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23話



 披露宴が開催されてから2日後。


 いよいよ明日、王都にあるガトゥーラ候爵邸に戻るために何日間か滞在していたファイニールの地を離れることになる。

 私とルキは、明日の帰省を前にしてラファイエ様とレンの2人に会うため、朝一でベルトア伯爵邸の別邸を出発した。

 ファイニール城へ向かう途中、城都の商店で手土産を購入していく予定だ。


 数が少ない使用人たちは、朝からバタバタと帰省準備に追われている。


「みんな忙しいみたいね」


「早目に出発して、デートを楽しみながらファイニール城に向かうか」


 私室にてルキと2人で食事をしている中でも、扉向こうの忙しさが伝わってきた。


 外出するなら早い時間から出た方が忙しい使用人たちの手を煩わせないかと考え、私とルキは朝食を済ませると直ぐに邸を出た。



 昨日は、午後からファウルドと共にジャリ芋の調理を行ったのだが、やはり甘い菓子を考えていたらしい。


 そのため、ファウルドと共にベルトア伯爵邸の別邸にきているファイニール候爵家の騎士たちにも名物料理を選んでもらうことにした。


「この地で暮らす騎士の皆さまにも、感想を伺いたいのですが――」


 騎士様たちは両手を上げて「やったー」「リュシエル様の手料理だっ」などと、喜んで厨房に足を運んでくれた。


 厨房内の小さなテーブルに試作品を並べ、4人の騎士様たちに料理について簡単に説明する。


「名物を考えて欲しいとファウルド様に相談されましたが、この料理にしたのは私自身、この地を訪れ気がついたことから考えてみた料理です」


 そう、ファイニールの城都を歩いて気がついたのは露店の数だ。王都では公園などや広場などでたまに見られる露店だが、ここでは市場に近いかたちであちらこちらに露店がある。


 更に、寒い地方ならではだと思うが、そのほとんどが食を提供している露店だった。

 露店という土台がこれだけあるならば、それ自体を名物にしてしまうのはどうだろうか?と思ったのだ。


 ファウルドと騎士様たちに私の考えを述べた後で、試作品を食べてもらう。


「こちらは、ジャリ芋を薄くスライスして油で揚げたポテトチップスです。塩を軽く振るっただけで菓子になります。どうぞ、手掴みで召し上がれますわ」


 騎士らは、手掴み?と一瞬ためらったが、ファウルドが先に手を伸ばしそれを口にした。


「パリッパリッパリッ」


「初めての食感です。こ、これ、芋ですよね?芋がパリパリと···いくらでも食べれる!手が止まらなくなります」


 目を大きく見開くと、想像を超えた食感に驚いたようだ。ファウルドの次から次へ手を伸ばす様子を見ると、一品目は成功だなと私も笑みが溢れた。


 それを見ていた騎士たちも続けて食し始める。みんな不思議そうな顔をしながら「これは美味い」「パリッとして芋じゃないみたいだ」感想を言い始めた。


 ウンウン。どこの世界でもポテトチップスは王道だよね。


 次は、芋をぶつ切りにして揚げたものを勧めた。


「こちらは、フライドポテト。厚さがあるのでパリパリはしないのですが、小腹が空いたときに美味しくいただけますよ」


 同じ芋を薄くしたか厚く切ったかだけで「こんなに違うのか?」と、騎士様たちは黙々と食べている。


「次はメインです。こちらは味が違う2品です。1つはターメリックを使って味を変えました。回りはサクサクで中はトロホクですよ」


 最後は2種類のコロッケだ。カレー味とヤサイコロッケを持ちやすいように紙で挟みながら持ち上げ口に入れてみせると、みんな真似してそれを食する。


「えっ?これ、なに?めちゃくちゃ上手い!」


 ファウルドがコロッケをガツガツと食べ始めると、騎士様たちも我先にと手を伸ばしガツガツと食べてくれた。


「芋を、蒸すか茹でて食べると聞いたので、その他の方法で揚げた料理にしてみました。コロッケは中身を変えれば違う味が楽しめますよ」


 すると騎士様の一人が、


「寒い時期に熱々の牛乳の中に蒸した芋を入れて食べるのが好きなので、しっとりしたコロッケと一緒に食べようと思う」といった。


 その隣の騎士様は、


「俺は、蒸した芋を押しつぶし牛乳と混ぜたものとベーコンをパンに挟んで食べるのが好きだ」


 などと、騎士様たちで会話が弾んでいる。


 フムフム。話を聞いていると、私の頭の中で前世の料理が色々と浮かんでくる。


「そのまま、ちょっとお待ちになってて下さいね」


 そう言って席を立つと、私はまた厨房で料理を始めた。


 今の話を元に、牛乳の中にコロッケを作るのに残った芋と野菜、軽く炒めた肉を加え火にかける。この国で、白いシチューを食べたことがなかったので、赤や茶色以外のシチューがあることをすっかり忘れていた。


