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31話


 披露宴で饗す料理も無事に決まり、婚姻式当日のアクセサリーの受け取りも終わる。本日のカリュザイール公爵邸での私の予定は終了だ。


「では、私は先に帰りますね」


「私も今日は全て終わらせたので、帰りは一緒の馬車で帰ろう。マティレクスから婚姻の祝いにと、一足早くプレゼントが届いたんだ」


 マティレクス殿下から?


 ルキの帰る用意を待ってからカリュザイール公爵邸の扉から一緒に外へ出ると、そこにはド派手な馬車が···。真っ白な馬車は藤色の模様が入り、回りを銀色に縁取られた大きな馬車だった。


「朝一で届けられた。白馬4頭もプレゼントだそうだ。マティレクスからの手紙も預かっている。車内で読んだらどうだ?」


 手を引かれ馬車に乗り込むと、中の配色は灰色に薄紫のシンプルな内装で、ゆったりくつろげるように配置されたクッションは白色の生地に銀の刺繍が施されていた。


 着席したところで、ルキから手紙を渡されると直ぐさま開き、それを読み始めた。


「懐かしい。···日本語だ」


 隣に座っていたルキが手紙を覗き込むが、初めて見る文字にしかめっ面で「暗号か?」などと首を傾げている。前世の文字だと教えると、マティレクス殿下と2人だけの秘密のようでイライラすると言ってきたので、声に出して読んでみた。


「···リュシエル姉さんへ···実はこの馬車、めちゃくちゃ凄いんだ!俺が設計したんだけどさ!···その1、小さな換気扇を左右に付けてみたんだ」


「換気扇?あっ!」クルクルと回っているそれを指差すと、ルキも釣られて上を見る「な、何だあれは?」驚いていた。うん、この世界には無いからビックリするよね。前世にあった、空気の入れ替えをするものだと教えると、目をパチクリして近くで確認しだした。それを横目にし、続きを読む。


「···その2、サイドにある肘掛けは蓋になっていて、開けると中は冷蔵庫になってるよ」


 パカッと肘掛けを持ち上げると中はひんやり冷たくて、紫色のリボンを掛けられた箱が入っていた。箱にはカタカナで「チョコレートだよ」と書いてある。リボンを解き包を開くと箱の中身を一粒、ルキの口の中に入れたあとで私の口にも一粒放り込んだ。


「···その3、肘掛けがあるクッションシートも蓋になっているんだ。中は収納スペース。ブランケットを入れておいたから、ちょい寝するときに使ってほしい」


 一度立ち上がり、ルキにも立つように話して蓋を開く。ベージュ色のフワフワしたブランケットには、可愛らしい花の刺繍がされていた。


「···その4、対面側のシートが3つに別れているんだけど、向かって左が防災グッズ。右は簡易トイレ。中央は、右で使用したゴミ置き場」


 凄すぎると思う。左側には魔石、タオル、時計、非常食などが入っていた。右側は日本で言う「オマル」だった。中央はビニール袋みたいなものが何枚かあり、蓋付きのゴミ箱があった。


「···その5、動いているのに全く揺れていないはず。凄いだろう!魔石で室内の空間を浮かしている二重構造になっているんだよ。左右の換気扇の下に魔石を入れる小さな扉があるから開けてみて!押すと開くようになってるよ」


「ルキ、換気扇の下にある小さな扉を押してみて!」


しぶしぶ言われた通りに「これかな?」ルキが扉を押すと、開いた中には赤い魔石が入っていた。


「最後に、丸いプラスチックの鍋敷きみたいなやつを災害グッズの中に2つ入れておいたんだ。それは充電器みたいなもので、その上に魔石の魔力がなくなった石を置いて手を乗せると、なんと!自分の魔力を石に吸収させることができるんだ!」


「俺って天才だよね!姉思いの弟だと自分でも思うよ。今世でもリサイクルって、必要だと思うんだ。だから、色々な国を渡りながら文化を吸収して作り出した第一号を姉さんにプレゼントするよ!これを商品化して売ることで、孤児院や教会、貧困層などに支援したいと思っているんだ!婚姻式での花嫁姿を楽しみにしているね···最愛の弟より」





 マティレクス殿下からの手紙を読み終えると、彼の発明品が詰まった馬車に度肝を抜かされた。

 しかし、王家カラーの白と金より、カリュザイール公爵家のカラーの方が目立っているような?

