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25話

お読み下さりありがとうございます



 ルキが温室の扉から、不機嫌そうにこちらに向かってくる。

 その後ろには、険しい顔をしたラファイエ様。ジューク様は、肩を微妙に震わせながら笑いを堪えているようだ。


 3人の姿にファウルドは席を立ち上がり、直ぐ様礼をとる。

 それを見た騎士たちは、顔を青ざめ一瞬出遅れて通路に1列に並ぶと、それに倣って騎士の礼をとった。


 カツカツと3人の足音が近づく。


 氷のように冷たく刺さるルキの視線が脇目も振らずに私を捉えると、やましい事を何もしていなくとも背中に汗が流れた。


 彼が私の前まできて足を止めると、私は心の中でルキに話しかける。


···ここで流血騒ぎとか嫌だからね

···権力振りかざさないでよね

···穏便にね!我慢だよ!



 強く念じた思いが通じたのか、ルキの瞳が普段通りに戻りコクンと一度頷いた。それを見て、私の強張った緊張もほぐれ「ホッ」ひと息つく。


···ちゃんと読み取れたかな?

···こんな場面だと役に立つわね



 緊張が走る中で、ルキはファウルドに声をかけると頭を上げたファウルドの背中に手をあて着席するように促した。


「大分待たせてしまったかな?」


 緩やかに目を細めた彼は私の隣に座る。

 ラファイエ様は、侍女らにお茶を用意するように指示を出すとレンの隣に座りニコリと彼女に微笑んだ。そのあと、ラファイエ様とファウルドの間の空いている席にジューク様が腰を下ろした。


 続いて、温室の扉の方から声がする。セクレイトとダンが戻ってきたらしい。


「ただいま戻りました。遅くなり申し訳ありませんでした」


 ファイニールの騎士団訓練場まで行ってきたため戻りが遅くなってしまったと、セクレイトとダンがルキに告げる。

 その後2人は、チラリとファイニールの騎士様たちが1列に並び緊張している様子を見たあとに、口角を上げてルキに視線を戻した。


「何かあったな?」

「いや、やらかしたのでは?」

「やっちまった感じかな?」

「どんなことがあったのでしょうか?」

「いいときに戻ってきた感じだな?」


 コソコソと2人は話しているつもりらしいが、静まりかえっているこの場では、全て筒抜けでみんなに聞こえてますよ。



「先ほどの騎士は、私のリュシーをどうしようと言うのかな?是非お聞かせ願いたい」


 お茶が注がれたカップを持つとルキが騎士たちに視線を向けた。

 ひとりの騎士様が列から一歩前に出る。ベイルート様だ。


「はい。先日、リュシエル様に一目惚れをしました。リュシエル様に私の事を知っていただきたく、交際を申し込みたいと思っております。ファウルド様から、本日は保護者の方も御一緒だとお聞きしましたので、お会いして許しを請いたいと思います」


「「「·····」」」



「そうか。リュシーには婚約者がいるのだが?」


「はい。婚約者がいても、まだ婚姻を結んでいないのであれば、私にもチャンスはあるかと思います」


「「「·····」」」



「なるほど。では、その婚約者から奪いたいと?チャンスとはそういうことだろう?···して、いかなる方法でだ?」


「はい。···政略的な婚約であれば私の家も伯爵位になりますので、打診をしていただきたく再検討をお願いしたいと思います。何度かリュシエル様とお会いする許可をいただき、彼女の気持ちが少しでも私に向いて下さり、今の婚約者の相手がそれでも引かないときは決闘も考えております」


「「「·····」」」



「フム。面白い。決闘か。今からでもいいのか?」


「はい。騎士たるもの、いつでも準備は出来ています」


「そうか。では、すぐ始めるぞ」



 そういって席を立ったルキは、上着を脱ぎセクレイトに渡した。そして、ダンの剣を受け取ると「審判は、そうだな···レイでいいだろう」振り向きざまにレイを呼び、温室から出ていった。


「わ、私が審判をですか?···審判なんて必要あります?」


 文句を言いながらも、レンは満足そうに口角を上げ「リュシー、面白そうよ」と私に耳打ちしてからルキの後を追った。


「はぁー、ベイルート。何もたついている。早く行け。お前が決闘なんて言ったんだからな」


 ファウルドは、左手で頭を抱えながら右手をヒラヒラと振り、大きなため息を吐く。ベイルート様は、多分訳が分からずだ。呆然と立ち尽くしている。


「おい。聞いてるのか?彼がリュシーの婚約者だぞ」


 立ったまま呆けているベイルート様にファウルドがもう一度声をかけると「へ?···あ、あの方が?」みるみる顔が青くなる。

 追い打ちをかけるかのようにジューク様が「ハハッ!公爵様を待たせるなよっ!ハハハ」笑いが止まらない。そして彼は「こ、公爵様?」と今にも倒れそうな表情で温室から出ていった。


