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26話



「リュシエル様···貴女が、モテないわけが無いでしょう」


 ラファイエ様が私の言葉にそう返すと、本当にルキ以外の男性から告白されたのが初めてだったと伝えた。自分の恥をバラしているようで、複雑な気持ちだ。

 すると、隣のテーブルのみんなは残念な人を見るような表情を私に向けてきた。


「な、な、何よ!私を哀れんでいるのね。そんな目で見なくてもいいじゃない。···もしかして、あなた達···モテモテ?···よね」


 あー、聞くんじゃなかった。

 どう見たって、選び放題の人たちなのをすっかり忘れてしまっていた。そう、この人達を前世の言葉で言うならば超イケメン!


 隣のテーブルからセクレイトが立ち上がり、侍女らに果実水を注いでもらうと、グラスを持ったまま私の目の前の空いている椅子に座る。そして、長い脚を組んで頬杖を突くと私を物憂げそうに見た。


「リュシエル様、貴方にお伝えしておかなければならない事があります」


 珍しく冷静な口調でセクレイトがそういうと、私は少し面倒くさそうな言い方をしてしまった。


「急になんですか?」


 私は、ちょっと息苦しさを感じながら彼をじっと見る。


「まず、ひとつ目は――」


「えっ?ひとつ目?いくつあるの?」


 言葉を遮り、思わず聞き返してしまった。

 セクレイトは眉をひそめてから大きなため息を吐き、淑女は話を遮ってはいけないと叱り、最後まで黙って聞くようにと言われた。なんだか先生と生徒みたいだ。


「ひとつ目から言いますが、リュシエル様の容姿の美しさは、今のところ我が国では3本の指に入ります。順番はさて置き、一人目は王妃陛下、二人目はフローレンス様、三人目がリュシエル様です」


「···えっと、何かの間違いではないで――」


「最後まで黙って聞いて下さい」


 ジロリと睨まれ、私はハッとして口を閉じる。


「ふたつ目は、どうして今までリュシエル様に好意を抱いている者が告白しなかったかです。理由としては、リュシエル様が婚姻はしない旨を宰相様が早いうちに貴族の前で発表したので、婚約者を探している子息たちは婚姻をしないのならばということでですね。それと、イルキス様と婚約するまでは彼がマキシを使って貴女に近づく者を排除していたからです。あぁ、魔法で変身しながら学院に通われていましたが美貌を隠せていなかったので、イルキス様が排除していたんですよ。婚約してから自らの姿を公表して学院生活を送られましたが、婚約したことにより婚姻の意志が確認され、更にリュシエル様に近づこうとするバカが増えたのです。それらもイルキス様が牽制してましたね」


「最後、みっつ目ですが···容姿については以上のことから分かるとして···性格がまあまあという点については、何ともお答え出来ませんが···淑女らしさに欠けているところがあります。しかし、リュシエル様らしさで、それはある程度カバー出来ていると思います」


「ご理解いただけましたか?何か質問があればどうぞ」


 セクレイトは手にしていた果実水を飲み干すと、穏やかな表情に戻りニコリと微笑んだ。



「今の話だと···私って美女?···ってこと?」


「そうですよ」


「今の話だと···私もモテモテ?···ってこと?」


「その通りです」


「淑女らしくなくても私らしさでイケてるってこと?」


「そうですね。その天然っぷ···候爵家の令嬢らしからぬ高慢なところがない。自己中···まわりのご令嬢たちとの適切な距離をとり、友達もいな···極端な派閥にも属してなく、誰にでも平等に接することができる」

「それと、見た目とのギャップもありますね?か弱く見えて、実は強いみたいな感じです。俺だって、美しく儚い女性の護衛騎士になった筈が、おいおいちょっと待てよ儚さ全くないじゃん、容姿に騙されたと思ったくらいです。ちょっと言いすぎましたが、私の見解だとそんな感じです」


 へー。私ってば化粧をしてドレスを着たとき以外鏡を見ないから、自分がイケるって知らなかったわ。

 まぁ、今まで自分の容姿を気にしたこともなかったしなー。新発見だわ。私、モテモテだったんだぁー。



「···では何故?ベイルート様は、口に出して···」


 考えていた思いをゴニョゴニョと小さな声で呟くと、私の声を拾ったラファイエ様がチラリとこちらに視線を向けた。


「あいつは伯爵家の三男だから――」


 早くから騎士団に入団したため、世間知らずだからでは?ということだ。確かに、ルキは今でこそカリュザイール公爵となったが、それ以前にこの国の第二王子なのだ。三男ということで、貴族の集まりに参加したことがなかったのかも知れない。