 それと今世では、ポテトサラダも食べたことがない。

 蒸してあった芋に茹で野菜とベーコンを入れ、味付けにビネガーと卵、油に塩、隠し味にちょっとだけ砂糖をまぶして混ぜたところで、火にかけていたシチューが先に完成した。料理長に配ってもらっている間にサラダも完成してパンに挟んでテーブルに並べる。


「すごいです。俺の芋入れ牛乳とは比べものになりません」


「うわっ!パンも上手っ!ちょと酸っぱいようなしっとりしているこの具が芋?初めての味です」


「リュシエル様が、目の前で料理をされる姿を見られるなんて···エ、エプロン姿も美し過ぎます。夢のようです」


 騎士様たちの言葉にファウルドは「これらの料理を全部名物にする」といって御満悦。その後、全ての料理のレシピを書かされ、それを片手にホクホク顔で帰っていった。





「リュシー、着いたぞ」


 昨日のことを、思い返していると隣に座っているルキが額に唇を落とした。


 馬車から下りると、目の前には真っ白な建物がありショーウィンドウから中を覗くと、まだ開店前であるためか、店員たちがバタバタと開店準備に追われているようだ。

 ここは、ファイニールの城都の中で一番有名な高級菓子屋だと言いながら、ルキは開店前の扉を開けた。

 中に入るとチョコレート菓子がたくさん陳列されていて、色とりどりのキャンディーやフルーツゼリーが宝石のようにショーケースに並んでいる。


「可愛い。お菓子の国に来たみたいね。···ルキ?おかしいわ···」


「どうかしたのか?」


 ルキの腕を下に引っ張り、耳元に口をあて小声で「商品に値札がついてないわ」ドレスなどと違って菓子なのにとコソリと伝える。すると今度はルキが私の耳元で「高級菓子を買う者は値段を気にしないからな」といって耳をペロリとなめた。


「いらっしゃいませ。どのような菓子をお探しでしょうか?奥のブースにてお味見しながらご用意させていただきます」


 開店前にもかかわらず、店員さんが私たちの様子に微笑みを浮かべながら話しかけてきた。そのまま奥にある個室へ連れられて行きソファーに促される。


「カリュザイール公爵様と御婚約者のリュシエル・ガトゥーラ様。本日は、当店をご利用いただきありがとうございます」


 店主であるらしい中年の男性が、綺麗なお辞儀をして迎えてくれた。


「今からファイニール城に行くので、辺境伯とフローレンスの好みに合わせた菓子を頼みたいのだが」


「畏まりました」


 店員さんが出ていったあとで、給仕の人がお茶を淹れてくれ、たくさんの菓子が載ったプレートが目の前に置かれた。


「リュシーは小さい頃から、外で買い物はしなかっただろう?」


「邸に商会の方々が来ますからね」


「それと同じさ。値段がついてた?」


 なるほど!付いてなかった。


「今も私たちのことを分かったのは、披露宴に呼ばれた貴族たちを把握しているからだよ。高級店になると、この人誰だ?とはいかない。下調べしてあるから、突然の来客に対応できるわけだ」


 なるほど!たかが菓子店ではないと。


「それに、私たちには分からなくても、地領の貴族の好みの菓子なら把握しているから、わざわざ選ばなくても任せておけば間違いないわけだ」


「凄いわね。···お忍びで遊んでいるのもバレるってことね?怖いことを知ったわ。勉強になりました」


「そこまではどうかな?」


 それにしても、プレートに載っている菓子は好物ばかりで、顔がニヤケてしまう。

 もしや、これも調査済み?新聞社よりも怖い裏組織が有りそうだと思う。何かの際は高級店に聞いた方が早そうだ。



「リュシー、このチョコレート菓子が凄く美味しそうだよ。口を開けて···はい、アーン」


 ちょっと待ちなさいよ。ルキの姿に給仕の3人は驚きを隠せずにオロオロしてる。見たくない、でも見たい?みたいな感じで···


「む、無理だから···」


「···早く···と、溶けちゃ···う」


···何しとんじゃい!

···給仕さん。あっち向いてて!