 公爵家の騎士服といい、派手な装いでちょっと恥ずかしい。


 公爵家といえば、先ほど見た私の部屋?を思い出し、ルキにそのことを確認した。


「公爵邸の私の私室なんだけど···。どうして、あんなふうになったの?ファイニールに行く前、壁紙を決めにきたときは普通の部屋だったよね?それと、ルキの部屋と主寝室が無くなっていたわ」


 「ガトゥーラ候爵当主からお願いされたんだ。リュシーから、ご褒美で家を建てて欲しいと言われていたと···絵を見せられた」


 やっぱりそうだった。カイルが生まれて私が爵位を継がなくてもいいと言われ、父様におねだりした家。私の絵を元にして作り出した部屋だった。


 面積が足りなかったから、ルキの部屋も利用したという。ルキの私室は、使用しない部屋だから設計当初からいらないと彼が言っていたのを、私が無理矢理作らせた部屋だった。彼と私の私室の間にある主寝室も無駄だといっていた。そう、それはルキは元々私の私室を一緒に使う予定だったからだ。


 そして、父様の言った言葉に喜んだに違いない!


 まあ、何にせよ···前世での家族が住む一軒家を思い起こせば普通のことだし。貴族なのに一般国民の家庭生活も送れると思うと、本音は嬉しいのだ。


「気に入らなかったのか?」


 不安そうな表情で私の顔を覗き込むルキに、とっておきの笑顔で「嬉しいわ」そう言って抱きつくと、


「俺らがファイニールに行ってる間に、候爵自ら何度もカリュザイール邸に足を運んで内装の改造を終わらせたんだ。邸の中に、あんな小さな平民の家を作られるとは夢にも思わなかったが···リュシーが嬉しいならそれでいい」


 私の頭を撫でながらそういった後、彼の両腕が背中に回され優しく抱きしめてきた。





 ガトゥーラ邸の門の前まで来ると、チェリーとウィルさんが乗っている馬車が、門を通過し別邸へ続く道へ進んで行った。


 私たちの馬車も門を潜り本邸へと向かう。邸に着いて部屋着に着替えたところで私室の扉から「コンッコンッ」とノック音が鳴った。


「イルキス様、リュシエル様···少しお時間をいただきたいのですが?」


 扉の外から伺いを立ててきたのは、マキシだった。


「マキシリアン?何かあったのか?」


 入室を許可すると扉が開かれ、マキシから別邸にてチェリーとウィルさんを交えて話がしたいと言われ、3人で別邸前まで転移魔方陣を使い移動した。


 別邸の応接間にて、チェリーから王都の土産を受け取ると、それはハチミツだった。ハチミツの中には葉っぱが入っている。


「ローズゼラニュームの葉ね!ありがとう」


 使用人に紅茶を淹れてもらい、そのハチミツを一匙入れてから一口飲むと、柔らかな香りが鼻を撫でた。


「イルキス様とリュシエル様にお時間をいただいたのは、昨日お話したチェリーの件で報告があるからです」


「昨日の今日で?」


 おっと!驚きが口に出てしまったようだ。


 マキシの話を最後まで聞いた後、チェリーとウィルさんの表情から見てとれたが、2人ときちんと話が出来たようだ。


 チェリーは、自分の魔力溜まりが原因で成長が人より遅れていたことを知り、そしてそれが解決できることを泣いて喜んだという。更に魔力量が膨大だということで、コントロールできるように魔法を学びたいと願った。


 娘の事情を知ったウィルさんは、出来る限りのことをチェリーにしてあげたいと言った。


 その話を聞いても、私にはどうすることも出来ない。確かに、チェリーの父親は男爵家当主だったが···今の2人は平民だ。

 すると、私の膝の上にルキの手が置かれ「ポンポン」と軽く叩いた。


「チェリー、何年間か母親と離れることになってもいいのか?」


 突然ルキが口を開くと、チェリーは彼の顔を見据えて「はい」と大きな声でハッキリと答えた。


 その後、ルキがマキシに向かって「行くぞ」と声をかけると、マキシは椅子から立ち上がりコクリと頷く。


「リュシー、すぐ帰ってくるから。ここで少しの間、お茶を飲んで待っていてくれ」


 二人は応接間から出て行った。多分、王宮へ向かったのだろう。



 それから1時間くらい時間が経っただろうか、応接間の扉が開かれルキとマキシが入室すると、1枚の書類をウィルさんに渡した。


「ガトゥーラ候爵家の養女になれる書類だ。一番下に名前を記入してマキシリアンに渡せば、ガトゥーラの養女として登録できる。そして、学院に通うのもガトゥーラ候爵令嬢としてだ。それまでの間に、候爵令嬢としての教養を身につけるように」


···な、なんですと?

···小一時間で何してきたの?