 それにしても意外だったのが、騎士様が恋愛小説を読むことだ。ましてや想像もしたことがなかった。

 シュウちゃん···マティレクス殿下の裏の顔が小説家だったことにも驚きだが。


「ラファイエ様、マティレクス殿下はいつまでファイニール領にいる予定だか分かりますか?」


 ふと、シュウちゃんに会いたくなって、彼の予定をラファイエ様に尋ねた。しかし、披露宴の次の日には朝一でファイニールを去ったという。会いたかったな。


「そうでしたか。発つ前にご挨拶が出来ず、残念です」


「次はイルキス様とリュシエル様の結婚式ですし、そう日を置かずにすぐに会えますよ」


 にこやかな笑みを浮かべてラファイエ様が席を立ち扉の方に視線を向けると、更に笑みをこぼした。


 レンが眉間にシワを寄せ「少し時間が掛かってしまいましたわ」不服そうな顔をして戻ってきた。


 ルキや護衛騎士様たちは後から来るということで、私はレンと一緒に温室内の薔薇を鑑賞をすることにした。


 温室の中を歩いていると、バラの花の香りがふんわりと漂ってくる。奥に進むとかなり強香を放っている薔薇を発見した。


「リュシー、この薔薇よ」


 先ほど、レンが私に見せたいといっていた薔薇の花だ。その薔薇は濃い紫色の大きな花で、一本の木からたくさんの大輪の花を咲かせている。


「見事な薔薇ね。かなり強い香りだけど、とても上品な香りだわ」


「そうなのよ。それで私も摘んだ花を浴室に飾ったり、湯槽に入れて香りを楽しんでいるのですわ」


 しかし、咲いているときにしか楽しめない。この薔薇の香りを好きなときに堪能したいという。日常でこの香りを楽しめるよう、何かいい方法がないかと考えているのだけど、なかなか思いつかないのだとか。

 なるほど!そして、その方法を私にも考えろということか。


「日常かぁー。···香水でいいじゃない?」


 香水だと訓練中に香りが汗と混じってしまうし、身に纏いたいわけではない。ゆっくりしたいときやそのときの気分に合わせて香りを楽しみたいのだと、自分に香りを付ける以外で何か案はないかと問われる。


 なるほど、リラックスしたいときに香りを嗅ぎたいと。では、花を乾燥させてポプリにしてみればどうだろうかと提案すると、ポプリは好きなのだが香りが薄れていくから次に開花するまで香りが持続しないと···レンは残念だと言わんばかりの顔で私を見る。

 その上目遣いは、更に案を出せということですよねー···。


 香りを持続するとなると、難しいのか。うーん。あっ、前世では香りを足してたな···確か···アロマテラピー!それだ!


「やっぱりポプリよ。香りを足せばいいのよ」


「どうやって?」



「ん?···香水を自分に使わず、ポプリに振り掛ければいいんじゃない?」


 精油を作るには大量の薔薇の花が必要になるはずだけど、薬効ではなく香りを楽しむだけなら、わざわざそこまでしなくても香水で十分だと思うしね。それに邪道かも知れないけれど···。沐浴するときにも湯船に1滴垂らせば蒸気で香りが広がり、浴室が香りで満たされそうじゃないかなー?などの、案を出してみた。


「凄いわ。···香水をそのように使うだなんて、考えたこともなかったわ」


 私の提案に、レイは目をキラキラ輝かせると、とびきりの笑顔で「ありがとう」と私の手を掴んでお礼を言った。


 私の考えではなくて、前世の知識なんだけどね。





 ファイニール城での帰り道。馬車の中では、ルキが無言で私を睨みつけている。なぜだろうか?心当りがない私は、そんなルキを今まさにシカト中。もう喧嘩はしたくないって言ったのは、ルキだよね?黙ったままの空間に気分が悪くて私から話しかけてみる。


「そういえば、後で話すって言っていた、ベイルート様との事とは何かしら?」


 決闘すると出ていったルキとベイルート様。戻ってきたのはルキだけだった。ベイルート様と騎士様たちは、休憩時間も過ぎていたため訓練場へとそのまま移動したらしい。


 私が話しかけると、ルキは馬車の窓へと視線をずらし、苦しそうな表情を浮かべた。


「···あの騎士が言うには···リュ···リュシーを抱きしめたと。嫌がってなかったと。優しく微笑み、ありがとうと言われたといっていた。ポケットから出したハンカチを大事そうに握りしめてた。あのハンカチは私がデザインしたものだから、すぐにリュシーのハンカチだと分かった」


「·····はぁ」


「愛を確かめる言葉はないが、その言動だけで2人の間に何があるのか···察してほしいと言われたよ」


「·····へぇー」


「決闘はしてない。レンからは、何も聞いていないのか?」


「何も聞いていないですよ」


「そうか。···だ··」


「だ?何です?」


「否定しないのか?だ、抱きしめられたのか?」


「言い方が違うと思いますが、はい」


「な、なぜだ?2人の間には何かあるのか?」


「はい。たまたまだったのですが、披露宴の最中にトイレから戻るところで階段を踏み外し転びそうになったのです。そのとき、その場に居合わせたベイルート様が私を助けて下さったのです。ベイルート様は、瞬時に私に手を伸ばして転ぶのを避けようとして下さったみたいですが、私の下敷きになる形で一緒に転んでしまって、···抱きしめられた形になりました」


