色々とお世話になりました。して?恩返しを所望とは?騎士団で何かしらありましたか?私の剣がご所望なら辺境の騎士団等を率いて王宮騎士団の力になりましょう」


「あぁ――。剣じゃなくて」


 シュトレー騎士団長は、頭を掻きながらチラリとレンに視線を向ける。


「ふぅ。どうせ、令嬢を紹介してほしいとかそんなところでしょう?」


「うっ。レン、言い方。ラファイエ様と結婚できたからといって、離婚でもされたらどうするんだ!もう少し淑やかな物言いを学ぶべきだと思うぞ。しかし、さすがレン。合っている」


 元上司と元部下のやり取りについて行けないラファイエ様は、ポカンとした表情のままその様子を終始見ていることしか出来なかったようだ。


『嫁さん紹介してくれよ』

『何名でしょうか?』

『先ずは3人だ』

『その後は何名ですの?』

『4···やっぱり5人だ』

『爵位はいかがなさいます?』

『問わない』

『入?出?希望はございますか?』

『先に入、後が出』


···と騎士団長とレンの暗号のような会話には、ラファイエ様が口を挟む隙さえない。


「分かりました。ご恩は早いうちに返すことにいたしますわ。しかし、辺境の地から王都までは遠いですから。この件は、カリュザイール公爵夫妻にお任せしましょう」


 なんと、レンの恩返しは他人任せであった。しかし、シュトレー騎士団長も負けてなかった。


「それがいいな。そういえば、ラファイエ様とレンの披露宴にファイニールへと行ったとき、喧嘩中の2人を取り持つ手伝いをしたんだった。恩は返してもらわんとな!ハッハッハッ」


「ふたりの話に割って入って申し訳ないのだが、『先に入、後が出』とは、何かの暗号でしょうか?」


「まぁ!ラファイエ様ったら···『先に入』とは、先に行う顔合わせには、婿に入れるお宅の令嬢を集めること。そして『後が出』とは、後から行う顔合わせのときにはお嫁に来て欲しいために家を出られる令嬢を集めて欲しいということですわ」


 そうして、元上司と元部下はカリュザイール公爵夫妻の登場を今か今かと待ちわびた。

 全てを丸投げしてカリュザイール公爵夫妻に託そうと目論んでいる二人の会話に、ラファイエ様の顔色はみるみる青くなっていき、その後で彼の頬が痙攣しだしたのだとか――。





 その様子を横目に、貴族らからようやく開放されたマティレクスがファームス国の第一王女ローズフィレット殿下をエスコートしながら通り過ぎた。

 マティレクスと婚約者ローズフィレット殿下の向った先は両陛下のいるテーブルだ。


「父上、早い時間から飲み過ぎではありませんか?」


「仕方がないだろう!息子が繰り返すのかと思うと、飲まずにはいられん!」


「はい?···何を繰り返すのですか?」


「隣のテーブルにいる、ガトゥーラ候爵夫妻に聞けばわかる」


 マティレクスが隣のテーブルに視線を向けると、ガトゥーラ候爵がマティレクスと視線が合ったそばから目を泳がせはじめ、みるみると顔色が青くなっていく。


「ぐぅ。···リュシーは、何があっても最後まで予定通りに披露宴を終わらせるはずだ!リュシーと約束してきたんだ。大丈夫。無事に終わるはずだ」


 ガトゥーラ候爵もかなりの量を飲んでいるらしい。全く意味が分からない。並んで座っている侯爵夫人は侯爵の言動に「クスッ」と笑っているが、夫人も顔を赤らめて「リュシーなら無事に終わらせますわ」と侯爵を慰めるかのように寄り添った。


 酔っぱらいを相手にしたところで、会話が成り立たず「そろそろか?」マティレクスは空を見上げ呟いた。




 西の空の茜色が強まると東の空を見れば夜の始まりが訪れてきた。空の月が光り出し、それに合わせたかのようにポツリポツリと輝く星の姿が現れはじめる。


「そろそろ新郎新婦の入場の時間になりますね。ハーウェル様とアンの結婚式には私達も呼んで下さいね。アルタイル国の結婚式は、グラスの代わりにお皿にお酒を注いだものを二人で飲み合うのだとお聞きしましたわ」