 私が「はぁー」大きなため息を吐くと、給仕の3人はそそくさと部屋から出ていってくれた。


 その隙に、ルキの口から運ばれたチョコレートを自分の口の中に入れるのに、唇を一瞬重ねた。


 しかし!唇は離れず···口の中にはチョコレートと一緒に舌まで入ってきたのだ。


 このままではマズイ。店の人がいつ入室してくるか分からない。ルキを離そうと両腕で彼の胸を押すが、背中に回っている彼の腕でガッチリホールドされていて、全く離れない。


 どこでルキのスイッチが入ったのか見当もつかなく、そのまま流され続ける羽目に···口の中のチョコレートが溶けて無くなっても離してくれない。


 そろそろヤバい、ルキの鼻息が荒くなってきた。どうにかルキの背中に私は腕を回すと「ドン、ドン」思い切り背中を叩いた。


「···ん···んんん!」


 やっと離れた。


「はぁ、はぁ。···ば、場所を考えなさいよ!」


「やっと2人で外に出られたのに、馬車の中ではずっと何かを考え中だったみたいだし?外出してから、視線が全く私に向けられることがなかったからね」


 そう言われて気がついた。確かに···。せっかく早くから外出したのだから、ファイニール城に行くまでの間はデートを楽しむはずだったのだ。


「ごめんなさい」


「怒ってない。もう喧嘩はこりごりだから···。ほら、リュシー。たくさん菓子が目の前にあるんだから一緒に食べよう」


 そしてルキは、またまた菓子を口移しで私に食べさせるのであった。





「リュシー!待っていましたわ!披露宴では、ほとんど話せなかったから。来てくれてありがとう」


 ファイニール城に着くと、笑顔でレンが駆け寄ってきて抱きついてきた。久しぶりにゆっくり話が出来ると喜んでくれた彼女は、ルキの存在を無視して私の手を取る。

 ルキはラファイエ様と話があるらしく、護衛で一緒にきていたセクレイトとダンは、ファイニールの騎士団へ挨拶をしに移動した。私は城内の庭園でお茶をしようとレンに手を引かれ、そちらに向かった。


 庭園内にある温室で、珍しい薔薇が咲いているのだと話すレンは、幸せに満ち溢れた表情でラファイエ様から愛されているのが私にも伝わってくる。


「レンが幸せそうで嬉しい」


 ポツリと口から溢れた私の言葉にレンは「お互いにね」と目を細めにこやかに笑みを浮かべた。



 回廊を出ると、そこには素晴らしい庭園が広がっていた。広大な庭園は王宮庭園の3倍の広さがあるのだという。石畳みの道の先には、芝生が敷かれている広々とした場所があり、騎士様たちが集まって話している姿が見られる。


「レン?庭園で騎士様は何をしてるのかしら?」


「あぁ、ファイニール城の庭園では、騎士は体を動かして鍛えながら城を見守ってるの。王宮では考えられないわよね!立ってるだけだと、すぐに体が動かないからってことらしいわ」 


 その景色を横目に、先に進むと温室が見えてきた。


 城内といっても、思いの外かなり歩いた気がする。


「リュシーはもっと体を動かした方がいいわ。この距離でヒーヒー言ってるけど、大丈夫かしら?温室まではもう少しですわ」


「はぁ、はぁ、どうにかね。そうね···自分自身、体力がこんなにないと思わなかったわよ」


 2人で話をしながら歩いていると、隣の垣根からガサガサと音がした。そちらに視線を向けると、垣根の側からガタイのいい騎士様が数人現れた。


「うわっ!フローレンス様!ぶつかるところでしたね」


「フローレンス様はチッコイからな!」


「あなた達がデカ過ぎるのですわ!」


 私は、仲の良い様子にクスリと笑うと騎士様たちの視線がこちらに向いた。


「おや?お友達でいらっしゃいますか?」


「ほー。とても美しい方でいらっしゃいますね」


「スッゴイ美人さんだ。女神の化身のような···」



 すると、一人遅れて垣根から現れた騎士様が私を見るなり人差し指を向けてきた。


「あー、あ、あなたは···披露宴の日に回廊でお会いした···」


「えっ?あ、あのときの騎士様でいらっしゃいますか?···あのときは助けていただきありがとうございました」


 お礼を告げると同時に、騎士様はみるみる頬を赤らめ「···やっとお会いできた」ポツリと言うと、私の右腕を優しく掴んで柔らかな笑みを浮かべた。




誤字脱字がありましたら申し訳ありません。

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