「陛下と宰相に話してきただけだが?膨大な魔力保持者だったから、すぐに手続きできるようにしただけだ。そんなことより、帰るぞ」


 本邸までの道を手を繋ぎ歩いて帰る。そのときに、ルキから聞いた話に耳を疑った。

 なんと、マキシが宰相である私の父親に告げた内容とは、養女になったチェリーと婚約し、学院を卒業したら婚姻を結ぶ予定だと話したらしい。チェリーも承諾してるとか。


「えぇー!なんて、ヤツ!小さな子供相手に強要でもしたのかしら?チェリーを助けなきゃ!」


 ルキが語った内容に、怒りが爆発しそうだ。


「ま、待て!チェリーがマキシのお嫁さんに成りたいって···言っていたらしい。この問題は、まだ先の話だろう?様子を見る時間はたっぷりあるのだし···恋愛事に首を突っ込むとろくなことがないからな」


···明日、ふたりがリンドールに立つ前に

    様子を探る必要があるわね

···ん?もしかしたら、チェリーは帰らないかも?



「とりあえず、チェリーは一度リンドールに戻ることになっている、突然の事だからな。それと、マキシリアンも付いて行くことになった。長期休暇願いを申し立てられたよ」


 これから忙しくなるってときに休暇だなんてとルキは頭を抱えていたが、仕事中でも自由奔放なマキシが数日居なくも···何ら変わらないような気がした。 





 夕食の席で父様がチェリーを養女として迎える話を切り出すと、弟のカイルは「僕にもう一人のお姉様が出来るのですか?」ワクワクと興味津々だ。

 母様は、事情があってお預かりすることになったので、5年間だけだとカイルに話す。

 最初の1年で学問の基礎と貴族のマナーを、その後3年間は学院生活、最後の1年間は候爵夫人になるための勉強期間だという。


「短い期間だが、我が家の娘となるため歓迎し仲良くしてくれ」


 眉を下げながら父様はカイルにそう話すと、カイルは「仲良くします」目を輝かせ、ニコリと笑顔でそう返した。



「リュシーは···カリュザイール公爵邸へと入居する日取りは決まったのかな?そろそろだろう?」


 俯き料理を切り分けながら、父様がサラリと聞いてきた。


 私は、それに答える前に言わなくてはいけないことがあった。


「私は、今日···カリュザイール公爵邸が完成してから初めて行ってきました。とても素敵な私室でした。父様、約束のご褒美をありがとうございました。大事に···ずっとルキと使わせていただきますね」


「気に入ってもらえたかな?」


「はい。とても気に入りました。···それと、公爵邸に移る日は···5日後に考えています」


「···そうか」


 婚姻前なので、行ったり来たりと予定に合わせて戻る日もあると思うと伝えると、父様は「···そうか」ともう一度言う。


「明日は、菓子店を見に行くのでしょう?私も一緒に行ってもいいかしら?」


 どんよりとした雰囲気の父様を横目に、母様がそれを区切るかのように明日の菓子店へ同行したいと言ってきた。

 菓子店も外装工事が終わり、内装の工事が始まっているため確認と直しなどの指示を求められて明日はそちらに向かう予定にしていた。


「明日の朝、チェリーとウィルさんをお見送りしてからの出発を予定していますが、その時間でもよろしいですか?」


「分かりました。それまでに用意を終わらせておきましょう」


 明日の護衛はセクレイトとダンのふたりなので、母様の護衛にも声をかけてくれるように頼むと「マキシリアン君は?」当然いるよね?って感じで言葉を返された。

 マキシは明日から長期休暇だと話すと、可愛いものが大好きな母様は残念だと言わんばかりの表情を浮かべた。


「では、私も予定を変更して同行しましょう」


 母様の残念そうな表情に、ルキが穏やか口を開くと「イルキス様は仕事をなさい」母様は瞬時に表情をキリリとさせ、お説教を始めた。


「何日間もファイニール領に行くために時間を費やしたのですよ。それでなくても、公爵邸の建設中やら婚姻式前で忙しいときに···。それだけではありません。毎日、カリュザイール公爵の仕事の決定を任されていたガトゥーラ候爵家の大変さが分かりますか?イルキス様、飴と鞭と言う言葉をご存知ですよね。遊んできた分、馬車馬のように働きなさい。我々、貴族たるもの―――」


 ルキは、引き金を引いてしまったらしい。

 まだまだ続いている説教に、「馬車馬···」そこから先の話は聞こえていないようだ。多分、元王子の彼にはショッキングな言われようだったのだろう。というか、聞いたことがないのでは?


 父様とカイルは、チラッチラッとルキの様子を居た堪れない表情で何度も窺っているし、私は私でさっさと食事を口に放り込んだ。


 デザートまで完食し終えたが、長いお説教はまだまだ続いている。

 しかし、誰一人母様を止める人はいなかった。





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