 ラファイエ様は顔面蒼白で使い物にならなく、ジューク様はケラケラ笑いながらセクレイトとダンに経緯を話している。そして、1列に並んでいたファイニールの騎士様たちは3人の後を追いかけるように、急いで温室を後にする。


「ベイルートは、なぜ今日の来客がカリュザイール公爵とその婚約者のリュシエル様だと分からなかったんだ?」


 ラファイエ様が問いかけると、多分顔を知らなかったからじゃないかとファウルドが答える。


「では、ベイルート様は今から誰と決闘するのかご存知ないのですね。フフッ」


「リュシエル様、笑い事ではありませんよ。···かなり大問題です。これからのカリュザイール公爵家との付き合いを考えると――」


 頭を抱えながらラファイエ様がどうしようと悩んでいるので、このことで今後ラファイエ様とルキが何か問題になるとすれば、私が責任を持ってその問題を解決するから大丈夫だと伝える。


「いやー、こんな展開に居合わせるなんてね。今日はラッキーだよ。めちゃくちゃ楽しいね」


 ケタケタ笑っているジューク様に「エリーに言っときますね」ピシャリと一言いうと、彼は一瞬で貴族の顔を取り戻した。


「セクレイト、ダン。君たちの主人が危険な場所に行ったんだ。ふたりとも直ぐに追いかけなさい」


 扉に向かってジューク様が指を差す。



「ジューク兄様、今更だよ」


「私たちが行かなくても、すぐに戻ってくるでしょうから···」


 さすが、カリュザイールの騎士たちだ。自分たちの仕事ではないって感じで···いや、面倒くさいって感じだな。

 

「そんなことより、この茶色のトゲトゲしたものはなんですか?」


 山のようにお皿に盛ってあるコロッケを見て、セクレイト様が「食べ物ですよね?」というと、ファウルドがキラキラと瞳を輝かせて「お腹は空いていませんか?」朝から一生懸命作ったのだといい、セクレイトとダンを空いている席に座らせた。


 2人の前に、「ドンッ」とコロッケを置くと、紙で挟んで手で掴んで食べるのだと、実演して見せる。

 ダンが、先に真似して大きく口を広げてコロッケを口の中に入れると、驚いたように目を見開きそれを咀嚼した。


「美味かった。もっと食べてもいいですか?」


 子犬のようにおかわりを強請るダンの姿を初めて見た気がする。セクレイトは満面の笑みで、すでに何個目かを食べていた。 


 隣のテーブルで、それを見ていたジューク様も、


「ん?私もその物体を食べてみてもいいかな?」


 ダン様の隣の席に移動して、みんなでコロッケを試食しはじめた。



「はぁー。君たちは、呑気なもんだな。私はこの後、イルキス様が戻ってきたときのことを考えると···。ベイルートのバカが···よりによってリュシエル様に告白なんかするから···」


 ブツブツと下を向いて独り言を呟くラファイエ様。なぜかここのテーブルだけ、暗くて重たい空気が流れているような雰囲気だ。

 あぁ、できれば私も隣のテーブルに移りたい。しかし、ラファイエ様だけこのままにしておくわけにはいかず、とりあえず声をかけた。


「ラファイエ様、こう言っては何ですが。私はルキ以外の男性から、初めて告白というものをされました。気持ちに応えることは出来ませんが、私のことを好いて下さる方がいた事をとても嬉しく思います。···ラファイエ様は、今まで散々女性からのアプローチがあったことは、レンから聞いています。モテまくってるラファイエ様には分からないでしょうが、私は今までで、2回だけですのよ。自分で言うのもなんですが、容姿も性格もまあまあだと思うんです。なので、今日は嬉しかったのです。···あっ!ルキには秘密ですよ」


「はぁー。リュシエル様···何を言っているのですか?貴女が、モテないわけ無いでしょう」


 呆れた表情を浮かべたあと、含みのある笑みを向けラファイエ様が私の言葉にそう返す。


「いいえ、本当にルキ以外の男性から告白されたのは、神に誓って初めてです」


 私がふくれっ面でじっと彼を見つめると、隣のテーブルで私とラファイエ様の話を聞いていたダンは「鈍すぎじゃないか?」、セクレイトは「本気で言ってる?」、ファウルドは「あり得ないでしょう」、ジューク様は「羨ましいね」などと何を言っているのか···?さっぱり分からない言葉を返してきた。


···な、なんで?

···どうして?

···なんなのよー?



 みんなが残念な人を見るような表情で、眉間にシワを寄せながら私を見つめていた。

 




評価ポイント。ありがとうございました。

久々にポイントが加算され嬉しかったので、

この場を借りてお礼を申し上げます。



次話は1週間後位になります。


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