「勿論お呼びいたします。是非お越しください。ジューク様とエリー様が何日か滞在可能であれば、アルタイル国を一緒に観光するのはいかがでしょうか?」


「楽しみです。アンが羨ましいですわ。婚約者様がこんなに爽やかで素敵な方だったなんて···アン、どうして教えてくれなかったのです?」


「それよりも、エリー···この体勢のまま話してて疲れない?···ジュ、ジューク様?」


 ジューク様に後ろから抱えられているエリーは、アンを後ろから抱えているハーウェル様へ結婚式に呼んで欲しいといい。

 アンを抱えながらハーウェル様は爽やかに微笑み、エリーとジューク様を招待しますと返事を返した。


 この体勢で会話を楽しんでいる二人に呆れているアン。そして、ジューク様はエリーを抱えているだけで幸せらしい。エリーの頭に顔を埋めて悶えている変人の姿をアンは見てしまった。


「疲れるに決まっているでしょう。アンだって同じ体勢だから分かるでしょう」


「だったら『アンが可哀想だから止めるように』ってウェルにいってよ」


「アンだって『頭の匂いを嗅ぐのを止めるように』ってジューク様にいってくれる?ここに来てからずっとこの調子なのよ」


 彼女達が同時にため息を吐くと、これまた同時に同じ言葉が発せられた。


「「まぁ、今から登場してくる人に比べれば、「まだマシな方なのかな」「まだいい方なのかな」」


「ハハッ!アンったら」


「フフッ!エリーったら」






『パンッ』『パンッ』『パンッ』


 会場周りに設置されているライトが一斉に光りだす。空に向かって放たれた光に無数の花びらがフワリフワリと揺れながら落ちてくる。その花びらの中を回転しながら落ちてくるのはたくさんの小さな竹とんぼ?いや···よく見ると四葉のクローバーがクルクルと回りながらゆっくりと落ちてくる。


 会場入りするにあたり馬車から降りた私とルキの前には、あるはずのない桜の大木が···満開の桜だ。

 それが柔らかな風に揺れると数枚の花びらが舞った。


···あぁ、前世の私も愛されていたのだ



 桜の大木の下には、満面の笑みを私に向ける孤児院の院長先生と、共に過ごした子供たちの姿があった。懐かしい私の家族だ。その後で私は瞬きをすると、その幻は同時に消え去った。





「すごいな」


「とっても綺麗だわ」


 私たちは寄り添うと、しばらく桜の大木を見上げていた。

 そして、ルキと繋がれた手が強く握られる。


「リュシー。この世界に来てくれてありがとう」


「急にどうしたの?」


 隣を見れば、彼は空を見上げたまま言葉を紡ぐ。



「愛してる」


「私も愛してる。一生愛してくれる?」


「あぁ。一生じゃ足りないな。来世でも、永遠に愛すると誓おう」


 私の額にルキの額が重なると、彼は何度も愛を語った。


「ルキ、そろそろ入場しましょうか」


 皆さんを待たせてはいけないと、ルキを私から離すと彼は後ろから抱きついてきた。


「もう少しだけ」


「分かったわ。でも約束してね。何があっても最後まで予定通りに披露宴を終わらせるのよ」


「···分かったよ」



 目の前にある桜の大木がゆっくりと消えていく。


 すると、目の前に広がる披露宴会場から、私たちを祝うために集まってくれた大勢の人の視線が二人に向って注がれた。


 次に、その中で一人だけこちらを睨みつけて見ている女性と目が合う。


···ヤバい。母様だ

···また、お説教じゃん



 私は冷や汗をかいた。

 更にルキはみんなの視線に気づかずに、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるのだ。


···ひ、人前だから

···それよ···り···く、苦し···



「ルキ、離しなさい!リュシーが白目をむいているわ!」


 レンが慌てて、ルキを引き剥がしに駆け寄ってくる。


···デ、デジャブ?

···いや、二度あることは三度ある?



 そして私は気がついた。

 これが最後の三度目だ。





誤字脱字報告ありがとうございます。


最後まで、ありがとうございました。

m(_ _)m







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