「···続けて」


「はぁ。···そのときに手に怪我をされ、切り傷の血が衣服に付かないようにハンカチを巻いて差し上げた後、お礼を告げたのです」


「2人の間には?」


「はぁー。助けた?助けられた?···偶然居合わせた人?そんな感じです。レンも知っていますよ?決闘の場で、彼女は何も言わなかったのですか?」


「···ん?なぜレンは俺に何も言わずに温室へ戻ったんだ?あのときレンは···ニコニコとオウム返しをしていた」

「抱きしめた『抱きしめたのね』、嫌がってなかった『嫌がってなかったのね』、優しく微笑み『優しくですのね』、ありがとうと『まぁ、ありがとうとですか』···『あらあら、ベイルートったら』···てな感じだった」


「はぁー。レンったら、ルキで遊んだのね」


「レンのヤツ!今度会ったときは仕返ししてやる!」


「決闘をしなかったのは?」


「リュシーのハンカチを持っていたからだ。リュシーに気持ちを聞く前に出てきてしまったし···。怒りが悲しみに変わってしまって――」


 ルキはそう言いながら私の手を取り、手の甲に唇を落とす。そして私を上目遣いで見て安堵したかのような表情を浮かばせると私の隣に座り直した。


 そして、お互いの口を重ね終わるとルキの唇は耳から首へ、リップ音を軽く鳴らしながら首から肩へ、そのままデコルテを伝い―――。


「イルキス様ー、リュシエル様ー、城都外れにある食事処に着きましたよー。さっさと服を着てから降りてくださいねー」


···ん?

···マキシ?


 急いで馬車の窓から外を覗くと、マキシがニンマリとしながら両手を振っている。


「マキシ?留守番だった筈でしょう?どうしてここにいるの?」


「セクレイト様が、油のせいでお腹が気持ち悪いって遠隔魔法で知らせてきたから、代わりに俺がセクレイト様のところにきて、セクレイト様を別邸に転移させたんだよー」


 セクレイトはコロッケを食べすぎたのね。でも、ダンの方が食べていたわよね?チラリとダンを見ると視線が合った。


「まだですか?早く昼食をいただきましょう。ファイニール城の騎士たち人気No.1の店ですからね」


 ダンは、食べる気満々だ。


 馬車を下りると目の前には、乳白色のレンガの壁面に小さな小窓がたくさんあり、店の看板には肉と書かれていた。騎士様達も集う食事処だ。

 店員さんに案内された席は、店の裏庭?


「いいところでしょう?」


 店伝いになっているテラス席の目の前にはハーブ畑が広がっていて、その周りを大木が囲んでいる。


「素敵ですわ」


 王都での定食屋を思い出す。


「ケバブ···ありますか?」


 私の後ろから、マキシが店員さんに声をかける。


「もちろんです」


···え?

···あるの?


「リュシエル様、俺はケバブ2人前で!」


 小さな声でマキシがいうと、ダンも「俺は3人前で」と後ろから声がかかった。


「女将!まずは、ケバブのオリジナルソース3人前!スパイシーソースで2人前、辛ソースを1人前!それと先にハーブティーを4人分お願いねー」


「は、はい!」


 今の店員さんは女将じゃなかったのかも?返事がイマイチだったわね。


「私たちのは注文したから、ルキは食べたいものを注文してね」


「···普通は旦那様の食事を先に頼むだろう?なんで護衛からなんだよ。俺もケバブという食べ物にするか――」


「ちょっと待って!ルキはケバブは無理よ」


「いや、同じものを食べてみる」

「女将!ケバブのオリジナルを1つ追加してくれ」


 先にハーブティーを持ってきてくれた女将は、哀れみの眼差しをルキに向けたあと、残念そうな顔で私に微笑んだ。


···な、なんで?

···デジャブ?


「「「いただきます」」」


「·····」


 私とマキシ、ダンの3人は、できたてホヤホヤのケバブを両手に持ち大きく口を開くと、それにかぶりついた。


「お、コレは···ちょいと辛いなー。ピリッとくらいで辛すぎず丁度いいかもー」


「私のはスパイシーです。チキンがジューシーで美味しいですね」


「うん。肉汁が野菜と絡み合って美味しいわ!王都の定食屋の味付けとは違うサッパリな感じね」

「無理だって教えたのに。ルキも、頼んだんだから食べなさいよ!私たちの真似して食べればいいのよ」


「···イルキス様、無理しないでナイフとフォークを頼んだ方がいいんじゃないかなー」


「だ、大丈夫だ。俺だって、やれば出来る!」



 そういって、ルキが一口また一口とケバブを食べ始めた。半分くらい食べ終えたところで、


「女将!スパイシーソースを1つ追加してくれ」


 気に入ったみたいだ。

 はじめは上品に食べていたが、ふたつ目に突入すると大きく口を開いてケバブにがっついていた。

 



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